ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第126話『ミュウツーの逆襲』⑮:男の意地

 俯いて止まるサトシを見て、下っ端は笑みを収める。

「終わったか。……やはり所詮は弱者か」

内心、下っ端はホッとしていた。最初に煽ったはいいものの、予想外に食い下がられたからだ。上手く精神攻撃をして立ち止まらせていなければ危なかった、と下っ端は考える。万が一にも、このタイミングでリザードンと心を通わせられたら大変なのだ。

「……」

黙りこくるサトシを下っ端は鼻で笑うと次を考える。

「次は……そうだな、シゲルでも倒そうか。スミレはサカキ様直々に相手されると聞いたからな。それから、タケシとカスミも倒しておこう」

 

「……シゲルを、狙うのか?タケシも、カスミも」

サトシが、ポツリと呟いた。その拳は、強く握りしめられている。

「ああ、そうだな。仲間を殺せばお前は立ち直れない。ロケット団の邪魔をしたお前は、ただ殺すだけでは足りない」

「オレのせいで、殺される……?」

「そうだ。お前が大人しくしていなかったからだ」

下っ端がそう言って笑うと、サトシの目から涙が溢れる。

「そんなこと、いったって……!」

サトシが弱々しい声で憤慨するが、下っ端は気にも止めない。

「原因がどうあれ、お前はロケット団に逆らった。故にお前の仲間は、死なねばならん」

「そんなの……嫌だ」

サトシは、下っ端を睨みつけた。その目の奥には、炎が揺らめいて居るようにも見える。

(目覚められたら厄介か……。ならば)

下っ端は、方針の変更を決意した。目の前の敵は、心を折りかけた今、立ち上がる前に殺してしまわなければならないのだと感じた。

「お前がどう思うかは聞いていない。これは決定事項、お前如きが否定して良いことではない。……だがまぁ、ゴネられても困るな。ならば、今すぐに死ね……!【ドラゴンクロー】!!」

一瞬の内に接近したガブリアスの鋭いツメが、サトシの眼前に迫った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「出てこい、ウツボット」

シゲルがポツリと呟き、ウツボットが呼び出される。その行動に、下っ端は眉を顰めた。

「どういうつもり?」

「簡単な話だ。ラウンド2を始めようってことだよ」

シゲルは、目を赤く腫らして全身を震わせながらも立ち上がる。

「……サトシを殺そうってのが、そんなに気に入らない?」

「ああ、どうやらそうらしくてね。……全くもって、ボクも面倒なものだが、君のお陰で、ボクはボクに戻れたよ……ありがとう」

「生意気ね」

「ああ、だがその生意気さこそがボクという人間だ」

シゲルがぎこちなく笑い、下っ端は顔を顰める。

「急に豹変するなんて、随分と都合がいいじゃない……。それに、私のお陰だなんてどういうこと?」

「キミがサトシを倒しに行こうとしたのを聞いて、随分と腹が立ってね。……まるで、アイツがボクよりも格上みたいじゃあないか。全く、冗談じゃない」

「傲慢ね、そのプライド、可愛らしくて壊したくなっちゃうわ」

「やってみなよ……。ウツボット、【ねむりごな】」

シゲルの唐突な指示に、シンボラーは思わず眠りに落ちる。

「……不意打ち!?」

下っ端の動揺に、シゲルは笑みを浮かべる。

「ボクはね、こういうことを当然のようにやってくる幼馴染と何度もバトルしてきたんだ。オーキド・ユキナリの遺伝子を受け継ぐこの高性能な脳ならば、その戦術をいちいち覚えて取り入れることだって可能なんだよね。肝心のアイツへの刺さりはそれなりだが、お前のような油断した相手には効果覿面だとも。……ああ、そうさ。このしぶとさと諦めの悪さ、そして沢山の研究を可能とするこの頭脳こそが、ボクの誇るべき強さなんだよ」

突然の豹変に、下っ端の脳は混乱する。

「先程からそうだが、君は判断が遅いね。……それが君が幹部にもなれず、未だ下っ端たる所以だ。ウツボット、【どくどく】」

ウツボットが毒の塊を投げつけ、シンボラーにぶつかる。与えられた効果は、猛毒。徐々にダメージが増える、状態異常なのである。

「くっ……、シンボラー!!」

下っ端が焦ったように叫ぶが、シンボラーは反応しない。【ねむりごな】によって眠らされ、未だ夢の中なのである。

「【ベノムショック】」

動けないシンボラーに向けて、【ベノムショック】が放たれた。【ベノムショック】は、毒状態の敵に放てば威力が上がる技である。だからこそシゲルは【どくどく】を先に放って猛毒にしてから、【ベノムショック】を撃たせたのだ。

「連打、仕留めろ」

シゲルの表情に、いつもの小生意気な笑みが戻る。連打された【ベノムショック】がシンボラーの体力を削り切った。

「……貴様ッ!!ランクルス!!!!」

下っ端は激昂し、最後のポケモンを呼び出した。ランクルスは、先の2体と同じくイッシュ地方のエスパーポケモンである。

「【ねむりごな】」

「避けて【サイコキネシス】」

ウツボットの【ねむりごな】を躱し、ランクルスは飛び上がると【サイコキネシス】を発動、ウツボットを吹き飛ばす。

「【リーフストーム】!」

「【まもる】」

【リーフストーム】が放たれるも、ランクルスは全身にエネルギーの壁を展開し、これを防ぐ。

「……倒しなさい、【アームハンマー】!!」

ランクルスの液体のような剛腕が振るわれ、ウツボットの顔面にめり込んだ。あまりのパワーに、ウツボットは勢いよく地面を転がる。

「ウツボット!」

「反撃よ、【サイコキネシス】」

下っ端の怒りを反映するように放たれた【サイコキネシス】が、ウツボットを壁にめり込ませる。

「やられた!」

シゲルが悔しげな表情を浮かべ、下っ端はニヤリと笑みを浮かべる。

「【アームハンマー】!!」

ランクルスの拳がウツボットに突き刺さり、壁に大きくひび割れが広がった。それによってウツボットは目を回し、戦闘不能になる。

「……今」

シゲルが呟いたその瞬間、上空から落ちてきた【リーフストーム】に打たれ、ランクルスはダメージを受けた。ウツボットによる文字通り捨て身の攻撃が、ランクルスに一矢報いたのである。

「おのれ……!」

「スミレ対策の一環でね。強いだろう?それと、追加効果もあってね」

シゲルが誇らしげに笑うと、ウツボットをボールに戻し次のボールを持つ。すると、ランクルスの動きが鈍った。

「……これは!?」

「【どくどく】、仕込んでおいたよ」

「…………!!!!……っふぅ、いいわよ。なら、ちゃんと壊してあげる」

下っ端は目を見開き、頬を引き攣らせると、すぐに取り繕った笑みを浮かべる。どうやら、相当に気分を害したらしい。

「やってみな。行ってこい、ガルーラ」

「ルゥラ!」

呼び出した5体目は、ガルーラだ。

「ランクルス、【サイコキネシス】」

「ガルーラ、【はかいこうせん】」

放たれた【サイコキネシス】の膜を突き破り、【はかいこうせん】がランクルスを直撃する。吹き飛ばされたランクルスは大きなダメージを負い、しかし無事に姿を現す。

「【みらいよち】、【サイコキネシス】」

反動で動けないガルーラを他所に【みらいよち】が上空へと放たれ、続く【サイコキネシス】がガルーラを転がす。

「【かみくだく】だ!」

「【アームハンマー】!」

動き出したガルーラが噛みつこうと迫るが、ランクルスは一歩引き下がることでそれを躱し、その顎に【アームハンマー】によるアッパーカットを決める。その一撃を受けたガルーラはフラフラとよろめきながらも、足を踏ん張って立ち続ける。

「……やはり、ガルーラで決めるのは無理だね」

シゲルが、状況を見て呟く。その表情に、全くの焦りはない。ガルーラやウツボットではランクルスに勝てないことなど、ランクルスを見た時点で察していたからである。

「ランクルス、【サイコキネシス】!」

追撃の【サイコキネシス】がガルーラを打ち、ガルーラは膝を付く。

「【はかいこうせん】」

「避けて!」

薙ぎ払うように放たれた【はかいこうせん】が空を裂き、壁に激突して大きな爆発を起こす。しかし素早く放たれたその閃光をランクルスは俊敏な動きで避けたが、その脇に微かではあるものの命中していた。

「避けた!?」

ゼロダメージではないとはいえ避けられたことにシゲルが驚くが、その間にランクルスはガルーラへと迫る。

「【アームハンマー】!!」

「【メガトンパンチ】」

エネルギーを両の拳に纏わせて、重い拳撃を2発。ガルーラの顔面を2度殴りつけてダメージを負わせる。反撃の【メガトンパンチ】で吹き飛ばされるもそのタイミングで発動した【みらいよち】がガルーラを押し潰して追撃を加え、ガルーラはあっという間に戦闘不能になる。

 

「……よぉし、よくやったガルーラ」

シゲルはガルーラに労いの言葉を掛けて戻すと、次のボールを取る。

「あなたのポケモンはあと一体、それで勝てるの?」

「そういう君だって、勝てるのかい?ウツボットとガルーラのお陰で、随分と消耗してるみたいだけど」

シゲルの指摘に、下っ端は表情を歪めた。ウツボットの【リーフストーム】やガルーラの【はかいこうせん】と【メガトンパンチ】は、確かに大きなダメージをランクルスに刻み込んでいた。

「……無駄な足掻きを」

「どうせ、サトシの方にいるだろうロケット団は奴が倒すから、ボクだって勝たないとダメだね。……おいで、カメックス」

「ガァァァメェェェ!!」

シゲルは笑いながらそう言うと、最後のポケモンである相棒のカメックスを呼び出した。

「へぇ……。あのボウヤは、きっと私の仲間が倒してるわよ。きっともう、死んでるかもね?」

「いいや?それはない」

シゲルは、得意げに笑うと首を横に振る。

「へぇ、どうして?私の仲間、色々と弱みを調べてたみたいだけど。心、折れるかもよ?」

「一時的にはなるかもね。……だが、ヤツは必ず立ち上がる」

「へぇ、どうして?」

下っ端の困惑する視線に、シゲルは誇らしげに胸を張った。

 

「アイツを……サトシを倒すのは、スミレでもヒマワリでも、ましてやロケット団でもない。紛れもない、このボクだからだ」

 

◾️◾️◾️◾️

 「グルルルル……!」

待っていた衝撃はいつまでも来ず、代わりに唸り声が聞こえた。サトシが目を開ければ、突き出されたガブリアスの腕を掴む、リザードンの姿があった。

「何……!?」

下っ端は動揺の声を漏らし、指示が遅れる。リザードンが【かえんほうしゃ】を放ち、ガブリアスを吹き飛ばす。更にガブリアスは【やどりぎのタネ】に体力を奪われ表情を歪める。

「グルルル……」

リザードンは、サトシの顔をジッと見て唸り声をあげる。ボールの中で、全てを聞いていた。サトシの孤独と弱さを知って、オーバーヒートしていた頭はすっかり冷え切っていた。リザードンは、強くなりたかった。弱いからと捨てられた過去は、リザードンに強さへの強い執着を植え付けた。だからこそ進化して強くなった時は嬉しかったし、だがしかし喜ぶにしては浮かれすぎた。結果として拾ってくれた恩があるサトシを蔑ろにして、自分の強さに酔って、今この瞬間は不信感を抱かせた。掴むこの手を離してしまえば、目の前にいる敵のツメはサトシを貫く。そう考えれば、浮かれるあまり忘れていたヒトカゲ時代の思い出が、リザードンに力を与えてくれる。

「……リザードン、力を貸してくれるのか?」

(ああ、済まない)

リザードンは、呆然と呟くサトシにそう思うと眉を下げる。ずっと、恩を仇で返してしまったという後悔が全身に巡る。

「グルルル」

だがせめて今は、とばかりに頷くと、サトシは笑って自身の顔を殴りつけた。鼻血が、床に飛び散る。リザードンも、ガブリアスも、下っ端も。誰もが、驚きで目を丸くした。

「何を……!?」

下っ端が驚くが、サトシは真っ直ぐ視線を向けた。その目の奥には、燃えかけていた炎が、轟々と燃え盛っていた。

「ああ、そうだ。……ごめんなリザードン。信じてやれなくてさ。話したいことなんて一杯あるけど、今は力を貸してくれないか?」

「グオオオオオオオ!!!!」

リザードンが、了承を示す咆哮を放った。

 

「……なぜだ、何故立ち上がる!?お前の無能さは、お前が自覚してるんじゃないのか!」

「ああ、そうだ。オレはスミレみたいに重い過去も背負えないし、シゲルみたいに立場と戦ってないし、ヒマワリみたいに命をかけて誰かを助けようとしたことなんてないよ。みんなみたいに、オレは天才じゃない。でもさ、オレに出来ること。それをリザードンとお前が思い出させてくれた」

「……俺が?」

「ああ、お前は、タケシとカスミの名前を出した。思い出したんだ、こんなオレを仲間と呼んでくれる大切な人が。そしてリザードンが思い出させてくれた。ポケモンと、そしてリザードンと過ごしたこれまでの日々が。そして思った。……ポケモンマスターよりずっと手前で憧れた人が言った、あの言葉のようにオレもなりたいって気持ちも、思い出した」

サトシの脳内に、とある記憶が蘇る。それは、ロケット団の下っ端とバトルした時のこと。下っ端の抱える闇と向き合い、助けようと本気でぶつかった。それを見てから、頼れる仲間だった彼は漢としての目標のひとつとなった。

 

「オレは、固くて強い意思の男になりたい。ポケモンマスターという夢への道をただ真っ直ぐに突き進む、そんな強い男にオレはなりたい。その為には、ここから一歩も逃げちゃダメだったッ……!!なのに、オレは逃げようとした!!ピカチュウが、ピジョンが、ケンタロスが、フシギダネが、ゼニガメが繋いでくれたバトンがまだ繋がってるのに、みんながここまで繋いでくれたのに、オレが諦めちゃダメだった!!ポケモンを信じること、それがオレの強さだったのに、オレがそれを捨てちゃダメだった!!!!」

自分を殴ったことで滲む鼻血を乱暴に袖で拭って、サトシは帽子のつばを後ろへ回す。

「生意気な……、ガブリアス!」

下っ端の指示で、ガブリアスは構えを取る。それを力強く睨みつけ、サトシは宣言した。

 

 

「行くぜ……。リザードン、キミに決めた!!!!!!」




サトシのかっこいいところを書きたかった。

次回、リザードンvsガブリアス

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