ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第129話『ミュウツーの逆襲』⑲:スミレの矜持

 サナダが、ふと思い出したように尋ねた。

「……ああ、そうだ。お前がなぜ、時間の謎に辿り着いたのか。それを聞きたいのだが」

その問いにヒマワリは、恥ずかしそうに眉を下す。

「それはですね……。なんてこともないですよ?スミレちゃんの問題をいつまでに解決するかって考えて、ポケモンリーグまでにしないと、本戦でトラウマ抉られたら大変なことになっちゃうと思って」

「ああ、成程。なんだそういうことか」

サナダは、呆れ顔で笑った。もっと大層な理由があると思ったが、そうでもない。ポケモンリーグの日時などは、時間の感覚でなんとなく分かる。しかし正確な数字となれば、話は別だ。

「つい感覚でカレンダーを見ようとして、『あれ?』ってなりまして……」

頬を微かに染めて、頬を搔く。

「はっはっは!そんな単純な理由で時間の細工がバレるとは、案外時間の問題もバレて構わんものかもしれんな!!全く、誰も彼もが真剣に捉えすぎだったかもしれん!!!!」

サナダは、照れを見せるヒマワリに心の底から愉快そうな笑い声をあげる。

「もうっ……!でも、気付いた当初はこんなギャグ寄りの心境じゃないですからね?ちゃんとシリアスしてたんですからね?」

「先程までのお前やシオンタウンで儂の話に聞く耳を持たんかったお前を見れば分かるわい。まぁ、時間そのものは別に気付かれても問題はないと言うことなのだろうな。すぐに忘れそうになるが、少しのキッカケがあればすぐに思い出せるのは確認済みだ。今は、頭の片隅に放置しておくのが良かろうて。…………さ、まだまだ事件は続いている。行くぞ」

「はい。ミュウツーと、話したいこともありますから」

サナダはひと足先に立ち上がると、ヒマワリに手を差し出す。ヒマワリは、迷いのない強い輝きを瞳に宿して、サナダの手を迷わず取った。

 

◾️◾️◾️◾️

 城の中を、リザードンとゴルバットが競うように飛び回る。

「リザードン、【かえんほうしゃ】!」

「ゴルバット、【エアスラッシュ】!!」

リザードンの放った火炎と、ゴルバットの放つ空気の刃が空中で激突し、爆発を起こす。その下で対峙するのは、ロケット団幹部のランスと研究者であるオーキド。一見すると研究職であるオーキドが不利な立場だが、かつてはポケモントレーナーとして現四天王のキクコとライバルであったほどの実力派。ポケモンバトル自体は、フィールドワークの関係で今も続けている。4対6のバトルで勝負は両者あと1体。戦況はやや拮抗していた。とはいえ、オーキドのリザードンは【どくどく】の効果を既に受けているし、6体と有利だった数は1対1に持ち込まれている。

「流石はオーキド・ユキナリ。ポケモンバトルも超一流ですか!」

「お主もやるの。幹部なんぞにしておくには勿体無いトレーナーじゃ」

邪悪な笑みを浮かべるランスに、オーキドは厳しい表情を浮かべながらもその強さを讃える。かつてスミレに負けたというが、その全力はジムリーダートップクラスにも劣らない。

「それは愚かな提案だ!私は血の一滴に至るまで、サカキ様に捧げると誓った身!!」

「そうか……それは残念じゃ」

オーキドは、ランスの言葉で何故彼が幹部なのかを理解した。その強さも要素のひとつだろうが、何よりもその忠誠心だ。カントーの裏社会に君臨するロケット団は、組織の特性上野心を持った人間が集まることも多い。サカキにとってランスと言う男は、自身に心酔している上に実力も申し分ない、幹部として置くには丁度良い人材であるのだろう。

「ゴルバット、【ベノムショック】!」

「【かえんほうしゃ】!」

【ベノムショック】と【かえんほうしゃ】がぶつかり、爆発を起こした。

「孫も、若き友達も……。みんなを助け、みんなでこの島を出る!そこを退け、ランスゥゥゥ!!」

「やってみなさい!オーキド・ユキナリ!!」

「リザードン、【かみなりパンチ】!!」

「ゴルバット、【きゅうけつ】!!」

リザードンとゴルバットが同時に接近し、リザードンは雷を纏った拳を振るう。ゴルバットはそれを飛んで躱し、その腕に喰らいつく。

「叩きつけろ!」

リザードンはダメージに顔を歪めるが、オーキドの指示でゴルバットの翼を掴み引き剥がすと、地面に向かって投げつけた。

「これでしまいじゃ!【オーバーヒート】!!」

体勢を立て直すゴルバットを【オーバーヒート】が飲み込み、地面に叩きつける。ゴルバットは小規模なクレーターの中心で目を回し、撃破を見届けたリザードンは力尽きて墜落する。

「ふん……。相打ちですか」

ランスは、不満げに呟いた。結果は結果、仕方がないし幹部が割り振られるほどの強敵相手に数的有利の中相打ちまで持ち込んだ、と考えれば上々である。だがしかし、ランスはそこで満足しない。敬愛するサカキにより貢献できるようにランスは脳内でバトルの反省を行いながら、リザードンへ駆け寄るオーキドに背を向けた。

 

 ハンサムが戦ったのは、下っ端をしている1人の少年だった。年齢は14くらい、歳に見合わぬ、世界に絶望したような目をした少年だったが、場は既に静まっている。バトルは、1対1の勝負でハンサムが勝利した。グレッグルとルージュラでは、相性がハンサム側に有利だったのである。

「そんな……、僕のルージュラが!」

少年が、自身を油断なく睨みつけるグレッグルも気にする倒れたルージュラに駆け寄る。

「……少年、悪いことはいわない。今なら、君を自首扱いにできる。どうか投降してくれ。そのルージュラの為にも」

ハンサムが懇願するように言うと、少年はハンサムを睨みつけた。

「うるさい!貴方達みたいな正義ヅラした奴らが大嫌いなんですよ!!学校の奴らにも、お前達警察にも、僕とルージュラは虐められたんです!!!!だから、お前らなんて嫌いです!!さっさと消えてくださいよ!!」

叫ぶ少年に、ハンサムは悲しげな表情を浮かべる。正義を信じて、それが人を幸せにすると信じて突き進んだ警察の道の途中で、こうして警察の手から取りこぼされた人を見ると悲しくなってしまう。力不足を嘆いてしまう。

「……何が、あったんだい?」

少し前なら、それは捕まえてからだった。事情聴取の時に、話を聞いていた。今この瞬間に聞いたのは、あの少女を知ったからなのかもしれない、と内心で苦笑いをするが表情に出すこともせず、ただ真剣に少年の目を見て尋ねた。少年はあからさまに狼狽え、ハンサムから視線を外してポツリポツリと話し始めた。

「あいつら、ルージュラはどっかの外国の人と姿が似てるって言ってきましてね。そんなポケモンを捕まえて使うのは差別ですって。どうせ、アンタもそっち側でしょ?」

「それで……虐められたのか?」

ハンサムは、思わず絶句した。人種などによる差別の問題は、世界に強く根付いている。差別はいけない、なんてスクールで誰もが習うが、綺麗事として冷笑するか、分かっているとうんざりとした表情で聞き流すかすることも多い。だが少年の周りに居る人達は、差別という言葉を誰かを見下し攻撃するために使ったのだ。差別の批判というものは本来、正義の行為であるはずなのに。

「そーですよ。サカキ様は、貴方達と違ってそんな僕を助けてくれました。警察だかなんだか知らないけどさ、アレが正義なら僕は悪の方が好きですよ」

少年が、迷惑そうな表情で語った。ハンサムは、顔を青ざめさせた。

「……警察は、何をしていた?」

「アイツらとグルっす、下らないですよ。正義って」

「そうか……それは、済まない。警察として、やってはならんことをした。その件は、私が落とし前を付ける。だから……キミは自首してくれないか?」

「黙れ!!なんで救ってくれなかったアンタが、偉そうに捕まえようとしてるんですか!?正義がそれを間違ってると言うなら、どうして誰も守ってくれなかったんですか!? どうして手を差し伸べてくれなかったのですか!?……がぁ!」

ハンサムを殴りつけようと足を踏み出した少年の腹を、グレッグルが殴る。なんてこともない、主人への攻撃を防いだだけだ。

「グレッグル……!?キサ……あ?」

少年はグレッグルに憎悪の視線を向けるが、倒れ込むその体をハンサムが抱き止めた。少年は泣きそうな表情で呼びかけるハンサムを横目に見て僅かに目を見開くと、静かに目を閉じた。

 

 

「……世界は醜い。どうして、現実はその言葉を否定させてくれないんだろうなぁ」

ハンサムは、そう呟いてため息を吐いた。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「世界は醜い、そしてこの世界は何処か狂っている。それは君も当然知っているだろうが、なぜそちら側に味方するのかね?」

サカキは、興味深そうな視線を目の前に立つ少女、スミレに向ける。多くのエスパーポケモンを使ってミュウツー2号機を洗脳、飛ばした際に自身とスミレが1対1になるように仕向けたのである。

「……私は、わたしに恥じぬ生き方をする為にこちらに着いた。そちらに着いた方がより幸せだから」

スミレは、はっきりと返答する。全身を襲うプレッシャーに時々屈しそうになるが、それに必死で抗って言葉を紡ぐ。サカキは、スミレの様子と返答に笑みを漏らす。

「成程な。あくまで貴様は、遠く及ばぬ星に焦がれ手を伸ばす、たかがちっぽけな凡人か。だが良い。それもまたひとつの道であることに変わりはないだろう。して、お前は人に抱いた絶望と憎しみは忘れたか?」

サカキは、嬉しそうな表情で頷くと、次いで尋ねる。

「そんな訳がない。人への恨み憎しみも、世界への絶望も、全部全部覚えてる。忘れない、絶対に忘れるもんかッ……!」

スミレは、歯を食いしばってそう言った。その目には、裏社会でよく見た、世界に絶望した人間特有の昏い光が宿っている。拳を握り、サカキを睨み、思うのは過去に味わったトラウマの数々。

「それでも、その道を進むのか?」

「当然」

サカキの問いに、それでもスミレは言い切った。

「何故?」

「……私は、一度人格が壊れた。今あるのは、その物真似をする紛い物としての私。そんな私でも、今は確かに生きているなら。今を生きる私にできることをしたい。あの子と同じ道は進めないけど、あの子のように優しくありたい。私自身の歪みを正し、この腐った世界に生きる意味を見つけ、更に先へ進んでいく。そしてその先にもしもこの世界の真実があるとするなら、友達が世界に戦いを挑んでまで願ってくれたハッピーエンドを実現する道を探す」

「それが、君が進むと決めた道かね?誰かに望まれたものでもなく?」

「ええ、これは紛れもない私の意志。あの子と私、2人でわたしであるなら、あの子が望まないと分かる道は決して進まない。復讐なんて、その最たるもの。理由で正当化された暴力で他人を傷つけて自分を気持ち良くするなんて、たとえ何が得られたとしても私が最も憎んだものと同じ道を歩くことになるから。それに私が背負うと決めたものは、復讐ごときで燃やすにはあまりに大切なものだから。…………私が矜持を掲げて進む道は、あの子と一緒に進む道。その道を邪魔するなら、悪であれ正義を名乗る偽善者であれ叩きのめすのみ」

スミレは、胸元で拳を握った。緊張から滲む手汗が、まるで全身を冷やしているようで。それでも、サカキから目を離さない。ここで誓えなければ、きっと貫けないから。

「……クククッ!ハッハッハッハッハ!!!!」

「何が可笑しい!?」

サカキが、大声で笑った。スミレは思わず笑うサカキを睨みつける。

「ハッハッハ……!済まない、笑ってしまった」

半笑いとはいえアッサリと謝るサカキに、スミレは眉を顰める。

「何のつもり?」

「いいや。失われた過去人格への憧れも、世界への恨みも、人への不信感も、己自身の醜さも全て背負いながら、それでも届かぬ輝きを目指すか。……良い、実に良いぞスミレよ。心に闇を背負いながら、その昏き闇夜に自ら星座を描こうとするとは実に天晴れな覚悟である」

サカキは、嬉しそうに笑いながら言った。そして、腰のボールではなく側に置いてあったカバンに手を伸ばす。

「……?」

「予定変更だ。貴様は、全力ではなく対等に叩き潰す。……その信念への賛辞と試練の意味を込めて、ポケモントレーナーとして、トキワジムのジムリーダーとして貴様に勝つ」

「手加減、とは違うみたいだね」

スミレは、増したプレッシャーに冷や汗を流す。

「そうとも。私は悪だが、どのような立場であれ信念を貫く者は好ましく思う。故に、貴様は私がトレーナーとしての礼儀を持って倒そう。貴様の全霊を蹂躙できるポケモンではなく、貴様とトレーナーとして戦えるポケモン達で、貴様の信念を試してやろう。さぁ、ボールを構えろ」

用意した6つのボールと元から付けていたボールを入れ替えるとサカキはそう言い、スミレは震える手を握りしめる。

「成程……。あの3人が心酔するわけだ。ちょっと気を抜けば呑まれそうになる」

「呑まれてくれるなよ?」

「当然」

スミレは、しっかりとサカキに視線を合わせてボールを構える。サカキのポケモンは6体、こちらも6体。間違いなく総力戦だ。

 

「お願いね、バタフリー」

「さあ、これが超えられるか?行ってこい、ガマゲロゲ」

スミレが繰り出したのは、安定のバタフリー。対するサカキは、イッシュ地方に生息するみず、じめんタイプのガマゲロゲ。

 

「【はかいこうせん】」

「【きあいだま】」

 

両者が、遂に激突した。




ハンサム+オーキドの辺りは正直スルーレベルで書く気が無かったんですがまぁおまけ程度に。最初のヒマワリの下りはちゃんと書いてなかったので。書いてなかったのは意味が無かったこともないですが、まぁ書いても問題なかったので書きましたね。
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