ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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最新話です、よろしくお願いします。


第13話 悲しみの歌

 クチバシティに向けて旅を続けるスミレとヒマワリだが、鍛えつつ進んでゆくうちに迷子になってしまった。というのもヒマワリのせいで、スミレは初めクチバまでの舗装された道付近で鍛えようと言ったのだが、鍛えるのに夢中になったヒマワリが脇道を無計画に進み出し、呆れながらも追いかけたスミレ共々迷うことになったのだ。お陰でより多くのポケモンと戦えたし、鍛えに来た他のトレーナーとも戦えたのであまりスミレとしても責める気はない。とはいえ、迷ってしまったのは事実である。もう時刻は夕方。これから夜になると余計に迷いやすくなるし危険だ。なので何処かしらで野宿を、と思いスミレとヒマワリが周囲を見渡すと、ヒマワリがそれを見つけた。

「あっ!あそこに灯りがあるよ!!」

灯り、ならばきっと人が住んでいる民家だろう。ヒマワリ、お手柄だ。

2人は民家に向かい、道を聞こうと考えた。そして向かってみると、そこはただの民家では無い。ポケモン育て屋だ。ポケモン育て屋とは、ポケモンを預けると代わりにお世話してくれたり、鍛えてくれたりしてくれる。稀に預けたポケモンが卵を作る事もあるので、それをトレーナーに渡すのも仕事だ。

 

「ごめんくださーい!」

ヒマワリが声をかけつつ2人は店に入ると、カウンター席にはもう70くらいの穏やかそうな顔つきの老婆がいた。

「おや、いらっしゃい・・・。ポケモンをお預けですか?」

「いえ、道に迷ってしまって・・・。すみませんが、クチバシティまでの道をお聞きしたいのですが。」

ニコニコと話す老婆に、スミレは答える。老婆は少し悩む様子を見せると、少し待つよう2人に呼びかけ、店の奥に歩いてゆく。そして少しすると戻ってきて、言った。

「道は分かります。・・・じゃが、今日はもう遅い。これから森を歩くのは危険じゃから、泊まっていきなさい。」

スミレは直ぐに食いつこうとするヒマワリの肩に手を置き静止する。

「いえ、流石に申し訳ないです。」

「お前さんが1番分かってるんじゃ無いかい?・・・夜の森の危険さを。」

真剣な顔で放たれたその言葉にスミレは何も返せない。老婆は柔らかく笑うと、続ける。

「ジジイとババアしかおらんつまらん家じゃが、どうぞ泊まって行きなさい。爺さんの許可はとっておる。」

スミレは諦めたように、答えた。

「・・・・お世話になります。」

 

 

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 お婆さんの名前はヤエ、お爺さんはクヌギと言うらしく、随分と仲の良い夫婦だった。家は2人暮らし、子供が出来なかったため家事も仕事も2人で支え合って行っているらしかった。自宅には預けられた沢山のポケモンや、クヌギが元ポケモントレーナーらしくその手持ちポケモンがおり、自然の中にポツンと立っている事もありなんとも言えない静かさと穏やかさがあった。2人は大層穏やかで善良な人柄で、ヒマワリは直ぐに懐いた他、スミレは思わず会って間もない相手に心を開きそうになってしまう。ヒマワリはどうやら育て屋の適性があったようで、店の庭で店の手伝いを行い、ポケモン達に揉みくちゃにされながら笑っていた。一方のスミレもポケモンの巣箱を掃除したり、ポケモンにポケモンフーズを与えたり、ブラッシングをしたりとポケモンと大いに触れ合いつつも仕事を手伝う。

(こういうのも悪くない。)

そう思い、少し微笑むと首を振ってそんな甘い思考を掻き消す。穏やかな雰囲気に毒されたか、とスミレは自身の醜態に不快そうな表情を浮かべ、次の瞬間には無表情に戻る。コロコロと変わってもはや変顔のようではあるが、誰も見ていないのが幸いだった。

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

 ふと、スミレは目を覚ます。時刻はもう深夜、夜行性のポケモン以外は眠りについている筈の時間に、スミレは何処からともなく聞こえてくる悲しげな歌を聞いた。ふと隣に敷かれた布団をみると、ヒマワリは呑気に寝ている。スミレはどうしてもその歌が気になって、布団を出ると歌の出所を探して、店の庭に出る。するとその歌はより大きく聞こえ、さらに方向まである程度絞れた。池のある方向だ。池には預けられたみずポケモンが多く生活している。その中に歌うポケモンなどいただろうか、とスミレは疑問に思った。歌う水棲ポケモン、と言えばあのポケモンだが、スミレの知っているそのポケモンはカントーでかなりの希少種で保護対象だ。スミレがフシギダネのボールを構えつつ植物を掻き分けながら恐る恐る歩いてゆくと、開けた場所に出る。そこには大きな池があった。月光を浴びてキラキラと光る水面、そこに浮かぶはまるで竜を思わせるポケモン。ラプラスだ。ラプラスは美しい歌でコミュニケーションを取ったり感情を表現したりするという。ラプラスはその穏やかな気性のせいで乱獲され、大いに数を減らした。時に売り捌かれ、時に体の一部を剥ぎ取られ、時に犯罪の道具として利用された。そして希少価値が上がるとポケモンハンターなどが高値で売るために更にラプラスを狙い、今でこそ現四天王のカンナを中心に犯罪者狩りやラプラスの保護活動が行われ、少しずつ数を増やしているが、それでも現在は所持するのに他のポケモン以上の制約がつく。カントーで所持しているトレーナーなんて、両手で数えられる程度だろう。ラプラスの捕獲事情は兎も角、手伝いで行ったときは見なかったラプラスが何故ここにいるのか、疑問に思うが、そういえばクヌギがポケモンフーズを1匹分多く作って、それを何処かに持って行っていたのを思い出した。

「眠れないかな?」

ラプラスの歌声を野原に座ってじっと聞いていると、ふと背後から呼びかけられ、スミレは一気に警戒態勢に入り、姿を見てホッと息を吐いた。

「クヌギさん・・・驚かさないでください。」

「はっはっは、すまんの。・・・あの歌で、起こしてしまったか。」

「はい。ヒマワリはぐっすりですが・・・。」

「そりゃあ健康的じゃあないか。さて、あのラプラスの話をしようか。

あのラプラスは・・・・・母親をポケモンハンターに殺されたんじゃ。」

スミレの表情が凍りつく。悲しげに聞こえたあの歌声は、確かに悲しみの歌だったのだ。

「・・・私には、あの歌が悲しげに聞こえました。まさかあのラプラスは・・・・。」

「そう、あの子は今もずっと、嘆いておるのじゃ。戻ってこないと、知っているだろうに、その現実が受け入れられんのじゃ。保護したその日から、ずぅっと毎晩歌っておる。ご飯も碌に食わず、ただひたすらに。」

なんて残酷な話だ。あのラプラスはずっと、歌い続けているのだろう。親を失ったその時から、現実を受け入れられずに泣き喚いているのだ。

どんなに辛い事だろうか、どんなに精神を擦り減らしている事だろうか。もしかしたらそのまま死ぬ気なのかもしれない。一度付いた傷が、どれだけ後に響くかをスミレは知っている。だが、それ故にスミレはあのラプラスをどうすればいいか分からない。

「あのラプラスは、どうなるんですか?」

「このままなら、間違いなく衰弱して死ぬ。」

スミレは少し顔を伏せた。

「やはり、自分と重なるかな?」

クヌギの言葉に、ハッと目を見開く。

「・・・・どういう、事ですか?」

「伊達に長く生きておらん。君が何かを抱えていることくらい、ワシも婆さんも気づいとる。・・・よければ、話してみらんかの?」

穏やかな笑みを浮かべ、クヌギはそう促す。スミレは何だか抗う気にもならず、口を開いた。そこから語られた話は、ラプラスの歌声に掻き消されて、クヌギ以外には聞こえない。だが自身の過去を話すスミレと、親を想い歌うラプラスの姿は、どこか似ているように見えた。

 

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️ 

 翌朝、早朝から餌やりの為池に来たスミレとクヌギは、それを見た。

ラプラスが、池のそばで倒れている。近くで見るとガリガリに痩せており、何日も栄養を摂っていないことが分かる。体力の限界が来たのだ。急いで医者を呼び、クヌギにラプラスのことは任せてスミレ達は他のポケモンの世話に回った。

 

 

「ポケモンの回復が、済みました。」

緊急搬送されたラプラスだが、命に別状は無かった。回復装置で体力を回復し、点滴で栄養を補給する事でなんとか命を繋いだ。病院に来たのはスミレとクヌギ、ヒマワリとヤエは店の仕事だ。

「悪いの、旅の邪魔をしてしまって・・・。」

「いえ、問題ありません。むしろここで何もしない方が心残りがありますよ。」

そうやり取りしつつラプラスがいる病室に向かうと、そこにはよく湿ったベッドに寝かされ、無気力な目をしたラプラスがいた。死ぬこともできず、生きる希望もない。そんな目だ。

クヌギとジョーイが話し合っている内容からすれば、原因は栄養失調。きちんとご飯を食べるようになれば、復活するとの事だ。ジョーイは退出し、クヌギとスミレ、そしてラプラスだけになる。

 

「のぉラプラスや、どうか元気を出してくれんか?君のお母さんも、君がそうなる事を望んではおらんじゃろうて。」

クヌギが説得に掛かるが、暖簾に腕押し。効果はない。

 

それを見かねたスミレが、口を開いた。

「ねぇ、ラプラス。死に損ない同士、話をしようよ。」

ラプラスの目が、僅かに動いた。

「私は昔、周囲の人間と気が合わなくてトラブル続きでね。・・・親が学校に相談したりしてくれたんだけど相手は金持ちでさ、どこもかしこも知らんふり。そうしてるうちに親に申し訳なくなってさ、私は首を吊った。その事を後悔はしていない。今はやらなきゃいけないことがあるだけ・・・。目が覚めた時は今のあなたとは違って、盛大に暴れたよ。『なんで助けた、なんで死なせてくれなかった』ってね。今もその恨みは忘れてない。・・・それで、結局何を話したいかっていうと、善意ってのはそんなに優しくないよ。助ける、なんて死にたい側からすれば迷惑でしかないけど、それでも助けようとしてくる。死ぬ事を、死んで幸せになることを世の中は許してくれない。だから私は今ここにいる。死ぬことを許してもらえなかったから、繋がれてしまったから。そして、旅をするように言われたから、何の夢もなく旅してる。両親がいなければ、きっと旅すらできないくらいに壊れていたのだろうけど・・・。だから、きっとあなたも死なせて貰えない。どんなに苦しくて、辛くて、消えてしまいたいって願っても、無理矢理生かされる。何度でも繋ぎ止められる。もう、今あるものを抱えて生きてゆくしか無くなったんだよ。あなたも私も。」

ラプラスが悲しげに鳴くが、これが現実だ。社会は自死を許さない。どんなに辛くて、消えてしまいたくても綺麗事でその全てを否定されてしまう。死に損なってしまったのなら、もう生きてゆくしかない。一度やった以上はまたやるのではないかと警戒される。だから余程上手くやらなければまた生き地獄を味わう羽目になる。だからスミレは、生きることを選んだ。

「だからラプラス、人を探しなさい。私にとっての両親のように、自分を受け止めてくれる人を。クヌギさんとヤエさんなら、きっと優しく受け止めてくれる。ここにはいないけど、一緒に旅をしているヒマワリとか、同期のサトシなんかは一緒に幸せを探してくれる。シゲルだったら安定した暮らしができる。・・・最悪、私でもいいし。」

スミレは、微笑むと続けた。

「そしてもし、幸せを見つけることができたなら、その歌声で喜びを歌いなさい。『安心してください、あなたの子供は、幸せになりました』と、『生まれてきて、よかった』と天国のお母さんに届けるような、大きな声で。」

ラプラスの目から涙が溢れ、スミレはそんなラプラスの額を優しく撫でる。スベスベとしていて、しっとりとした肌触りのラプラスの体からは、命の温かさがした。

 

 

 ラプラスは結局、その日のうちに退院になった。スミレが持論を述べた後から元気を取り戻し(空元気な部分はあるが)、沢山ご飯を食べて復活した。バトルは数日間控える方がいいらしいが、普通に生活する分には問題ないらしい。流石にそろそろ先を急ごうとスミレはヒマワリと合流し、道を聞いた上で連絡先と[きずぐすり]などの道具をいくつか貰い、出立することになった。

「ありがとう。君のお陰でラプラスは元気を取り戻せた。」

「いえ・・・。ラプラスのこと、お願いします。」

「ヒマワリちゃん、スミレちゃんも。またウチにおいで、歓迎するわ。ヒマワリちゃんは特に、育て屋さんに向いてるかもしれないから、もし就職に困ったら雇ってもいいわ。」

「わーいっ!そのときはお願いします!!」

それぞれが思い思いに別れの言葉を述べる。

そしてスミレとヒマワリがクチバシティに向かうべく一歩を踏み出したとき、声が響いた。

 

「ラァァァァァァァ!!」

ラプラスだ。ラプラスは池に戻したはずだが、地面を這ってこっそり付いてきたらしい。

「ラァ、ララァァ、ラプラァ」

ラプラスはスミレに向かい、必死に何かを訴える。

「ひょっとして、スミレと一緒に行きたいのかい?」

クヌギが聞くと、ラプラスは勢いよく頷く。

「スミレちゃん、ラプラスを連れていってやってくれないかい?」

手続きが面倒だが、スミレにはそう頼み込むヤエの言葉に、頷く他なかった。スミレはバッグからモンスターボールを出すとラプラスの鼻先にスイッチを当て、ボールに収める。ボールは3度回転し、カチッと音が鳴る。

 

「ラプラス・・・ゲット。」

 

こうしてスミレには、新たな仲間が加わったのである。

余談だが、スミレはオーキド博士の後ろ盾があった為に案外ラプラス所有の許可はアッサリと降りた。スミレはホッと胸を撫で下ろした。

 




初めは、こんなに闇深い作品にするつもりなかったんです!信じてください!・・・いやまじで、スミレも大人びてクールな美少女程度で済ませる予定だったんですよ。なんでこうなった?いやこういう闇深キャラは大好物ですけど。

スミレの3体目はラプラスとなりました。ラプラス好きなので。

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