ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第130話『ミュウツーの逆襲』⑳:限界を超えて行け

 サカキが呼び出したガマゲロゲとスミレのバタフリーが睨み合う。初手で放った【はかいこうせん】の影響で動けなくなるが、その一時はバタフリーが反動で飛び退くことで無意味だ。

「ガマゲロゲ、【だくりゅう】」

「ローッゲェ!!」

「避けて」

ガマゲロゲが吠え、口から激しい濁流を噴射する。バタフリーを捉え押し流そうと迫る【だくりゅう】をバタフリーは軽やかに飛び回ることで躱わすと、口にエネルギーを溜める。

「【サイケこうせん】」

スミレが静かに告げ、放たれた【サイケこうせん】がガマゲロゲの喉元を撃つ。急所への狙撃は、バタフリーの得意技だ。

「ふっ……。【きあいだま】」

しかしガマゲロゲは攻撃に平然と耐え、かくとうタイプの力を持つ【きあいだま】を放ち反撃。

「【サイケこうせん】!」

技のタイプで有利を取れる【サイケこうせん】で【きあいだま】を狙撃、僅かな拮抗の後に【サイケこうせん】は霧散し、威力の減退した【きあいだま】を受けたバタフリーは吹き飛ばされ、空中で体勢を立て直す。

「反撃ッ……、【はかいこうせん】!」

橙色の閃光が空を裂き、ガマゲロゲの腹に命中するとそのまま壁へと叩きつける。壁が崩れ、ガマゲロゲの全身は瓦礫に埋もれる。

「立て、ガマゲロゲ」

サカキは、そんなガマゲロゲに冷たく、だが妙な確信を含んだ言葉を投げた。

「……ゲロッ!」

その命令に応えるように、ガマゲロゲは瓦礫の中から立ち上がる。そこを【サイケこうせん】が襲うが、ガマゲロゲは表情を歪めてたたらを踏む程度で持ち直す。

「バタフリー!」

スミレが叫ぶ。それだけで意図を察したバタフリーは、空高く舞い上がる。

「【だくりゅう】で落とせ」

サカキが命令を下し、ガマゲロゲは【だくりゅう】を放射、バタフリーを狙う。羽ばたくバタフリーは【しびれごな】を撒き散らすと、【かぜおこし】を放った。麻痺を起こす烈風が吹き付けて、ガマゲロゲは表情を歪めて膝をつく。【だくりゅう】の水に流された【しひれごな】はあったものの、結果的に麻痺の付与は成功だ。

「【はかいこうせん】」

バタフリーの放つ【はかいこうせん】が立ち上がろうとしていたガマゲロゲの膝を撃ち、ガマゲロゲは思わず転倒する。

「ふむ……やるな」

「【かぜおこし】!」

感心するサカキを他所に、バタフリーの放つ烈風が上空からガマゲロゲに向かって叩きつけられた。まるで重力が倍増したかのようにのし掛かった風圧を起きあがろうとした背中に受けて、ガマゲロゲは表情を歪めて地面に叩きつけられた。しかも、バタフリーはそれを3度も継続。ガマゲロゲの体力が続々と削られる。

「【はかいこうせん】!!」

その言葉に、バタフリーは反応しなかった。バタフリーは黙って、空を舞いながらガマゲロゲをジッと見つめる。

「ガマゲロゲ、立ち上がれ」

サカキの言葉でガマゲロゲが立ち上がるが、バタフリーは何もしない。

「バ、バタフリー!?」

スミレが動揺を露わにし、サカキは怪訝な表情を浮かべつつも指示を飛ばすべく頭を回す。

「【きあいだま】」

「避けて!……バタフリーッ!?」

スミレが避けるように言うが、バタフリーはそれを避けることなく受けて撃墜される。

「終わったか。これでは詰まらんな」

サカキが眉を顰めて呟き、スミレは何が起こっているかも分からず顔を青ざめさせる。

(ああ、面目ねぇ……。怖がらせちまった、不安にしちまった)

バタフリーは、全身から抜けそうになる力を入れ直そうともがきながらも、それを見て思う。心配を掛けた、不安にさせた、結果的に指示を無視した。忠義者のバタフリーにとっては、自害にも値する不敬と言える。だがしかし、時間を掛けただけの成果は出す。そのために、無意味にダメージを負ってまで準備をしたのだから。

(すまねぇ、嬢ちゃん……だが、待たせたな!)

既に集めていたエネルギーを解放し、体を翻して立て直す。空気が、一気に変わった。

「よもや……そこまで」

サカキが、思わず目を見開いた。収束されたエネルギーが、輝きを放つ。

「え……?」

スミレが呆然と、声を漏らした。一条の閃光が、刹那の瞬間にまるで流星の如く駆け抜けた。ゆっくりと仰向けに倒れ込むガマゲロゲの額には、小さくとも確かに技が当たった傷がある。バタフリーは、地面に叩きつけられる直前で体勢を持ち直しゆっくりと羽ばたくが、もはや瀕死寸前だ。

「エネルギーを極限まで圧縮してのヘッドショット…………相打ちに近いダメージを負わせたとはいえ、これでは完全にこちらの負けだ。成程、貴様に信頼される実力に偽り無しという訳か」

サカキはその視線を鋭くさせ、バタフリーを睨む。睨みつけるその目には恨みなど何処にもなく、ただ1人のトレーナーとしての警戒の色がそこにはあった。

「凄い……凄いよ、バタフリー」

スミレは、頬を紅潮させた。バタフリーが見せた絶技は、スミレが所持する他のどのポケモンも、それこそフシギバナですら絶対に再現不可能と断言できるほどの技術といえた。四天王クラスの実力者ですらも切り札として使うエネルギー収束砲撃の収束をそれこそ針に通す糸くらいになるまで行い、バタフリーの得意とする急所狙撃技術と併せ放ったその神業と呼ぶべき一撃は、その前までの戦闘である程度消耗させたとはいえ、ガマゲロゲの体力を一瞬にして消し飛ばしたのである。

「フリィ!」

バタフリーは自身の体力が少ないことを承知し、それでも戦意を露わにしてスミレへ応える。捨て駒として使ってくれと、その意思を込めて。そしてその意思を読み取れることが、スミレはできた。かつてはニドキング王の死に立ち会いながらも彼らの想いを読み取ることの出来なかったスミレは、確かにバタフリーの願いを理解した。

「……分かった」

スミレは、真剣な表情で頷く。そしてその信頼関係を目の当たりにしたサカキは、満足そうに笑みを漏らした。バタフリーが落ちかけた時は流石に落胆したが、そうでなくてはと気を取り直してガマゲロゲをボールに戻し、次のポケモンを用意する。

「堕とせ、フライゴン」

続いて呼び出されたのは、フライゴン。じめんタイプとドラゴンタイプを併せ持つ、同タイプではガブリアスの影に隠れがちではあるが十分強力なポケモンである。

「バタフリー、【しびれごな】」

「【りゅうのいぶき】」

バタフリーの【しびれごな】が【かぜおこし】によって不規則な軌道を描き殺到するとフライゴンに命中、麻痺を与えるが対するフライゴンの【りゅうのいぶき】によって壁に叩きつけられ、そのまま目を回して墜落する。戦闘不能だ。

「……戻って、バタフリー」

スミレがバタフリーを戻し、次のポケモンを選ぼうと腰に手を回す。

(空中戦なら、フーディンかゲンガーは対応できる。相性でいえば、ハクリューかラプラスだけど……。…………そっか)

スミレは、掌から伝わる振動に柔らかい笑みを浮かべる。出たい、戦いたい、と望む声がボールの動きを通じて伝わったのだ。

 

「行こう……ハクリュー」

「リュウゥゥゥゥゥゥ!!!!」

ハクリューは、鼻息荒く飛び出した。目の前に羽ばたくのは、同じでありながらも未だ格上にいるドラゴン。そして、同じトレーナーに従う先輩の勇姿を見てしまえば、ドラゴンの本能は『戦え』と、『限界を超えろ』とハクリューの細胞ひとつひとつに向けて囁きかけているようで、ハクリューはいつも以上に鋭い視線を向ける。

「ハクリュー、【たつまき】!」

「フライゴン、【じしん】」

ハクリューの放った【たつまき】が麻痺によって僅かに動きの鈍ったフライゴンを捉え、反撃にフライゴンは尻尾を地面に叩きつけると【じしん】を引き起こす。【じしん】を食らったハクリューは跳ね飛ばされるが、空中で体を捻り着地する。

「【ドラゴンテール】」

地面を蹴って高く跳び上がるとその場で回転、その尻尾にエネルギーを溜める。

「【ドラゴンクロー】で迎え撃て」

フライゴンが両腕で【ドラゴンクロー】を発動し、空中で加速する。跳び上がったハクリューの【ドラゴンテール】とそこへ飛び込んできたフライゴンの【ドラゴンクロー】が激突、僅かな拮抗の後にハクリューは地面へと叩きつけられる。

「くっ……、ハクリュー!」

スミレはハクリューに視線を向け、唇を噛む。

「単純な姿勢の問題だよ、スミレ君?」

「だったら……ハクリュー!」

スミレが声を掛けると、ハクリューは地面を蹴って空を舞う。ハクリューは、空を飛ぶこともできるのである。

「飛ぶか、適切な判断だ。【りゅうのいぶき】」

「【ドラゴンダイブ】で突っ込んで!」

フライゴンから放たれた【りゅうのいぶき】を空中でひらりと躱わすと、ハクリューは【ドラゴンダイブ】を発動して一気に加速、フライゴンに体当たりするとそのまま壁に叩きつける。フライゴンは、その衝撃に表情を歪める。

「……だが、その距離なら避けられまい。【りゅうのいぶき】」

【りゅうのいぶき】が至近距離からハクリューを吹き飛ばし、ハクリューもまた反対側の壁に叩きつけられる。

(ガマゲロゲもそうだったけどこのフライゴン、凄く強い。バタフリーが与えた麻痺がなければ、もっと状況は苦しかっただろうからまだマシだけど…………)

スミレはため息を吐き、立ち上がったハクリューに視線を送る。

(立候補したからには、結果を出させてやらないと)

過剰な自信で立候補したなら兎も角、ただやる気で立候補したからには、トレーナーとして勝たせてやる必要がある。

「ハクリュー、限界は超えられる?」

スミレはそう一言、ハクリューに尋ねる。捻くれた主人からの真っ直ぐな問いかけに、ハクリューは目を見開いた。だがその瞬間、空に絶望の光が生まれる。

「限界を超える、か。……では、試練をくれてやろう。【りゅうせいぐん】」

究極のドラゴン技である流星の雨が、ハクリューに向かって解き放たれた。

「避け……。いや、【ドラゴンダイブ】発動、全力で突っ込んで!!」

スミレが、一瞬の躊躇を超えて叫んだ。ハクリューは【ドラゴンダイブ】を発動、地上を蹴って飛び立つ。

「リュウウウ!」

ハクリューが体を回転させてその尻尾を振るい、1発の流星を叩き割る。しかし続く流星3発に打たれ、続く1発をまた破壊。ハクリューもスミレも、このままでは確実に戦闘不能となることが分かっていた。だからこそ少しでも被害を減らすために追撃の流星を破壊し、しかしその追撃に打ちのめされた。そのまま、力無く落下を始めるハクリュー。

「頑張ってッ!ハクリュー!!」

だがしかし、スミレの必死な叫びに目を覚ます。本人は無意識でも、確かに交わした信頼が、ハクリューの限界という壁をぶち破った。全身を青白く強い輝きが満たし、体に変化を齎す。それが表すのは、まさに必要としていた限界突破。体はより強く大きく、彼を産んだ両親と同じ姿へと変わってゆく。

「来たかッ……!」

サカキは、嬉しそうに笑みを浮かべて声を漏らした。青白い光から飛び出した黄色い龍は、先程までとは比べものにならないスピードで飛び回る。

「あれが……カイリュー」

カイリュー。ミニリュウの最終進化であるドラゴン、ひこうタイプを持つ強力なポケモンだ。

「撃ち落とせ」

サカキが命令を下し、流星雨がカイリュー目掛けて降り注ぐ。

「突っ込め!【げきりん】!!」

スミレが、祈るように拳を握って叫ぶと、カイリューは【げきりん】を発動する。眼球が紅く染まり、全身に漲るドラゴンのエネルギーが荒れ狂う。その戦闘衝動の赴くままに急加速したカイリューは、その速度で瞬く間にフライゴンの【りゅうせいぐん】を回避してゆく。

「何故当たらん。いや、そうか……!バタフリーめ、面倒な置き土産を」

サカキは、当てられないフライゴンに怒りを滲ませるが、理由を察して眉を顰めた。それは、バタフリーの【しびれごな】。麻痺によって全身の感覚に異常を来たし、行動を止めることこそ出来なくともその狙いから正確性をある程度奪っていたのだ。

「バウゥゥゥゥゥゥン!!!!」

カイリューは高らかに叫ぶとフライゴンに接近、その頬を思い切り殴りつけ、更には追撃の尻尾攻撃。頭上から振り下ろされた尻尾の一撃に、フライゴンは堪らず墜落を始める。

「追撃!」

スミレの指示が聞こえているのかいないのか、カイリューは加速して急降下するとフライゴンの全身を掴む。

「【りゅうのいぶき】」

サカキが冷静に指示を飛ばし、カイリューの胸元で【りゅうのいぶき】が暴発。そのまま2体は、揉み合ったまま地上に叩きつけられた。

 

「……そっか」

「まだマシとしよう」

スミレは嬉しさと残念さが入り混じったような、サカキは淡々とした表情でそれぞれのポケモンをボールに戻す。カイリューとフライゴンによるドラゴン対決、その結果は引き分け。両者戦闘不能であった。

 

 

 

 




ハクリュー→カイリューに進化。
バタフリーの暗殺に変態技術。ポケモンなのに次元とかの領域目指してんのかコイツ
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