ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
サカキとスミレのバトルは現状、互いに2対ずつ失った状態だ。次がフルパーティーの半数となる3体目、両者はボールを構える。
「お願い、ゲンガー」
「行ってこい、ニドキング」
スミレが呼び出したのはゲンガー、対するサカキはニドキングだ。
(……やっぱり、この人じめんタイプで固めてる)
スミレは、これまでの手持ちから傾向を分析する。トレーナーにはやはり専門とするタイプがあるもので、それは心理テストなどの分析や経験によって適正として判明してくるものであるが、タイプを完全に固定するトレーナーというものは余程そのタイプに拘りがあるかジムリーダーなど仕事の場合だけだ。
(多分、この人は後者……。ただトレーナーとして戦ってるだけじゃない、ジムリーダーとして私の実力を測ってるのかも)
そう考えれば、好都合だ。本気であって全力ではないという言葉に偽りなく、サカキはあくまでもジムリーダーという立場であることを前提として戦っているのだ。胸にほんの少し靄が掛かったような感覚を覚えるが、スミレにとってバトルは別に楽しむものではないので気のせいだと切り捨てる。
「ゲンガー、【シャドーパンチ】」
「ニドキング、【メガホーン】」
ゲンガーの拳とニドキングのツノが激突、パワー負けしたゲンガーが吹き飛ばされるが空中で体勢を立て直す。
「【シャドーボール】連打!」
スミレが間髪入れずに指示を飛ばすと、ゲンガーは空中で跳ね上がり高度を上げる。その両手には、超小型の【シャドーボール】が生み出される。
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!」
ゲンガーが両手を連続で突き出し、【シャドーボール】を連射する。小型で威力も通常より低いものの、ガトリング砲のように連射することによってそれをカバー。【シャドーボール】の弾丸がニドキングに殺到し、ニドキングは細かくも確かなダメージを受ける。
「ニドキング、【なみのり】」
サカキが命令を下すと、重々しい音が空間に響く。そして現れたのは、成人男性であるサカキの身長をも超える高さの大津波だ。膨大な流水が迫り来る壁となって【シャドーボール】のガトリング砲を呑み込み、ぶつかり合い、破壊する。
「【どくどく】!」
どくタイプのニドキングに、猛毒の状態異常は通用しない。だが、放出された強力な毒液が威力の下がった【なみのり】とぶつかり、今度こそ相殺する。
「【いわなだれ】」
ゲンガーの頭上に、異空間が開く。そこから落ちてきた大量の岩石に、ゲンガーは警戒心を露わに体を震わせる。
「【どくどく】で防御しつつ回避、反撃で【シャドーボール】お願い」
猛毒の毒液が噴射され、落ちてくる岩石を溶かして防ぎつつ飛び回って躱わすと、【シャドーボール】を放った。
「突っ込んで【メガホーン】だ」
【シャドーボール】が体で爆発するも気にせず突っ込んだニドキングは、そのツノに激しいエネルギーを纏わせる。
「……今」
そしてその【メガホーン】がゲンガーを捉える、その瞬間。スミレはそう呟き、ニドキングの全身はゲンガーの半透明な体をすり抜けた。ゲンガーはすぐに体を半透明から鮮明な姿へ変えると、【シャドーパンチ】を放つ。ニドキングの首筋を打ち、ニドキングは思わずよろめいた。
「ほお、確かにゴーストタイプのポケモンは実体を存在させることも無くすこともできる、それを利用するか。……だが甘い。【いわなだれ】」
待っていたとでも言うように、ニドキングとゲンガーの頭上に異空間が開くと、【いわなだれ】が落ちてきた。ニドキングすらも巻き込む、至近距離での【いわなだれ】を避けきれず、ゲンガーは空中から叩き落とされる。
「……しまっ!?」
スミレは、失策を悟った。確かに機動力の高いゲンガーで大型のニドキングを翻弄して倒す、という作戦は別に悪い話でもない。だが問題は、サカキが自分のポケモンを捨て石にできること。そして、ニドキングというポケモンは覚えさせようとすれば様々なタイプの技を覚える、技構成の読み辛いポケモンであることだ。技構成に関してはスミレも気をつけていたからこそ、ラプラスによる持久戦ではなくゲンガーによるスピード戦闘という作戦を取った。だがしかし、避けきれない距離から自爆覚悟の範囲攻撃をされれば、想定していても避けられるものではない。
「吹き飛ばせ、【なみのり】」
そして最後に、スミレは【みちづれ】を忘れさせていた。【どくどく】による状態異常付与と【たたりめ】の威力増加効果を利用した戦術で、心中ではなく勝利を目指していたし、【みちづれ】を外しても良いだけの実力は客観的に見てもあった。だからこそ、荒波に対処する術はない。実体を消す間もなく押し流されたゲンガーは、壁に叩きつけられる。
「ゲ……ゲェン」
ゲンガーは全身を水に濡らし、ダメージで傷だらけになりながらも立ち上がる。
(駄目……もう、戦闘不能になっているはず)
スミレは、ゲンガーが限界を超えて立ち上がったことを悟る。たとえここで立ったとして、戦闘を続行したとして、一発食らえば即終了である。もはや、敗北は確定であった。
「ゲンガー……!【シャドーボール】」
スミレが選択したのは、残り少ない体力の全てを費やしてニドキングを消耗させる事。ゲンガーは両手を空に向けると、通常の何倍もの大きさまで巨大化させた【シャドーボール】を生み出し、その両手を振り下ろす。巨大な【シャドーボール】は地面を抉りながら、ニドキングを狙って一直線に迫る。
「ニドキング、【いわなだれ】で防壁を作れ!」
サカキが指示を飛ばし、ニドキングが異空間から大量の岩石を召喚すると、それらはまるで石垣のように積み上げられ、【シャドーボール】に立ち塞がる。
「……行ける」
そう呟いた瞬間、岩石の城に激突した大玉の【シャドーボール】がその勢いを止めることもなく突き進むと、岩石の城壁を吹き飛ばす。
「ぬぅ……」
弾け飛んだ岩石が礫となってニドキングを襲い、思わぬダメージにサカキは唸り声をあげる。そしてサカキが回避指示を飛ばす間もなく、【シャドーボール】がニドキングを捉えた。ニドキングは両腕を広げ、攻撃を受け止めようと全身で踏ん張る。
「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
ニドキングは全身を襲う苦痛に表情をゆがめ、苦悶の叫びを轟かせる。全身を襲うその圧力の流れに押し流されるままに、ニドキングの全身はジリジリと後退する。
「グゥアアアアアア!?!?」
ニドキングの腕が弾かれ、【シャドーボール】は爆発する。ニドキングの全身が技とそれによる爆発によって蹂躙される。
「これなら……」
「いいや?」
期待を漏らしたスミレの声を、サカキは笑って否定する。
「ゲ……ゲェ」
だがしかし、ゲンガーは悔しげな表情を浮かべると目を回して倒れる。蓄積したダメージに、体が限界を超えたのだろう。
「グ……キィング」
そして、ニドキングは立っていた。全身を傷だらけにしながらも、確かな足取りで前へと進み出る。
「……お疲れ様、ゲンガー」
ゲンガーを戻すスミレの顔は苦々しいもので、しかしその言葉に失望はない。欲を言えば落としておきたかったが、負けはしたものの消耗させただけ、それで今は十分な働きだ。
「さあ、次はどうする?」
サカキの問いかけに、スミレは無言でボールを構えた。
「次は……、お願い。フーディン」
そう呟いてボールを投げると、フーディンが飛び出した。フーディンは目に怯えを含みながらも、ニドキングから視線を離さない。
「フン、次はフーディンか。随分と臆病なようだが、戦えるのか?」
「そう。でも、そう簡単に倒せるような子じゃないよ」
サカキがフーディンに視線を向けて尋ねると、スミレは首を縦に振って肯定する。
「ならば証明してみろ。【なみのり】!」
「グゥオオオオオ!!」
ニドキングが吠え、激しい水流が巨大な波となる。まるで巨大な城壁が迫ってくるかのような光景に、フーディンは顔を青くする。
「大丈夫」
だがしかし、背後からは一切の動揺もない涼しげな声。フーディンが横目でスミレを見れば、スミレは真っ直ぐな目でフーディンを見つめていた。
「きっと大丈夫。ゲンガーのお陰で、手の内は分かってる。消耗もしてる。……なら、貴方が。私のベストメンバーの1体である貴方が、対応出来ない筈はない」
無条件な信頼、トレーナーとポケモンの理想的な信頼関係に見えるこの言葉も、意図的に発した言葉だということはフーディンの頭脳を持ってすれば簡単に分かる。だがしかし、その言葉には心が確かに籠っていることも簡単に分かるから。
「ディン!」
フーディンは青い顔をしながらも頷いた。
「……【サイコキネシス】」
フーディンの全身をオーラが包み、ピンク色に輝くエネルギーが大波に向かって放たれる。その力は大波を堰き止め、巨大な水の壁が立ち往生する。
「!?」
「ディィン……」
ニドキングはその口元を引き攣らせて驚きを表し、フーディンは汗を流しながらも迫り来る圧力に耐える。
「限界突破…‥押し返せ!」
「ディィン!!」
スミレが力強く指示を飛ばし、フーディンは表情を苦しげに歪めながらも叫ぶ。
「何!?」
サカキが、思わず声を漏らした。爆発したサイコパワーは【なみのり】を跳ね返し、効果抜群な荒波がニドキングを飲み込んだ。水流に押し流され、ニドキングは壁まで追いやられて押し付けられる。そして、波濤が弾けた。水飛沫の中から、全身にダメージを負ったニドキングが飛び出す。
「グアオオオオオ!!!!」
ニドキングは叫びながら、フーディンへ向けて駆け出した。
「ニドキング、【メガホーン】」
サカキの命令でそのツノに光を灯し、突き進む。
「フーディン、【テレポート】から【サイケこうせん】」
だがしかし、スミレは冷静に指示を出す。ゲンガーの時と同じ失策は犯さない。自爆覚悟の攻撃を撃たせられる相手なら、それが効かない射程外から削り倒せば良いだけだ。臆病なフーディンならば、逃げることなど朝飯前。的確に距離を取ると、【サイケこうせん】をぶつける。
「ニドキング、【いわなだれ】」
「逃げて」
召喚された岩石がフーディンの上から迫るが、開いた異空間の更に上空へと転移し難を逃れる。
「ディン!」
そして、反撃の【シャドーボール】を投げつけ、ニドキングの全身を爆発が襲った。
「【いわなだれ】」
更に追加で召喚された岩石が、今度はフーディンを捉え地に落とす。
「【テレポート】!」
スミレの指示でフーディンが【テレポート】を発動した瞬間、フーディンの立っていた大地を大きな地震が襲った。【じしん】だ。フーディンは、上空に逃れ無事。
「……逃れたか」
サカキが悔しげに表情を歪めて呟き、スミレは安堵に息を吐く間もなく、口を開く。
「【サイコキネシス】!!」
叫びに従い発動された【サイコキネシス】は落ちていた大量の岩石を浮かせると、ニドキングに向けて一斉に放たれた。全身を巨岩に打ちのめされて、ニドキングはうつぶせの姿勢でゆっくりと崩れ落ちる。
「む、戦闘不能か」
サカキはほんの少し眉を顰めると、戦闘不能となったニドキングをボールに戻す。
(これでポケモンの数は同数……戦況全体で言えば依然私が不利だよね)
スミレは、油断なくサカキの出方を窺いながらも戦況を分析する。相手はガマゲロゲ、フライゴン、ニドキングの3体が倒れた。残るは3体、スミレ側もバタフリー、カイリュー、ゲンガーの3体が落ちて残るは3体と同数だ。しかし、フーディンも無傷ではないためサカキ側の有利は動かない。
(フーディンがどこまで削れるか……。フシギバナとラプラスも、やっぱり限界はあるから)
そう考えている間に、サカキは4体目を選出したようであった。
「さて、後半戦だが準備はいいかね?」
「……ええ。たとえ望む結果にならなくたって、進む覚悟は出来ています」
スミレの目を見て、サカキは頷いた。そして、4体目のボールを投げる。
「その意気や良しッ……。ならばこれを超えてみろ、バクーダ!」
ホウエン地方に生息するほのお、じめんタイプのポケモンバクーダが、堂々とした様子で地に降り立つ。
「……バクーダ。どの道、倒すだけ。【シャドーボール】」
フーディンが【シャドーボール】を生成し投げつけると、それはバクーダにあっさりと命中し爆発を起こす。バクーダはその体型故に俊敏さには些か欠けるポケモンだ。だからこそ、攻撃に耐えて反撃するというスタイルが取られる。その為スミレは、遅い相手との戦い方は事前に指示をしていた。だからこそスミレの判断を待たずに【テレポート】を使い、バクーダから離れた空中に転移する。
「成程、想定済みか。ならばこれは避けられるか?バクーダ、【ふんか】」
バクーダの背中にあるまるで火山のような部位の中から、炎が勢いよく吹き出す。そしてそれは空中で別れて何条もの紅蓮の流星となり、フーディンへと襲いかかった。