ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第132話『ミュウツーの逆襲』㉒: フーディンの機転

 紅蓮の流星が、フーディン目掛けて降り注ぐ。その火力は絶大で、スミレの全身を熱気が襲い、胸元で思わず拳を握れば滲んだ手汗も生温くて気持ちが悪いと眉を顰めた。

「……ふぅ」

スミレは心を落ち着かせるべく深呼吸をする。熱い空気が肺に流れ込んでくるが、気にする余裕など無かった。上空から降ってくる噴火は壮大な景色だが、対処しなければ先はない。

(交代しても、ダメージは確実……。それよりマシな手は、フーディンの機動力を信じて躱させること)

「フーディン、【テレポート】で逃げ続けて」

スミレが出せる指示は、それだけ。フーディンは繰り返し【テレポート】を発動し、空中での転移を繰り返す。フーディンは降り注ぐ【ふんか】に怯えながらも、的確に躱し続ける。地面に落ちた溶岩が床を焼き、飛び散る火花が2人のトレーナーを照らす。

「避けるか……。ならば、【いわなだれ】」

サカキの指示が飛び、異空間の扉が開く。フーディンの頭上から、大小さまざまな岩石が降り注いだ。

「フーディン、【サイコキネシス】!」

だがフーディンは【サイコキネシス】を発動、降ってきていた岩石たちは空中で静止する。

(これで……!)

スミレは、反撃のチャンスだと感じた。岩石をぶつければ、ダメージは期待できる。

「【やきつくす】」

しかし、バクーダは広範囲に火炎を放つと、フーディンが放った岩石の礫と激突、連続して爆発を起こす。攻撃は全て炎に巻かれ、バクーダ本体には届かない。

「……ッ、【サイケこうせん】!」

「【やきつくす】」

両者の技が、空中で激突し弾けた。辺りは【ふんか】や【やきつくす】によって石の建材までも焼かれ、炎が上がり始めている。スミレの額には滝のような汗が流れ、吐く息が荒くなり始める。

「まだっ……!【シャドー】」

「ディン!!」

フーディンが、スミレの指示を遮った。ハッとした表情でフーディンに視線を向けると、フーディンはスミレを力強い眼差しで見返すと、瞬間的に消える。

(……これは、【テレポート】?)

スミレは、僅かに目を見開いた。指示を遮り、【テレポート】を発動する。フーディンの知能は人間の限界よりも遥かに上、より良い作戦でも思いついたのだろうか、とスミレは視線を彷徨わせるもフーディンの姿はない。

「成程な」

サカキが、フーディンの意図に気付いて笑う。スミレは、汗を乱暴に拭いながらも焦った表情で辺りを見回す。

「ラァァァァァ!!!!」

そんな時、スミレの腰から光が迸った。出てきたのは、ラプラス。あまり得意ではない熱気漂う空間の中でも、ラプラスは力強く前を向く。

(……あぁ、そっか)

スミレは、何故フーディンが居なくなってラプラスが出てきたのか、そしてサカキが直ぐに気がついたのかをようやく理解した。

「【テレポート】本来の能力は、控えポケモンとの強制交代……。それで、みず技を使えるラプラスを呼んだんだね」

サカキは気付いた、自身は直ぐに気づかなかった。そこが、トレーナーとしての大きな差だと分かっている。だが、フーディンがその差をカバーしてくれたのなら。

「ラプラス、【こごえるかぜ】!!」

熱された空気を冷やす氷の風が、吹き荒れた。氷は溶け、生温い風になっても止まらぬ烈風が、空気から熱を奪い去ってゆく。

「ふむ、【やきつくす】」

「【みずのはどう】!」

放たれた【やきつくす】を【みずのはどう】が迎撃、水は蒸発するも炎を掻き消した。白い蒸気が辺りに漂う。

「【いわなだれ】」

「【みずでっぽう】で砕いて」

続いて【いわなだれ】が降ってくるが、ラプラスは顔を上に向けて【みずでっぽう】を連続で放った。放たれた水流はまるで的当てのように岩石を破壊する。細かな石が全身に降りかかるが、そんなことは気にしていられない。

「バクーダ、【だいちのちから】」

「ラプラス、【みずのはどう】」

バクーダの放つ大地のエネルギーが、ラプラスの放った水のエネルギー弾が、それぞれ陸と空をすれ違い、互いに命中した。ラプラスの足元がひび割れ、噴き上がった大地のエネルギーを全身に受け、ラプラスは苦悶に眉を顰める。対して、じめんタイプとほのおタイプを併せ持つバクーダにとってみずタイプは相性最悪、顔面で弾けた水球に大きなダメージを受けて思わずよろめくと顔を勢いよく振って水滴を吹き飛ばす。

「【いわなだれ】」

「【みずでっぽう】」

岩石が一切の防御を捨てたラプラスの元に墜落、岩石群に打ちのめされてラプラスは苦しげに呻く。だがそれに耐えると【みずでっぽう】を発射、激しい水圧に押されたバクーダが後退する。

「【ふんか】」

「【こごえるかぜ】!」

再び放たれた紅蓮の流星に向けて、白銀の烈風が叩きつけられる。氷は一瞬で溶かされ、【ふんか】の火力の前には風もまた簡単に蹴散らされるが、冷やされた溶岩は急速に固まり、岩石に変わる。

「……これで決める、【みずでっぽう】!!」

降ってくる火山岩には目もくれずに、ラプラスは【みずでっぽう】を放った。効果抜群の技を受け続けていたバクーダは、その一撃で遂に倒れ伏す。

「ほう、トレーナーとしては荒さが目立つがポケモンの優秀さがそれをカバーしている。悪くない関係だ」

「ポケモンを道具扱いする人に、関係性を評価されても嬉しくない」

笑みを浮かべ、バクーダをボールに戻しながらスミレを褒めるサカキに対して、スミレは不機嫌な様子で返す。

「ハッハッハ!それもそうか、だが褒めるべきところは褒めるのはジムリーダーの役目だろう?」

サカキの返答に、スミレは更に不機嫌そうな表情を浮かべる。

「最初からリーグの敵なのに、ジムリーダーであることに妙に拘りあるんだね」

スミレからの探るような視線を感じつつ、サカキは次のボールを手に持った。

「仮とはいえ、仕事は仕事だ。私は仕事に手は抜かない主義でね」

「今はどうなの?」

「それを態々聞かねば分からんかね?」

「……それもそうだね」

スミレは、ため息を吐いて矛を納める。確かに、出すポケモン達はサカキの全力ではないのだろう。だがしかし、サカキは大真面目に勝とうとしていることくらいは分かっていた。このバトルは勝とうという意思に、ジムリーダーという立場と純粋なポケモントレーナーとしての願望が混ざっているだけだとスミレは分かっている。

「話もひと段落したことだ。行ってきたまえ、ゴローニャ」

サカキが投げたボールから出てきたのは、カントーにも生息しているゴローニャだった。依然として、タイプ相性はラプラス有利。

「【みずでっぽう】」

「【あなをほる】だ、行け」

ラプラスが先手必勝とばかりに【みずでっぽう】を放つが、ゴローニャは地面に穴を掘るとその中に潜り込む。これでは、どこから来るかが分からない。

「ラプラス、迎撃準備」

スミレは、防ぐことをまず選択肢から外した。相性の有利により、【あなをほる】など軽々耐えられると考えたのである。

(優先事項は、攻撃を受けないことではなく反撃を確実に当てること。ラプラスの耐久とタイプなら、あの程度は耐えられる。効果抜群技を乱射して削り切るッ……!)

「【あなをほる】!」

サカキの目が、強く開かれた。ラプラスのすぐ真下に穴がこじ開けられると、ゴローニャがラプラスの顎に体当たりを叩き込みながら飛び出した。

「(まさか、体を丸めて移動速度を!?……でも、対応は余裕!)ラプラス、【みずでっぽう】!」

体勢を一瞬で立て直したラプラスは、直ぐにエネルギーを装填する。そして水流が放たれ、背中の岩石に合わせて丸くなったゴローニャを吹き飛ばす。しかしゴローニャは壁に激突するとそのまま転がり、室内を駆け回る。

「突っ込め、【ロックカット】」

室内を転がっていたゴローニャの全身から火花が散る。【ロックカット】は自身の体の岩石を削り、素早さを上げる技。

「まさか……摩擦!?」

「その通り、さあ行け!!」

サカキは得意げに笑い、ゴローニャが急加速する。地面に体を勢いよく擦り付け、その摩擦で岩を削っているのだ。ラプラスの【みずでっぽう】がゴローニャを捉えようと迫るが、加速したゴローニャには命中しない。

「【こごえるかぜ】」

スミレが決断したのは、点ではなく面の攻撃。【こごえるかぜ】が周囲に吹き荒れた。

「今だ」

白銀の風に辺りが包まれる中、サカキは余裕のある表情で呟いた。スミレがそれに警戒心を上げたその時、【こごえるかぜ】を切り裂くようにゴローニャが転がり迫る。ゴローニャはラプラスの眼前で跳び上がり格納していた手足を出すと、右拳を構えた。その拳に宿ったエネルギーは、白銀の世界で一等輝く雷の光。

「……まさか、それは」

「ゴローニャ、【かみなりパンチ】!!」

ゴローニャの放つ【かみなりパンチ】が突き刺さり、ラプラスの全身を雷光が迸る。

「ラァァァァァ!?」

ラプラスは苦しげな悲鳴を上げ、スミレは悔しげな様子で唇を噛む。

「次、【じしん】」

サカキが淡々と指示を飛ばし、着地したゴローニャの足を伝って巨大な振動がラプラスを襲う。

「ラァァ!」

咄嗟にラプラスは【みずでっぽう】を放ち、ゴローニャを引き剥がす。

「……【みずのはどう】!」

更に追撃の【みずのはどう】が爆発、ゴローニャの巨体を更に吹き飛ばした。

「【じしん】!」

立ち上がったゴローニャは足を地面に叩きつけ【じしん】を起こす。ラプラスは傷ついた体で必死に耐えるが、既にその息は切れ始めていた。

「【みずでっぽう】」

「【かみなりパンチ】で防げ」

苦し紛れに【みずでっぽう】を放つが、ゴローニャの【かみなりパンチ】を叩きつけられ霧散する。

(ニドキングといいゴローニャといい、効果抜群技をなんでこんなに……!?)

スミレは内心苛立っていた。みずタイプの技を連続で食らって尚、ゴローニャは立っている。自身の放った【なみのり】を受けたニドキングだってあっさりと立ち上がった。硬いにも程があると、スミレは内心愚痴を吐く。

「【あなをほる】」

ゴローニャが再び、地面に潜る。

(場所は分からない。でも、接近させたら【かみなりパンチ】が来る。受けなくても【ロックカット】で加速されたら対処が出来ない。どうすれば……?…………あっ、そういえばあの時)

スミレは、その戦術をふと思い出した。

「……【みずでっぽう】、撒き散らして」

スミレの意図を瞬時に察したラプラスが、周囲に【みずでっぽう】を連続で放ち、周囲を水浸しにする。

「(城の素材は決して柔らかくない……。それをぶち破れるパワーはあるけど、【あなをほる】自体の威力は下がる。なら、こうすれば良い!)ラプラス、【こごえるかぜ】!!」

「ラァァァァァ!!!!」

ラプラスが全力で吠え、白銀の烈風が吹き荒れた。周囲に撒き散らされた水が一気に凍りつき、フィールドに氷の膜を作り上げる。

「……【みずでっぽう】装填、出てきた所を確実に仕留める!」

「ラァ!!」

スミレの叫びにラプラスが応え、その口にエネルギーを溜め込んだ。

「ふん、まだまだだな。……【じしん】だ」

「!?」

サカキの言葉にスミレが驚いた瞬間、地中に潜ったゴローニャが、【じしん】を放った。ゴローニャ自身を巻き込む振動が地中から放たれ、薄く張られた氷の膜を叩き割りながらラプラスにダメージを与える。

「追撃」

「ローッニャ!!」

全身が傷ついたゴローニャが穴を掘って飛び出し、ラプラスに体当たりを決める。その距離は、ラプラスにとっての命取り。ゴローニャの拳に、雷光が再び輝く。

「……ッ、撃って!」

「遅い、【かみなりパンチ】」

たった一瞬、それだけの指示の遅れがラプラスの運命を決めた。【かみなりパンチ】が叩きつけられ、ラプラスは力無く倒れる。戦闘不能だ。

 

「……くっ!」

スミレは表情を歪め、拳を握った。

 

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