ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
出来る限り更新はしていきたいです……頑張れ作者…………
城中を飛び回る黒いボールが、トレーナー達を襲った。倒されたポケモンも、未だ健在のポケモンも関係ない。モンスターボールごとポケモンを強奪するそのボールの前には、ポケモンの強さなど関係ない。
『さあ、来い!!』
1号機が喜びの叫びを上げ、城中からモンスターボールが集まり始めた。サカキやワタルといった強者に向けた一部は撃墜され戻ってきていないが、それは問題ない。ワタルやサカキ、キョウ、サナダといった人間側の最高戦力でさえ、ボールの全てを防ぐことはできなかった。全てを奪えてはいないが、それでも上出来な成果だ。
『これは……!?』
2号機が物珍しそうに周囲を飛び交うボールを眺める。
『このボールには多くのポケモン達が収まっている。これらを機械に投入してクローンを製造するのだ。……やはり、あのマントを付けた男のカイリューは捕らえられんかったか。あれは私達の領域に少しではあるが踏み込んだ強者、あの程度なら凌げて当然だろう。……それに、サカキが隠し持っている真の手持ちは1体だけ取り逃したようだ。それ以外は全滅、大変結構』
そう説明しながら【じこさいせい】で体力を回復させる1号機に2号機は感嘆の視線を向ける。
『す、凄い……。あれだけいたポケモン達を一斉に』
『このボールは特別性でな。モンスターボールに納めたとて意味はない。……さあ、戦いは続くのだ。今のうちに体力を回復させておけ』
『はい。…………兄様』
2号機の返事に鼻を鳴らすと背を向け、遠くを見つめる。遥か先の戦を見れば、どうやらリーグ側に援軍が来たらしくロケット団は既に撤退を始めている。どうやら、戦いの終わりは近いらしい。
■■■■
「スミレ!!」
ポケモン達を奪われ呆然としていたスミレは、その声に正気を取り戻した。
「……シゲル?」
スミレの呟きに、シゲルが頷いた。
「無事ではなさそうだね……。君も、手持ちを奪われたのかい?」
「うん……、だからどうすれば……」
不安げなスミレに、シゲルは強気な笑顔を向ける。
「ヒマワリを探すぞ!もしかしたら、あの黒いボールの行く先を知っているのかもしれない!!」
「まさか……生身で突っ込む気!?」
信じられない、とスミレは声を上げる。だがシゲルは、その問に笑みを深めて頷いた。
「当然……、こっちは戦力が足りてないからね。だからといって、大切な仲間を見捨てることはできない」
スミレは、手で額を抑え大きなため息を吐く。生身の人間がポケモンを助けるためとはいえどう考えても危険な地帯に突っ込もうというのだ。正気の沙汰ではない。
「……よし、やろっか」
だがスミレは、その正気ではない計画に乗った。一瞬の躊躇の内に彼らのいない未来を想像できなかった、それだけの話だ。
「サトシのことだ。どうせ馬鹿丸出しで突っ込んで先行してるだろう」
「うん。急ごう」
シゲルとスミレは視線を合わせて頷くと、シゲルはポケモン図鑑を取り出す。
「…………ちょっと待ってくれるかい?」
「うん。……でも何を?」
スミレが不思議そうな表情で首を傾げると、シゲルは驚愕に目を丸くした。
「なんだ、知らないのかい?」
「うん」
キョトン、とした様子のスミレにシゲルはクスクスと忍び笑いを漏らす。
「君、もしかして最低限しか使ってないだろう?……まあいい、ボクら4人のポケモン図鑑には特殊なGPSが入っていてね。緊急時に専用パスワードを入れると、他の図鑑と自分の位置情報を共有することができるし相手の位置情報を調べて救援要請を送れる。必要とあれば、警察やリーグへの通報システムもある」
「普通に知らなかった……。説明書、流し読みしてたから」
特に嫌悪感もなさげなスミレに意外そうな視線を向けつつ、シゲルは機能をONにする。調べるのは、サトシとヒマワリの居場所だ。
「ビンゴ……スミレ、地下だ!サトシは何故か地下に降りている。ヒマワリも動きから推測するに、下層に降りている。ボクらも向かえば、合流できるはずだ」
「地下?分かった、行こう」
スミレが頷くと、2人は力強く立ち上がった。目指す先は、城の最下層だ。だがその耳元に、何者かの登場を知らせる力強い羽音が聞こえた。
■■■■
ムサシ、コジロウ、ニャースにとってこの戦いは謎の多い戦いだった。カラシの屋敷襲撃に関しては実益と個人的な怨恨を兼ねて計画し実行したものだが、ミュウツーに関しては全く持って何も知らない。
「で、なんなのよここは……」
ムサシが、その光景を見つめながら困惑を漏らす。目の前にある大きな機械には、沢山のモンスターボールに似た形状の黒いボールが入ってゆく。オシャレなボールを好むコジロウにも見たことのないボールだ。
「俺たち、下っ端だし開発部門には関わってないしなぁ……ミュウツーが開発した、とか?」
確かに彼らは自作メカで任務を行うことが多いが、あくまでそれは自分用。ロケット団本部に提供したりすることはほぼゼロと言っていい。
「ニャァ!?何するニャ!」
辺りを見回していたニャースが頬に鋭い痛みに顔を顰める。
「どうした!?」
コジロウが声を張り上げ、ムサシと共に振り返る。するとその目に映ったのは、伸びた機械のアームがニャースの頭 頬をつねり、毛を数本抜き取る様だった。
「ちょっと、何すんのよ!!」
機械に意思などないのが通常であるのに、ムサシは機械を怒鳴りつける。返答は当然なく、ムサシは苛立った様子で拳を震わせる。
「……ニャーの毛がぁ」
抜かれた、と言ってもあからさまに見た目へ影響するものではない。とはいえ勢いよく顔を引っ張られた挙句毛まで抜かれ、痛みと恥ずかしさにニャースは涙目で頬を押さえる。
「ま、まぁまた生えるだろ……。うん、大丈夫だ」
コジロウが引き攣った笑みで慰めるが、ニャースはウンザリとした様子で溜め息を吐く。
「全く……。何が起きてるか分かんニャいし、毛を抜かれて痛い目みるし。散々なのニャ」
「なーにウダウダ言ってんのよ。それよりこの機械…………え?」
文句を垂れるニャースに呆れた様子のムサシは機械に視線を向け、そして驚きに目を見開いた。
何かの液体が貯まる、沢山のチューブの中。その中に次々と、ポケモンが送られ始めたのだ。ニャース、これはロケット団のものだ。カイリキー、それはヒマワリのもの。ラプラスは、スミレのもの。ワタルのサザンドラと思わしき姿もある。
「おいおい……こりゃあなんだ?」
「それは、クローン製造機だよ」
コジロウの疑問に、背後からの声が応えた。慌てて振り返ると、そこにはヒマワリがひとりで立っている。
「は、ハナガール2号!?アンタ、確かミュウツーと……!」
「もう手は切れたようなものだよ。ポケモンも獲られちゃったし、わたし自身も説得されちゃったし」
警戒するムサシに、ヒマワリは悲しげな微笑みを浮かべる。ムサシとコジロウは警戒を残しているのか眉を顰めるが、ニャースが勢いよく手を上げた。
「クローン製造機ってどういうことニャ!」
ニャースが鼻息荒く問いかけると、ヒマワリは不思議そうに首を傾げた。
「?……ほんとに、何も知らないの?それはロケット団の技術なんだけど」
「知らない。俺達は何も聞いてないんだ」
コジロウが返すと、ヒマワリは納得したように頷いた。
「そっか。なら、説明しないとっ…………て、ん!?!?」
ヒマワリは、驚いて肩を跳ねさせる。そしてロケット団達も、ボールが流れるレーンに勢いよく視線を向かわせる。ガタンゴトン、という擬音では現せないほどの何かが暴れるような音がレーンから聞こえてくる。
「何が起こってんのよ!?」
「ちょ、わたしにも分かんない!!」
流れ続ける爆音に、ムサシとヒマワリは思わず抱き合い顔を青くする。
「……ニャ?ニャニャ!?」
ニャースは戸惑いながらも目を凝らすと、ベルトコンベアを見覚えのありすぎる人間がひとつのボールを掴もうと暴れながら流れてきた。
「「「ジャリボーイ!?」」」
「サトシ……!?」
驚くロケット団とヒマワリを他所に暴れるサトシは暫しの格闘の後に逃げ回るボールを掴むと、勢いよく地面に叩きつけた。
「よし、開いた!」
サトシが電気を迸らせながら砕けたボールに歓喜の声を漏らすと、そのボールからはピカチュウが飛び出した。
「ピッカァ!」
嬉しそうに鳴き声を上げるピカチュウに、サトシは一安心したのかへらりと弱々しい笑みを浮かべる。
「良かったぁ……ピカチュウ」
「ピカピ、ピカピッカ!」
「ごめん、割り込むよ」
感動の再会ではあるがそう悠長にはしていられない、と意を決したヒマワリがサトシに声を掛ける。
「ヒマワリ!…………大丈夫、なんだな?」
「…………うん。色々、ごめんね」
一瞬驚くも、すぐに真剣で尋ねるサトシにヒマワリは、悲しげに微笑み小さな声で頷いた。
「そっか!なら良かった!!」
ニシシ、と笑うサトシの表情に、ヒマワリも思わず笑みを溢す。
「相変わらずだよね、サトシは。そういうとこ、わたしは好きだよ」
「へへへっ。……それで、これはなんなんだ?ロケット団」
サトシがヒマワリに笑みを向けるが、すぐ視線を鋭くさせてロケット団に視線を向ける。
「いやいやいや、俺達何も知らないんだって!!」
「ニャー達は無関係なのニャ!!」
「そーよ、アタシ達よりそこのハナガール2号の方が知ってるんじゃないの!?」
「そっか。それで、どうなんだ?ヒマワリ」
ロケット団の主張をあっさりと信用したサトシに尋ねられ、ヒマワリは神妙な表情で頷いた。
「うん。知ってる。……ちゃんと話すよ、今更隠す気もない」
「そうでなくては困るね、ヒマワリ」
聞き覚えのある声が地下に響いた。ヒマワリが慌てて声の主に視線を向けると、そこには若干青い顔になりながらも引き攣った笑みを浮かべるシゲルと、その横で顔色を蒼白に染めたスミレが立っていた。
「シゲル!それにスミレも!……どうかしたのか?」
サトシがパッと表情を明るくするが、只事ではない2人の様子に笑みを引き攣らせる。
「ワタルさん……。緊急事態なのは分かるけどカイリュー速すぎ…………酔った。私のカイリュー、あんな速く飛べないもん」
スミレが蒼白な顔で文句を言う。
「この近くまで、ワタルさんがカイリューで運んでくれたんだ。ポケモンを奪われたから、今は合流を視野に動いているらしい。……スミレは放っておけばすぐ直る、あまりの速さに酔いつつ自分のポケモンとの実力差をはっきり分からされて若干いじけてるんだ」
「あー、そういえばミニリュウ持ってたねスミレちゃん」
「……サカキと戦った時にカイリューになった」
溜め息を吐くスミレに、幼馴染3人は納得したと同時に頷く。
「……で、バトルは勝ったね?ボクは下っ端だったが、強いエスパーポケモンを使ってくる厄介な相手だった。まぁ、勿論勝ったからここに立っている訳だが」
話題を変えつつ自慢げなシゲルに、ヒマワリは視線を逸らしスミレとサトシは力強く頷いた。
「私は、手加減ありとはいえボスのサカキを倒した。……ジム8個分くらいに調整されてたけど、一応フルバトルで勝ったし奴の手持ちは数だけなら削れてる」
スミレが小さく手を上げ申告する。するとロケット団の3人が驚き固まった。
「ボスに勝ったのか。やるなぁ」
サトシが呑気な声で褒めるが、内心は自分が戦いたかったのだろうか少し声音に硬さが滲む。スミレの知らない話だが、サトシはサカキのジムに挑んだのにロケット団と対決させられたという事実がある。
「ま、私が私なりに意地を通したから加減してくれたからね。サトシが挑んで同じ結果になるとは限らない」
「ちぇっ」
スミレが嗜めると、サトシは残念そうに舌を打ち、シゲルとヒマワリは思わず苦笑いした。
「そういうサトシは誰と戦ったんだい?」
シゲルが半笑いで尋ねると、サトシは悲しげな表情を浮かべる。
「……オレは下っ端。可哀想な奴だったよ。でも強かったぜ、特にあのガブリアスってポケモンがさ」
「「「は??」」」
3人の呆けた声が重なった。
「ん?」
「いや待って、ガブリアス倒した?本気で言ってるの??」
スミレが表情を引き攣らせる。ガブリアスというポケモンは、強力な基礎能力に恵まれた技を搭載できる戦略兵器と呼べる代物だ。
「ああ、なんかすげー強かったけど特別なポケモンなのか?オレ昔から頭悪くてさ」
「どれだけ強いかは知らないけど、育てるのめっちゃ難しいのは知ってる……」
ヒマワリはそう言って顔を青ざめさせる。それを横目にシゲルは、どこか誇らしげに頷いた。
「ボクのライバルを名乗るなら、それくらいしてもらわないとね。……さて、そろそろ切り替えよう」
シゲルが真剣な表情に戻ると、残る3人は部屋の隅で様子を窺うロケット団など気にも止めずに頷いた。
「ポケモンを助ける」
「ミュウツーを止める」
「ロケット団を倒す」
上から順に、サトシ、ヒマワリ、スミレの発言だ。それにシゲルが頷いた。
「サトシはそこ3人の監視と尋問、スミレは回復アイテムの準備、ヒマワリは装置をどうにか出来ないか探ってくれ。そしてそのついでに、手持ちと技構成をボクに伝えて欲しい。それをボクが纏めて大まかに方針を決め、スミレを中心に細かい策を練る」
「……了解」
スミレは、涼しげな表情で頷く。
「頑張るッ……!」
ヒマワリは、ぎゅっと唇を噛み締め拳を握る。
「行こうぜ、みんな!!」
サトシは笑って、帽子のツバを後ろへ回す。
「ボクらに出来ることを全力で……!さあ行こう、反撃開始だ」