ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「そうだ、この機械のこと話しとかなくちゃ」
ヒマワリが、ハッとした様子で言った。それに別れて作業していたスミレも頷く。
「そういえば、聞いておく必要があったね。……ヒマワリ、頼んだ」
シゲルが掌を拳でポンっと叩くと言い、ヒマワリに視線を移す。
「うん。……この機械、わたしがこのお城に来たときからあったんだけどね。ほら、ミュウツーが出てきた時にリザードンとカメックス、フシギバナがいたでしょ?」
「あのフシギバナにやられた。……業腹だけど」
「オレはリザードンにだ。消耗してたとはいえなー」
「こちらはカメックスにやられた。こちらのカメックスとほぼ同等だと思う」
それぞれ悔しげに恨み言を言う負けず嫌い三銃士に、ヒマワリは頬を引き攣らせる。
「う、うん……。それは兎も角、そのポケモン達は収集した遺伝子情報から作ったクローンなの。ミュウツーを産んだ装置と同じらしい」
「……復讐に、対象と同じ手段を用いる。愚か」
「みんながみんな、スミレちゃんと同じ価値観や芯で動いてるわけじゃない。そもそも、それを考える余裕もないくらい恨みに囚われてるんだよ。だからわたしは、ミュウツーを助けたかったの」
「…………そっか」
ミュウツーのやり方に嫌悪感を覚えるスミレだが、ヒマワリに嗜められ渋々ながらも引き下がる。
「で、そのクローン装置は壊せるのか?」
「無理じゃないけど、ポケモンが居ないとキツイ。……それに」
サトシの質問にヒマワリがそう言って液体の入ったチューブに視線を送る。そこには、液体の中で眠る沢山のポケモン達の姿があった。
「成程、クローンか」
シゲルが、納得したように頷いた。
「うん。クローンが生命として確立すれば、装置を壊しても問題ない。でも下手に壊せば、クローン達は死んでしまう。ただ生まれてきただけなのに、何の罪もないのに……。やらなきゃ、いけないんだけどね」
ヒマワリの悲しげな言葉に、3人は黙りこくる。
「俺たちがやろうか?」
それに、コジロウが声を掛けた。
「アタシらロケット団の責任だしね。こっちにはポケモンも居るし、出来るわよ」
ムサシが続け、ニャースも頷く。だがそれを、サトシが首を横に振った。
「ダメだ、そんなの。お前達にそんなことはさせられない。……なぁヒマワリ、オレのピカチュウで電気を送ってやれば、作業は進むのか?」
サトシがロケット団の提案を否定して、そんな疑問を投げる。
「まぁ、うん。壊れない程度に調節できればの話だけど、エネルギーを強化してあげれば機械がちゃんと動くと思うよ?」
「その辺りはウチのニャースが得意じゃない?機械弄り、得意でしょ」
「確かに、配線とかも良く弄ってるのニャ。この中だと、ニャーがやるのが一番なのニャ。ただ、稼働中の機械を改造すると故障の恐れがあるから、電力の計測と調整をするニャ」
「じゃあ、送るエネルギー量を調節、強化して作業をすぐに終わらせ、そしたら俺のマタドガスやムサシのアーボックで壊して助けよう」
ロケット団も混じり次々と意見が飛び出す。その光景にシゲルはニヤリと笑みを浮かべると、結論を出した。
「それじゃあ、ニャースは無理のない範囲で強化できる電力を計測、サトシとピカチュウがそれを出せるよう調節を手伝ってくれ」
「オウ!!頼むぜピカチュウ、ニャース!」
「ガッテンニャー!!」
「ピカピッカ!」
「そしてクローンが完成したらロケット団2人のポケモンで装置を破壊、助けたポケモンはボクとスミレ、ヒマワリの3人で回収する」
「やろうぜムサシ!」
「ええ、しくじるんじゃないわよコジロウ!」
「……了解」
「それが良いね、やろう!」
そして、作戦は始まった。
◾️◾️◾️◾️
ピカチュウの頬袋で電気が弾ける。真剣な表情で見据える先には機械のコード。
「頼むぞピカチュウ、【でんきショック】!」
「ピィィィィィカァァァチュゥゥゥ!!」
サトシの指示に応え、ピカチュウが吠える。頬から迸った電撃が機械の配線を流れ、機械は激しく動き出す。するとチューブの中で眠っていたポケモン達が目覚め、チューブから排出され始める。自分自身のポケモンや、自分がよく知る人物のポケモンと同じ姿をしたクローン達が、何処かへと歩き出す。
「……やはり、上層に向かう気か!」
「仕方ない、今は実行するしかないよ」
シゲルが悔しげに表情を歪め、スミレは眉を顰めて行列を見逃す。
「よし、今!!」
ポケモン達の大移動を見届けてからヒマワリが合図すると、ムサシとコジロウはボールを投げる。
「行け、マタドガス!」
「マタドガァス」
「行けぇ!!アーボック!!」
「シャーボック!!」
ボールから勢いよく飛び出したマタドガスとアーボックが機械に攻撃を仕掛ける。マタドガスの【ヘドロばくだん】を浴びてショートを起こし、アーボックの尻尾を叩きつけられ装置は砕ける。すると、装置は小さな爆発を起こし黒いボールが飛び出し、続いてそれらは呆気なく砕け散る。クローンを作られたポケモン達だったが、体力を回復させられた元気な姿でそこ立っていた。
「フシギバナ!」
スミレは、真っ先にフシギバナへと駆け寄る。その表情には不安が見え、フシギバナは微笑みを浮かべて蔓を伸ばし頭を撫でる。
「バナァ」
「良かったッ……、フシギバナ、死んじゃったらどうしようかと……」
声を詰まらせるスミレの肩に、カイリューが手を置いた。その感触に振り返ると、スミレのポケモン達は笑顔を浮かべてそこに揃っていた。
「バウゥン」
カイリューが拗ねた様子で鳴き声を上げると、スミレは弱々しく微笑みを浮かべる。
「うん、ごめんね。……みんなも無事で良かった」
その言葉が聞きたかった、とばかりにカイリューは深く頷く。ゲンガーは口元を押さえて笑い、フーディンはホッとした様子で座り込み、ラプラスは満面の笑みを浮かべた。一方のバタフリーはスミレの状態を確認するとすぐにフシギバナの背中へと飛んで行き、鳴き声で何か会話を交わしている。
「……さて、再会を喜ぶのは後にしようか。キミらの技構成も教えて貰ったし、どうにか反撃の糸口を探ろう」
シゲルが手を叩きながら言えば、全員の表情が引き締まる。
「ミュウツーってどのくらい強いんだ?」
サトシの問いに、シゲルは苦々しい表情を浮かべヒマワリは困ったように眉を下げる。
「強いよ、ボクがトキワジムに挑んだ時に一度戦ったけど、ボクのベストメンバー6体をあの1体に蹂躙された。まともに戦って勝ち目がないのは目に見えてる」
「うん、わたしも戦ったことあるけど強いよ。ミュウツーには技の制限がないから、色んなタイプの大技をポンポン出してくるの。ただ、タイプ自体はエスパータイプだからそこに突破口があるかも」
「やはりエスパー……。ヒマワリのカイリキーをメインに据えようかと思ったんだけど、難しそうだね」
シゲルとヒマワリによる強さの評価に、スミレは眉を顰める。
「わたしのリキイチはね。カゲちゃんの次に強いけど、相性悪すぎる。それに、何度か戦ってるから戦法もバレてる」
ヒマワリの証言にスミレは大きくため息を吐くと口を閉じる。
「スミレのバタフリーはどうだ?近づいて戦うポケモンがいれば、外から攻撃できるだろ」
サトシの提案に、シゲルは頷いた。
「戦うなら、スミレのバタフリーは援護要員として必須だ。前衛にサトシのリザードン、ボクのカメックスとニドキング、スミレのフシギバナ、ヒマワリのリザードンは確定だ。後はヒマワリのピクシーを使って味方の援護と回復、遊撃にはスミレのゲンガーとサトシのピカチュウで挑むのはどうだろう?」
「俺達はどうする?」
コジロウに尋ねられ、今度はヒマワリが口を開く。
「もしクローンが来た時の備えをして欲しいんだ、わたし達の残ったポケモン達と一緒に」
「しゃーないわね、やるわ。ただしサカキ様に手は出さなくても良いでしょ?」
「うん。そこまで求める気はないよ」
ムサシに問われ、スミレがそれを肯定する。あくまで彼らはロケット団員、こちらの都合でボスに刃向かわせる訳にもいかない。
『さて、そろそろいいですか?人間達よ』
女性の声が、耳を震わせる。瞬間的にバタフリーが【はかいこうせん】を放ち、シゲルのカメックスが【ハイドロポンプ】を放つもそれを手も使わずにバリアを貼ることで防ぐ。そこに居たのは、ミュウツー2号機だ。
「もう来たッ……!」
シゲルが嫌な展開に表情を歪ませる。
『装置の破壊とは、随分とやってくれますね……。ここで少しばかり痛い目を見てもらいましょうか』
「ニドキングは【つのでつく】、カメックスは【こうそくスピン】!」
ニドキングはツノを輝かせて突進し、カメックスは甲羅に収まり高速回転、そのまま突っ込む。
『弱い』
ミュウツーはニドキングのツノを片手で掴むと軽々持ち上げ、城の壁へと叩きつけた。続いてカメックスを視認することもなく手を翳すと、雷光が迸りカメックスの巨体は呆気なく崩れ落ちる。
「クソォ!!」
続いて呼び出されたウツボットは【リーフストーム】を放つも【だいもんじ】によって技ごと呑まれ倒れる。そして【かえんほうしゃ】を放ったウインディは上空に転移され、踵落としで地面に叩きつけられる。
「ストライクッ!ガルーラ!!」
続くストライクが鎌を振るうが、ミュウツーは避けることなくそれを白刃取りした。そして手を翳すと【シャドーボール】を発射、吹き飛ばされる。背後からガルーラが拳を振るうも、ミュウツーが足を横薙ぎに振るうといとも簡単に吹き飛ばされて地面を転がる。
「やらせないッ!」
ヒマワリが咆哮し、カイリキーがミュウツーに襲いかかる。だがその体は空中で急停止、ミュウツーが拳を振るうと勢いよく吹っ飛んだカイリキーが壁にクレーターを作る。続いて、ヒマワリのリザードンとピジョット、そしてギャラドスが突撃する。そしてその間にラフレシアが花にエネルギーを溜め、ピクシーが【いやしのはどう】で救助に当たる。だがバッジ8個持ちトレーナーであるヒマワリのベストメンバー3体同時突撃をあろうことか片手でいなし、リザードンは殴り飛ばし、ギャラドスは電撃で倒し、ピジョットをサイコパワーで撃ち落とした。
「撃てェ!!」
ヒマワリの叫びに合わせ、ラフレシアが【ソーラービーム】を放つ。
『脆弱ですよ』
だが、その一撃にさえも動揺しない。ミュウツーは【だいもんじ】をたった1発放った。それは【ソーラービーム】を一瞬にして消し飛ばす。なんとか相殺に持ち込めたものの、一瞬で肉薄したミュウツーに殴られ倒れる。
「ヤケクソだぁ!」
「チクショーー!!」
「ええい、もうどうにでもなるニャー!!」
続いて攻撃したのはロケット団。マタドガスが【ヘドロばくだん】を放つも跳ね返され視界を遮られ、サイコパワーで吹き飛ばされる。続くアーボックがミュウツーの腕に噛みつき、ニャースが爪で引っ掻くが悲しい程に無力だ。
『ふんっ』
その声と共に放たれた衝撃波が、両者を引き剥がし壁へと吹っ飛ばす。
「バタフリー!」
スミレの合図で放たれた【はかいこうせん】がミュウツーの額を撃つ。
『何か?』
だが煙が晴れた先にいるミュウツーはまるで無傷、腕を一振りするだけで猛烈な吹雪が吹き荒れ、バタフリーを撃墜する。
「くぅっ……!【こごえるかぜ】!!」
「ラァァァァ!!」
ラプラスが吠え、【こごえるかぜ】を放つ。だがしかし、ミュウツーは腕組みをした状態でバリアを展開してそれを防ぐ。
『隙ですよ』
その声を、ラプラスは背後から聞いた。瞬間、首筋に衝撃が走りラプラスの意識は暗転する。
「凄まじく早い手刀……。目で追えなかったッ」
スミレが、あまりの速さに声を震わせる。
「ディン!」
「ゲゲゲェン!!」
続いて挑むのはフーディンとゲンガー。2体は【シャドーボール】を連打し弾幕を貼る。
『それで、効くとでも?』
だが、ミュウツーには傷ひとつ付けられない。ミュウツーは爆炎の中から悠々と歩いてやってくると一瞬でフーディンの背後に転移、フーディンの背中を蹴り飛ばし地面に吹き飛ばすと、更に転移しゲンガーの懐に入る。
「ゲンガー!」
スミレは指示を出そうと叫ぶが、ミュウツーと戦うにはあまりに判断が遅い。ミュウツーは至近距離で【シャドーボール】を発射、ゲンガーもまた硬い地面に叩き込まれる。
「バウウウウウン!!」
あっさりとやられた仲間達を見たカイリューは躊躇いなく【げきりん】を発動し殴り掛かる。そのパワーは強力で、だがミュウツーの前ではまだ足りない。振り下ろされた剛腕をミュウツーは細腕で簡単に受け止めると、吹雪が吹き荒れた。カイリューの体に霜が降り、翼が凍りつき、カイリューの巨体が簡単に地に伏した。
「フシギバナッッ!【はなびらのまい】!!」
恐怖に目を見開いたスミレがヤケになったかのように叫び、フシギバナによって花弁の嵐が巻き起こされる。
『悪足掻きを……【ふぶき】』
だがしかし、ヤケクソで放った【はなびらのまい】は【ふぶき】によってあっという間に相殺される。そしてフシギバナの目の前には、赤い火の玉。
「それはッ……!」
『【だいもんじ】』
爆炎が大文字を描き、呑まれたフシギバナはたったの一撃で崩れ落ちた。
「フシギダネ、【やどりぎのタネ】!ゼニガメ、【みずでっぽう】!」
最後に挑むのはサトシだ。フシギダネの放つ【やどりぎのタネ】を瞬間移動で躱し、【みずでっぽう】は空を切る。そのまま拳を振るえば、2体は地を転がり動かなくなる。
「ピジョォォォォォ!!」
空中から襲来したピジョンの翼が、ミュウツーの背を打った。だがミュウツーが虫を払うように手を振るえば、それだけで大きく吹き飛ばされて倒れる。
「頑張れケンタロス!」
続いて、突進したケンタロスがパワー勝負に出る。だが、相手はカイリューの【げきりん】による拳を片手で受け止めた相手だ。ケンタロスの突進もまた片手で受け止め、その額に拳を叩きつける。
「ブモ……モォ」
白目を剥いて崩れ落ちるケンタロスの影から躍り出たピカチュウの【10まんボルト】が、ミュウツーの全身を包み込む。
『それで倒せると思っているのですか?』
「勝てなくても戦うんだよ、【かみなり】!」
サトシの言葉で震える両足を踏ん張って、更に電撃の火力を高める。
『逃げない、と。ならばこうです』
ミュウツーが足に軽く力を込めると、放たれたのは【いわなだれ】。降ってきた岩石から逃げ回るピカチュウだが、その隙に近づいたミュウツーに蹴り飛ばされ、瓦礫の中へと姿を消した。
「……ピカチュウッッ!なら頼むぜリザードン、【かえんほうしゃ】!!」
「グオオオオオオ!!」
リザードンが【かえんほうしゃ】を撃ち、ミュウツーはチラリとリザードンの真上を視認、瞬間移動で避ける。
「今だ、【きりさく】!」
『!?』
だが何故か転移先に回り込んでいたリザードンが、輝く爪を振り下ろす。ミュウツーはそれを片腕で受け止めるが、その表情には疑問がうかぶ。
『なぜ私の位置がッ……!?』
「言うわけ無いだろッ!?【かえんほうしゃ】!」
『驚かされましたが、ここまでです!』
リザードンの【かえんほうしゃ】をバリアで防ぐと、片腕を突き出し激しい水流を放つ。【ハイドロポンプ】だ。リザードンは【ハイドロポンプ】に呑み込まれ、そのまま壁に叩きつけられる。
『私達を倒す策も使えず壊滅……。まぁ、出来たとして倒せたかは甚だ疑問ですが。とはいえ、あまりに惨めですね、人間』
ミュウツーは立ち竦むトレーナー達を視認し、腕を振り上げる。
「あれは……」
スミレが、呆然と呟く。ミュウツーの掌からは、巨大なエネルギー弾が生成されていた。
「あちゃー。死んだかな、これ」
ヒマワリがヤケになったように呑気な声を上げた。
「逃げ場はないね、消し炭一択だ」
シゲルが悔しさを噛み締めながらも笑みを溢す。
「どうせ誰かが助けてくれる訳でもないんだし、潔く死ぬしかない」
スミレは、全てを諦め座り込む。
「「「やな感じー」」」
ロケット団は、揃いも揃って震えていた。
「まだだ!!まだ終わってない、諦めちゃ駄目だ!!!!」
でもサトシはまだ、諦めない。まだ助かる道はある筈だと虚勢を張って、竦む足に力を入れてミュウツーへと対峙する。
『貴方が1番の馬鹿ですよ、帽子の少年よ。……死になさい。【はどうだん】』
ミュウツーの腕が、無慈悲に振り下ろされる。落ちてくるのは、星のように明るい死の光。フロア全てを消し飛ばす、回避不能の一撃。ヒマワリは悲しげに笑い、シゲルは悔しげに目を閉じ、スミレは虚無の表情で光を見つめ、ロケット団はせめて最期はと抱き合い、サトシはそれでも絶対的な死に向かって立ちはだかる。
「【ソーラービーム】」
だがそれを、一条の流星が貫いた。緑色の閃光が迸り、【はどうだん】を貫き自壊させる。激しい爆発がフロアを襲い、だがスミレ達の居る場所は緑色のバリアによって保護されている。
(ああ…………貴女は)
スミレの鼻をくすぐったのは、泣きたくなるほど優しい、花の香り。
「少しばかり危ないところでしたが、なんとか間に合いましたね」
美しい声音が耳を震わせ、スミレは目尻に涙を浮かべて弱々しく笑った。
(私を救けに、きてくれるんだ…………)
戦場には場違いな振袖を纏い、優雅に立つその姿はまさにその人だ。
「遅くなりましたが、救けにきましたよ。……スミレさん」
その少女、エリカは。いつものように優しく、微笑んだ。