ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ミュウツーと相対したランスは、スミレらに視線を送ると口を開いた。
「ムサシ、コジロウ」
「「はっ!!」」
ムサシとコジロウは、上官から声を掛けられ姿勢を正す。
「これよりお前達は、そこの4人と負傷したジムリーダーを連れ、上層へと向かいなさい。ここは私が引き受けます」
「「はっ!!」」
「ランス」
了承で返した2人に対して、スミレが懐疑的な視線を向ける。
「なんでしょう?お前がいたところで戦力にならないのですが」
「……子供を舐めて返り討ちにあった貴方に、任せられると?」
スミレの言葉には、強い不信感があった。その反応にランスは、小さく笑みを漏らす。
「貴方は大変お馬鹿だ、サカキ様ほどのお方が幹部に選んだのがこの私である。……あれと同等以上の失態は2度とせん。貴女方はここでのんびりと観戦している暇があるのなら、上層に向かったクローンの迎撃でもして来なさい」
「…………分かった、今は貴方の意見が正しい」
スミレは苦虫を口いっぱいに入れて噛み潰した、というレベルで嫌そうな表情をしながらも頷いた。
「流石、私を倒した小娘ですよ。……行きなさい」
「うん。……貴女はいずれ私がちゃんと倒す。だから、アイツに殺されたら許さない」
「ふふっ……、その日を楽しみに待ってますよ」
すれ違いにそんな言葉を交わし、エリカを背負ったコジロウを先頭にしてスミレ達は走り出す。
『逃しませんよッ!』
それを見咎めたミュウツーが掌を向けて【はどうだん】を発射。だがそれは、ランスのゴルバットが放った【エアスラッシュ】によって防がれる。
「言いませんでしたか?……第2ラウンド、と」
ランスは笑みを浮かべ、ミュウツーは不快そうに眉を顰めた。
◾️◾️◾️◾️
大広間のミュウツー1号機は、下からやってくるクローンの気配、解放されたポケモン達の気配、戦う妹の気配を感じながら1人佇んでいた。
(あのエリカというジムリーダーは脱落か。あそこまで粘るとは想定外だったが、所詮は我らの敵ではない)
「ほう、ミュウツー。それも貴様は1号機だな?」
(ああ、そうだ……。この男は、倒さねばならんのだ)
背後から届く声に、ミュウツーの胸に憎しみの炎が燃え盛る。
『サカキ、といったな。……たった1匹奪われなかった程度で良くそれだけ粋がるものだ』
「ふっ、たとえ1匹でも、貴様と戦わぬ理由にはなるまい。格上への挑戦とは男として心が踊るのだ、模造品の貴様には分からんだろうがな」
ミュウツーは背中越しにサカキを煽るが、サカキの返答に眉を顰める。
『……挑戦?私が行うのは逆襲だ、貴様など蹂躙するまでだ』
「ほう?確かに私は、2種の手持ち、計12体のうち1体しか手持ちに残っていない。だがその1体は、貴様に挑むに相応しい、我が最強の手持ちである。そう簡単に、崩せると思うなよ?」
『ならば、出してみるが良い。その最強とやらを。……私は妹よりも強いぞ』
ミュウツーは振り返ってサカキと向き合い、両腕を組む。
「結構、強い敵ほど挑み甲斐があるというものだ。……ゆけ、サイドン!!」
「ドォォン!!!!」
サカキは強気に笑い、ボールを放る。そのボールから飛び出したポケモンは、サイドン。スミレ相手に出したサイドンと同種であるが、力の差は天と地ほどに差がある。
『なるほど。……捉え損ねた時点で察していたが、それなりに強いな。虚勢を張れる程度はあるらしい』
「その余裕、続いていることを願おうか!……サイドン、【じしん】」
サイドンが地面を殴りつけるその瞬間、ミュウツーは上空へと転移した。無人の床を、激しい地震が駆け巡る。
『【みずのはどう】』
ミュウツーの掌から放たれた【みずのはどう】が頭に着弾し、サイドンの巨体がよろめく。だがその大きな足を踏ん張り、反撃の【はかいこうせん】を放った。橙色の閃光が空を裂き、対するミュウツーはバリアを貼ってこれを防ぐ。強力な光線を受けたバリアが軋み、火花を散らす。
「行け、サイドン」
その指示で、サイドンは巨体を揺らし突撃する。大型ポケモンは相応に走るスピードが遅いものだが、サイドンは大きな足に力を込めて前方へと跳躍、ツノにエネルギーを纏わせる。
『チッ……!』
ミュウツーが舌打ちをして脇に避けると、サイドンの巨体がまるで大型トラックのような速度と重さで突っ込んだ。突撃を受けた広間の壁は一撃で砕かれ、瓦礫が飛散する。
「回せ」
その指示でサイドンは体を左右に揺らす。すると、サイドンの尻尾が豪速で振るわれ、ミュウツーはそれを屈むことで回避し、【みずのはどう】を体に叩き込む。だがサイドンはそれを受けて尚屈しない。【ストーンエッジ】で岩石の礫を飛ばし、返す一撃はミュウツーに命中し爆発を起こした。
「グァァァァァァァ!!!!」
サイドンが力強く吠え、尻尾を横薙ぎに振るう。
『ふん、無駄な足掻きを』
ミュウツーは吐き捨て、両腕でサイドンの尻尾を受け止める。そしてそのまま振り回そうと力を込めた。
「…………触れたな?」
その光景を見たサカキが、笑う。
『……!?』
嫌な予感を感じ、手放そうとするも既に技は発動されていた。
「【じしん】」
通常、サイドンは腕で地面を殴りつけることで【じしん】を引き起こす。ならばそれを尻尾で行うとどうなるか、正解はこれだ。
『クッ!!』
ミュウツーの全身を激しい振動が襲った。技を受けながらも流石の反応速度で距離を取るが、ミュウツーの全身には細かい傷が出来ている。
「……そこらのポケモンなら瞬殺なのだが。流石に強いな」
サカキは、冷や汗を掻きながらも笑う。サイドンを見れば、既に深いダメージを受けている。
『ふんっ……!』
ミュウツーは不機嫌な様子で【じこさいせい】を発動し、体力を回復させてしまった。
「チッ……。まぁいいだろう、やれるだけやるだけだ」
追撃をしようとミュウツーは高速で飛来、咄嗟に反応して向けたサイドンのツノとミュウツーの拳が激突し、衝撃波が広がった。
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ミュウツー2号機の放つ【はどうだん】が、虚しく空を切る。その隙に放たれた【エアスラッシュ】を腕で弾き飛ばすが、反撃の一撃を放つ頃には既にそこにゴルバットの姿はない。それを隙とみたのか、全方位からはゴルバットが凄まじい速度で殺到した。
『はぁ!!』
ミュウツーは全身を回転させ、衝撃波を放つ。すると何十体ものゴルバットが霧散するも、本体を捉えた手応えは感じられず眉を顰める。
「どうです?やり辛いでしょう?」
そう言って笑うランスに同意するのは実に癪な話だが、ミュウツーはやり辛さを感じざるを得ない状況だった。戦力差でいえば、先程よりもずっと楽だ。エリカのポケモンと同じくらいの強さだが、こちらはゴルバット1体しか使えない状況、瞬殺できて然るべきだった。だが、捉えられない。
『無駄な足掻きを……』
「その無駄な足掻きを捉えられない貴女は一体なんなのでしょうねぇ?ゴルバット、まだまだ続けなさい」
ランスの指示で、ゴルバットは再び分身を生みながら高速で飛び回る。ゴルバットが行っているのは、【かげぶんしん】と【こうそくいどう】の合わせ技だ。限界まで分身を生み出しながら、自身のスピードを上昇させて相手を翻弄する、それこそがランスによる対ミュウツー戦術だ。攻撃しても分身ばかり、そして限界まで積まれたその速度は、ミュウツーといえど本腰を入れねば捉えきれない。そして足止めとして放たれるのが【エアスラッシュ】だ。相手を怯ませる効果を持つ【エアスラッシュ】が逃げる合間を縫って降り注ぎ、更には最後のひと枠に【どくどく】を搭載している。完全に、毒殺スタイルである。故に、ミュウツーは苛立っていた。全身を蝕む猛毒の痛み、偶に飛んでくる、妙に正確な【エアスラッシュ】捉えられないゴルバット。
『卑劣な男ですね、貴様は』
「ロケット団の幹部たるこの私には、素晴らしい褒め言葉ですよ」
(……とはいえ、こうして逃げていられるのにも限界がありますね。奴が早く来れば良いのですが)
『卑劣な輩には、卑劣をもって返しましょう』
「……!」
その言葉に嫌な予感を感じ取ったランスが慌てて飛び退くと、元いた場所に【はどうだん】が撃ち込まれた。
『ポケモンを撃ち落とすより、人間を撃ち落とす方が楽そうですね』
「クククッ、随分と兵器らしい思考ですねミュウツー。……ゴルバット!!」
ランスの指示に、空を舞っていた無数のゴルバットが凄まじい速度で急降下を始める。ミュウツーが腕を横薙ぎに振えば、衝撃波が放たれ数体が霧散、しかし取りこぼした分が降ってくる。
『【はどうだん】』
そんなゴルバット相手に選んだのは、【はどうだん】の連射だ。両手の掌を空へと翳し、小型の【はどうだん】を機関銃の如く発射する。
「……ここまでか。ゴルバット、【エアスラッシュ】!!」
後の展開を悟ったランスは、ひとまずの指示を出す。ゴルバットの群れが翼をはためかせ、だがその中の1体から【エアスラッシュ】が放たれた。それは【はどうだん】の弾丸を幾つも巻き込んで爆発を起こし、爆炎に包まれる。
『来ますか!……ならばッ!』
爆煙の中から飛び出したのは、1体のゴルバットのみ。傷つきながらもミュウツーを見据えて、一直線に急降下。
「【エアスラッシュ】、地面にです!」
その指示を受けたゴルバットはミュウツーに迫ろうという瞬間に【エアスラッシュ】を発動、地面を抉り土煙が上がる。
『……これは!?』
ミュウツーは目眩しの煙を吹き飛ばそうとエネルギーを込めるが、その全身を【エアスラッシュ】が打ちのめす。ゴルバットがやっていることは、単純な話だ。極限まで上げたスピードで全方位を駆け回りながら、【エアスラッシュ】を撃ち続けるだけ。全方位からの一斉攻撃にも錯覚できるが、それは単純にゴルバットのスピードによるものである。ミュウツーは毒を受けていることもあり、反応がやや鈍くなっている以上、そのスピードへの対応に苦戦していた。
「これでどうだッッ……!」
ランスは祈るように目を細め、土煙の中を見つめる。だがそれを吹き飛ばして、ミュウツーは再び立ち上がる。全身に満ちるエネルギーが、その体力を回復させていた。そしてその腕には、逃げ出そうともがくゴルバットを掴んでいる。
『随分と厄介でしたが、ここまでです』
そう告げて捕まえたゴルバットの胴体に拳を叩き込めば、その一撃は急所を打ち、ゴルバットは白目を剥いて気絶した。
「……ふっ」
だがそれを見たランスは、冷や汗を流しながらも笑った。ゴルバットをボールにも出し、立ち上がったままに迫る脅威を見つめる。
『逃げないのですか?』
「……必要はありません、ジムリーダーエリカ程ではありませんが最低限の消耗はさせられましたし。それに、認めるのは死ぬ程癪に触りますが、お陰様で貴女を倒しうるトレーナーが辿り着きましたからね」
「そういうことだ。……待たせたな」
聞こえた声にミュウツーは、視線を鋭くさせる。
『カントーチャンピオン、ワタル……』
トレードマークであるマントを翻し、カントー最強の男が遂に辿り着いたのだ。その背後には、彼の相棒であるカイリューが立っている。
「ランス、ご苦労だったな。だがお前は上層に行っておけ。ここに居ても巻き添えになるぞ」
「ふんっ……、言われずともそうしますよ。私は貴様ではなくサカキ様に仕える身なのだから」
ランスは不機嫌に鼻を鳴らしワタルを睨みつけると、ゴルバットをボールに戻し歩き出す。
『逃すと思いますか!?』
ミュウツーは去ろうとするランスへ向けて、【はどうだん】を放つ。だがその一撃は、横から放たれた【りゅうのはどう】によって撃ち落とされる。
「……さあ行くぞ、カイリュー」
ワタルが呼びかけ、カイリューは戦意を滾らせる。その瞬間のことである。ぞわり、とした緊張感がミュウツーを襲った。それはまさしく、強者の気配。目の前に立つカイリューがそれまで倒したエリカやランスを更に越える戦闘力であることを、ミュウツーは直感で理解した。
『いいでしょう、アレは見逃すこととします。……ですが貴様は、ここで倒して行きますよ?』
「それはこちらの台詞だミュウツーよ。俺にはチャンピオンとしての責務がある、手加減無しで行くぞ!!」
そう叫んだ瞬間、ミュウツーは全力で拳を振るっていた。それは、空中で一瞬の間に迫ってきていたカイリューの拳と激突、衝撃波が吹き荒れた。
◾️◾️◾️◾️
階段を登っていたスミレ達は、その光景を見て絶句した。ミュウツーは居る、そしてサカキを始めとするロケット団やスミレの仲間達も立っていた、視線の先にあったのは、ポケモンとポケモンの殺し合い。クローンとオリジナルの、戦いの光景だった。
終わりが近づいてきましたね