ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第140話『ミュウツーの逆襲』㉚: 止まらない、止まれない

 サイドンが重い体を揺らして突進し、それをひらりと舞うように躱したミュウツーは【みずのはどう】を放つ。背中で爆発したそれはサイドンの巨体を大きくよろめかせた。

『確かに貴様は強い。パワーなら私と殴り合うことが出来るし、耐久力は私によって効果抜群の技を幾度となく受けても立ち上がれる程。だが貴様には、決定的に足りないものがある』

「……【はかいこうせん】!!」

【はかいこうせん】が放たれ、ミュウツーは全身にバリアを貼るも砕かれ、吹き飛ばされる。だが壁に叩きつけられる寸前で体勢を持ち直すと、エネルギーを貯めてその場から消滅する。

『そうだ。貴様のサイドンには決定的に、速さが足りない。……ぬぅああああ!!』

ミュウツーは【テレポート】で一瞬にしてサイドンの懐に潜り込むと、全力の拳を鳩尾にめり込ませ、サイドンは崩れ落ち膝をついた。

「貴様……。2号機よりも強いな?」

サカキが妙に機嫌の良い様子で尋ねると、ミュウツーは頷いた。

『その通り。貴様が調整と称して行わせたバトルの経験は、私に妹を超える力を与えた。そしてヒマワリの手腕により、私の体調は貴様の手を離れて尚正常に保たれている。つまり私は、たとえ貴様らが妹を御しきれたとしても勝てぬ存在なのだ』

内容に反し淡々とした調子で語るミュウツーに、サカキは黙ってタバコを咥えて火をつける。

「……だとしても、反逆者は処断する。貴様とあのヒマワリという小娘には散々部下をやられた。その落とし前はつけさせてもらうぞ。それに、到底敵わぬ格上に立ち向かうのは男の浪漫だ、逃げるなど格好がつかんではないか。さあ、まだ立てるのだろう?サイドン」

「ドォォォォォォン……!」

サカキがそう言ってミュウツーを睨みつけると、同時にサイドンがゆっくり立ち上がり、唸り声をあげる。

『厄介な……。5は攻撃をぶつけたというのに。まだ立つか。なんという頑丈さだ』

ミュウツーは、呆れた様子でため息を吐いた。

「ああ、立つとも。我らロケット団を舐めるなよ?」

 

『【サイコショック】』

「【ストーンエッジ】!!」

そして両者は、再び激突した。空中で激しい爆発が起こり、衝撃波が放たれる。ミュウツーは技の激突の結果を確かめることもなく飛び上がると、地上を【じしん】が襲った。

『人間の奴隷風情がよく耐える』

「馬鹿め、ポケモンの能力は立場によって決まるものではない。それは、人間によって造られたポケモンである貴様に最も当て嵌まるのではないのかね?」

『黙れ!!……どの道貴様は、全力をあと一撃叩き込みさえすれば倒せるのだ、生意気を抜かすな!!!!』

ミュウツーの全身から溢れたサイコパワーが爆発し、サイドンの巨体が浮き上がる。

「ドォ!?」

サイドンは、巨体故の初めての経験に戸惑い、空中で逃げ出そうともがくが、サイコパワーは途切れない。そしてミュウツーは、掌に大きなエネルギー弾を生成した。

『これで終わりだ……。【サイコブレイク】!!』

サイコパワーの塊に呑まれたサイドンが、地面を抉りながら吹き飛ばされると、頭から壁に突っ込んだ。城壁を破壊し、そのまま倒れて動かなくなったサイドンを回収する。

 

 

戦いの最中に移動をしていた、クローンと解放されたポケモン達、そしてロケット団を含めたトレーナーたちが広間に集結した。

 

◾️◾️◾️◾️

 スミレらがその場に到着した時、戦いは既に終わり、そして始まっていた。

「サトシ……!それは、エリカさんか?」

駆け寄ってきたタケシに、サトシは再会を喜ぶ間もなく頷く。

「ああ。ヒマワリとムサシが応急処置をしたし、着物の下に強化スーツを着てたからなんとか無事だ。でも、頭を強く打ってる!」

「分かった、取り敢えずは側で守りつつ静観だな」

タケシの結論にサトシは頷き同意した。そんなタケシの様子からサトシを見つけたカスミがサトシ達のいる場所に向かって駆け寄る。

「サトシ……!無事だったのね!!」

「カスミも、無事で良かった」

「うん。でも今の状況は良くないわ。……私達が着いた頃にロケット団のサカキが負けた。そしてクローンが到着して、私達のポケモンと戦い始めてる」

カスミの報告で辺りを見れば、そこは戦場と化していた。同種のポケモン同士、または異種のポケモン同士が、クローンポケモンとオリジナルのポケモン側に分かれて戦っていたのである。

「……そっか」

サトシは、苦しげな表情で戦場を見つめていた。

「ねぇ、カスミ。……もしかして、外から援軍が来た?あのクローンと戦っているポケモンを見れば、私達4人の計24体が抜けた穴を埋めてるポケモンがいるんだけど」

スミレが横から尋ねると、今度はタケシが口を開く。

「ああ、どうやら地上の戦線にジョウトのジムリーダー達が到着したらしい。既に戦線は広がっている。それから増援だが、こちらはグレンジムのカツラさんとクチバジムのマチスさんが参戦してる。ただ……」

そう言って視線を向けた先では、マチスとカツラがクローン相手に優勢に戦いを進めているのが確認できる。だが、別の方向を見れば、サナダとキョウがミュウツー相手に苦戦している姿が見えた。

「サナダさんとキョウさんでも、勝てない……!」

スミレは、表情を歪めて唇を噛んだ。2号機のミュウツーと比べて1号機のミュウツーの方が強い、というのはレベルが違い過ぎても分かった。それを相手に戦闘が成り立っているサナダとキョウの強さも分かった。今はサナダのストライクとキョウのクロバットが猛攻を加え、ミュウツーはそれを全力で迎え撃ち、目にも止まらぬ速度で空中戦を繰り広げている。

「ああ、それぞれ相棒以外をクローン戦に向かわせているから2対1以上の数で押せない状況だが、それにしてもミュウツーは強すぎる。俺達では手も足も出ないぞ」

タケシは、ハッキリと言うが2号機とはいえミュウツーと戦ったスミレ達には痛いほどによく分かっていた。あれはそもそも、手加減したミュウツー相手でもバトルとして成立してすらいなかった。

「タケシさんは、ジム用の強いポケモンは?」

「済まない、俺はカントー最弱でな。ジムバッジ1個目専用なんだ」

ヒマワリが尋ねるとタケシは申し訳なさそうに返し、スミレは知ってたと言う風に頷く。タケシという男は、本人こそ家系で決まったと思っているのだが、本当はその人格と後輩に対する面倒見の良さ、そしてポケモンに対する知識を買われての採用である。何個目専用、というシステムを採るジムというのはカントーを探せば幾らでも居るものだが、サカキすらも潜り込んで地獄と化しているカントーリーグに人格で採用されるのは中々無いし、新人トレーナーが最も折れやすいともいえる1個目を専門に任されている時点でただ者ではないのだが、兎に角戦力が必要な現状ではタケシの戦闘力ではあの間に割って入ることは出来ない。

「……かといって私達が全員で掛かっても手も足も出ずに蹂躙されるのがオチだよね」

スミレが悔しげに呟くと、6個のボールを構える。

「やろう。ひとまず、ボクらのポケモンを、対クローンに回す。そうすれば、こちら側は数の面で大きな有利を取れる」

シゲルが作戦を立案すると、納得した全員がボールを投げた。一斉に飛び出したポケモン達は、真っ直ぐにクローンへと突撃し、クローンポケモン達と戦う他のポケモン達に、加勢を始めた。突然大勢のポケモン達が戦線に加わり、クローンポケモン達に戸惑いが広がる。援軍の手持ちも含めれば、ポケモンの数ではこちら側が上回った。

『ふん、馬鹿め。……来い』

だがそれを見てもミュウツーは冷静さを崩さない。ストライクとクロバットをサイコパワーの爆発で吹き飛ばすと、そう指示を飛ばす。すると何処からか、30体以上のポケモン達がその姿を現した。

 

「……ミュウツー!!」

その姿を見たヒマワリが、ミュウツーの側に駆け寄った。それを見たミュウツーは眉を顰めながら【ふぶき】を放ちクロバットを上空から地面に叩きつけた後で踏みつけて戦闘不能にさせ、【ふぶき】による牽制を受けて数歩下がっていたストライクに吹雪を切り裂いて接近すると、【ほのおのパンチ】で顎を撃ち抜き、至近距離で【だいもんじ】をぶつけて吹き飛ばした。そして、声を掛けたヒマワリへと視線を向ける。

『今更何のようだ、ヒマワリ。お前はもう、人間と共に生きると決めたのだろう?』

「……うん、でもそれはわたしがわたしのやったことにケジメを付けてから。わたしは、貴方がシオンタウンを襲撃したのを知っていながら貴方の逆襲に手を貸した。それは、テロリストへの協力になると思うから相当な重罪になると思う」

『ならば、何故人間に降伏した?私と共に戦えば、罪もなくお前のやったことは正義となるだろう。何故お前は、私を捨ててまで罪人となる道を選ぶ?』

「……わたしが間違っていたから。わたしは勝手に世界へ絶望して貴方に人生を委ねた。悪いことに手を貸した。……でもそれは、考えなしなことだった。貴方と出会えたこと、話したことが悪いことだったとは思えないけど、それでもわたしはやり方を間違えた。それに気付いたから、わたしはこうして貴方に止まってもらいたくてここに来たの」

『間違っていた?それは人間の理屈の中での話だろう。何故人間社会の理屈に囚われねばならん?』

「……そうだね、貴方が従う道理はないのかもしれない。でもやっぱり、誰かが平和に生きる世界を壊しちゃいけないんだ。血に濡れて創った世界は何処かでまた血を流すことになる」

『それは綺麗事だ。世界が真に平和になることはない、虚構の平和は必ず崩れ去る。命を弄んだ人間が、私に逆襲を起こされたようにな』

「そうだね、人間はそういうものだよ。綺麗事は言っても、それは否定できないことだから。……でも、貴方が逆襲を成功させたとして、それが新たな逆襲を生むんだ。その怒りを押さえろ、とか貴方だけが我慢しろって言ってる訳じゃないよ。ただ、向ける相手は選んで欲しい」

ヒマワリの言葉に、ミュウツーは目を見開いた。

『……全て止めろ、とは言わんのだな』

「少なくともロケット団は、やったことがやったことだからね。わたしがどうこう言う筋合いはない。……けれどわたしと貴方は、シオンタウンの人たちに恨まれて殺されても文句を言えない立場だよ。貴方から見たロケット団と、あの町の人から見たわたしや貴方は同じだから」

ミュウツーは静かに目を閉じて考える素振りを見せた。ヒマワリの言葉に何かしら思う所があったのだろう。だが、目を開いたミュウツーは掌をヒマワリに向け、【はどうだん】を生成する。

『これが私の答えだ、ヒマワリ』

「そっか。……貴方の怒りは、わたしに止められないんだね」

ヒマワリが、困ったように眉を下げる。

『そうだ。私は私が生まれた理由を知るその日まで、止まるつもりはない。怒りを胸に、ただ突き進むだけだ。…………たとえここで、お前を殺してでもな』

「やりなよ。それで気が済むのなら」

ヒマワリの返答にミュウツーは、目を細めた。ヒマワリのリザードンがクローンリザードンを振り払い突っ込むがミュウツーが軽く片手を振えば簡単に地面へと叩きつけられる。そして生成された【はどうだん】が発射された。それは、確実にヒマワリを殺す一撃、キョウやサナダが割って入ろうと走るが、凄まじい速度で放たれたその攻撃に対しては全くの無意味だ。スミレ達では、反応すらも出来ない。

 

「ミュウ?」

ヒマワリの耳元に、そんな声が聞こえた。その瞬間、ヒマワリの前面に展開されたバリアが、攻撃を防いだ。

『なんだ……!?』

ミュウツーが、その異様な気配に目を見開く。それはまるで、自分自身を見ているような感覚で、ミュウツーはヒマワリの目の前に浮かぶ小さなポケモンの姿に、全身の細胞がざわめいているように錯覚する。

「ミュウ!」

 

「もしやあれが……幻のポケモン、ミュウか!」

クローンゴローニャに生身で掴みかかっていたオーキドが、その正体を看破する。小さな、まるでマスコットキャラクターのようなポケモン。だがそれがミュウであるのなら。

『あれが私の、オリジナル!!』

ミュウツーは全身を襲う衝動に身を任せて、エネルギーを解き放った。

 

 





ミュウvs1号機、ワタルvs2号機。人外頂上決戦、開幕

元々、結構長くなる想定だったんですけど、にしても結構な長さですよね。そろそろ終わりますけど
主人公を噛ませにした人外決戦、二次創作でも割と珍しいタイプなのでは……?って感じあります
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