ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第141話『ミュウツーの逆襲』㉛: 決戦

 ワタルのカイリューがその剛腕を横薙ぎに振るい、ミュウツー2号機は慌てて頭を下げてそれを躱した。

『はぁ!!』

ミュウツーが膝蹴りを放つとそれを腹に受けたカイリューは一歩下がる。

「【りゅうのはどう】!」

だが、ワタルの指示で下がりながらカイリューは技を放ち、ミュウツーはそれをまともに食らって壁に叩きつけられる。

『ぐぅ……!』

ミュウツーの体は、エリカとランスの奮戦による消耗と猛毒に犯されたことで、弱体化していた。

「行け、カイリュー!!」

ワタルが叫ぶとカイリューは翼で地上スレスレを滑空し、ミュウツーに迫る。だが、ただ飛び込むだけでない。空中で全身を回転させれば、凄まじい火力の【ぼうふう】が巻き起こされ、竜巻の如く回転する暴風が、ミュウツーごと壁を叩き、まるでクッキーのように粉砕する。

『くっ……、これは!』

「突っ込めカイリュー!!」

壁を砕きながら吹き飛ばされるミュウツーだが、ワタルは手を緩めない。カイリューは小さな翼を力強く羽ばたかせて飛翔すると、瞬きの間にはミュウツーの目の前に拳を構えた姿で追いついた。

「バウゥゥゥ!!……!?」

だが、素直にやられてやるミュウツーではない。カイリューの腕を掴み空中で回転すると、地面に叩きつける。地面に勢いよく叩きつけられたカイリューは、息の詰まる感覚に意識が飛びそうになる。

『これで……!?』

だが意識を持ち直したカイリューが今度は叩きつける際に掴んだ手を力強く握りしめ、体を半回転させるとすぐ横の地面に叩きつけた。その衝撃で両者の手と手が離れ、距離を置いて睨み合う。

「バウゥゥゥ!!」

『はぁぁぁ!』

カイリューとミュウツーの拳が、両者の頬に叩き込まれた。クロスカウンターだ。そして一歩下がって同時に突貫、カイリューの拳がミュウツーの顎を打ち上げ、ミュウツーの回し蹴りがカイリューの頬を打ち、カイリューの尻尾がミュウツーを吹き飛ばし、ミュウツーのサイコパワーが追撃しようと飛び掛かったカイリューの体を瓦礫の山に埋める。

「カイリュー、【りゅうのはどう】!」

『【サイコショック】』

立ち上がったカイリューとミュウツーは同時に技を発動、【りゅうのはどう】と【サイコショック】の激突で爆発が起き、爆煙が流れる。その瞬間、ミュウツーは狙うべき標的を変更した。ワタルを狙い【はどうだん】を生成、しかもカイリューへの完成用を空いた左手で生成し、同時に放った。放たれたエネルギー弾は爆煙を切り裂いてカイリューとワタル、その両方へと飛来する。

「気にするな、弾け!!」

ワタルは堂々とそう言い、カイリューは困った様子で頷いた。

《何をする気ですか……?》

ミュウツーは、ワタルの指示に眉を顰めた。カイリューはワタルを守ろうとせず、【はどうだん】をエネルギーを纏った拳で弾き飛ばす。

「オオオオオオオオオオオ!!!!」

ワタルが拳を構えて咆哮し、【はどうだん】目掛けてなんと右腕で正拳突きを放った。

『何ですって!?』

この行動に、ミュウツーは思わず声を荒げて驚いた。ミュウツーの技を迎え撃ったワタルの右腕は、服はその部分だけ消し飛び、腕からは見るに絶えない程の血が流れ、骨も砕けたのか右腕は力無く垂れ下がっている。だが、ワタルは冷や汗をダラダラと流しながらも笑っている。その姿にミュウツーが動揺で動きを鈍らせた瞬間、横から突っ込んだカイリューが振るったテレフォンパンチでミュウツーは横に吹き飛ばされ、城壁に頭から突っ込んだ。瓦礫に埋もれるミュウツーを、カイリューは警戒した面持ちで睨みつける。相手はミュウツー、確実に戦闘不能になるまで追い込むまでは、安心することはできない。

「……ふぅ、ふぅ。全く、ミュウツーめ、随分な威力だ畜生」

ワタルは右腕を襲う激しい痛みを、冷や汗だけで耐えながらミュウツーが突っ込んだ瓦礫を見据える。

(……対クローンにほかの5体を割いた以上、コイツだけであの理不尽の塊みたいな奴に勝たなきゃってことか。中々にキツイが、やらねばならんな)

衝撃波と共に瓦礫が勢いよく吹き飛び、ミュウツーが姿を現す。

『馬鹿な真似をしますね、腕は使い物にならないでしょうに』

「ふっ、貴様が俺を狙うことなど予測済みだ。……モンスターボールなりを投げるには少しばかり速すぎたがな。とはいえ、拳で迎撃するには十分の間だ。弱点となる俺を倒してカイリューを倒そうという腹積りだろうが、目論見が外れたな。それに、そういうことは辞めておけ。俺を殺すまでの間にカイリューは迫ってくるぞ」

『……なるほど、面倒ですね』

「カイリュー」

会話を切ったワタルの合図で、カイリューが飛び出す。自慢の速度で一瞬にして懐に入ると、拳をミュウツーの腹に捩じ込んだ。

『ぐぅッッ……、はぁぁぁ!!』

だがミュウツーも負けてはいない。返す拳をカイリューの腹に叩き込み、僅かに後退したカイリューに【ふぶき】を浴びせる。カイリューは【ふぶき】によって吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直す。

「迎え撃て、【ぼうふう】!」

対するカイリューは【ぼうふう】が反撃し、竜巻のように唸る一撃がミュウツーの全身を呑み込んだ。

『はぁ!!』

ミュウツーはその攻撃に対して、全身へとバリアを貼ってこれを防いでいる。バリアを暴風が突き破らんと暴れ、バリアが軋む。

「甘い、【れいとうビーム】!!そして突っ込め!!」

だがワタルはそれを見越して指示を出し、【ぼうふう】を耐え凌いだミュウツーは避けきれずに攻撃を受ける。そして、【れいとうビーム】を放ちながら近づいたカイリューのラリアットを受けたミュウツーは、近くの岩盤に叩きつけられクレーターを生む。

『ぐぅっっ!!』

「至近距離からだ、【りゅうのはどう】!!」

『が、ァァァァァ!!』

至近距離で放たれた【りゅうのはどう】がミュウツーの全身を焼き、ミュウツーは絶叫する。

「追撃だっ、【はかいこうせん】!」

『させません!!』

追撃を食らわせようとするカイリューにミュウツーは至近距離から【ふぶき】を発動、大きく吹き飛ばして壁に叩きつけるが、カイリューは傷だらけになりながらも立ち上がる。だがその間にミュウツーは【サイコキネシス】でワタルを拘束するが、横から迫ったカイリューを見て技を解くと距離を取った。

『つ、強い…………!』

ミュウツーは、思わずそう漏らす。ミュウツー2号機は、1号機以上に世界を知らない。試験管の中で、1号機からコピーされた強さがあるだけで、積み上げてきた力がない。その事実は、積み上げてきた人間と戦うことで如実に差として現れる。本来ならば、ミュウツーはここまで苦戦しても長くは続かない。積み上げてきたものが無くても、関係なく勝利できるだけの戦闘力は有している。では何故こうも苦戦するのか。それは、ここまでで消耗していたからである。そもそも、ポケモンの持つエネルギーには限界があり、ミュウツーとて例外ではない。ここまで続くバトルでミュウツーはそれなりに消耗しており、更には猛毒の継続ダメージを受け続けている一方、ワタルはミュウツーとの直接対決を見越してそれまでの城内で起きたバトルでのカイリュー使用を控えていた。そうなれば、災害級に強くとも、ミュウツーによる絶対勝利は揺らぎ始めるのだ。

「……お前は強いよ、ミュウツー。だがお前も生きている以上、生物としての限界は存在するのだ。ミュウツー同士の戦いである程度には消耗した。そしてエリカの覚悟、ランスの戦略、そしてお前に立ち向かった若きトレーナー達の勇気によって削られたお前の今の戦力であれば、俺とカイリューは追い越せる!!カイリュー、【はかいこうせん】!!」

『…………ぐぅッ!!』

サイコパワーを爆発させるミュウツーだが、それを読んで飛び退いたカイリューによって【はかいこうせん】が放たれ、腹部を撃たれたミュウツーが遂に膝をつく。蓄積されたダメージが、遂にミュウツーを追い込んだのである。

「投降しろ、ミュウツー。これ以上の戦いは無益だ。無茶をし過ぎると、死ぬのはお前だ。そして下手に被害が広がるくらいならば、俺はここでお前を殺す」

ワタルが、静かに言った。その言葉に、迷いはない。覚悟くらい、チャンピオンになったその時には決めていたのだから。

『やって……みなさいッッッ!!!!』

ミュウツーが、足元を爆発させて一気に距離を縮める。

「巻き上げろ」

その指示で、カイリューはその場で回転。起こされた【ぼうふう】が、ミュウツーを巻き上げる。天井をひとつぶち破って吹き飛んだ。

『ぐぅッ…………!』

「さあ、終わりだ!!【はかいこうせん】!!!!」

意識を朦朧とさせ、呻くミュウツーに対して、ワタルは最後のゴリ押しを命じた。だが、その指示を待たずにカイリューは飛んでいた。そして既に、エネルギーは粗方貯めている。

《まさか、このカイリュー……!トレーナーの技を予測して、準備をしていたというのですか!?》

ミュウツーは揺れる意識の中で驚愕し、直後に腹を凄まじい衝撃が襲った。

 

◾️◾️◾️◾️

 

「…………やめてくれ」

サトシは、呆然と呟いた。目の前では、愛するポケモン達とそのクローン達が戦っている。だがそれは、もはやポケモンバトルといあるものではない。噛みつき、引っ掻き、叩く。原始的な、野生の殺し合い。戦っているのは一緒なのに、ポケモンバトルをしている時と違って全身を虚しさしか包まない。そして、ミュウツーだ。視線を少し外せば、2つの光の玉が空中を駆け巡り、ぶつかり合っている。ミュウが現れた後、ミュウツーに向けてミュウは何かを話していた。それは、オリジナルはコピーに負けない、というようなオリジナルであることを自負するような内容で。怒ったミュウツーとミュウが、凄まじい衝撃波を撒き散らしながら戦い始めて今に至るのである。

「やめてくれッッ……」

もう、うんざりだった。人が、そしてポケモンが憎み合い殺し合うのは、もう見たくなんてなかった。友達と思っている相手が、悲しい決意を固めてしまう姿なんて見たくなかった。そして何より、止めに入れる強さがない自分が恨めしかった。

「止まらないよ。……恨みや憎しみは、たとえ平気なフリして誤魔化せはしても何処かに残り続けるもの。ただ今は、その恨み全てを燃やしてミュウツー達はここに居る。ミュウツーが答えを見つけない限りは、もう無理だよ」

冷たい声にサトシがハッとして振り返ると、スミレが床に座り込んだまま呟いた。

「アイツらも、生きてるんだ」

返すサトシの呟きに、スミレは訝しげな視線を向けた。

「もうあれは、復讐鬼だよ。生きながら死んでるようなものでしょ。答えが見つかるなんて期待も薄い以上、どうにかして殺すしかない」

「でも、確かに生きてる」

サトシは、スミレの言葉に首を横に振った。

「……楽天家だね」

「でも、生きてるよ。きっとさ」

ヒマワリが、悲しげな表情で言った。

「クローンを命と定義しない論理的根拠をボクは知らないよ、少なくとも今この瞬間はね」

シゲルが言うと、スミレは呆れたように笑った。

「ほんっと、馬鹿だよ。君たち。…………うん、そうだね。あの子たちも、今は確かに生きてる」

その言葉を聞いたサトシは、ふっと笑って立ち上がる。ミュウツーとミュウは、大技を放とうとエネルギーを充填している最中だ。

「みんなごめんな。オレ、アイツに言いたいことがあるんだ。……だからさ、行ってくる」

「……おい!」

シゲルだけが、咄嗟に声を上げた。だが、サトシは超人の身体能力に身を任せて走り出す。スミレもヒマワリもシゲルも、他のトレーナー達も、技を放とうとしていたミュウツーとミュウでさえも、反応が間に合わない。

「やめろォォォォォォォォォォ!!!!!!」

サトシは叫びながら駆け出すと、両者の間に両腕を広げて割って入った。

 

「サトシ!!!!」

カスミの悲鳴が、虚しくその場に木霊し。エネルギー派のぶつかり合いをその中心でまともに受けたサトシは。

 

まるでブロンズ像のようになって、その場に転がった。

 

 

 

 

 

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