ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

143 / 220
終わったー!!


第143話『ミュウツーの逆襲』:エピローグ

 サトシとミュウツーが握手を交わし、戦いが終わった。それを見届けたサカキは黙って立ち上がると、ロケット団に声を掛ける。

「ロケット団よ、聞け。ミュウツーと人間に和解が行われた以上、これ以上の手出しは無粋である。よって我らロケット団は、これより撤退に入る!行け!!」

「「「これにて退散、良い感じ〜!!」」」

「……では失礼」

その言葉にロケット団員達はそれぞれ共に戦った敵に挨拶を飛ばしながら素早く懐から取り出した煙玉を地面に叩きつけ煙幕を張ると、煙が晴れた瞬間には1人残らずすでに何処かへと消え去っていた。

「あの3人にお礼言えなかったなぁ……」

ムサシ、コジロウ、ニャースも居なくなった為、サトシはどこか寂しそうに呟く。今回の戦いでは共闘したので、そのお礼だけでも言いたかったのである。

「ま、何処かで会えるでしょ」

スミレがそう言って笑い、サトシも首肯して笑った。

 

『妹よ、お前はこれからどうする?』

ミュウツー1号機は、2号機に優しく問いかける。1号機の目に映る2号機には、既に戦意も憎悪も残っていなかった。

『……お兄様、私は貴方と共に行きたいです。世界を知り、人間とポケモンを知り、生き方を探す旅に』

『クローン達を放っておけまい。私はまず、安住の地を探すことにするがそれで良いか?』

『ええ。クローンも一緒に、何処までも』

1号機に尋ねられた2号機は笑ってそう返事し、共に立ち上がる。

 

『サトシ、ヒマワリ、スミレ、シゲル』

「ん?ミュウツー?……そっか、行くのか』

『ああ。妹と、それからクローン達を連れて、安住の地を探す。そしてそれが見つかってから、私達は造り物ではなくひとつの命としてこの世界で生きてゆく。……君達には迷惑をかけた。済まない』

「気にしないでくれ。キミ達のこれからの人生に、幸福があらんことを」

シゲルはミュウツーのこれからを祈り、ミュウツーと握手を交わした。

「お互い、頑張ろうね」

スミレの言葉にミュウツーは穏やかに首肯し、こちらも握手を交わす。

「何かあれば頼ってくれよ!」

『ああ、そうさせてもらう。ありがとう』

サトシの善意にミュウツーはそう返し、握手を交わした。

 

「…………いってらっしゃい」

『ああ、また何処かで』

ヒマワリとミュウツーは、しっかりと抱き合った。親愛を溢れんばかりに込めたハグで、その温もりを忘れないように。

 

 

『ああそうだ。……妹よ、そしてオリジナルよ。少しだけ力を貸してくれ』

そう言った1号機に意図を察した2号機は掌から、ミュウは全身からエネルギーを分け与え始めた。3体のエネルギーを合わせれば、ミュウツーのエネルギー量は万全を超える量へと増加する。

 

『私は最強のポケモン、ミュウツー。最強であるならばこのくらいッッ…………、はぁ!!!!!!』

ミュウツーは空高く舞い上がると、全身からエネルギーを放出した。それは空を超え、海の側の港へ。そして遠い町へと降り注ぐ。

 その港は、崩れていた。ロケット団との戦争で多くの人が傷つき、施設も破壊されていた。だがそれが、嘘のように蘇る。倒れていた人やポケモンは立ち上がり、崩れていた建物は直される。そしてそれは、シオンタウンとて同じであった。崩れた建物は修復され、怪我は治り、人々の日常は強者によって引き起こされた必然によって取り戻された。

「全く、流石は最強。ここまでやってのけるとは」

ワタルは、出血の止まった腕を見ながら苦笑する。

「ぅ……げほっ、げほっ!…………これは」

目を覚ましたエリカは、まだ霞むまなこでミュウツーの姿を見て、終戦を察した。

『これで私の用事は済んだ。さあ、行こう』

その言葉で、クローン達が浮き上がる。1号機を先頭に、2号機、そしてそのほかのクローンポケモン達がそれに続いて空へと登ってゆく。

 

「またなーーーー!!!!」

サトシが叫びながら手を振って見送れば、ミュウツーは小さく笑みを浮かべて手を振り返し、そして空の彼方へと消えていった。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 戦いが終われば全て終わり、とはいかない。事後処理というものはあって、ワタルに休みはない。戦争への参加者やミュウツーの根城に乗り込んだトレーナー達にはそれなりの報酬が無ければならないし、少なくともミュウツーに協力したヒマワリには、最低限でも処罰を下さなければ筋が通らない。

「……とはいえなぁ」

ワタルは、疲れた表情で目の前に立つ5人を見る。ヒマワリが一歩前に立ち、その後ろにスミレ、シゲル、サトシ、そしてオーキドが立っている。

「わたしは、どんな処分でも受け入れます」

「そう言うと思ったよ。直したとはいえ、死者が居なかったとはいえ、ミュウツーがシオンタウンを破壊したことを知っていながら協力した罪は重い、のだがなぁ……。見ろよ、これ」

ウンザリとした表情で持ち出したダンボールには、沢山の手紙が収まっている。

「……これは、手紙?」

スミレが訝しむと、ワタルはスミレの推測を首肯した。

「ああ。戦争参加者には、今回の事態に関しては緘口令を敷いた上で公表してるんだが、どいつもこいつも示し合わせた訳でもないのに減刑の嘆願書を送りつけてきやがった。全く、リーグのポストがパンクするっての」

「減刑……?」

ワタルの愚痴にヒマワリは、目を見開く。

「ああ。とはいえ、何も無しは流石にいかん。それは流石に私情の挟みすぎだからな。……処分内容としては、まずセキエイリーグの今大会出場停止」

「出れないんですか……?」

ヒマワリは予想通りなのか悟った表情を浮かべながらも尋ねると、ワタルは真顔で頷いた。

「リーグよりやることがあるからな。リーグの期間を使って、両親とオーキド博士を含めた4人で、戦争参加者全員に頭下げてこい。シオンタウンの人達は何も知らんし、リーグとしても扱いに困る案件だから公にできん。これはリーグ内部と協力者の間にのみ共有される情報だから、参加者のみで良い。……リーグに出る奴も出ない奴もいるが、多くがセキエイ高原に集まるからな。減刑の嘆願書出してくれたからって、その厚意に甘えてはならん。嘆願書の礼と、迷惑をかけた詫びは入れておけ」

「……そうですね。当然のことだと思います」

ワタルが発言の真意を語ればヒマワリは納得したように頷いた。

「物事には順序があるからな。それを済ませずにお楽しみ、とはいかん。……それからオーキド博士や両親にも、軽くではあるが罰が下る。これは保護者としての責任を問われてのことだ。それから、スミレの一件で入っていた行政による指導の期間延長、そして最後に」

「最後に……?」

「これは処分ではないが、行政関係やリーグ関係など公務員の場合に限り、この負の実績は顔を出す。公にはならんが公文書には残されるからな。だから公務員関係の重役への就職は、今後不可能と思え。……以上、これがお前に下すリーグとしての処分の内容だ」

「寛大な処置、ありがとうございます」

ヒマワリはワタルの言い渡した処分に、礼を言って頭を下げる。

「いや、待ってください。一応ミュウツーは、分類すればポケモンのためある程度軽く出来ますが、言語などによる意思疎通が明確に可能とされたポケモンによるテロ行為への協力は重罪とすべきという議論がなされているのでは?……個人の気持ちでは出来るだけ軽い処分で済んでほしいのですが、処分が軽すぎればむしろ問題になってしまうのではないですか?」

しかしシゲルが、純粋な疑問を伝える。ワタルはそれに対して、難しい顔で頷いた。

「確かにそうだ。……だがしかし、リーグはそれどころで無くてな」

「……?」

ワタルはヒマワリの方を向いて頷いた。

「サカキがトキワジムから消えてな。どうやら、ジムリーダーとしてスミレと戦って負けたから、ジムリーダーの地位を捨てるつもりらしい。最後にスミレ、ヒマワリ、シゲルに渡すようにとの書き置きと共に残されたグリーンバッジと、そしてわざマシンである【じしん】。これはサトシの分もあるが、それらが置かれていた。……そして、今は裏どり中だが、リーグ内に忍ばせたスパイの情報まで提供された。後始末中にとんでもない嫌がらせではあるが、今の所裏取りが出来た数人をしょっぴくことに成功したから、その勢いで他のスパイを調査している。しかもあの野郎、マスコミに自分がロケット団のボスだとバラしたおかげでその対応で大惨事なんだ。ハッキリ言ってリーグ周りは地獄の状況、ホウエンのダイゴやシンオウのシロナが援軍を送ってくれて後始末を手伝って貰ってるが、中々終わりそうもない」

「うわぁ……」

サカキからの褒美だか嫌がらせだか分からない情報に、サトシは嫌そうな表情で声を漏らす。人間として成長しても、机上で頭を使うのは相変わらず苦手らしい。だからこそ、後始末の大変さを想像して呻き声を漏らした。だが、頭を使うのが得意なスミレやシゲルでさえも、苦い顔で頭を抱えている。

「それにもうひとつ。……ミュウツーが最後に放った技は、建物の修復に力を注いでいた関係で、人間の治癒は痛み止めや止血、気付け程度の能力だった。それだけでも破格だが、妙な話でな。ポケモンだけでなく銃火器などの兵器を持ち出して戦争を行っていたにも関わらず、両陣営のトレーナーおよびポケモンに一切の死者がいないのだ」

「なんですと!?」

ワタルの報告に、最も驚いたのはオーキドだった。

「そうです。戦争で、しかも最後は港を舞台に真っ向からの地上戦が繰り広げられたと聞いてます。実際に銃の弾丸や大砲の砲弾が見つかっていることからその激しさを察することは可能です。ですが、戦争が始まって終わるその瞬間に至っても、ひとりとして死者が出なかったのです。……まるで初めから誰かに操られているような、デモンストレーションの駒にされているような、そんな戦争だったのです。本当にこの世界は造り物なのか、はたまたそうでないのか、今は専門家による調査を始めました。……リーグ重役や政府関係者にはロケット団の内通者が多いためそちらも俺が指揮を執らねばならず…………」

この世界を、創作物とする説をヒマワリは唱えた。そしてその考えに基づいて、ヒマワリはミュウツーに手を貸した。けれどヒマワリの思想は、案外間違ってないのかもしれない。それが今のワタルの考えだった。ポケモンとポケモンだけでなく人間と人間すらもぶつかった戦争で1人も死者が出ず、死に繋がる重症者も居なかった。その不自然さは、世界への疑問を抱かせるには十分なものである。

「オレたちがどんな世界の人間であっても、オレたちはこの世界に生きてるんだ。……きっと大丈夫、なんとかなるさ」

「ふっ、君らしい馬鹿さ加減だ」

「なんだとぉ!?」

「あはははっ!!」

「ふふふっ……」

サトシは楽観的に笑い、それをシゲルが鼻で笑うとサトシがシゲルにいつものように噛みついて喧嘩を始め、それを見たヒマワリが大声で笑ってスミレはそれを微笑みながら眺めている。昔と似ているけれど、その内実は全く違う。修羅場を潜り抜け、自分の弱さを噛み締め、世界の遠さを知った彼らの心持ちは、少し前とは大違いだ。

「はっはっはっは!」

その光景にワタルは嬉しそうに笑い声をあげると、つい騒いでいた4人なハッとした表情でワタルを見る。場所を考えずに、騒いでしまっていた。

「すみません、つい騒ぎました……」

「ああ、いや大丈夫だ。つい笑ってしまった。……いや、そうだな。サナダさんも言っていた。『造り物の世界であれ、死者の出ない戦争を行うことの全てが、不幸な世界を示すとは限らん』と。まぁつまり、創作物の世界であっても、ハッピーエンドを前提に作られた世界である可能性はあるってことだな。…………根拠に乏しいが、君達を見て確信したよ。今は沢山の人が傷つき、苦しみ、戦っても現状は殆ど変わりはしない。だがこの世界には、まだ希望が残っている。未来はまだ、明るく輝いている。暗い世界に風穴を開ける、そんな勇者がいるならば。俺はまだまだ、頑張れる。……だから、ありがとう」

ワタルは、そう言って笑った。チャンピオンとしてそれなりに世界を見てきて、世界と人間の醜さを目の当たりにし、苦しんだことは一度や二度ではない。それでも、確かに信じられる希望は、目の前にあった。

 

「…………でも、少しは休まないと駄目ですよ」

とはいえ、である。過労は体に毒。スミレから注意を受けたワタルは、再び笑った。

 

◾️◾️◾️◾️

 スミレは1人、草原に立っていた。ヒマワリは事情聴取のため警察に向かい、シゲルとサトシはそれぞれセキエイリーグの為の修行のため、すぐに旅立っていった。そしてスミレもまた、リーグの為に最後の仕上げとなる訓練を行う。スミレの想定では、リーグはサファリゾーン組やニドキングも動員する総力戦。

(……どうやっても悔いが残る。それでも)

ヒマワリの欠場、それは3人にとって悔いとして残るだろう。4人で出場し、直接対決をすること。それが叶わないということは4人の幼馴染の、ひとつの区切りを付けられないということ。

「行こう……」

スミレが呟くと、ボールがカタカタと動くことでそれに応える。

 

ふわり、と風が頬を撫でる。それはまるで、何処へ行くのかと尋ねられてるようで。

「行くよ、ポケモンリーグ。そしてその先に待ってる世界の何処までも……」

柔らかく、背中を押すような風と一緒に、スミレは一歩踏み出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。