ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
サトシの試合が終わると、スミレは移動を始める。試合内容を語り合う観客を他所に、スミレは溜め息を吐く。
(……もうちょっと粘って欲しかった)
サトシが強くなっていることは分かる。フィールド活用術は脅威だとも分かる。だが、それ以上の何かを見たかったのである。サトシは、流れに乗ってしまうと止めるのに苦労するタイプだ。だから先程の試合も、コームはサトシがクラブ対ナッシーで掴んだ流れを切ることが出来ずにそのまま呑まれた。脅威だからこそ、サトシのポケモンに対する対策をしておきたかったが、あのザマでは碌な参考になりやしない。とはいえ、それまでクラブ……キングラーはノーマークだったという事実は分かったので、それはそれでまだ救いはある。
そんな不満を抱えつつシゲルの試合会場へと向かう。第3試合なのでまだ時間はあるかと思いつつ向かうと、リーグ3はまだ1試合目だった。因みに、リーグ8もまだ第1試合が続いている。
(リーグ1はあっさり終わったからなぁ……)
先程の試合を思い返しながら図鑑を取り出すと、リーグ8の様子を見る。リーグ8はそこそこ強い常連から新人まで入り混じったリーグであった。とはいえ上位常連は居ないので、そこは安心できる。
リーグ8の第1試合は、初出場の新人トレーナーを常連が順当に倒して終わった。勝者は、ベテラントレーナーの称号を持つユウジ。本戦出場経験は何度かあるが、最高がベスト16。相棒はイワークで堅実な戦いを好む反面、搦手で崩されてそのまま負けるパターンは多い。とはいえ、この男がリーグ8で特に警戒しなければならない3人のうち1人であることに変わりはない。
(リーグ8で完全な情報アドバンテージがあるな、私)
リーグ8の参加者で、市民のバトル大会などにすら出場経験がないのはスミレだけだった。
(私は手持ちも多いから型を読みづらくして……。バタフリーを暴れさせるのは肝心なタイミングで)
手持ちの最高戦力はフシギバナだが、戦術の要はバタフリーだ。だがバタフリー頼りでは戦術を読まれ、対策されるのがオチである。そのため、スミレは幾つか戦術の手札を作ってきた。ポケモン達も、出しても問題無いくらいには育ててきた。
(これで駄目なら、それまでのこと)
これだけやって駄目なら仕方ない、少なくとも今はそう思いながら、試合の対策を進めていた。
◾️◾️◾️◾️
『さーて、リーグ3の第4試合、シゲル選手対クルマ選手。さあ、解説のジロウさん。この試合はどう見られますか?』
(ん……?あれって確か、タケシさんの弟さんだっけ)
『はい。シゲル選手は初出場、クルマ選手は5度目の出場になります。クルマ選手は前回、予選リーグ決勝戦で惜しくも敗退となりましたが、反面3回戦までを勝ち抜いた実力があります。そして過去にはなんと、ベスト8に輝いた実力者。そんな実力者に対して、未知数のシゲル選手がどう立ち回るのか。そこに注目して見たいと思います』
「よろしくね、シゲルくん。良いバトルにしよう」
「はい。よろしくお願いします」
入場したシゲルとクルマは、そんな言葉を交わす。クルマは、物腰の穏やかな雰囲気を持つ20歳くらいの青年だ。経験をより積んだ相手でも、勝たなければならない。場は氷のフィールド。
「それでは、シゲル選手対クルマ選手のバトルを始めます!使用ポケモンは3体、それでは1体目を!」
審判の言葉で、2人は同時にボールを投げる。
「お願いね、ウインディ」
「行ってこい、ニドクイン!!」
クルマが出したポケモンはウインディ、対するシゲルはニドクイン。
「バトル開始!!」
「ウインディ、【こうそくいどう】!」
「【じしん】!」
「跳んで躱して!」
ウインディは【こうそくいどう】でニドクインの周辺を走り回るが、ニドキングは拳を地に叩きつけて【じしん】を発動、それをウインディは咄嗟に大きく跳躍することで躱す。
「……今だニドクイン!【うちおとす】!!」
そこをニドクインの【うちおとす】が襲撃するがウインディは空中で身を翻して躱し、着地する。
「【かえんほうしゃ】!」
「守らなくて良い、【じしん】だ!」
着地したウインディは【かえんほうしゃ】で攻撃、ニドクインはそれに対して一切の防御を放棄して地面を殴りつける。火炎がニドクインを包み込みダメージを与えるが、ウインディが激しい振動によって吹き飛ばされたことでそれも途絶える。
『す、凄い技の応酬だー!!』
『お互いに相手の行動を読んだからこそのやり取りですね。しかし最後の最後で、一手だけシゲル選手が上回りましたね。じめんタイプの技はほのおタイプに効果抜群、しかも【じしん】は高火力ですから、かなり痛いダメージです』
「……ウインディ、頼めるかい?」
「ガウッ!」
クルマが心配そうな視線を向けるが、ウインディは頼もしげに吠えた。
(……どういうことだ?こういう状況なら、交代がセオリーな筈だけど)
「まぁいい、ネタが割れる前に倒すだけだ!ニドクイン、【じしん】!!」
「【しんそく】!」
ウインディは一瞬で超加速。懐に体当たりをして【じしん】の発動を防ぐ。
「懐に入られたか!でも対応できるさ、ボクのニドクインならねッ……!ニドクイン、【ばかぢから】!!」
「ガァァァ!!!!」
「【しんそく】、避けてくれウインディ!」
ニドクインが力強く咆哮し、その剛腕をやたらに振り回す。それをウインディは【しんそく】による超加速で対処するが、避けきれずに吹き飛んだ。
「今だ!【じしん】!!」
「【きしかいせい】!」
瞬間、ニドクインは宙を舞った。ウインディによる突進が、ニドクインを吹き飛ばしたのである。そのまま地面に叩きつけられ、なんとか立ち上がるがたったの一撃で満身創痍だ。【じしん】が当たったウインディは、そのまま目を回す。
『決まったァァ、【きしかいせい】!自分の体力が少ない状態で放つと威力が上がります!』
『ただ相性が悪い訳ではありません。シゲル選手が、致命的なダメージを与えられるトレーナーだと認めたからこその戦術が、見事に戦況をひっくり返しました。シゲル選手にとっては攻撃中に攻撃という先程使った手で返された形になります。……とはいえ、痛手を与えた代わりにウインディは戦闘不能。残り2体での巻き返しが期待されます』
「ウインディ、戦闘不能!ニドクインの勝ち!!」
歓声が会場を包み込む中、シゲルは苦々しい表情を浮かべる。
「ありがとう、ウインディ」
ウインディを労いボールに戻すクルマを視界の端に入れながら、落ち着きを取り戻すべく深呼吸をする。
「……大丈夫、ボクは勝つ」
ドキドキと高鳴る心臓はそのままに、ニドクインの様子を見る。
(耐えれてあと一撃。最大火力の速攻で、可能な限り落とす)
「次……頼むよ、コラッタ!」
続いてクルマが呼び出したのはコラッタだ。
「(コラッタ……!?確かこの人のコラッタは……)【ばかぢから】!」
「【かたきうち】!!」
凄まじいエネルギーを全身に秘めて突進するラッタを捉えようと両腕を振るうニドクインだが、それはコラッタによって器用にすり抜けられる。そして、腕を素早く駆け上ったコラッタはニドクインの額に体当たりする。その【かたきうち】の一撃を受けたニドクインは、あまりにアッサリと地に沈んだ。
『決まったー!!コラッタの【かたきうち】!!』
『知っていても防げない、あまりに身軽な最終兵器。これこそがクルマ選手が誇る相棒、《バスターラット》の異名を持つコラッタの実力ですね。いやぁ、流石の大火力です』
「ニドクイン、戦闘不能!コラッタの勝ち!!」
審判の宣告を受けたシゲルはニドクインをボールに戻すと、続くボールを投げた。
「行ってこい、パルシェン!」
『続くシゲル選手のポケモンはパルシェンです!』
『ここは氷のフィールド、活かしに来ましたね』
「戻ってくれ、コラッタ。……行け、マルマイン」
『おおっとクルマ選手、コラッタを下げマルマインを呼び出した!』
『冷静ですね、先走れば思わぬ敗北を喫することになりますから』
実況解説を聞き流しながら、シゲルは真剣な目でバトルコートを見つめた。
「さあ行くぞパルシェン、【からをやぶる】!」
「マルマイン、【でんじは】だ」
【でんじは】によってパルシェンは麻痺を受けるが、その前に【からをやぶる】によって攻撃を底上げする。
「【なみのり】!!」
不可避の大波が雪崩れ込み、マルマインを呑み込んだ。
「くっ……、【10まんボルト】!!」
しかしマルマインは大波の中で電撃を放ち、パルシェンは大きなダメージを受ける。
「いいや、大丈夫だ。……【ふぶき】!!!!」
凄まじい勢いで、吹雪が吹き荒れる。【なみのり】によって生み出された水が凍りつき、砕かれ荒れ果てたバトルコートを再び氷で覆いながらも、マルマインを再び呑み込んだ。
「いいや、まだだよ!【チャージビーム】!!」
クルマの言葉に応えるように、一条の電光が迸りパルシェンを撃ち抜いた。
「くっ……!まだ、負けてないぞ!!【つららばり】!!」
しかし攻撃を受けたことで位置を補足すると、頭上から氷柱を落とす。【からをやぶる】で攻撃を上げて防御を下げたことで、パルシェンもマルマインも短時間で大きなダメージを受けている。
「ごめん、マルマイン!!」
マルマインがパルシェンへと飛び掛かると、全身から光を放つ。
「マイーン!!!!」
マルマインが叫びと共に爆発した。【だいばくはつ】、それは自爆と引き換えに相手に大ダメージを与える技だ。しかし煙が晴れたそこに居るパルシェンの全身を、緑色の膜が覆っている。
「マルマイン、戦闘不能!パルシェンの勝ち!!」
審判の判定が下った。
『シゲル選手、読んでいたー!選択は【まもる】、クルマ選手の道連れ作戦を、冷静に読み切った【まもる】で防ぎ切りました!!』
『素晴らしい反応ですねー、とはいえ先程の戦術はクルマ選手がたまに使う戦術ですから、ここまでのバトルで素晴らしい読みを見せてくれたシゲル選手であれば、対策して対応を成功させてもなんら不思議ではありません。しかしここでノーダメージで受け切られたのはクルマ選手にとって相当キツイはず、あの《バスターラット》が残っている以上、安心はできません』
「……とは言われてますけど、その爆発は道連れできなくても良いんですよね?」
「君のような勘の良いトレーナー、僕は好きだよ。さ、出番だコラッタ」
それだけをやり取りし、クルマは最後のポケモン、コラッタを呼び出した。
「勝負は一瞬……やるしかない!」
「さあ、行こう。【かたきうち】!!」
「【ふぶき】!!」
吹き荒れる真白い吹雪の中を、コラッタは駆ける。触れれば凍りつき、ダメージを受けるこの吹雪には、最低限だけ触れるような全速力で走る。ダメージを受けながらもパルシェンの懐に飛びつき、そのまま突っ込んだ。
「パルシェン、戦闘不能!コラッタの勝ち!!」
その判定を受けて、シゲルはパルシェンをボールに戻す。
「次で最後……。対策はしてきた、後は勝つだけ!ゲンガー!!」
シゲルの出した3体目、それはゲンガーだ。
『シゲル選手の3体目はゲンガー!』
『なるほど、ノーマルタイプを無効にして来ましたね』
「ノーマルにゴースト、当然僕も対策してるよ。だから負けない」
「……最初から、そんなこと分かってますよ。ですが、勝たせて貰います」
両者の視線が、重なった。
「コラッタ、【かみくだく】!」
「ゲンガー、【サイコキネシス】!」
「技を砕け!!」
コラッタが歯にエネルギーを纏わせ突進、ゲンガーはそれを【サイコキネシス】で捕まえようとするも、コラッタは的確に全身に纏わりつこうと蠢くオーラを食い破って走り続ける。
「あくタイプの技だからって、こんなことまで……!?」
「さあ、相手の勝ち筋を食い破るんだコラッタ!!」
「【ヘドロばくだん】で食い止めろ!」
「【あなをほる】で逃げるんだ!」
ゲンガーは迎え撃つため【ヘドロばくだん】を投げつけるが、コラッタは地面に穴を掘って潜ることでそれを躱す。
「ゲンガー、【シャドーボール】で地面を崩せ!」
コラッタに当たっても意味がない【シャドーボール】も、こんな所で役に立つ。コラッタが堀った穴の周辺に叩きつけ、地面を崩し始めた。
「コラッタ、飛び出して【ふいうち】」
穴から飛び出したコラッタは迎撃しようとするゲンガーに【ふいうち】を決め、撃ち落とす。そして勢いそのままに、前歯にエネルギーを溜めて飛び掛かった。
「ゲンガー!」
「コラッタ、【かみくだく】!!」
ゲンガーの腕に、コラッタが噛みついた。大きなダメージにゲンガーの表情が苦痛に歪む。
「今だッ……!【しっぺがえし】!!」
対するゲンガーが放った技は【しっぺがえし】。相手の技よりも後出しである場合に威力が2倍になる技だ。そして今は【かみくだく】を先制して受けた直後。威力は2倍になるし、コラッタは避けられない。至近距離からの【しっぺがえし】が叩き込まれ、ゲンガーに噛みついていた体は引き剥がされて宙に浮く。
「コラッタ、しっかりしてくれ!」
クルマが叫ぶが、シゲルは好機を逃さない。
「今だゲンガー、【サイコキネシス】!!」
ゲンガーの全身が怪しく輝くと、コラッタの全身をサイコパワーが捕らえ、身動きを封じている。そしてそのまま空中で振り回して地面に叩きつけた。土煙が上がるとそこには、目を回したコラッタの姿があった。
「コラッタ戦闘不能、ゲンガーの勝ち!よって勝者、シゲル選手!!」
『決まりましたー!シゲル選手が、接戦を制して2回戦へと駒を進めました!!そしてクルマ選手がここで落ちるッ……!個体としての強さから異名を付けられたネームドポケモンはいくらか参加してありますが予選リーグ1回戦、リーグ3の4試合目にして最初の脱落者が出ました!!なんということだ、これは大荒れだ!!』
『まさにジャイアントキリングですよこれは……。まさかあるのか、とは思ったのですが、本当にあの《バスターラット》を倒すとは凄いですね。この試合、ニドクインとパルシェンで他を落として、コラッタ対策のゲンガーに繋げたのが大きかったですね。ゴースト技で切り札の【かたきうち】を封じて、しかもコラッタ最大の弱点である空中戦を選んだ。コラッタもよく粘ったと思いますが、今回は苦手を押し付けられ、しかも味方は自爆したり相性不利に突っ込んだりと自滅していましたからね。結果論ですが、今回はクルマ選手の作戦ミスもあったと思われます』
「まったく、耳が痛いね」
「作戦ミス、と一概に言えないと思いますよ。あの【かたきうち】、まともに受けたらボクの最強のポケモンであるカメックスでも耐えられない。そう判断したから、ボクはあの戦術を採りました」
「だとしても、それに対応してこそ一流のトレーナーだからね。対応できずに負けた時点で、君は僕より強いんだ」
「そう、ですか……?」
「大丈夫、君が勝ったのは奇跡でもなんでもない。だから胸を張って、次の試合に進んでほしい」
「はいっ……!」
シゲルは、年相応の笑顔で頷いた。そして両者は硬く握手を交わすと、同時に背中を向けて退場していった。