ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第146話 スミレ出陣

 リーグ8。その会場で、スミレは試合の様子を見ていた。シゲル対クルマのバトルを見てから向かったが、そこそこに時間は余っている。会場に居るトレーナーの情報は粗方頭に入っており、戦術は構築している。ひとつのリーグにいるのは32人。その中でたった1人が生き残る。

油断はないが、自信はそれなりにあった。

 

『さぁ、続いてがリーグ8、1回戦最終試合!スミレ選手対タナカ選手!!スミレ選手は今回が初出場、対するタナカ選手は2度目の出場となっております!……さて、解説のナツメさん。この試合をどのように見られますか?』

(ナツメ……確かヤマブキジムの)

『ええ。スミレ選手は、私のジムには来なかったから戦闘力は完全な未知数ね。この場に居る時点で最低限の実力は保証されているのだけれど、最低限よりどれだけ強いのかはまだ未知数ね。対してタナカ選手は、前回予選1回戦で負けてる。その経験を上手く活かせるかに掛かっていると思うわ』

(成程……。あの人も多分未成年だけど、かなり分析力ある。ジムリーダーってやっぱり凄いな。私には無理だけど)

スミレはそう考えながら、暗い通路を歩く。遠くに聞こえる歓声と見える光が徐々に近づき、そして遂にはその光の中へと入ってゆく。

 

(ああ、これがポケモンリーグ……)

騒がしくも暖かい歓声が耳を打ち、スミレは高鳴る心臓を深呼吸で落ち着かせる。目の前に立つのは、少し歳上の少年。緊張した面持ちで立っている。コートは草のフィールド。広々とした草原のようなフィールドだ。

「これより、スミレ選手対タナカ選手のバトルを始めます!使用ポケモンは3体、それでは1体目を出してください!」

「頑張れ、ギャロップ!!」

「行って、サイホーン」

タナカが呼び出したのはギャロップ、対するスミレはサイホーンだ。

『1体目はタナカ選手がギャロップ、スミレ選手はサイホーン!この選出如何ですか?』

『そうね。ギャロップを出したのは単純に草のフィールドで相手がくさタイプを出すと思ったんでしょうけど、スミレ選手が出したのはサイホーン。タナカ選手は完全に出す手を読まれているわね』

 

「くっ……、勝てばいいんだ!ギャロップ、【かえんぐるま】!!」

「【じならし】」

【とっしん】を敢行するギャロップに対して、サイホーンは冷静に地面を踏み鳴らす。するとギャロップは激しい振動に襲われ、ダメージを受ける。

『おおっと、ギャロップの【とっしん】も意に介さない!』

『成程、スミレ選手は相手への対策をしっかりしているみたいね。放った技が【じしん】ではなく【じならし】なのが肝。タナカ選手、かなり緊張しているみたいだし、このままだとタナカ選手にとってかなり厳しいバトルになると思うわ』

「ギャロップ、戻れ……!行け、ゴルダック!!」

「……やれるでしょ」

相性不利なゴルダックが呼び出されるが、スミレは交代の気配がない。

「ゴルダック、【みずのはどう】」

「【10まんボルト】」

ゴルダックが【みずのはどう】を放つが、対するサイホーンはそのツノから電撃を放ち、ゴルダックを打つ。

「なぁッ……!?」

「ここまで想定通り。……【とっしん】」

膝をついたゴルダックに、サイホーンの巨体が突っ込んだ。弾き飛ばされたゴルダックは、会場の壁に勢いよく叩きつけられる。

「負けるなゴルダック、【サイコキネシス】!!そして追撃の【ハイドロポンプ】!!」

しかしそこで終わるなら、バッジを8個も取れやしない。傷つきながらも【サイコキネシス】がサイホーンの体を押し留める。そして追撃のハイドロポンプが、サイホーンに直撃しサイホーンは引き摺られるように後退する。

『ここでようやく一撃!なんとか返しました!!』

『やられっぱなしだったけど、少しはやるわね。とはいえここから巻き返せるかは、スミレ選手のここまでのバトルを考えると難しいけど』

「成程、威力は中々」

「ふーッ、ちょっとは調子戻ってきた!やるぞゴルダック!!」

「サイホーン、【とっしん】」

「引きつけて飛び乗れ!」

サイホーンが走り出し、ゴルダックに迫るが寸前で飛び上がったゴルダックは、サイホーンの背中に飛び乗った。

「……走り回れ」

「ゴルダック、飛び降りて【ハイドロポンプ】!!」

高速で走り回るサイホーンから飛び降りたゴルダックはその背中に【ハイドロポンプ】を放ち、サイホーンは壁に頭から突っ込んだ。

 

「サイホーン、このままじゃ負けるよ」

「何を……!?」

スミレがサイホーンに向かって冷たい声で言い放ち、タナカは困惑する。

「負けたらここで終わり。条件はもう揃ってる。そうしたらやることはひとつでしょ」

スミレの言葉に頷いたサイホーンは、その全身を輝かせる。

『これは、進化だー!!』

『敢えて厳しい言葉を投げかけて、覚醒のキッカケを作ったのね。つまり先程のピンチも計算のうち。さて、タナカ選手が勝つにはサイホーンが受けた大きなダメージをどうにか突く他ない』

「ドォォォン!!!!」

サイホーンが更に巨大化し、2本の脚で立ち上がり、そして咆哮。サイホーンの進化系、サイドンだ。

「行けぇゴルダック、【ハイドロポンプ】!!」

「撃ち抜け、【10まんボルト】」

水流と電撃が激突し、爆発を起こす。

「ゴルダック、【でんこうせっか】!」

ここでゴルダックが新技を発動、サイドンの横っ面を殴り飛ばす。

「薙ぎ払え」

だが、サイドンになった今では長い尻尾がある。横薙ぎに振るわれた尻尾がゴルダックを跳ね飛ばす。

「ゴルダックー!!」

「これで終わり。……【10まんボルト】」

終わりの宣言と共に放たれた電撃がゴルダックを包み込み、ダメージを与える。ゴルダックは苦痛に苦しみ悶えるが、遂には白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「ゴルダック、戦闘不能!サイドンの勝ち!!」

『ゴルダック対サイドンの戦いは、サイドンが制しましたー!!』

『完全な対策勝ちね。アドバンテージを逃さずものにするのは、当然のことだけど案外難しい。それをしっかりものに出来たことが、この勝利の要因だった。……ただ、スミレ選手のさっきのバトルは覚醒頼みのダメージ度外視。恐らくサイドンはここまでね』

「へぇ、流石ジムリーダー。ということで、お疲れ様」

スミレはそう言ってサイドンをボールに戻す。

「余裕だね……」

「ここまで対策通り、いちいち焦る状況ではありません」

「その余裕、崩してやるッ……、行ってこい、ウツボット!!」

「なら、お願いね。ストライク」

タナカが呼び出したウツボットに対して、スミレが呼び出したのはストライク。

「ウツボット、【はっぱカッター】!」

「躱して」

ウツボットが放つ【はっぱカッター】を、ストライクは空中に飛ぶことで躱す。

「【パワーウィップ】!」

「【れんぞくぎり】」

ウツボットは素早く蔓を伸ばし、それをストライクは素早い鎌の斬撃で迎え撃つ。ストライクの腕を蔓が絡め取って投げると空中で静止したストライクが再び突っ込み、蔓をストライクが切り裂くと新たな蔓が生み出される。

『ストライクとウツボット、凄まじい攻防だー!!』

『ウツボットは蔓の扱いが上手いわね、3体で最も練度が高い。対するストライクは足を重点的に鍛えてるのか、動きが素早いわね』

「【パワーウィップ】!!」

「【アクロバット】」

薙ぎ払われた蔓を空中を【アクロバット】で跳び上がり躱すと、そのまま鎌で斬りつける。ウツボットは効果抜群の技に

「【アシッドボム】」

しかし接近した所を【アシッドボム】で吹き飛ばされ、空中で回転し着地する。

「戻って、ストライク」

「戻れ、ウツボット」

両者が、それぞれのポケモンを戻す。

「ストライクとウツボット、今の所は互角」

「なら、全部終わらせてからやろう」

それぞれ、次のボールを構える。

「ドードリオ!」

「行け、ギャロップ!」

スミレが呼び出したのは、ドードリオだ。

「ドードリオ、【トライアタック】」

「ギャロップ、【かえんほうしゃ】!」

両者の遠距離攻撃がぶつかり、爆発を起こす。

「突っ込んで、【つつく】」

「迎え撃て、【スマートホーン】!」

ドードリオの嘴とギャロップの角がぶつかる。

「【ドリルくちばし】」

「退がって【おにび】」

ドードリオは追撃を加えるが、対するギャロップは後退してそれを躱し、【おにび】を放つ。それによってドードリオは火傷を食う。

「ならっ、【けたぐり】」

ドードリオがギャロップを蹴り飛ばし、ギャロップは跳ね飛ばされる。

「【かえんぐるま】!」

しかし着地したギャロップはそのまま加速、逆にドードリオを跳ね飛ばす。吹き飛び地面に打ち付けられたドードリオだが、傷を負った体で立ち上がる。

「【トライアタック】!」

「躱せ!」

立ち上がったドードリオが放った閃光をギャロップは躱すが、ドードリオは健脚を活かしてすぐ側に接近していた。

「追撃の……【ドリルくちばし】!」

【ドリルくちばし】がギャロップの胴に直撃、ギャロップは倒れ伏す。

 

「ギャロップ、戦闘不能!ドードリオの勝ち!!」

審判の声が響き、スミレは張り詰めた息をホッと吐き出す。

(この人、段々強くなってる?最初は緊張してただけってことね。……これが、ポケモンリーグの戦い)

不思議な高揚感に包まれ、スミレは胸の高鳴りを感じる。

「へへっ、顔が最初とちょっと違う。ちょっとは俺のポケモン、強いと思ってくれてる?」

「はい。データの想定を超えて強いです。少し、侮っていたかもしれません。ごめんなさい」

「いいんだ、間抜け晒した僕が悪いんだから。……さあ最後だ、行こう!ウツボット!!」

「ボーット!!」

タナカは力強く笑い、ボールを投げる。飛び出したのは、ウツボット。

「ドードリオ、【ドリルくちばし】」

「【はっぱカッター】、足を狙え!」

ドードリオが【ドリルくちばし】を発動して突っ込むと、ウツボットは【はっぱカッター】を放つ。狙い通り右足を【はっぱカッター】が打ち、ドードリオの体勢が崩される。

「命中……!?」

「今だ!【パワーウィップ】!!」

ウツボットの伸ばした蔓が力強く振るわれ、ドードリオは壁に叩きつけられる。そしてそのまま、崩れ落ちた。

「ドードリオ、戦闘不能!ウツボットの勝ち!!」

審判の判定を受けてドードリオを戻したスミレは、次のボールを投げる。

「行こう、サイドン」

次はサイドン。既に満身創痍だが、それでもまだ戦意は十分だ。

「成程、サイドン……」

「【10まんボルト】」

「【はっぱカッター】で防いで接近だ!」

ウツボットは電撃を弾き飛ばしながら、サイドンへの距離を詰めようと動き始める。

「なら……、サイドン、【とっしん】!!」

「グォォォォォォォォ!!!!」

サイドンが吠え、勢いよく突っ込んだ。至近距離からの突進をウツボットは蔓を伸ばして受け止めるが、吹き飛ばされて宙を舞う。

「反撃だ、【パワーウィップ】!!」

対するウツボットは空中で【パワーウィップ】を発動、サイドンの頭をハンマーのように打ちつけたその一撃で、サイドンは倒れた。

「サイドン、戦闘不能!ウツボットの勝ち!!」

『並んだー!!見事な巻き返しで、あと1体まで追い詰めました!!』

『タナカ選手、最初はかなり良いようにやられてたけど巻き返せたわね。相手へプレッシャーを掛けて押し潰せなかったのはスミレ選手としては痛手。ポケモンの練度はややタナカ選手に軍配が上がるけれど、戦術などトレーナーとしての技能はスミレ選手に軍配が上がる。初めから調子を安定していたスミレ選手にタナカ選手が追いついた以上、大将戦は中々に面白い勝負になると思うわ』

『ほう、それは楽しみです』

「行って、ストライク」

「シャアッ!!」

実況解説を横耳に聞き流しながら、スミレが最後のボールを投げてストライクが飛び出した。

「ウツボット、【はっぱカッター】!」

「【アクロバット】で近づいて!!」

連続で放たれる刃を素早い動きで躱しながらストライクは地を駆ける。

「近寄らせるな、【アシッドボム】!!」

「【エアスラッシュ】、弾いて」

飛ぶ毒液の爆弾を空気の刃が切り裂いて、空中で破裂する。

「【パワーウィップ】」

「【いあいぎり】」

ストライクは左腕の鎌を右の腰溜めに構えると、右足で力強く踏み込んで振り抜いた。その動きは、まさに人間の剣士が行う居合の一刀。【つるのムチ】で伸ばされた蔓を、一刀両断。そしてそのまますれ違い様に、ウツボットの胴を斬りつける。

「まだだ!【パワーウィップ】!!」

しかし復帰したウツボットの伸ばした蔓がストライクを掴んで投げ飛ばし、ストライクは壁まで吹き飛んだ。

「行って、ストライク」

だがスミレの声に応えるように、ストライクは飛ばされた先にある壁に足を付いてそのまま再度突撃する。

「迎え撃て、【はっぱカッター】!!」

「【れんぞくぎり】、撃ち落として」

空中を一直線に駆けるストライク目掛けて【はっぱカッター】が放たれる。だが、ストライクは背中の翅で体勢を整えると両腕の鎌を煌めかせ、その全てを連続する斬撃によって斬り捨てる。

「ここだッ!【アクロバット】で加速!!」

スミレが、高鳴る想いに身を任せて叫んだ。ストライクは空中で加速し、一気にウツボットの懐へと入り込む。そしてその左腕の鎌は、右の腰溜めへと既に辿り着き、構えられていた。

「ウツボット!」

タナカが指示を出すよりも早く、スミレの口が動き始めるのを視認し、ストライクはその腕を最高速で振り抜く。

「【いあいぎり】!!」

瞬間。それだけあれば、斬り捨てられる。ウツボットの反撃も置き去りに、ストライクは【いあいぎり】を放っていた。それも手応えあり、急所だ。そして一瞬の静寂。

「ボォ……、ボォットォォ」

ウツボットは何やらストライクに視線を送り声を漏らすと、力無く倒れ込んだ。

 

「ウツボット、戦闘不能!ストライクの勝ち!!よって勝者、スミレ選手!!」

宣告を受けて、スミレはホッとしたように大きく息を吐いた。

 

『決まりましたー!リーグ8、最後の2回戦進出は、スミレ選手!!』

『序盤は不調を抱えたタナカ選手の戦術を尽く対応し、後半になってそれまでの不調を取り返すようなタナカ選手の猛攻を、真っ向勝負で下した。楽では無かったけれど、勝つべくして勝ったと言える試合内容だったわね。……とはいえ、タナカ選手の巻き返しは凄かったから、次の大会もめげずに参加して欲しいところね』

 

「ありがとうございました、良い経験になりました」

「あはは……最初はポンコツだったからねぇ、今度は最初から本調子の僕で戦いたいよ」

「いずれは是非、お願いします」

そう交わしてタナカとスミレは握手を交わし、互いに背中を向けてコートから去っていった。

 

スミレ、予選リーグ1回戦突破

 

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