ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
3回戦に駒を進めたスミレだが、その心中は穏やかでない。次に当たる相手は、ナナカという水着の格好をしたトレーナーだ。異名持ちポケモンを持っている訳ではないし上位常連でもないが、予選トーナメントで最も警戒しなければならない3人の1人だ。しかも、不運なことにフィールドはナナカが最も得意とする水のフィールドだ。
『さぁ、これから始まる予選リーグ3回戦、ナナカ選手対スミレ選手!ここからはタマムシジムのジムトレーナー、ユキナさんにお越し頂きました!よろしくお願いします!!』
『ひゃ、ひゃい!よ、よろしくお願いします……』
『さて、今大会からの試みなのですが、ロケット団絡みでジムリーダーなどリーグ関係者が後始末やら会場や各地の警備やらで例年以上に人手不足となっております。よって、ジムリーダー候補である特に優秀なジムトレーナーさんを、解説としてお招きしております。こちらの会場で初めてのジムトレーナー解説員はタマムシジム所属、こおりタイプのエキスパートであるユキナさんです』
『あ、あはは……エリカ様が行けって…………』
『そうなんですね。それは兎も角、ナナカ選手とスミレ選手、見所をお願いします!』
『え、ええと……。ナナカ選手はみずポケモンを中心に扱うトレーナーです。今回の水のフィールドとなれば、かなり得意なフィールドになりますね。得意戦術は、水中でのスピード勝負ですね。ここまでの試合も、自分の速度を上げて相手を翻弄して勝ってます。対するスミレ選手はパワー勝負、搦手勝負、どちらもこなす頭脳派。これまで通り相手の対策をしっかりとしてきているでしょうから、簡単に勝てるトレーナーじゃないですね』
『成程〜、つまりは得意分野で攻めるナナカ選手に、どれだけスミレ選手が対策できるかが重要だということですね?』
『そうなります。……うう、わたしってやっぱりへたくそ』
解説とは思えないビクビクオドオドした声のユキナに苦笑しながらスミレはバトルコートに立つ。巨大なプールがあり、その水面には幾つかの浮島が置かれている。
「やっほー、スミレちゃん!トレーナー1年目でここに来られるのって凄いねー!!」
「……どうも」
「クールな女の子かぁ、かわいーね!でもわたしだってトレーナー、負けないよ!」
「こちらこそです。お願いします」
「これより、ナナカ選手対スミレ選手のバトルを始めます。使用ポケモンは3体、それでは始めてください!」
「行ってらっしゃい、スターミー!!」
「仕留めて、ギャラドス」
ナナカのボールから飛び出したのはスターミー、対するスミレはギャラドスを繰り出した。
『1体目はスターミー対ギャラドス、ユキナさんはこの戦いをどう見ますか?』
『ええっと……スターミーは能力値でも素早さが最も高く、特殊攻撃も強いので、スピードアタッカーとしての運用が予想できます……。えっと、それからギャラドスは攻撃力が最も高いので、合理主義なスミレさんなら、活かさない手はないかなーと思います。ううん、あとはギャラドスなんですけど特殊防御が攻撃の次に強いので、多分ナナカさんのスターミーが来るって思って出したんじゃないですか?ナナカさんのパーティーは全体の数が少ないから読みやすいですし』
そう、ナナカの手持ちは少数精鋭。リーグで出すポケモン、更に水のフィールドで出すポケモンとなれば、今まで以上に候補は絞りやすかった。とはいえ、それで勝てる相手ならここまで上がって来てはいないのだが。
「スターミー、潜って【こうそくいどう】!」
「ギャラドス、【うずしお】」
スターミーが高速で移動するが、ギャラドスが水中で渦潮を生み出すと、スターミーの体はそこへと吸い寄せられる。
『おおっと!?【うずしお】でスターミーが吸い寄せられるッッ!!』
『……【うずしお】って、ギャラドスの戦法的にあんまり使われないんですけど、スミレ選手はそれを敢えて使って、自分より速い相手を捕まえようとしてるんじゃないかなぁって思います』
「うっそぉ!?【うずしお】使うギャラドスのトレーナーなんて初めて見た!!」
「貴女のスターミーは、必ず【こうそくいどう】をします。……あんまり速くなれば、私のギャラドスじゃあ追いつけない。だから私は、スターミーを閉じ込めることに決めたんです」
水中を見れば、スターミーとギャラドスの居る空間の少し離れた周辺を、激しい水流が渦巻くように流れている。
「……これは!?」
「この、渦潮のリングに」
『こ、これは……!』
『【うずしお】でリングを作って、速さ自慢のスターミーから移動範囲を奪ったんですね……。良い手ですが、それでスターミーの速さが遅くなった訳でもないので、ギャラドスの力次第です』
「だってさ……、なら、【でんじは】」
続けてギャラドスが【でんじは】を放ち、スターミーは麻痺状態となる。
「すっごい対策!でもわたし達も成長する、ずっと同じじゃないんだよ!!スターミー!【からげんき】!!!!」
【からげんき】。状態異常の場合に威力を上げる技。それまでのデータに無かった一撃が、ギャラドスを自分が放った【うずしお】まで吹き飛ばした。
「……くっ!」
スミレは、思わず眉を顰める。確かに、スターミーの速さを潰す上で麻痺は有効な手だ。だから追い込む一手として使ったのだが、それが高火力の一撃として返された今は、スターミーを追い込む為のリングが却ってギャラドス自身を追い込むことになる。
「行ってスターミー、【こうそくスピン】!!」
「【たきのぼり】ッ……!」
高速で回転するスターミーにギャラドスが水のエネルギーを纏い突っ込んだ。スターミーはそれを素早い動きで躱すが、麻痺を受けているからかその動きはどこか単調だ。
「グォォォォォォ!!」
ギャラドスが凶暴に吠えて突進、スターミーを吹き飛ばして【うずしお】の流れに巻き込んだ。【たきのぼり】を受け、更に【うずしお】の追加ダメージでそれなりに消耗するが、しかしギャラドスが受けた一撃の方がダメージは変わらず大きいため、依然としてギャラドスが不利であることに変わりはない。
「いっくよー、スターミー!【ハイドロポンプ】!!」
「迎え撃ってギャラドス、【ハイドロポンプ】!」
水中で激しい水圧と水圧が激突し、衝撃波が水を伝って水面を激しく揺らす。
「そのまま【こうそくスピン】!」
「【かみくだく】」
スターミーは高速で回転して突っ込むが、ギャラドスはそれを止めるべくその体に噛みついた。高速で回転していたスターミーの体が徐々にその回転を緩やかにする。
「今、【れいとうビーム】!」
しかしナナカがそう指示を飛ばし、スターミーは噛みつかれた状態ながらも至近距離で、【れいとうビーム】を放った。それを受けたギャラドスは思わずスターミーを離してしまう。それが、致命的な隙であった。
「ギャラドス、【かみくだく】!!」
「スターミー、【からげんき】!!!!」
ギャラドスによる苦し紛れの突撃を躱し、スターミーはギャラドスの腹へと突っ込んだ。重々しい一撃を受けたギャラドスはそのまま目を回し、水面に浮き上がる。
「ギャラドス、戦闘不能!スターミーの勝ち!!」
『スミレ選手の対策が完全に破られたー!!流石は予選リーグ3回戦です!!』
『……ええと、データにないことが起きるなんてトレーナーならよくあることですからね。今回の作戦、相手の機動力を削ぐのと逃げられなくなることを意識したのは良かったんですけど、狭い空間に閉じ込めたのが却って自分の首を絞めましたね。ギャラドスは大きいから【うずしお】で小さなリングを作るなら、【まもる】みたいな防御技、牽制と細かい削り用の特殊技、それからメインウェポンとしての直接攻撃技を組み合わせると、もうちょっと良いバトルができたかなって…………思います、はい。大きいポケモンが狭いところにいると、動き辛くなっちゃうので……。偉そうに言ってすみません…………』
「うっ……」
スミレは、姉弟子のもっともすぎるダメ出しに、ギャラドスをボールに戻しながら呻き声を漏らす。タマムシジムに入り浸っていた時は、兎に角サファリゾーン組を実戦レベルまで引き上げる必要があったので、その辺は考えが及ばなかったのである。
「ええと……、まぁわたしも対策の対策しなきゃ上取れなかったし…………」
ナナカがそう言ってフォローすると、スミレは両手で頬を叩いて次のボールを構えた。
「次は、同じ無様は晒しませんよ」
「無様とは思わないんだけどねー。でも、楽しめるんなら大歓迎!!」
明るく、しかし戦意を剥き出しに笑うナナカに、スミレは静かにボールを放った。
「ここから挽回、やるよアズマオウ」
スミレが続いて呼び出したのは、アズマオウだ。アズマオウは水中に着水すると、スターミーを鋭く睨みつける。
「楽しみだなー、スターミー!【からげんき】!!」
「【ちょうおんぱ】」
凄まじい火力のエネルギーを纏って突っ込んだスターミーを、【ちょうおんぱ】が襲った。スターミーは顔の宝石を点滅させ、その泳ぎはフラフラと不安定になっている。
『おおっと!?これは……』
『【ちょうおんぱ】ってことは混乱ですね。混乱したポケモンは、そこそこな確率で自分を攻撃しちゃいます。こうなると、麻痺受けて、混乱うけて、しかも逃げられない。スターミーは一気にピンチだと思います。……スミレ選手、あの様子だと想定はしてなかったみたいなんですけど、丁度よく嵌りましたね』
「スターミー、しっかりして!!」
「今の内に……【つのドリル】!」
回転するアズマオウの角が、スターミーを水上まで吹き飛ばした。【つのドリル】は一撃必殺、例え命中が低くとも、【うずしお】のリングと麻痺、そして混乱まであれば流石に当てられる。スターミーは、その中心の宝石から光を失い、水面に力無く浮かんだ。
「スターミー、戦闘不能!アズマオウの勝ち!!」
『ピンチから一転、スターミーを秒殺!!』
『いいリカバリーだったんじゃないかなぁと思います……。あれっ、わたしのさっきまでのダメ出しって間違ってたり??』
「間違ってないですよー!」
解説席で慌てるユキナに、スミレは苦笑すると叫んだ。全く、バトルになれば物凄く強いのに、仕方のない姉弟子である。
『ほっ……、ごめんねスミレちゃ……じゃなかった、すみませんスミレ選手。間違ってないらしいので続けると、【うずしお】が長期で相手を閉じ込める技なので、ギャラドス敗北後もそれなりに考えてたと思います。ただ、その敗北が予定外に早く来ちゃったのと、対策が裏目に出ただけって感じ、だと、思います……。なので今後の展開に大きな支障があるという感じじゃないです』
ユキナの解説に、スミレはホッとした表情で頷く。
「ふぅん、ユキナさんと知り合いなのかな?……まーいっか、どっちにせよ、バトルには関係ない。貴女は強くて、油断してもしなくても負けかねない相手だってことは分かってるからね!」
「……そうですね。別にルールの範囲外で何かしてる訳でもないですし。バラされて困ることでもありませんし」
「そっかそっか!ならどうでも良いよね!」
ナナカは、そう笑ってボールを構える。
「アズマオウ、後一体持って行けたら持っていこう」
「できるもんなら、やってみなぁ!行ってらっしゃい、ジュゴン!!」
(……2体目がジュゴン、ってことは)
「アズマオウ、【ちょうおんぱ】」
「逃げてジュゴン!」
同じ手は通じないと、ジュゴンは水中を素早く泳いで躱す。
「【みずのはどう】」
「【オーロラビーム】!」
【みずのはどう】と【オーロラビーム】が激突し、相殺されるがそれは想定内だ。
「アズマオウ、【れいとうビーム】」
「ジュゴン、【オーロラビーム】!」
アズマオウが【れいとうビーム】を放と、ジュゴンは身を翻して【オーロラビーム】で反撃、アズマオウもまたそれを躱す。
「アズマオウ、パターンA準備!」
「何するか分かんないけど、行くよジュゴン!【アクアジェット】!」
「3.2.1.今!!」
スミレの叫びと同時にジュゴンが高速でアズマオウに肉薄し、【アクアジェット】を決める。それを受けてアズマオウは表情を歪めるが、反撃の【ちょうおんぱ】を放った。接近していた為に目を回して激しく泳ぎ回るジュゴンは訳も分からず【うずしお】の流れに突っ込み、流され始めた。【うずしお】の連続ダメージがジュゴンを削る。
「ジュゴン、目を覚まして!!」
「追撃、連続で【みずのはどう】」
細かく削られながらも脱出しようとするジュゴンを、水圧の塊が連続して打ちのめす。
だがしかし、ここで運はナナカに味方した。【うずしお】が止み、そして削られ続けたジュゴンは正気を取り戻した。
「……でも、こっちが有利なことに変わりはない」
「そうだね。でも、負けない!ジュゴン、【こごえるかぜ】!!」
ジュゴンの放った【こごえるかぜ】がアズマオウを呑み込み、ダメージを与える。
「(不味いッ)アズマオウ、突っ込んで【つのドリル】ッ……!」
【こごえるかぜ】を見て危機感に駆られたスミレの指示でアズマオウが突っ込むが、【こごえるかぜ】を受けたその体はスピードが本来以上に落ちている。するりと身軽に躱したジュゴンは、頭上からアズマオウを見下ろした。
「【こごえるかぜ】!」
【こごえるかぜ】がアズマオウをプールの底へと吹き飛ばす。
「くぅっ……!やっぱり速度殺してくるよね!」
「へへっ!自分が速くなるには、相手を遅くするのも手、だよね!」
「知ってますし私の得意分野ですぅ!【みずのはどう】!」
「【オーロラビーム】!!」
相変わらず相殺されるが、爆煙を貫きアズマオウはジュゴンへと肉薄する。
「【つのドリル】」
「連続で【アクアジェット】!!」
【つのドリル】を放つアズマオウに対してジュゴンは【アクアジェット】の速度で離脱、そのまま連続で使用して全身をめった打ちにする。一撃の火力は低くとも、連続すればダメージの蓄積は凄まじい。
「……詰んだね、これは」
「……ッ!【アクアジェット】!!」
スミレの諦めたような呟きにナナカは眉を顰めて突っ込み、アズマオウを引き摺るように押して壁へと向かう。しかしその体は、途中で静止した。なんてことはない、アズマオウがジュゴンの体当たりを受け続けながらも意識を保ち、最後はその場に止まったからである。
「プライドの高い貴女が、トレーナーに勝ちを諦められてそのまま負けるなんて耐えられない。そうでしょ、アズマオウ」
諦めたような言葉を発していたスミレが、優しげな笑みを浮かべて呟いた。
「まさかッ、わたしを誘い込むために……!」
「……ジュゴンとアズマオウは密着状態。ジュゴンの体力がどれだけ残っていようとも、避けられない状況で当てればそんなの全く関係ない!」
スミレの言葉に反応するように、アズマオウのツノが再び高速で回転、逃げようとするジュゴンの体を、回転によって発生した激しい水流が引き寄せる。
「逃げてジュゴン!!」
「【つのドリル】!」
一撃必殺が炸裂し、ジュゴンは吹き飛ばされて水中深くから水面を超えて、浮島の上に倒れ込む。そして吹き飛ばしたアズマオウもまた、気を失って水面へと浮き上がる。
「ジュゴン、アズマオウ、共に戦闘不能!よってこの勝負、引き分け!!」
『アズマオウ、ギリギリで引き分けに持ち込みました!!』
『【つのドリル】がなければ、あの状況ではアズマオウは確実に負けてました。スミレ選手は諦めたような態度でナナカ選手を誘い、更にアズマオウのプライドに火を付けたのは上手い誘導でしたね。とはいえ【こごえるかぜ】を受けた辺りとかは焦りで遠距離攻撃の中に近接攻撃で突っ込んだりと失策も目立ち、余計に消耗していました……。ま、まぁこの辺は場慣れしてないとよくあるので、気にせず頑張ればいいと思います』
「……あの人、オドオドしてる割に痛い所突くなぁ。エリカさんもそれ分かってて解説にしたのかな?」
スミレは苦い表情で呟く。
「あはは……、てっきり諦めちゃったかと思ったよ。騙されたー!」
「すみません、どうにか逆転したかったので」
「いいよー、カントーじゃあ防げない方が悪いんだし。でもあんまりしない方がいいよ、そういうの嫌いな人って多いからさ。トレーナーって意外と人気商売だからね!」
「……気をつけます」
バツの悪い表情を浮かべるスミレを笑いながらも諭し、スミレは釈然としない表情を浮かべながらも頷く。
「んじゃ、最後のポケモン出しちゃおっか!」
「……はい」
両者は、同時にボールを構える。互いに出すのは3体目、ここで負ければ全てが終わるバトルだ。
「行っけぇ!キングドラ!!」
「謳え、ラプラス!」
2人の最後のポケモンが、同時に飛び出した。
「