ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ナナカ対スミレの予選リーグ3回戦、それぞれ2体を失っての最後の1体となっていた。そして場に出たのは、キングドラとラプラス。
「キングドラ、【あまごい】」
「ラプラス、【こごえるかぜ】」
キングドラの見上げた空に暗雲が掛かると、ポツリポツリと落ちる雫が、バトルコートの水面を揺らす。そしてその雫が、雨となる。【あまごい】による天候操作だ。対するラプラスは【こごえるかぜ】。速度が落ちるほどの風が吹き付け、キングドラは表情を歪める。
「初手で【こごえるかぜ】かぁ。やるね」
「……貴女のキングドラは【あまごい】を活用して不自然に加速してるのをデータで見ました。恐らく、それは研究途上にある " 特性 " って力のせい。雨の天候でポケモンを加速させるのがキングドラの特性だと仮定すれば、私がやるべきことはひとつでしょう?」
「そりゃそうだ!【りゅうのはどう】!!」
「受け止めて【れいとうビーム】」
【りゅうのはどう】が放たれるが、それを敢えて受け止めたラプラスが反撃の【れいとうビーム】を命中させ、キングドラは表情を歪めた。
「うわぁ、持久型だぁ」
「【こごえるかぜ】」
「逃げて【ハイドロポンプ】!」
ラプラスが【こごえるかぜ】を放つが、キングドラは目にも止まらぬ速さで後方へと下がることで【こごえるかぜ】を躱すと、反撃の【ハイドロポンプ】がラプラスの顔面に命中した。
「ラァァ!」
攻撃を受けたラプラスが吠え、スミレの指示を待たずに【みずでっぽう】を放ち、キングドラはそれを慌てて躱す。
「指示を待たずに……?まさか、自動迎撃!?」
「そういうことです。ちょっとやそっとで崩せるようなら、この戦いの大将を任せてませんよ」
「だろうねっ……!なら、【りゅうのはどう】!!」
「【みずでっぽう】……それからプランB」
【りゅうのはどう】と【みずでっぽう】が空中でぶつかり爆発を起こすと、スミレの指示に従ったラプラスは静かに潜水した。
「プランB!?……どっちにせよ、勝てばいい!【りゅうのはどう】!!」
キングドラが爆煙に向かって【りゅうのはどう】を放つが、音もなく潜水したラプラスには当然届かない。
「ラプラス、噛みついて」
そしてその隙に近づいたラプラスが、キングドラの首筋に噛みついた。キングドラが首を振って躱そうとするも、ラプラスは強く噛みついて離れない。
「……なら、【ハイドロポンプ】でぶっ飛んで!!」
しかしナナカの指示でキングドラは【ハイドロポンプ】をラプラスに叩きつけると、その水圧でラプラスを引き剥がしながらも上空へと舞い上がる。
「【こごえるかぜ】!」
対するスミレが選んだのは、範囲攻撃ができる【こごえるかぜ】だ。眼下から押し寄せる白い風に目を向けながら、キングドラは貯めたエネルギーを解放する。
「貫いてキングドラ!!【りゅうせいぐん】!!!!」
純白の風を貫いて、光の尾を引いて堕ちる流星群が、ラプラス目掛けて降り注いだ。
「負けないでラプラス、出力全開!!」
スミレの叫びで【こごえるかぜ】が威力を増して放たれる。しかし、少しの拮抗の後にその風を再び貫いた流星群が、ラプラスを打ちのめす。
「ゲッ……、思ったより効かなかったな」
「ラプラス、【みずでっぽう】」
効果抜群なこおり技を連続でぶつけられたことで威力が下げられ、しかも相手はスミレのポケモンで最も硬い、ラプラスだ。【りゅうせいぐん】を耐え抜いたラプラスは反撃の【みずでっぽう】を放ち、キングドラは僅かに後退する。
「キングドラ、【りゅうのはどう】!」
「ラプラス、【れいとうビーム】」
両者の攻撃がぶつかる。その隙にラプラスが潜水するとキングドラもその動きを読んでいたのか追随する。
「【ハイドロポンプ】!」
「躱して【れいとうビーム】!」
キングドラの攻撃をラプラスは躱して反撃、それをキングドラは身軽な動きで躱した。そして両者は激しい撃ち合いを開始、遠距離から攻撃を繰り返す。火力はキングドラに分があるが、技の火力が低いことと放てる技の多さから、ラプラスの方がより手数は多い。削り合いは、現状では互角だった。
「くぅっ……強いねやっぱり!わたし楽しいよ!!」
「そうですか。【りゅうのはどう】」
嬉々とした表情を浮かべるナナカとは対照的に、スミレは淡々と指示を飛ばす。放ったのは【りゅうのはどう】、キングドラに対して効果は抜群だ。キングドラはギリギリで躱すが、その表情は苦々しい。
「うっそぉ……!やっぱり対策してた!?」
「当然です。キングドラは貴女のポケモンでも特に脅威ですから」
「へへっ、ならそれを突破するだけだよ!【ハイドロポンプ】!!」
「【こごえるかぜ】、逸らして撃ちながら接近お願い」
対するスミレはそう指示を飛ばした。それを聞いたラプラスは自身の胸で【ハイドロポンプ】を受け止めながら直進し、【こごえるかぜ】を放った。放たれた【こごえるかぜ】はキングドラの視界を真っ白に覆い隠す。
「視界が塞がってる……。なら、【りゅうせいぐん】!!!!」
「貴女なら耐えられる!真っ直ぐ進んで【りゅうのはどう】!!」
空から降ってきた流星の雨を浴びながら、ラプラスはただ一直線にキングドラへと突っ込んだ。【こごえるかぜ】に視界を塞がれ、【りゅうせいぐん】を降らせている今のキングドラに、身動きは出来ない。【こごえるかぜ】の目眩しを突っ切って、ラプラスがキングドラの額に頭突きをぶつける。キングドラは衝撃で頭を揺らすと、ラプラスは追撃で至近距離から【りゅうのはどう】を放った。堪らず吹き飛ばされ、プールの壁に叩きつけられるキングドラ。
「しっかりしてキングドラ!」
「追撃、これで決める!!」
そこにラプラスの、【りゅうのはどう】が放たれた。追撃を受けたキングドラは、力無く水面へと浮かび上がった。
「キングドラ、戦闘不能!ラプラスの勝ち!!よって勝者、スミレ選手!!」
「……か、勝った?」
下された判定に、スミレは惚けた表情でへたり込んだ。
『決まりました!スミレ選手大金星!!初参戦のこの少女が、遂に予選リーグ決勝へと駒を進めました!!!!』
『ラプラスの耐久力を軸に、覚えられる技とか技の効果やタイプを考え抜いて詰め込んだ、まさに対キングドラ型ラプラスって感じでしたね』
『ユキナさんはこの試合、何処がポイントだったと思いますか?』
『ええと、1番大きかったのはやっぱりアズマオウの働きじゃないでしょうか。あそこでジュゴンを落とせなかったら、耐久型なラプラスは特に余計なダメージを受けてたと思いますし。それから、ラプラスはしっかりと大将として仕事をしたのは外せませんね。態々水中戦にすることで鈍足なラプラスの機動力を補いつつ【こごえるかぜ】で相手の速度を落とす。……特に良かったのは、【りゅうせいぐん】に【こごえるかぜ】をぶつけた場面ですね。ドラゴンタイプにこおりタイプが効果抜群なのはみなさんご存知だと思うんですけど、技にも当然タイプはあって、ドラゴンタイプの技に有利なこおりタイプの技をぶつけることで、みずタイプの攻撃をぶつける以上に威力を削いでます。1度撃てば2撃目は最初よりどうしても威力は下がってますから、耐えればいい話ではありますし。……それに、【れいとうビーム】じゃなくて【こごえるかぜ】にすることで、流星の全体から威力を削げるようにしたのは、こおりタイプ使いとして素直に感心しました。……ただ、課題はやっぱり前半ですね。ギャラドスの戦術ミスとか、アズマオウの時には焦って指示ミスをしたりしましたからね。経験を積むことと同時に、行った試合の反省と課題設定をしっかりやって考えれば、今後の結果に結びつくんじゃないかなぁ…………って、思います。生意気ですかね?これ』
『いえいえ、素晴らしいアドバイスだと思います。……ナナカさんには何かありませんか?』
『うぅん、そうですねー。リーグでそれなりに名前の売れたトレーナーってやっぱり対策されますから、対策に対策を上手く講じられなかったのが敗因だと思います。ポケモンの地力で劣っていた訳でもなく、トレーナーとしての経験値はナナカさんの方が上でした。それに、スミレ選手は序盤で明確に失策をしてます。……この状況で勝ち切れなかったことは、ナナカ選手にとってはとても痛かったですね』
「うわぁ、辛辣〜!でもま、楽しかったし悔いはないかなー!!」
そう言って笑うナナカに、スミレは複雑な表情を浮かべる。
(……嘘つき)
浮かべた笑みは引き攣り、目には涙を堪えているのか力が入っている。悔しさが滲み出しているのに、それでも笑って立っている。
(指摘するのは……ダメだよね)
それを態々指摘するのは無粋というものだ。
「……良いバトルでした、ありがとうございました」
「あっ、あはは……。それは良かった!わたし、いつか貴女にリベンジするよ!もっと強くなって、必ず!!だから貴女ももっと強くなって!いつかわたしとまた戦って!!」
「……はい、是非」
そう交わし握手を交わし、両者は背中を向けて歩き出した。
◾️◾️◾️◾️
試合を終えたスミレは、まず決勝の為に相手を確認する。今回の予選リーグで特に警戒しようと定めていた3人のうち、ナナカはスミレが倒して残りは2人、その2人によるバトルであった。バトルしたのは、ベテラントレーナーのユウジとエリートトレーナーのコウ。最初に出したポケモンは、ユウジがヤドランでコウがベトベトン。このバトルはヤドランが高い防御力でベトベトンの猛攻を防ぎ切って勝利。しかし続いてコウが呼び出したエレブーによってヤドランが倒されると、続いてユウジが呼び出したのはダグトリオ。このバトルはユウジが相性有利を押し付けて追い込むも、コウがエレブーを引き下げて対応。続いて出したナッシーと相打ちで戦闘不能。最後にエレブーを呼び出したコウに対してユウジが最後に呼び出したポケモンは相棒のイワーク。エレブーは相性最悪にも関わらず後一歩までイワークを追い詰めるも、後一歩届かずユウジが勝利した。
次の試合に向けた対策の最終確認をして、続いては個人的に気になる試合。サトシとシゲルの試合結果を見る。
まずはサトシ対セイジのバトル。サトシは初手でキングラーを使用、対するセイジはパルシェンを出してのバトル。その戦いは火力で殻をこじ開けたキングラーの勝利に終わるも、続くウインディとのバトルでキングラーは相性有利な相手にスピードで翻弄され、負けて戦闘不能。それを受けてサトシが選んだのはピカチュウ。ここから、一気に流れがサトシへ引き寄せられる。ウインディの背中に乗って電撃を浴びせ続けるという作戦でウインディを倒したピカチュウは、続くドードリオを電撃による麻痺付与と高火力のゴリ押しで倒して見事な2タテを達成、決勝戦に駒を進めた。次に戦うのはカオルコ、人間の武術を修めた強力なマダツボミを使用する、タマムシシティ出身の少女だ。
次に確認したのはシゲルの試合。相手はフジキという男性の会社員だ。初手で繰り出したのはシゲルがブーバー、フジキはゴルバット。このバトルは、遠距離攻撃の連打でゴルバットを撃ち落としたブーバーに軍配が上がりまず一勝。続いてフジキが繰り出したのはギャラドス。みず技による範囲制圧によってブーバーが倒されると続く2体目は相棒のカメックス。ギャラドスの攻撃を甲羅で受け切りながら反撃を加えてカメックスが勝利すると、最後に登場したカビゴンを真っ向勝負で消耗させ、最後はカメックスの切り札だという【120パーセント:ハイドロカノン】で巨体を吹き飛ばして勝利した。しかし、シゲルにとっては次が最大の難関だ。相手は、上位常連であるホウセン。優勝候補の1人に名を連ねる、圧倒的な格上だ。
決勝は、それまでとは違いリーグ全体でそれぞれ同時にやるのではなく、開始時間をズラして行われる。即ち、それは観客が見ることが出来るようにという配慮である。
(でも現地は、無理そうだね……)
対策はした、メンバーの編成にもポケモンの状態にも問題は見られない。だが、それでも足りるか分からない。ナナカ戦がそうであったように、ミスからピンチになることは考えられる。
(次を勝てば、決勝トーナメントに出られる。……必ず、勝つ)
スミレは胸元に力強く握った拳を見つめて決意を新たに、大きく深呼吸をした。予選リーグ決勝は、もうすぐそこだ。