ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

15 / 220
 クチバジム戦の前編になります。


第15話 クチバジム戦: 前編 ヒマワリの焦燥

 クチバシティ。港町として発展したこの町が、次のジム戦の舞台となる。クチバシティを根城にするジムリーダーは2人だが、港でジムをやっているみずタイプ使いのジムリーダーは漁師を本業としている影響で、予約が取りづらい。予約が取れるのがまだまだ先だった為今回は見送ることにする。そして2人が挑むのはクチバジムのマチスだ。マチスはでんきタイプ使いのジムリーダーで、イッシュ地方出身の元軍人。イッシュ出身者に割と多い事だが、認めた相手以外には傲慢で、横柄だ。イッシュ地方は自地方への愛が強く、それ故に他の地方を見下す者も多いとスミレは聞いている。マチスも例に漏れず、最近はライチュウ1匹でチャレンジャーに一騎打ちを仕掛けているらしい。国際的な規定では2体から4体となっているのだが、マチス的には1匹で十分実力を測れると思っているらしい。トレーナーは割とフリーダムなので、一般的なトレーナーでも、規定で守っているものなど賞金制度くらいのものである。規則的にはアウトだが、1対1は分かりやすくてスミレとしてもありがたい。ラプラスの参戦は順調に行ってもタマムシシティでのジム戦辺りになるだろうし、ユンゲラーはかの老師の言う通りポテンシャルは高く、能力だけで言えばエースも目指せるがいかんせん気が弱く、自分が傷つくことも相手を傷つけることをあまり好まない。スミレとしてはバトルで役に立たないポケモンなど手持ちに入れても仕方がないのだが、ユンゲラー自身が改善しようという姿勢は見せているので、根気強く向き合ってやるべきだろう。そういう訳で現在4匹中2匹が戦力外であるため、1対1は逆にありがたい。フーディン老師への惨敗はフシギソウとバタフリーにとって相当な屈辱だったらしく、ハナダシティくらいから停滞気味だった実力が一気に伸びた。敗戦の経験は、いかに一方的なものであれ強化の大きな糧となる、スミレはそう学んだ。

 

「カゲちゃん、【りゅうのいぶき】!」

ヒトカゲが青白いエネルギーの塊を放出するが、ライチュウは軽々と避ける。今回は、ヒマワリが先の挑戦だ。本人がどうしてもやりたかったらしい。勝負は1対1。マチスはライチュウを出し、ヒマワリはヒトカゲを出している。現状、ヒマワリが圧倒的に不利だ。

「ライチュウ、【メガトンパンチ】だ!」

ライチュウはマチスの指示を受けるや否や高速で接近し、ヒトカゲの胴体に重い拳を叩きつける。そしてマチスは【メガトンキック】を続けて指示、ライチュウの重い蹴りがヒトカゲを吹き飛ばし戦闘不能にした。

 

「ヒトカゲ、戦闘不能!ライチュウの勝ち!!よって勝者、ジムリーダーのマチス!!」

顔を青ざめさせ、心ここにあらずといった様子でヒトカゲをボールに戻すヒマワリと、得意げにライチュウをボールに戻すマチスを、スミレは無感動に眺める。ヒマワリはスミレと違い、フーディン老師への惨敗という挫折を経験していないし、ヒトカゲも進化していない。おまけに今まではポケモンの実力と運で乗り切ったものの、戦略面で不安がある。つまり単純な戦力不足なのだ。スミレから言わせればこれは、なるべくしてなった敗北と言うわけだ。スミレは未だ呆然とするヒマワリの目の前に行き、猫騙しで目を覚まさせる。

 

「ぅあ・・・スミ・・・ちゃん。ヒマ・・・。」

「いいから退いて。私の試合がある時間までの間で、試合が入ってるらしいから。」

 

ヒマワリはこくりと頷き、項垂れながらジムを出る。スミレはマチスに一礼すると、後を追った。

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

 ヒマワリとスミレの試合の間に挟まった1試合、そのチャレンジャーはサトシだった。サトシはライチュウにピカチュウで挑むも、あっさりと敗北してしまいポケモンセンターへと来ていたのだが、そこで思わぬ再会を果たしていた。

 

「あーー!!スミレにヒマワリ!!!!」

「スミレにヒマワリ!!久し振りじゃない!!」

「あれ・・・?カスミちゃん・・・・サトシに、タカシさん?うん、久しぶり・・・。」

明るく声を掛けるサトシとカスミに、ヒマワリは弱々しく返す。

「ちょっ、どうしたのよヒマワリ!ねぇスミレ、この子何があったの?」

 

「俺はタカシじゃなくてタケシなんだが・・・。」

タケシが弱々しく指摘するがそれどころではない。ヒマワリはアホ毛が力を失って萎れ、本人も完全に沈み込んでいた。スミレはため息を吐くと、訳を話す。

「お久しぶりです、タケシさん。それにサトシにカスミさんも・・・。少し前に、クチバジム戦でボコボコにされたんですよ。何故か今日はいつになく焦ってるようで・・・ハナダのジムリーダーがジム戦を放棄したせいで格上相手の経験を碌に積めず、私は5番道路で強いフーディンに手も足も出ずに負けたんですが、ヒマワリはそのフーディンと戦っておらず挫折の経験もなく・・・。基本的な作戦がレベルを上げて殴る程度だったので、経験の差を埋めるだけの技術も無く、当然の敗北だと思いますが。しかしヒマワリはいつになくショックを受けてるようで、ぶっちゃけこの後私ジム戦なのに、気が散って邪魔です。」

うんざりしたように語るスミレ。サトシは困ったような顔をする。サトシもつい先程、マチスに負けたばかりなのだ。アドバイスもしようがないし、煽ろうにも自分も負けている。カスミは自分の姉であるハナダジムのジムリーダー三姉妹のやらかしの弊害に頭が痛くなりそうだった。

「ほんっと、ウチの馬鹿姉達がごめんなさい・・・。」

そう言うのが、精一杯である。一方のタケシは、少し考えると言った。

「そうだ、スミレの試合を観戦させて貰わないか?サトシもヒマワリも、何かヒントが見つかるかもしれない。」

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

「これより、ジムリーダー マチスと、チャレンジャー スミレの試合を始めます。使用ポケモンは1体で交換は無し。それでは、始め!!」

審判を務めるジムトレーナーの声を聞きながら、ボールを1つ選択する。

 

「行けぇ!!ライチュウ!!!!」

「ライラァァァイ!!」

「出陣だ、フシギソウ。」

「ソォォォウ!!」

 

相手はライチュウでスミレはフシギソウ、相性的には良くも悪くもない。

 

「行くぜライチュウ、【とっしん】!!」

「ライラァァァイ!!」

 

「飛んで火に入る夏の虫・・・。フシギソウ、【どくのこな】。」

「ソウッ!」

 

真っ直ぐ突進してくるライチュウに対してフシギソウが放ったのは【どくのこな】。

 

「what!? ライチュウ、止まれ!!」

マチスが指示を出すが少し遅い。僅かに粉を吸ったライチュウが、毒状態に陥る。そしてライチュウの足が止まった。

 

「フシギソウ、【つるのムチ】。縛り上げて振り回せ。」

「ソウッ!!」

フシギソウは蔓でライチュウの胴体を縛り上げると、空中で振り回す。

 

「脱出しろ!【10まんボルト】!!」

「ラァァァイ!!」

しかしライチュウは強力な電気を放ち、緩んだ拘束を解いてすぐに脱出する。

 

「・・・なるほど、cuteなお子様だと思ったが、さっきの2人とは一味違うらしいな。」

マチスが感嘆の声を上げる。

 

それに対してスミレも返す。

「流石はジムリーダーです。・・・一筋縄ではやはり行きませんか。」

 

一方の観客席

 

「やるわね、スミレ・・・。しっかり対策が出来てるわ。どこかの誰かさんと違って。」

「何だとぉ!?」

カスミはスミレの戦法に感心しつつも隙ありとばかりにサトシを煽り、サトシが挑発に乗って怒る。今日も仲良く喧嘩を始めた2人を放っておき、タケシはヒマワリに問う。

「それで、どうしてヒマワリはそんなに焦っているんだ?無理にとは言わないが、教えてくれ。」

ヒマワリはビクリと肩を動かし、絶望に塗れた顔で、話し始めた。

 

「ヒマは・・・スミちゃんにとっての友達じゃないんです。」

「ええっ⁉︎」

カスミが驚きの声を上げる。だが何となく察していたタケシと、スクールでのスミレを知るサトシは驚かない。

 

「旅に出るとき、ヒマはスミちゃんの旅に無理矢理着いてきたんです。スミちゃんの嫌がる気持ちを無視して・・・。どうしてもスミちゃんが嫌がるけどヒマが退かなかったから、博士から決められたんです。・・・ジムバッジを3つ取るまで、ヒマを連れて行くようにって。

このジムで丁度3つ目なんです。でもスミちゃんが早くバッジを取ったら、ヒマは置いていかれちゃう。スミちゃんはヒマの事を必要としてないんです。だってヒマは我儘で、頭悪くて、役立たずだから・・・。」

タケシは悩んだ。残酷なことを言えば、どうしようもないと言うしかない。ジム戦に来た時から、スミレとヒマワリの関係は歪に見えた。スミレがヒマワリを見る目が、あまりに無感動だったからだ。そして今だに、その関係に僅かなりとも変化は見られない。ここから発展させようにも、かなり難しいと考えた。

「なぁヒマワリ、お前どうしてスミレにそこまで着いていこうとするんだ?アイツ結構冷たいぜ?」

サトシが疑問を呈すると、カスミも同じ疑問があったか首を勢いよく上下に動かした。

「ヒマは、少しだけ知ってるんだよ。今のスミちゃんになる前のスミちゃんのこと・・・。優しくて、お姉さんみたいで、いつも笑ってた。本が大好きで、いつも遊んでるヒマたちを少し遠くから見守ってた。でも、2年前くらいに偉い人がいる、ヒマたちがいないスクールに入ってから、すごく嫌なことがあったみたいで、笑わなくなって、冷たくなっちゃった。怖かったの・・・スミちゃんが、何処か遠くに行っちゃうんじゃないかって・・・。もう、戻ってこないんじゃないかって・・・・。だから、4人も旅に出れるって聞いてヒマは頑張ったの。スミちゃんと一緒に旅に出て、一緒に冒険して、友達になろうって。」

「うぅむ、気持ちは分からんでもないが・・・スミレからしたら傍迷惑な杞憂だろうな。」

タケシはそれがスミレにとって迷惑なことだと言い、ヒマワリは更に項垂れる。

「なぁ、オレ思うんだけどさぁ。」

サトシが不意に声を上げた。

「何よ。適当な事言ったら許さないわよ。」

カスミがすかさず釘を刺す。

「違うって・・・。スミレとバトルすればいいんじゃないか?バトルして、思いを全部ぶちまける。ぶつかんなきゃ伝わらない事だってあるだろ?」

「「「・・・・」」」

タケシ、カスミ、ヒマワリが一斉に黙る。

「・・・な、なんだよ・・・。」

サトシが予想外の反応に狼狽える。

 

「サトシ・・・お前、まともな案が出せたんだな・・・・。」

「タケシの言う通りよ・・・アンタ、偶にはいい事言うじゃない。」

「何だよ・・・オレだって普通に考えれるっつーの!」

タケシとカスミがかなり失礼な感嘆を漏らし、サトシは拗ねる。

対するヒマワリは、目元を真っ赤に腫らしたまま満面の笑顔を浮かべ、興奮気味に言った。

「それだよ!!スミちゃんと戦って、ヒマの気持ち全部言う!そしてスミちゃんの気持ちも全部聞く!!ヒマはまだ、スミちゃんと旅したいから!!!!」

 

「じゃあ、ヒマワリはまずジム戦に勝たなきゃな。・・・サトシも、だが。」

タケシが笑いながらそう言うと、サトシとヒマワリは明後日の方向を向いた。・・・対策など、考えて無かった。

 




ありがとうございました。ここでサトシが一時的に合流しました。後に絡ませたいエピソードがあったからです。
サトシのジム戦リベンジまでの時間がアニメより長くなってます。

ヒマワリがスミレに着いてきた理由、予定より早く出しました。
スミレの心象は悪いですが、ヒマワリが無理矢理着いてきた事でBADENDルートがかなり減ってるので一応ファインプレーではあります。

感想、高評価、お気に入り登録等よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。