ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第150話 予選リーグ決勝戦 スミレvsユウジ

 ふぅ、とスミレは息を吐く。誰も聞かないその溜め息は、虚空に溶けて消えてゆく。

(……勝てるかな)

一抹の不安が頭を過り、ふと自らの左の掌を見つめるとその掌は震えている。

「いや、勝つ……。私は、勝ってみせる…………」

震える左手を強く握り締め、もう一度大きくため息を吐く。

『さあそれでは、あと5分で決勝戦!ユウジ選手対スミレ選手の試合が始まります!さあ、観客の皆さんは早めの入場をお願いします!!そして、両選手は入場準備をお願いします!!!!』

「行こう」

アナウンスを聞いたスミレは呟きズボンで手汗を拭うと、大きく息を吸って頬を叩く。

「スミレさん、リラックスですよ」

背後から声が聞こえ、目線を背後に向けるとそこにはエリカが立っている。リーグ12で解説をしていた筈だが、今は時間差開始のため時間があるらしい。見に来ているのは知っていたが、声を掛けてくれるとは思わず、少し安心したのかホッと息を吐く。

「……エリカさん」

「ユウジさんは強いトレーナーですが、今の貴方に勝利は可能です。だから、貴女が積み上げてきた努力とポケモン達の底力を信じて挑みなさい」

そう言ってスミレの頭を撫でるエリカに、スミレは顔を綻ばせて頷いた。

『さあ、両選手入場!!』

「……いってきます!」

「ええ、いってらっしゃい」

笑って手を振るエリカを背に、スミレは一歩会場へと踏み込んだ。

『さあ、ここが正念場!リーグ8の決勝戦になります。バトルするのは安定した強さで勝ち上がってきたベテラントレーナー、ユウジ選手!それに相対するは初出場ながら怒涛の進撃を見せた期待の新星、スミレ選手!!予選リーグ決勝は、再びヤマブキジムのジムリーダー、ナツメさんと共にお送りいたします!ナツメさん、改めてよろしくお願いします』

『よろしくね』

浴びる歓声は何処か心を浮つかせる。観客の中に、サトシやその母親の姿を見た。両親の姿を見た。……そして結果こそスミレは知らないものの決勝戦でホウセンと戦った筈のシゲルの姿は、どこにも見えなかった。

『さあ、この試合をどう見ますか?ナツメさん』

『そうね。ユウジ選手は安定した立ち回りを得意とするトレーナーよ。特化戦術に比べて目立った強みもないけど、リスクは少ないから自滅はしにくい。そんな万能型のトレーナーよ。対するスミレ選手もまた、万能型。ただ、ポケモンごとにスタイルを特化させているから、3対3だと特に、使用ポケモンによって戦術が偏るのが特徴ね。スミレ選手の変幻自在な戦術に、ユウジ選手がどう対処するのか。そこが試合の大きな鍵になると思うわ』

「そうだよね。非常に苦労しそうだ」

そう言って笑うユウジは、とても楽しそうに笑っていた。まるでこれから予測されるあらゆる困難が、楽しみで仕方ないと言わんばかりに。暗めなスーツに身を包んだ真面目そうな中年男性がそんな表情を浮かべるものだから、スミレは驚きに目を見開く。

「……楽しそうですね」

「楽しみさ。勝っても負けても、強いトレーナーとこうして戦えるのが嬉しいんだよ」

「決勝戦なのに、気楽な人ですね」

どこか棘のあるスミレの言葉に、ユウジは思わず苦笑する。

「バトルは楽しんだ方がお得だろう。楽しめなければ、ただ追い詰められるだけじゃあないか」

「私は、まだそうはなれません」

「なら、これからさ」

笑うユウジと緊張を含んだ表情のスミレは視線を重ねると、それぞれコートの外にあるトレーナーが立つスペースに移動する。今回のフィールドは、氷。凍りついた地面に氷柱が幾つも立っている、滑りやすく速度が出しにくいフィールドだ。

「これより、ユウジ選手対スミレ選手の試合を始めます!使用ポケモンは3体、それでは1体目を出してください!!」

「さあ、行こうか。ガルーラ」

「……仕事の時間だよ、バタフリー!」

ユウジが呼び出したガルーラに対して、スミレが出したのはバタフリー。ここからは、一切の出し惜しみを捨ててゆく。

「ガルーラ、【ねこだまし】」

「!?」

だが、初撃を決めたのはガルーラであった。ガルーラは高く飛び立とうとしていたバタフリーの眼前で両の掌を力強く打ち合わせ、バタフリーは技の追加効果でひるみ、動きが止まる。

「追撃だ、【ほのおのパンチ】!」

そして動きの止まったバタフリーの腹に【ほのおのパンチ】が減り込み、バタフリーは背後にあった氷柱に叩きつけられ、砕け散る氷柱と共に墜落する。

「……ッ、まだ負けてない!バタフリー、飛び立て!!」

スミレの叫びで起き上がったバタフリーは、ガルーラによる近接攻撃の届かない上空へと舞い上がる。

「ガルーラ、【10まんボルト】!」

ガルーラの全身から閃光が迸り、放たれた電撃がバタフリーに迫る。

「躱していつもの!」

それを身軽に躱したバタフリーは、【しびれごな】を【かぜおこし】で操り、ガルーラに麻痺を与える。

『流石は決勝、たった数秒で凄まじい攻防だー!!』

『ユウジ選手の【ねこだまし】コンボは凶悪ね。遠距離攻撃も搭載していて、対応力が高くなるように設計されているわ。対するスミレ選手もリカバリーが上手いわね、技の組み合わせによってより強力な効果を生み出し、" いつもの " と技名をぼかすことで考察に僅かでも思考を裂かせている』

「ガルーラ、【10まんボルト】を撃ちまくるんだ」

「バタフリー、飛び回って【はかいこうせん】」

攻撃を受けないよう飛び回るバタフリーに対してガルーラは【10まんボルト】を放ち、四方八方に放たれた電撃がバタフリーを狙う。しかしそれを器用に空中を舞うことで躱しつつ、【はかいこうせん】を放った。それはガルーラの額を打ち、ガルーラはその巨体をゆらめかせる。

「反撃だ、【ほのおのパンチ】!」

ガルーラが一瞬で復帰して【ほのおのパンチ】を放つも、【はかいこうせん】の反動を利用して離脱したバタフリーには届かない。

「追撃お願い、【サイケこうせん】」

そしてガルーラの拳が届かない場所から、バタフリーは【サイケこうせん】を放つ。その一撃が当たったのは喉元、呼吸器への狙撃で、ガルーラは思わず咳き込んだ。そして【サイケこうせん】を放ちながら突っ込み、光線が変える瞬間に喉元に体当たりをして、ガルーラは再び息を詰まらせる。

「ガルーラ!?」

「畳み掛けて!【はかいこうせん】!!」

そして追撃の【はかいこうせん】。閃光が無抵抗なガルーラを焼き、バタフリーは反動で離脱する。

『バタフリーの猛攻!ガルーラを翻弄しています!!』

『……中々の隠し玉を出してきたわね。バタフリーは、ガルーラの弱点を的確に狙撃している。ガルーラの現在出された技は【ねこだまし】、【ほのおのパンチ】、【10まんボルト】。一度バタフリーに大きな一撃を与えているけど、残る技がなんであれバタフリーを捉えられなければ負けるだけよ』

「分かってるさッ……!ガルーラ、戻れ」

その戦術に対してユウジが選んだのは、撤退だ。

『ユウジ選手、ここでガルーラを戻します』

『当然ね。打開策がなければただの獲物だわ』

「……バタフリー、準備お願いね」

「フリィッ!」

スミレの声掛けに、スミレの側へと戻っていたバタフリーは頷く。

「さあ、行ってこい!ポリゴン!!」

ユウジが続いて出したポケモンは、ポリゴンだ。

「バタフリー、いつもの!」

それを視認するや否や、スミレは指示を飛ばしてバタフリーは高く舞い上がると、【かぜおこし】に【しびれごな】を混ぜて放った。

「……いきなり来るね、躱して【ロックオン】!」

しかしそれを躱したポリゴンは【ロックオン】を発動し、バタフリーに狙いを定める。

「戻ってバタフリー!お願い、ニドキング!」

対するスミレはバタフリーを戻し、ニドキングを選出する。ポリゴンが【ロックオン】を使えば、その次に来るのは大抵が【でんじほう】だ。つまり、じめんタイプを持つニドキングならば、その高火力を完全に無効化できるのである。

「成程、ニドキング……。なら、飛んで【トライアタック】」

「【ベノムショック】!」

ポリゴンはじめん技を防ぐために空中へと飛び上がると【トライアタック】を発動、3つの閃光がニドキングを焼く。対するニドキングは【ベノムショック】で反撃、毒の液をまともに食らい、ポリゴンは高度を下げる。

「【まもる】」

「【じしん】」

ニドキングが【じしん】のエネルギーを纏った拳をポリゴンに向かって叩きつけるが、ポリゴンは【まもる】によって全身をバリアで覆うことで防ぐ。

「戻れ、ポリゴン」

「戻って、ニドキング」

それを見た両者は、交代を選択。

「頼むぞ、ガルーラ」

「勝っておいで、バタフリー」

そして再び、最初に出てきた両者が場に揃った。

「ガルーラ、【ねこだまし】からの【ギガインパクト】」

「【ねこだまし】は受けて【はかいこうせん】」

ガルーラが再び放つ【ねこだまし】によってバタフリーは動きを鈍らせ、続いて【ギガインパクト】を放つ。だが、麻痺によりガルーラの動きは鈍っており、更に一度その攻撃を受けて学習しているバタフリーは流石に復帰も早く、【はかいこうせん】を照射しながら離脱した。ガルーラの【ギガインパクト】はバタフリーの体を掠め、バタフリーは表情を歪めるが直撃はしていないのが幸いだ。

「…………やるね」

「っふぅ……!」

穏やかな笑みを浮かべスミレを讃えるユウジに対して、スミレは緊張を緩めるためにした深呼吸でしか返せない。

(なんだいこの新人??サトシ選手といいシゲル選手といい、今年の初参戦組はどの子もかなりの逸材だ。……思ったよりキツイが、中々に楽しいな)

(なんかちょっと腹立つなぁ。場数の違いがあからさますぎるッ……!)

初参戦トレーナーらしからぬ強さに内心戦々恐々とするユウジの反面、スミレは場数の違いから来るユウジの余裕に対して眉を顰める。

「ガルーラ、【10まんボルト】!」

「バタフリー、【サイケこうせん】」

放たれる電撃のうち、直撃しそうなものを【サイケこうせん】で防ぎながらバタフリーは飛び回る。

「【ほのおのパンチ】!」

「【かぜおこし】」

ガルーラがその巨体を揺らして突進、燃える拳で殴りかかるが、それを躱したバタフリーは【かぜおこし】を放ち、烈風がガルーラの体に叩きつけられた。そしてバタフリーは自らが放った風を受けて更に高く舞い上がる。

「……キツイな、これは」

「畳み掛けて!【はかいこうせん】!」

「しゃがめ!!」

バタフリーが放った狙撃は、ガルーラが頭を下げたことで躱され、その額があった空間を切り裂いて地面に着弾する。

「……避けられた!?」

「まだだ……!ベテラントレーナーとして、簡単に負けてやるものか!!……ガルーラ、イチかバチか、アレやるぞ!!【ギガインパクト】!!!!」

「…………何か来るっ!」

スミレが叫ぶが、それよりも速く。ガルーラが両腕を振りかぶって前に突き出すことで【ギガインパクト】が虚空に放たれ、離れた場所を飛んでいたバタフリーが吹き飛ばされると、壁に勢いよく叩きつけられた。スミレは呆然とした表情で、背後を見る。バタフリーは無事だが、あと一撃を受ければ倒れるほどに満身創痍になっていた。

『な、なんだアレは!?【ギガインパクト】を何もない空間に放ったら、バタフリーが吹き飛んだぞー!?』

『成程ね』

「……まさか」

驚愕の叫びをあげる実況者とどよめく観客を他所に、スミレとナツメはその正体に気がついた。

「そうだ。……【ギガインパクト】を空間に放って、その衝撃波を利用して空気砲にしたんだよ。まぁ、私らはまだ発展途上でね。まだ20回やって1回成功する程度の練度だけどね」

あっさりと解説するユウジにスミレは眉を顰めるが、ガルーラが地響きを立てて倒れ込んだことでその疑問は氷解した。ガルーラは、バタフリーの急所狙撃を受け続けてもはや限界だったのだ。

 

「ガルーラ、戦闘不能!バタフリーの勝ち!!」

ガルーラの戦闘不能を告げる審判の宣告が下り、スミレは大きく息を吐いた。

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