ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
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翌日。ポケモンリーグの決勝トーナメントに参加するため、スミレは再びリーグ会場を訪れていた。昨晩まで全身を襲っていた疲労もすっかりと取れ、しかし激しい緊張にスミレはため息を吐く。
「やっほ、スミレちゃん」
そんなスミレを見かねたか、居ないと思っていた声と共に誰かがスミレの肩を叩く。
「ヒマワリ……。来てたの?」
「うん。またすぐに出るけどね。自分でやらかしたとはいえ、後始末はほんっと大変だよー。警察の捜査も手伝わなきゃいけないし、トレーナーさん達の元を回っては説明して謝ってを繰り返してさ」
げんなりとした様子で腕を回すヒマワリだが、その表情にはかつてのような陰はもうない。
「試合結果は知ってる?」
「うん、それで来たんだよ。決勝リーグ出場おめでとう!……それと、シゲルからの伝言を伝えにさ」
ヒマワリの言葉に、スミレは思わず首を傾げる。
「私たちに合わせる顔がない、みたいなことは言ってたらしいのは聞いたけど」
「うん。マサラにちょっと戻った時に落ち込んでたからちょっと話してさ。……シゲル、研究所でポケモン達を鍛え直してる」
「そ。折れてないなら良かった。ヒマワリも、鍛えておきなよ。……私達4人にとっての再出発は、きっとここじゃない。4人が揃って出場するだろうジョウトリーグが、ひとつの節目だと今の私は思ってる」
スミレの考えに、ヒマワリは首肯した。どうやら、ヒマワリもまた同じ考えであるらしい。
「わかってるよ。……今は、護衛に連れてるカゲちゃん以外はシゲルのポケモンに混じって鍛えてる」
「そっか。なら大丈夫」
スミレは、安心したように笑う。
「……分かってると思うけどね。例え節目がここじゃなくても、全力で頑張って。ああ、あとさ。本人達は嫌がるかもって言ってたけど。スミレちゃんのお父さんもお母さんも、スミレちゃんのことちゃんと褒めてたから」
「心配要らないよ。……あんなに凄い人達を超えて、私はここに居るんだから。そっちも、態々ありがと」
ヒマワリの忠告にスミレは苦笑しつつスミレは返した。流石に、先を意識して態と負けるとかそういうことはしない。
「じゃ、わたしはそろそろ行くよ」
「うん。またね」
2人はそうして別れた。昔とは違う、穏やかなままに。
◾️◾️◾️◾️
『さあ、お待たせ致しました!!カントーリーグ、セキエイ大会決勝リーグ!!!!16もの予選リーグを勝ち上がった全16名が、この会場で覇を競います!!』
実況の声の中、スミレは一歩会場へと踏み込んだ。すると万雷の喝采が降り注ぎ、スミレの胸は激しく高鳴る。周りを見れば、他の決勝リーグ出場者がそれぞれの速度で、コートの中心へと向かっていた。
『ここで、決勝トーナメント出場選手を、改めてご紹介致しましょう!……まずは、トリッキーな戦術とポケモンとの絆で勝ち上がって参りました!!明るい笑みには、ポケモンへの信頼が宿っている!!リーグ1優勝者、サトシ選手!!!!』
「凄いなぁ、ピカチュウ」
サトシは興奮冷めぬ様子で観客へと笑顔で手を振りながら、コートを歩く。
『続いて……。対策すらも吹き飛ばすバトルスタイルには、確かな経験と知識が宿っている!!上位常連ながらいつも惜しいところで阻まれてきた悲運の老紳士は、優勝を勝ち取ることができるのか!?リーグ2優勝者、スズキ選手!!!!』
「悲運と言われていますな。…………此度は、勝ちましょう」
スズキは、穏やかに笑って帽子を被り直す。
『その漢気は超新星すらも打ち砕く!進むは真っ直ぐ、己を貫く道の先に、勝利の女神は微笑むのか!?リーグ3優勝者、ホウセン選手!!!!』
「よっしゃあ!獲りに行くぞ!!」
ホウセンは堂々と拳を天に突き上げ、歓声が上がった。
『進化なんて関係なし!小さくとも確かな強さは、巨大な敵をも打ち破る!!リーグ4優勝者、ヒロシ選手!!!!』
「……す、凄い人」
サトシに似た格好、しかも肩にピカチュウを載せた少年が、緊張した面持ちで手を振った。
『ポケモンセンターのジョーイさんも、今日はバトルで大暴れ!!リーグ5優勝者、フユコ選手!!!!』
「うふふふふふ」
ジョーイの格好をした30代くらいの女性が、穏やかに笑って手を振った。
『雨垂れ石を穿つ!積み上げた確かな努力で、少女は優勝を掴めるか!?リーグ6優勝者、ユウキ選手!!!!』
「……お願いします!」
チャイナ服を纏った少し歳上くらいの少女が、立ち止まると真剣な表情で礼をする。
『その戯けた笑みの下には、確かな実力が宿っている。カントーリーグのトリックスターは、予定調和を掻き乱せるか!?リーグ7優勝者、リング選手!!』
「クックックック……楽しみですねぇ」
派手な衣装とメイクに彩られたピエロの男が、怪しげに笑いながらジャグリングを披露した。
『その確かな戦略は、積み上げてきた努力の証!クールな瞳に、勝利の方程式は映っているのか!?リーグ8優勝者、スミレ選手!!!!』
「…………」
スミレは少し立ち止まって小さく会釈すると、すぐにまた歩き出す。
『熱血教師、ここに参戦!!培った知識と強さで、相手に敗北を教えることはできるのか!?リーグ9優勝者、エンブ選手!!!!』
「お前達ィー!!見てるかー!!!!」
スーツ姿の男が、観客席に向かって叫んだ。
『狡猾に、強かに、だがそれもまた強さのひとつ!忍び寄る暗殺者が、敵の喉元に喰らいつく!!リーグ10優勝者、クロウ選手!!!!』
「……うるさっ」
全身を黒っぽい服で纏め深くフードを被った長身の男が、嫌そうな表情でボソリと呟く。
『女も度胸、掴むは勝利!地に足付けて、正統派トレーナーがここまでやって来た!!リーグ11優勝者、サユリ選手!!!!』
「頑張りましょ、みんな」
20代前半くらいの女性が、緊張した面持ちで腰のボールに呼び掛けた。
『絶えない知識は、ポケモンへの愛の証!重くて強い重戦車使いが、今年も登場!!リーグ12優勝者、カズオ選手!!!!』
「ふへへっ……。ヲタクですからなぁ」
小太りの男が、額の汗を拭いながら笑った。
『厳しい道を踏破する、バトルも登山も同じこと!自然と向き合い、ポケモンと向き合う山男の底力を見せつけられるか!?リーグ13優勝者、クラモチ選手!!!!』
「はっはっは」
いかにも山男、といった装いの大男が、高笑いをあげる。
『エリートとは、強くなければなれないから!エリートとしての誇りを胸に、確かな実力者は決勝へと挑む!!リーグ14優勝者、ケンタロウ選手!!!!』
「プレッシャー掛けるな本当に」
16程の青年が、苦笑いを浮かべてため息を吐く。
『ベテラントレーナーの称号は伊達でない!冷静な判断と安定した実力で、難攻不落の壁となる!!リーグ15優勝者、ジン選手!!!!』
「悪くない」
ヨレヨレの服にコートを纏い、まるで浮浪者のような無精髭の男が、表情を変えずにボソリと呟いた。
『ギャルだって戦いたい!軽い態度に似合わず、その強さと努力は軽くない!!リーグ16優勝者、リカ選手!!!!』
「へぇ、アタシってそんなふうにしょーかいされるんだ」
学生服に身を包み、しかし派手に全身を彩った少女が、ニヤリと強気な笑みを浮かべた。
『……以上16名が分けられ、トーナメント形式でバトルを行います!試合形式は第1試合が3対3、2回戦以降は6対6のフルバトルとなっております!!それでは、こちらで行わせて頂きました抽選の結果を表示致します!!!!』
実況の声と共に、会場の巨大なモニターにトーナメント表が映し出される。
1回戦 サユリvsクラモチ
2回戦 サトシvsヒロシ
3回戦 リングvsエンブ
4回戦 ジンvsカズオ
5回戦 スミレvsユウキ
6回戦 スズキvsリカ
7回戦 フユコvsクロウ
8回戦 ホウセンvsケンタロウ
「…………成程」
スミレは、トーナメント表に眉を顰めた。1回戦で戦うユウキは強敵だがまだ良い、苦戦は必至だが勝ち目は無くもない。しかし、そこを上がってぶつかるのは、あのスズキだ。とはいえ、どの場所に入ったとしても強敵にぶつかる為、受け入れるしかない。
(……ユウキさんは、異名持ち個体のトレーナー。きっと、ここで出してくる)
シゲルが打ち破ったバスターラットと同じような、強さから異名を付けられたポケモン。その異名持ちを、ユウキは持っている。
「まずは1勝、だね」
スミレは呟き、腰のボールが揺れた。
そして、カントーリーグ決勝トーナメントが始まる。
◾️◾️◾️◾️
第1試合、サユリvsクラモチ。サユリの1番手はモルフォン、クラモチはゴローニャだ。このバトルはモルフォンによる空中からの攻撃で消耗し、毒の状態異常を受けながらもゴローニャの【うちおとす】からの【まるくなる】、【ころがる】のコンボで打ち破ってゴローニャの勝利。続くサユリの2体目はフシギソウ。フシギソウは【ギガドレイン】で体力を吸収しながら攻撃を耐え抜き、毒と吸収でゴローニャの体力が尽きたためにフシギソウの勝利。クラモチの2体目はオムスター。しかしこの勝負は、変幻自在の触手と耐久力に苦戦しつつもタイプ相性と【ギガドレイン】でゴリ押したフシギソウの勝利。しかしフシギソウは3体目としてクラモチが呼び出したイノムーに倒され、数は互角に。サユリは3体目にドククラゲを呼び出すと、遠距離での激しい射撃戦を展開。しかし鈍足さとタイプ相性が仇となりイノムーは倒れ、サユリが準々決勝へと駒を進めた。
そして、第2試合。サトシvsヒロシの試合だ。
『さあ、決勝リーグ1回戦第2試合、サトシ選手対ヒロシ選手!どちらも肩にピカチュウを乗せ、似たようなポケモンを使用するスタイルですが解説のエリカさん、どうでしょう?』
『そうですね。サトシ選手もヒロシ選手も、戦術の肝となるのは素早さでしょう。素早く行動し、相手を自分のペースに巻き込む。小型のポケモンを多く使う場合は、それが基礎戦術になります。実際にヒロシ選手は、素早さを活かした高速機動で相手を倒してここまで登ってきたのですから。しかしサトシ選手の場合はベトベトンのような待ちを得意とするポケモンやキングラーのような移動砲台もあります。そのバリエーションを、ヒロシ選手は打ち破れるのか。そこに注目といった所ですわね』
「サトシ君、よろしくね」
「ああ。こっちこそよろしくな」
両者は笑い合うと、同時にボールを構える。
「それでは、サトシ選手対ヒロシ選手のバトルを始めます!使用ポケモンは3体、制限時間は無制限!それでは1体目!!」
「頼むよ、パピー!!」
「ゼニガメ、キミに決めた!!」
サトシの1体目はゼニガメ、対するヒロシはパピーと渾名の付けられたバタフリーだ。
「バトル開始!!!!」
その宣告が下ると同時に、サトシは鋭く息を吸った。
「ゼニガメ、【ハイドロポンプ】で押し流せ!!」
「パピー、【しびれごな】……!?」
ゼニガメは全身を甲羅に収めると高速で回転、隙間から吹き出す激流が、空から舞い落ちる【しびれごな】を捉えて押し流す。
「風で飛んで来ないならやりやすいな」
「…………成程ね」
サトシはニヤリと笑みを浮かべ、ヒロシは意味を理解し冷や汗をかく。
「ゼニガメ、【みずでっぽう】!」
「パピー、【サイケこうせん】!」
ゼニガメが甲羅から顔を出して放つ水流を、バタフリーが放つ光線が迎え撃った。
「もう1発!!」
「迎え撃て!!」
爆発の中、すぐさま追撃に入ったゼニガメをバタフリーはもう一度迎え撃ち、更なる爆発が空中を彩る。
「転がれ!!」
爆煙が上がる中、サトシの指示でゼニガメは甲羅に潜り、地面を素早く転がり始めた。
「くっ……!【かぜおこし】!!」
「無視しろゼニガメ、【ロケットずつき】!!」
爆煙と素早く不規則な動きに翻弄されるバタフリーに、ヒロシは【かぜおこし】を指示する。放たれた烈風が爆煙を吹き飛ばしてゼニガメに迫り、しかしゼニガメは光を纏って跳び上がると、烈風の中に迷わず突っ込んだ。烈風を引き裂く白い流星が、バタフリー目掛けて駆け上る。
「攻撃中なら……避けられないよな!!」
「ゼニィー!!!!」
ゼニガメは勢いそのままに空を駆け登ると、バタフリーの胴体に頭突きを減り込ませた。そのまま墜落してゆくバタフリーを他所に、ゼニガメの体は浮き上がる。
「ゼニガメ、【ハイドロポンプ】で落ちろ!!」
サトシは強気に笑って叫んだ。ゼニガメは空中で体勢を立て直すとそのまま甲羅に籠り、回転を始める。
「不味いッ……!【サイケこうせん】で迎え撃って!!」
バタフリーは墜落しながらも【サイケこうせん】を放つが、水流に阻まれ届かない。むしろ撃ち落とせなかった水流がバタフリーを更に押し流し、地面へと叩きつける。
「……決めろゼニガメ!!」
サトシの言葉で、ヒロシはハッと目を見開いた。
(……不味い、これは2連撃じゃない!!)
「パピー、逃げろ!」
その言葉でハッとしたバタフリーがふらつきながらも脇に飛び退くと、水流を放ち、回転しながら落ちてきたゼニガメがバタフリーが飛び退く前に居たその場所に、凄まじい勢いで突っ込んだ。土煙と衝撃波が弾け、ヒロシは思わず腕で顔を覆う。
(水流で加速して、甲羅で体当たり。……これが3撃目!)
本来の世界なら、サトシとポケモンはロケット団の襲撃で疲弊していた。だからこそ本調子が出せなかったのは敗因のひとつであった。しかし、この世界では事情は違う。ミュウツー関連の事件で手柄を立てたロケット団の3人組はボーナスもたんまり貰い、精神的に余裕があった。そして共闘経験が、本来の世界線よりも仲間意識を育てていた。今の彼らは、会場でアルバイトをしながら呑気に試合を眺めている。よって、本来あった筈の襲撃は存在せず、この歪んだ世界のサトシは本来よりも己の無力を知り、世界の醜さを知り、そして強くなっていた。
「避けられると思わなかったぜ。でも、最後はオレが勝つ。……さあ、ヒロシ。バトルしようぜ!」
ヒロシが見たサトシの瞳は、まさに燃える炎。そしてその表情は、全力でバトルを楽しむ少年のそれだった。純粋に、ただ真っ直ぐに。戦略が鍛えられても、世界を知っても。サトシの本質が変わることは決してない。夢に向かって真っ直ぐに突き進む、開拓者たる子供のままなのだから。
(……凄いなぁ。でも僕が憧れたのは、そんな君なんだ)
偶然同じようなポケモンを持っていて、導かれるように広いリーグの中で出会って、仲良くなって。迷子の子供を笑って助けるサトシの姿を見た。同じような少年が、自分よりも一歩進んでいる姿を見た。だから、ああなりたいと思った。困っている誰かに誰よりも先に手を差し伸べられる優しさも、こうして自分の育て上げたポケモンをアッサリと追い込む強さも。
「だから、ここで君に勝ちたい。僕が、君に並んだと胸を張れるように」
「……?」
不思議そうに首を傾げるサトシに、ヒロシは額の汗を乱暴に拭うと強気な笑みを浮かべた。
「さあ、サトシ!!まだ僕らは負けてないよ!!!!」
精一杯の虚勢と、必ず本当にしてみせるという決意を込めて放った叫びに、サトシはまた。闘志に燃える目と少年らしい笑みを浮かべて、ヒロシの虚勢を決して嗤わずに。
「ああ!やろうぜヒロシ!!」
真っ直ぐに、迎え撃った。
「パピー、【サイケこうせん】!!!!」
「ゼニガメ、【みずでっぽう】!!!!」
両者の攻撃が、再び激突した。
設定しといてアレだけど、モブキャラ濃いな