ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第156話 フシギバナ、出撃

 サワムラーによるゲンガーの瞬殺。それを受けたスミレは、迷わずそのボールを取った。

「任せるよ、フシギバナ」

呼び出したのはフシギバナ。飛び出したフシギバナに、ユウキは視線を尖らせる。

「……技の相性不利は承知の上、ということですか」

「はい」

「成程、良いでしょう。……サワムラー、戻りなさい」

ユウキは、あっさりとサワムラーをボールに戻した。スミレは、眉を顰める。

「戻すんですか?」

「ええ。そのフシギバナ。貴女の今まで出てきたポケモンの中でも、恐らくは最強と見ました。態々サワムラー相手に出してきたということはフシギバナこそが貴女の最大の切り札。……ならば、この対戦は最後まで取っておくべきと判断した次第です」

「……成程、それなら。フシギバナ、戻って」

ユウキの理由に頷いたスミレは、フシギバナをすぐにボールへ戻した。

「ほう、ではそのフシギバナが最強と認めるのですね?」

「はい。……あのフシギバナが私の相棒、そして手持ちでも最強のポケモンです」

ユウキの疑問に、スミレは心なしか胸を張って答える。隠すものでもないといったような態度に、ユウキは新たなボールを構えたまま口元を綻ばせる。

「ならば、もう1体を倒して引き摺り出して差し上げましょうか。……ヘラクロス、お願いします!!」

「行こう、ニドキング」

続いてユウキが出したポケモンはヘラクロス、対するスミレはニドキングであった。

「【ミサイルばり】!」

「【ベノムショック】で防いで」

ヘラクロスのツノから無数の針が光となって放出され、空中で分岐しながらニドキングに迫る。しかしニドキングは自身の眼前に毒液を放出することで針を溶かして攻撃を防ぐ。

「【メガホーン】」

「【メガホーン】」

ヘラクロスが翅を広げて、ニドキングはどっしりと地を踏みしめて。互いに自慢のツノを輝かせると、それを空中でぶつけた。衝撃波が辺りに広がり、ニドキングの踏みしめる地面に亀裂が生じる。

「ヘラクロス、追撃の【ミサイルばり】です」

「尻尾で跳ね飛ばして」

ニドキングの尻尾がヘラクロスの腹を打ち跳ね飛ばし、【ミサイルばり】の発動を阻止する。

「……ッ、飛んでください!」

ふと、嫌な予感に身震いをさせたユウキが慌てて指示を飛ばした。ヘラクロスがそれを信じて飛び上がった瞬間に、地面を凄まじい振動が襲った。見れば、ニドキングが拳を地に叩きつけている。【じしん】だ。

「不意打ち失敗……。【ベノムショック】」

スミレの追撃指示で放たれた【ベノムショック】がヘラクロスに命中し、ヘラクロスは撃ち落とされる。

「まだです!【ミサイルばり】を放ちながら接近してください!」

しかしヘラクロスはすぐに立ち上がると【ミサイルばり】を発射、ニドキングは顔を腕で覆い防御すると、全身に攻撃が突き刺さる。

「グゥ……!」

ニドキングが鬱陶しそうに表情を歪めるが、ヘラクロスは既に目の前まで接近していた。

「ヘラクロス、【けたぐり】!」

放たれたのは【けたぐり】。事前情報には無かった技だ。重いポケモンにより大きな効果を発揮するこの技で、ヘラクロスはニドキングを蹴り飛ばした。

「ニドキング、【じしん】!」

蹴り飛ばされて倒れ込んだニドキングだが、倒れた体勢のまま苦し紛れで【じしん】を放つ。それをヘラクロスは簡単に躱すが、ニドキングはその間に立ち上がる。

「やはりお強い。……ですが、そちらのニドキングは特別な個体のご様子。育ちの良いニドキングはより強く、より重く、それ故に【けたぐり】がよく刺さります」

「……群れのボスという立場が、むしろ弱点になってるってことですか?」

「ええ。正確には、強みを弱点にしたというだけですが」

「確かにそうですね。ニドキングが特別であることは、何も悪いことじゃない。貴女が一枚上手なだけです」

スミレのその言葉は、ユウキに向けたものか。それとも、ニドキングに向けたものか。

「その通り。たとえ弱味になったとしても、ニドキングのその強さはむしろ誇るべきものでしょう。ただ単純に、私が対応できただけの話です」

「…………一枚上手、ねぇ」

スミレは、自分自身の言葉を反芻した。一枚上手と言うのは実力か、人格か、それとも両方か。だが、それは今どうでも良いことだった。スミレは、鋭く息を吸った。

「ヘラクロス、【ミサイルばり】」

攻撃の気配に、ユウキは素早く指示を飛ばした。【ミサイルばり】が幾千もの光となって飛来する。

「【ベノムショック】」

しかし毒液で迎撃して相殺すると、ヘラクロスが一気に接近する。

「【メガホーン】!」

「【かわらわり】」

ヘラクロスはツノを繰り出し、ニドキングの脇腹に鋭い一撃を決める。だが、反撃の手刀がヘラクロスの頭に叩き込まれ、ヘラクロスを叩き落とした。

「飛んでください!」

「【じしん】」

飛び上がったヘラクロスに対してニドキングは【じしん】のエネルギーを纏った拳を突き出した。攻撃をまともに食らったヘラクロスは吹き飛ばされてなんとか着地するが、ダメージに膝をつく。

「ヘラクロス!」

「ニドキング、【どくづき】」

声を掛けるユウキを他所にニドキングは拳に毒のエネルギーを纏わせヘラクロスに迫る。

「受けてください!」

その指示に、スミレは目を見開いた。すぐに攻撃を中止させようとするが、ニドキングの重く素早い拳は既にヘラクロスにめり込んでいた。ヘラクロスは痛みに表情を歪めながらも笑みを浮かべ、ニドキングは攻撃を当てたにも関わらず、悔しげに表情を歪めている。

「……これは」

「ヘラクロス、【リベンジ】!」

【リベンジ】。それは、相手の攻撃を受けた直後に放つと威力が底上げされるという技だ。そしてニドキングはヘラクロスに近接攻撃を決めた直後、逃げ場はない。激しいエネルギーを身に纏ったヘラクロスが突進すると、跳ね飛ばされたニドキングの巨体は宙を舞ってフィールドに叩きつけられた。

「ニドキング!」

「ヘラクロス、【けたぐり】!!!!」

ヘラクロスの重々しい蹴りが、立ち上がったニドキングの腹に減り込んだ。ニドキングの意識が明滅し、屈強な脚が震える。

「…………ニドキングッッ!!」

「グゥゥゥ、アァァァァァ!!!!!!」

スミレの叫びに応えるように、ニドキングは血を吐かんばかりの叫びを上げて拳を振るった。【じしん】を纏った拳はヘラクロスを容易く吹き飛ばし、しかしそこから一歩も、前に出ることはできなかった。

 

「ニドキング、戦闘不能!ヘラクロスの勝ち!!」

『ヘラクロスがニドキングを撃破、スミレ選手、追い込まれたァ!!』

『ニドキングの特別性が、悉く自分の首を絞めたな。通常のニドキングよりも重いからこそ【けたぐり】のダメージをより受けた。強いからこそ攻撃を当てられ、逆に【リベンジ】で手痛い反撃を受けた。スペックだけならニドキングが勝っていたのかもしれねぇが、このバトルでは相手の対策に綺麗に嵌まっちまった。研究と対策で上がってきた奴が、準エース格を研究と対策で落とされるってのは中々に因果なもんだ』

「くっ……、ごめんニドキング」

スミレは、表情を歪めてニドキングをボールに戻す。残るは1体、フシギバナだけだ。

「ヘラクロス、無事ですか?」

「クロッ」

「……成程。信じますよ」

ユウキの問いに、ヘラクロスはボロボロの体ではあるものの頷いた。まだ戦えるというヘラクロスの返答にユウキは、強気な笑みを向ける。

「お願い、フシギバナ」

スミレは、ボールを投げた。最後の1体、最後を託すポケモンを。

「バナァァァァ!!!!」

予選からずっと、温存されてきた。ピンチを乗り越えてゆく仲間の姿に、奮い立たずにはいられなかった。早く戦いたいとさえ思っていた。そして、待ちに待っていた、でも来て欲しくなかった相棒のピンチ。フシギバナは吠えた。ここまでよく頑張ったと、後は任せろと。

「来ましたか……、フシギバナ」

ユウキが呟き、深呼吸をする。見えるフシギバナの目は、強く輝き燃えている。

(よく信頼されたトレーナーですね)

ユウキは、スミレの姿に同年代のとある少女を重ねていた。恵まれない体に生まれ、非凡な才能を僻まれて悩み苦しんで、才能があっても挫折から逃れられなくて、スクールの同級生だったユウキが励ますことは少なくなかった。そんな少女は、己の強さを鍛えていつしか自身の遥か先の領域まで進んでいった。今では沢山の弟子を取って、沢山の人を導いて、沢山の人に慕われている。人間の成長スピードは違うとはいえ、もっと強くなって遠い存在になってしまった彼女に胸を張れる自分でいたかった。それ以上に、負けたくなかっただけだった。

「貴女が何を抱えて立っていようが、何の幻影を追っていようが、貴女にとってバトルは目的の為の手段でしかなくとも、私は負けませんよ。他の誰かの為でもない。……私自身の意地の為にも」

これは誰かの為でなく、自分の為の戦いだとユウキは思う。自分自身が強さに執着する理由に他人を使いたくなかったから。強くなる過程で感じた楽しさを、強敵と向かい合う胸の高まりを、使命や覚悟で歪めてしまいたくなかったから。

「…………幻影、言い得て妙ですね。でも私は、その幻影を背負って歩き続ける。どこまでも、この人生に意味を見つける為にも」

(ああ、そうですか……)

スミレの返答に、ユウキは悲しげに眉を下げた。スミレは、幻影を追っていることに気がついていた。気がついていて、それら全てを背負っているのだとユウキは理解した。それを知って、悲しくなった。10歳の子供にすら、それほど重い覚悟を背負わせたのかと。

「やはり貴女は、ひとつだけ大事なものを取りこぼしている」

ユウキの口からその言葉が漏れた。

「……優しさ?信心?それとも何ですか?」

スミレに尋ねられるが、ユウキは首を横に振る。

「そんな物ではありません。……貴女の胸には既にあって、でも貴女が気が付いていなくて。きっと私が、私でなくとも誰かが貴女を負かす事ができれば気付かせることができるもの」

「なら、どうします?」

「やることはどうせ変わりません。……私は、貴女を超えて先へ行く」

その瞬間、スミレの全身に鳥肌が立った。一瞬感じたのは、凄まじい気迫。ポケモンバトルに全てを賭け、注ぎ込み、己とポケモンを鍛え続けた求道者の圧力に、スミレは目を見開くしかできない。バトルは楽しいと思わない、勝ってあの子の墓前に捧げるだけの話だ。沸る血潮と、不思議と回転が止まらない頭と、そして不思議と昂る心臓の意味など今は分からない。いいや、分からなくていいと切り捨てる。意味を考えるなど、後で良い。

「フシギバナ、【じしん】」

フシギバナが地を強く踏みしめると、振動がヘラクロスを襲う。

「ヘラクロス、飛んで【ミサイルばり】」

しかしヘラクロスは飛んでそれを回避すると、【ミサイルばり】を放つ。飛び出した【ミサイルばり】が殺到し、フシギバナは表情を歪める。

「【つるのムチ】」

反撃で伸ばした蔓が空中を縦横無尽に駆け抜け、そのうち一撃がヘラクロスに叩きつけられる。

「【リベンジ】」

「【じしん】」

突っ込んできたヘラクロスに対してフシギバナは地を激しく振動させ、ヘラクロスは飛んで後退することで回避する。

「【メガホーン】!」

ヘラクロスが、再び高速で突っ込んだ。防ごうとした蔓を跳ね除けたツノがフシギバナの額に減り込み、フシギバナの頬を冷や汗が伝った。

「……今、捕らえて」

しかし。伸ばされた蔓が、フシギバナの胴体に攻撃を決めたことで止まったヘラクロスの体を絡めとる。

「ヘラクロス!」

「【ギガドレイン】」

フシギバナの全身から放たれた緑色のオーラがヘラクロスの体力を吸い取ると同時に、フシギバナの体力を回復させる。ヘラクロスは力が抜ける感覚に必死に抗うが、フシギバナの蔓にツノは届かない。ヘラクロスはそのまま体力を削り切られ、意識を落とした。

 

「ヘラクロス、戦闘不能!フシギバナの勝ち!!」




「……私がこの歳でジムリーダーになったのは、人の面倒をよく見るようになったのは、貴女のようになりたかったからなんですよ。貴女のように、誰かの為に全力で動ける人になりたかったからなんですよ」
「エリカさん……?」
「…………いいえ、何も」
「良い友達ですね」
「聞いていたんですか……。ええ、良い友達ですよ。本当に、私には勿体ないくらいに」
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