ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第157話 気付いた感情

 ユウキは、ボールにヘラクロスを戻すと次のボールを手に取った。ついに両者最後の1体、最終決戦だ。

「……行きましょう、サワムラー」

サワムラーを呼び出すと、サワムラーはただ静かに、フシギバナを見つめていた。

「フシギバナ、【じしん】」

「【しんくうは】、飛んでください」

フシギバナの起こした振動から逃れるように、サワムラーは地を蹴って空を飛び立つ。

「【つるのムチ】」

「【ブレイズキック】!!」

伸ばされた蔓を、炎を纏った蹴りが弾き飛ばす。

「……追撃」

「【しんくうは】、連続で」

尚も追い縋る蔓を無視して、サワムラーは空中を蹴る。すると【しんくうは】がフシギバナに連続で命中し、狙いの外れた蔓は明後日の方向へと伸ばされる。

「……ッ、【ギガドレイン】」

「閃光花火」

フシギバナからエネルギーが伸びるが、空中を舞うサワムラーは、両足に火を灯した。そして、【閃光花火】という言葉と共に、それをまるで雨のような無数の蹴りを繰り出した。それこそが、閃光花火だ。両脚を使用した連続の【ブレイズキック】。効果抜群の攻撃が、フシギバナの体に何度も何度も減り込んだ。【ギガドレイン】が命中して体力を削り回復を行うが、それでもダメージに比べると少ない。

「【つるのムチ】」

「【とびひざげり】!」

フシギバナの蔓がサワムラーを捉えて地面に叩きつけるが、サワムラーは膝蹴りを蔓に浴びせて引きちぎることで脱出する。

「……ッ、【はなびらのまい】!!」

だからここで、切り札を切った。【はなびらのまい】は超強力な攻撃を継続する代わりに、技が終われば混乱の状態異常になる。それでも、使うしか今は手がない。

「くっ……!閃光花火!!!!」

雨のように降り注ぐ花火を、花弁が迎え撃つ。火花が散り花弁が舞い踊るが、蹴りをすり抜けた花弁がサワムラーを打ちのめした。上空からの花弁に呑まれて地面に叩きつけられ、側面からの花弁に吹き飛ばされる。

(これで決まらなきゃ、負ける……!)

スミレは、早くも切り札を切らされたことに眉を顰めた。だが、その攻撃でサワムラーはダメージを受けている。このまま決めれば、という思いがスミレの頭を過った。

「【しんくうは】!」

対するユウキ側も、ただで負けてやるつもりはない。両手両足から放った【しんくうは】が花弁の嵐に激突し、爆発が起こる。そしてすり抜けてきた花弁を避けるように、サワムラーは上空へと飛び立つ。

「反撃はさせない……、畳み掛けて」

「【いわなだれ】」

花弁が押し寄せるが、それを迎え撃つべく放たれたのは【いわなだれ】だ。岩石が降り注いで花弁達を巻き込み、いくつもの激しい爆発が空間を埋め尽くした。

「まだッ……」

しかし、スミレの呟きと共に背後から迫ってきた花弁に撃たれてサワムラーは墜落、地面に激突寸前で側面からの花弁に呑まれて吹き飛ばされる。

「【いわなだれ】!」

しかし放たれた岩石が花弁を巻き込んでフシギバナに降り注ぎ、フシギバナは爆発に襲われダメージを受ける。

「負けないでっ、追撃!」

「サワムラー、閃光花火で道を開いて【とびひざげり】!」

サワムラーは両足による連続蹴りを一点集中。放たれた蹴りが花弁の嵐に風穴を空けると、その中へと迷わず飛び込んだ。そして全方位から迫る攻撃を迎撃しながら突き進み、フシギバナの姿が花弁の中に露わとなった。その一点、一線以外全ては花弁に囲まれた狭い道。一歩でも逸れればダメージは免れない。だがそこに、サワムラーは迷わず突っ込んだ。凄まじい速さで突っ込んだサワムラーの膝蹴りが、フシギバナの額に減り込んだ。フシギバナの脳が揺らされ、たたらを踏む。

「バナァァァァ!!!!」

だが、フシギバナはそう簡単に折れてはくれない。サワムラーが花弁の嵐に呑み込まれて吹き飛ばされた。

「追撃、お願い!!」

スミレが叫ぶ。

「……バナ、バナァ」

しかしフシギバナの返答は、弱々しいものだった。

 

 

「…………ふしぎ、ばな」

スミレは、呆然とした様子で呟いた。フシギバナの足取りは重く、そして不安定になっている。時間切れ、という言葉がスミレの脳を過ぎった。目は虚ろで、敵を視線の先に捉えていない。

 

「【ブレイズキック】を持っていると知っていた筈なら、何故フシギバナを出したのですか?相性は最悪、機動力でも負けていて、しかもかくとうタイプに効果バツグンな技もない。……だというのに、貴女はフシギバナを選んだ。相性で言えば、フーディンもいたでしょうに。何故ですか?私には、なんとなく理由が分かります。でも、今ここで言っていいことではないと思います。だから貴女に問います。…………貴女はこのバトルで、何がしたかったのですか?」

「フシギバナッッ……、【はなびらのまい】!!!!」

スミレが、悲鳴に近い叫びを上げた。するとフシギバナは、混乱している筈であるのに、【はなびらのまい】を発動する。

「混乱を押し切って大技を再び放つ、見事な忠誠です。…………ですが、足りない」

その言葉を言い終えた瞬間、花弁が散らされた。サワムラーは炎を纏った足を回転させて、迫り来る花弁を蹴り飛ばして焼き尽くす。

「頑張れ、フシギバナ!!!!」

「飛んでください、サワムラー」

サワムラーは空中を駆け回り、フシギバナの攻撃を躱した。

 

「まだ……私は、まだ…………!」

スミレは、無意識にそう呟いていた。その言葉にユウキは微笑んで、しかしすぐに表情を引き締めた。

「その気持ちに気がつくことが出来れば、貴女はもっと強くなれる。……ですが今は、私が一歩先を行く!!サワムラー、【ブレイズキック】!!!!」

炎を纏った蹴りが、一条の流星となってフシギバナに突き刺さった。フシギバナの体が大きく引き摺られ、スミレの目の前で停止する。

 

 

「フシギバナ、戦闘不能!サワムラーの勝ち!!よって勝者、ユウキ選手!!!!」

『ここで決着!!スミレ選手、あと少しでしたが惜しくも敗退となりました!!!!』

『この敗北に関しちゃあ、単純に意思の差だな。……バトルに対する心の持ちようは、結果に大きく関わっちまう。スミレ選手は、ユウキ選手の指摘通りに誰かを目指して、その為だけにバトルしていた。結局、最後の最後までポケモンバトルが他人事だったんだ。フシギバナをサワムラーに当てるなら、もうちっと地力の差がなきゃならねぇ。だがそれが無かった。結局有効打は【はなびらのまい】だけ。【ギガドレイン】でダメージ誤魔化して高火力技に神頼み、頭脳派のやるバトルじゃねぇ上にそこに何の信頼も根拠も分からず、自分の意思がわからないまま混乱する脳内のいい加減な選択に任せてボールを投げた。その時点で勝ち筋は消えていた。それでもここまで上がってこれたのは本人の強さ、それは認めなきゃなんねぇ。だがずっと幻影を追っていれば、現実を見つめる視野は曇る。なんでフシギバナをサワムラーにぶつけたのか。それをハッキリ口に出来るようにならねぇと、多分何度やってもスミレ選手はユウキ選手に勝てやしないだろ。だが、まだ先がある。……この挫折を糧にできれば、その才能をもっと活かすことができるだろうぜ。大勢の前でここまで言っちまったからにゃ、俺は断言するぜ。コイツはきっとデカくなる。俺のジムリーダー人生を賭けてもいい。たとえトレーナーじゃない別の道を選んだとしても、必ずコイツは何処かで凄い人間になる。だから、この挫折ひとつで折れるんじゃねぇ。頑張れよ』

 

スミレは、思考がごちゃごちゃになっていた。ただボールにフシギバナを戻すと、ユウキと何かやり取りをするでもなく足早に、逃げるようにフィールドを飛び出した。

 

◾️◾️◾️◾️

 

「やっ」

そんな声を掛けられて、蹲っていたスミレは顔を上げた。

「……お父さん。何しに来たの?」

再び膝に顔を埋めて、スミレは呟く。そこに居たのは、父であるトウリだ。すぐ後ろには、モモカも心配そうな表情を浮かべて立っている。

「ま、そうだよな。父さんなんて憎くて仕方ないよな。ヒマワリちゃんに教えて貰わなきゃ、お前のこと見つけられないような親だもんな。……でもさ、ひとつだけ父親として教えておきたいんだ」

「…………なに?」

「その感情の名前さ」

トウリの言葉に、スミレは顔を埋めたまま鼻を啜る。

「なんて、いうの?」

「悔しいって言うのさ。……お前は全力で戦った。ポケモンも、トレーナーも、一緒になって、魂を燃やすようなバトルを繰り広げた。……でも負けた。大きな壁にぶち当たってしまった。僕も子供の時は、そんなことが沢山あったから分かるんだよ。……全力でやったから、勝ちたいと思って戦ったから悔しいんだ。涙が溢れるんだ。その気持ちを、隠しちゃいけないと僕は思う。悔しさは、次の強さにきっとなるから。……そういうのも、僕らがちゃんと教えてやらなきゃいけなかった。真っ当に感じられるように育ててやらなきゃ行けなかったのに……ごめんな、スミレ」

「この負けは貴女のせいでも、ポケモン達のせいでもないわ……。貴女のことを見てやれなかった、苦しめてしまった私達のせいで負けたのよ……ごめんなさい、ごめんなさいッッ」

「悔しい…………悔しい…………」

スミレは、その言葉を何度も繰り返して咀嚼する。

 

 

「勝ちたかった……、負けたくなかった、優勝したかったッッ……!あの子のためだけじゃなくて、私自身が勝ちたかったんだ……。なんで今、なんで負けてから気付くんだろ……!泣けないと思ってた、真剣になってないと思ってた…………!!ただ、生き方を探すための手段だって思ってた……、でも違ったんだ……、真剣に勝ちたかった……フシギバナで、相棒であの強いサワムラーを超えたかったんだ……、異名持ちのポケモンを、相棒で超えていきたかったんだ……、だからあの時私は、フシギバナで戦ったのに……、気付かなかった……気付けなかった……!わたし、馬鹿だ。精神的向上心も碌にない、大馬鹿だ。…………私の、馬鹿野郎!大馬鹿野郎!!無様晒しやがって!強いポケモン連れてるくせに馬鹿なバトルして負けやがって!!うわぁぁぁぁぁぁん!!!!」

スミレは、叫んだ。大声で泣きじゃくった。ボロボロと零れ落ちる涙が父の服を濡らすが誰も何も言わない。癇癪を起こした子供のような泣き声を、誰も咎めたりはしなかった。

 

 

 

「……それで良いんです。挫折して悔しさを知れば、きっと貴女はもっと強くなれる」

柱の陰から、ユウキはそっとそれを見つめていた。

「何故見てるんです?」

「……!?え、エリカ?」

「お久しぶりです、ユウキさん。弟子が世話になったようで」

エリカは、複雑な表情でユウキに声を掛けると、ユウキは苦笑する。

「お、お久しぶりです……。というか、貴女の弟子だったんですね。エリカ。通りで似た気配を感じた訳です」

「そうですよ。……それで、ユウキさんから見て私の弟子はどうでしたか?」

「強かったですよ。……でも、まだポケモンのスペックと自身の頭脳に頼り切りですね。全力で、魂込めたバトルでないといざという時にポッキリと折れてそのまま負けちゃいますから。あの子の場合、ポケモンには魂がありました。だから最後の最後で、【はなびらのまい】を撃てた。けれどトレーナーである彼女にはそれが無かったから、勝ち目も見えていないバトルになんの理由もなく最強を突っ込んで自滅した。改善の余地は多々あります。その辺りは、エリカも分かっているでしょ?」

「……それはもう」

「あの子、相当辛い目にあったんでしょう?……バトル中に見えましたよ、顔の火傷」

「そうですね。……今生きているのが不思議なくらいには、辛い目にあってます。才能に目を付けたのもありますが暗い目をしていた彼女をどうにか助けたくて、いつしかこうなってました。……私をあの時救ってくれた、貴女のように」

「そうですか……。気にしなくても良いって言っても気にするのでしょうね、貴女という人は」

エリカの言葉に、ユウキはクスリと笑った。相変わらず律儀で真面目だと、変わらぬエリカに喜びさえ覚える。

「なんです?」

「いいえ……。貴女は変わったようで、まるで変わってない。私はそんな貴女に並べるように、今もバトルの腕を鍛えてるんですから」

「バトルの腕は、私は変に才能に恵まれてしまったので……。人としては、まだ勝てる気がしませんよ」

「……そうですか。勝ち負けでもないでしょうに」

「そうですが、それでも、です」

頑ななエリカに、ユウキは肩をすくめた。

「相変わらず強情な……」

そう言った所で、視界の端でスミレが立ち上がったのが見えた。

「スミレさん、どうやらこのまま帰るようですね」

エリカは、悲しげに言った。

「ま、仕方ないですよ。……あれだけ手痛い挫折を経験したんですからね。ほら、行ってください師匠」

「ええ。講評は後でするとしても、今日はしっかりと褒めてやらねばなりません。……私の弟子としても、デビュー初年で決勝トーナメント行きはユキナ以来、2人目ですから」

そう言ったエリカは本当に嬉しそうで、ユウキは思わず吹き出す。

「……スミレさんに伝えておいてください。『特訓するなら付き合う』ってね」

「分かりました。……ありがとうございます」

そう返したエリカは、スミレに向かって一歩踏み出した。

 

 

スミレ 決勝トーナメント1回戦敗退。 ベスト16

 

◾️◾️◾️◾️

 スズキ対リカ。スズキの1番手はピジョット、対するリカはギャラドス。広範囲攻撃を続けるリカに対してピジョットは高火力による短期決戦を挑むが戦闘不能。しかし続くキュウコンがギャラドスを倒して数は互角。リカの2体目はサンダース、これもキュウコンの火力に押される形で敗北し戦闘不能。リカの3体目はデンリュウ。デンリュウがキュウコンを撃破するも、消耗したところを3体目のカイリューに蹂躙されて戦闘不能。

 フユコ対クロウ。フユコの1体目はピクシー、クロウはヤミカラス。ヤミカラスが空中でピクシーを翻弄しつつ攻撃を加え、おまけに【ゆびをふる】が盛大にハズレを引いてピクシーが戦闘不能に。続く2体目はフーディン。フーディンはその火力と機動力ででヤミカラスを捉えて撃破する。そしてクロウの2体目はゲンガー。ゲンガーによって【もうどく】の状態異常を負ったフーディンはゲンガーによるヒット&アウェイ戦法で戦闘不能となった。そしてフユコの3体目として出てきたのはラッキー。高い耐久力で耐えて攻撃する戦術でゲンガーを撃破、続く3体目のヘルガーも撃破してフユコが勝利した。

 ホウセン対ケンタロウ。ホウセンは初手でイワーク、ケンタロウはギャロップを選出。機動力で上を取り初めは有利を取ったギャロップだったが、イワークが攻撃が当たる瞬間をカウンターに使ったことで逆転してギャロップは戦闘不能。続いて出されたニョロトノが雨を降らせ、それを利用する展開でイワークを破る。対してホウセンはサイドンを使用するとフィールドを荒らして真っ向からのパワー勝負に持ち込みニョロトノを撃破。ケンタロウの3体目、ケンタロスもまたサイドンによって撃破されてホウセンの勝利。

 

1回戦は、このような展開で終わりを告げた。

 

そして場面は、2回戦へと移り変わる。

サユリvsサトシ

リングvsジン

ユウキvsスズキ

フユコvsホウセン

 




まぁ、初期案なら予選リーグで負けてたしまだマシでしょ……



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