ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
第159話 ジョウト地方へ
旅。それはスミレにとって懐かしくも因縁深きものだ。悪い思い出と良い思い出がごちゃごちゃになっていて、スミレとしては素直に思い出したいと言い辛い部分が癪に触るが、少なくとも経験としては一級品であった。とはいえだ。スミレには、とある約束があった。とあるやらかしでカントーリーグに出られなかったヒマワリを含めた幼馴染4人で、ポケモンリーグに出場すること。そしてスミレは、ポケモンリーグ開催の連絡を師匠でありカントー地方、タマムシジムのジムリーダーのエリカから受け取った。そんな訳で、スミレはこれから旅に出る。行き先は、カントーから地続きの位置にあるジョウト地方。実際、リーグの予選で敗退したシゲルやそもそも出られなかったヒマワリは鍛える為もあり既にジョウト入りしているし、サトシもまた2日後にジョウト入りする予定らしい。そして今は、ジョウト行きの飛行機が出る空港でやり取りをしていた。
「スミレ、気をつけるんだぞ」
「……何かあったら、すぐに連絡するのよ」
そう言う両親に、スミレは無表情のままで頷く。両親とはあれから、色々とあった。関係性自体は割と致命的な状態だったので完全に良好とは行くはずもないが、両親はきちんとスミレのことを見るようになったし、スミレも両親に素の態度で接するようになっていた。それはマサラタウンの人たちも同じで、その関係は、主に町の人達の歩み寄りによって記憶という形で確かな傷痕を残しながらも急速に良好になっていった。だから今は、スミレにとってそこそこ住みやすい場所になっている。まぁ、スミレにとっては所々で自身に向けた罪悪感が滲み出ているのを感じるため、その点は困ったことであるが。
「フリィ」
カントー時代の手持ちであり、唯一見送りに来ていたバタフリーが、心配そうに声をかける。
「……分かってる、貴方達の力が必要になったら、迷わず呼び寄せるから。だから、出番が来るまで鍛えながら他の子たちの面倒見てやって」
そう。今回は手札の充実化なども考え、手持ちを基本的にカントーへと置いてゆくことにした。力を借りる時はボックスで連れ出して、それ以外は研究所に預けるといった感じだ。それはシゲルやヒマワリも同じで、サトシもそうするらしいので4人共通だ。そして預ける対象は準エースだったバタフリーも例外でなく、唯一連れ歩くのはフシギバナただ1体だけ。
「フリッ!」
バタフリーが頼もしい返事を返すと、スミレは頷いた。
「……それじゃあ、行ってきます」
上は動きやすいスポーツウェアで、下は短めのスカート。中にはスパッツという名の防御用スーツを履いている。上のスポーツウェアの中にもその防御用スーツを着込んでいて、ポケモンの攻撃にもある程度耐えられるようになっている。そしてリュックは、カントー時代から使っているお気に入りの大容量バッグ、靴もそれまでのランニングシューズをまだ使っていた。
「「いってらっしゃい」」
両親の声に見送られて、スミレはゲートを通る。荷物検査は当然OK、止められては格好がつかない。ジョウトとカントーはチャンピオンが同一人物だったり四天王に兼任の人がいたりするので、あまり他地方という感覚は薄いのだが、まぎれもなく違う地方、違う世界での冒険だ。
スミレはドキドキする胸の鼓動を感じながらも、飛行機に乗り込んだ。
◾️◾️◾️◾️
ジョウト地方。そこの空港にスミレは降り立った。そして最初に向かうのは、ワカバタウン。そこにオーキドと同じ研究者(といっても研究者としての立場はオーキドの方が余程上だが)のウツギ博士が住んでおり、どうやら新人トレーナー2人へのポケモン引き渡しもあるらしい。スミレとしては御三家はフシギバナで十分なので必要はないので、余ったポケモンを貰う必要もないだろう。ワカバタウンまでは電車と徒歩。スミレは、新たな冒険に向けて歩き出した。
「……にしても、やっぱり田舎町。研究所は敷地使うからなぁ」
ワカバタウンは、見るからに普通の田舎町だ。その辺りはマサラタウンと変わらないが、オーキド研究所にあった歴史書を見る限りは、マサラタウンのように特殊な血族の集落という訳でもなさそうなので安心だ。
研究所には、流石に沢山のポケモンも居る。
「すみませーん」
スミレがインターホンを鳴らして呼び掛けると、ガサゴソという音と共に声が届いた。
『ああ、スミレさんですね。博士から話は伺ってますから、入って下さい』
「……失礼します」
その返答に、博士は忙しいのだろうかと思いつつ扉を開けると、そこはオーキド研究所よりは小ぢんまりとしていて設備も旧式だが、それでも立派な研究所だった。
「ははははっ、ごめんねこんな研究所で。オーキド博士みたいな人なら最新機器の導入もすぐ出来るんだけどね。……ああ、私は研究員をしてるラムって言います、よろしくね」
「スミレです。よろしくお願いします。……いえいえ、確かにオーキド研究所は最新機器ばかりですけど、ここも中々なものですよ」
スミレが辺りを見回しながら施設を褒めると、ラムと名乗った研究員の男性は照れくさそうに頭を掻く。
「あはは……ありがとう。それとごめんね、ウツギ博士ったら調査に行って帰ってこないんだよ。新人くん達も待たせてるってのにさ」
「へぇ、何かの研究ですか?……確かウツギ博士は、ポケモンの進化が専門分野ですよね?」
「よく知ってるね。……ほら、最近はキングドラやニョロトノの進化方法が確立されただろう?その関係で他のポケモンにも可能性があるんじゃないかって。それで、取り敢えずはジョウト地方のポケモンで調査を行うって話になってね。君と同郷のシゲル君にヒマワリさん、後から来るサトシ君も、その手伝いって扱いなんだ」
「成程。確かに、オーキド博士にそんな話は聞きました。……ちゃんと説明して欲しかったです」
スミレ達は、それぞれ飛行機代は出すからとウツギ博士に呼ばれていたのである。とはいえ研究熱心すぎて雑に放り投げられた金をどうすれば良いか分からずに、オーキドに頼った記憶が蘇る。
「ああ、それはウツギ博士もオーキド博士に叱られてたよ」
ラムはそう言って苦笑し、スミレもまた呆れたように笑った。
「わぁー!ごめん!!」
そんな所に、研究所の主がドタバタとしながら帰ってきた。
「博士ぇー、スミレさんも新人の2人も来てますよー!!」
「うぇぇぇ!?やっぱり!!」
ラムが返すと、慌てた様子でスミレとラムの横を駆け抜けてゆく。
「……ごめんね、本当に。見苦しいところを見せて」
「見苦しいのは否定しませんが。まぁ、一々気にしても面倒な話でしょうし」
冷めた様子のスミレにラムは困ったような笑みを浮かべ、誤魔化すように歩き出す。そして向かった先に居たのは、期待と不安に満ち溢れた表情を浮かべる、2人の男女。どちらも10代前半といったところか。
「ごめんねぇ、君たち!!じゃあ、早速始めよう!……僕はウツギ、オーキド博士程じゃないけど研究者やってます。そして君たち2人……。そう、ミコトちゃんとユウタ君に来てもらったのは他でもない。トレーナーとしてジョウト地方を巡り、ポケモン図鑑を完成させて欲しいんだ」
「うちらもそれは分かっております〜。しかしながら、そちらのお方はどのようなお方で?」
ミコト、というらしい少女は長い黒髪のふんわりとした雰囲気を持つ少女だ。
「そーだな。俺らはコイツのことしらねぇぞ」
ユウタ、というらしい少年はヤンチャな雰囲気を感じる。
「ユウタ君、初対面の人に、それも先輩トレーナーにあんまり失礼なことを言うんじゃない!……ごめんね、スミレちゃん。君に頼みたいことも済ませてしまおうか」
「……ええ」
スミレは、冷たい目線をユウタに向けつつも答える。
「スミレちゃんや他の3人には、彼らでは取りきれない可能性があるデータの収集をお願いしたいんだ」
「特殊な生育環境とかですか?……一応、ジムリーダーエリカとオーキド博士、後はチャンピオンワタルの推薦状があるので、ある程度はリーグにも融通が利くと思いますが」
「はぁ?ワタルだって!?」
「おやおや……これはまた」
背後で2人の驚愕が聞こえてくるが、それは一旦無視する。
「おおう……、これは予想以上だ。それも貰えると有難いが、それだけじゃ無くて、君の場合は君のカントー時代の手持ちと鍛える経験もあるだろうし、リーグへの出場は確実視できる。だから、強敵達との戦闘が齎すポケモンの成長に対する影響についてのデータを送ってくれないか?」
「どういう形式で?」
「生体データを貰えれば問題ない。書類を書いてあるから、それをジョーイさんに見せてくれればデータを送って貰えるようにする」
「それなら構いません」
「よし、じゃあ2人にポケモン図鑑を渡して、スミレちゃんの図鑑はアップデートする。ラム、頼むぞ」
「はいっ!」
「これです。お願いします」
スミレはラムにポケモン図鑑を渡し、ラムは機械のセットをして操作を行う。その間にウツギはミコトとユウタにポケモン図鑑を渡し、使い方を説明していた。
「……スミレさん、こちら最新バージョンになります」
「どうも」
そしてアップデートが加えられたポケモン図鑑を手渡され、スミレに限っては旅の準備は万端だ。
「それから、ユウタ君とミコトちゃんにはポケモンをプレゼントしよう。スミレちゃんも見ていくかい?」
「……いえ、結構です。さっさと進んでしまうのが吉でしょう」
「あのぉ、ちょっといいですかぁ?」
ウツギの誘いを断り背を向けるスミレに、ミコトが声を掛ける。
「…………何?」
「できればなんどすが、先輩に教えて欲しいことがあるんですわぁ」
ミコトは、柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
「私はどこぞのお人好しじゃない。他人を助けるのは趣味じゃないんだけど」
「もぉ、いけずな人やなぁ。でも研究所の人達は忙しそうやし、うちはこうして旅に出ることなんて初めてやから、助言だけでもして欲しいんですわ」
冷たいスミレの返答に、ミコトは笑顔を崩さずに返す。スミレが視線を送れば、研究員達は誰も彼もが忙しそうだ。
「……成程、それは確かにそう。なら良いよ。ポケモンの捕まえ方くらいならね。まずは最初のポケモンを貰ってからだけど」
そう言った瞬間、ミコトは嬉しそうに掌を打ち合わせた。
「本当どすか?ありがとうございます。うち、旅に出て死んでしまわへんか心配やったんです」
「ミコトは心配性だな。そう簡単に人は死なねぇよ」
ミコトに呆れたような目線を向けるユウタに、スミレは小さくため息を吐く。
「死ぬよ。……私は少なくとも、何度か死に掛けた。常人ではあるんだけどね」
そして放たれた言葉に、ミコトとユウタは顔色を悪くした。
「……マジで?」
「ええ。お陰様で、私の素肌は世間に見せられないくらい傷だらけだよ」
そう言って服の袖を捲れば、それだけで白い肌に刻まれた痛々しい傷痕が2人の目に映る。
「悪い……。俺が甘かった。嫌なもん出させちまった」
ユウタの言葉に、スミレは少し驚きを露わにした。
(成程、旅立ちを許可されるだけのことはある……)
最初は何故こんなのを研究所所属にしたんだと思っていたのだが、多少は評価を改める。調子に乗ったガキなのは確かだが、それでもそれだけで括っていい人間でもなさそうだ。
「良いの、気にしないで。むしろ、変に不安にさせてごめん。……それは兎も角、ウツギ博士」
「ああ。君たち2人にはポケモンをプレゼントしようと思う。ポケモンは3体……これだっ!」
ウツギ博士が3つボールを投げると、3体のポケモンが飛び出した。
「ほのおタイプのポケモン、ヒノアラシ」
小さなポケモンの背中から、炎が針のように吹き出した。
「くさタイプのポケモン、チコリータ」
頭に大きな葉を持つポケモンが、まるで美しさをアピールするように背筋を伸ばす。
「みずタイプのポケモン、ワニノコ」
青く小さなワニ型のポケモンが元気よく跳ね回る。
「……わぁ」
「これが……俺達と冒険に出るポケモン!」
期待に胸を輝かせるミコトとユウタに、スミレは懐かしい物を見るような、暖かい視線を向けた。
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