ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
スミレ対マチスのジム戦は、一進一退の様相となっていた。毒の状態異常を受けながらも最終進化のパワーで押し切ろうとするライチュウと、それを受け流しつつ反撃するフシギソウ。トレーナーとしてのレベルはマチスが当然上だが、ライチュウはジム戦用に調整されているし、進化前のピカチュウに比べて機動力に欠けるため、スミレのバタフリーの高速機動を見慣れており、尚且つ火力もあるフシギソウなら、互角に渡り合える。しかも今は毒状態。早く勝負を決めなければという焦りと、じわじわ失ってゆく体力と集中力。戦況こそ互角だが、天秤は徐々にスミレに傾いていっていた。
「ライチュウ!【メガトンパンチ】!!」
「ラァァァイ!!」
ライチュウの拳が唸り、フシギソウに迫る。
「フシギソウ、【つるのムチ】で捕まえて。そして顔面に【はっぱカッター】。」
フシギソウは蔓を伸ばし、腕に巻き付けると、新技の【はっぱカッター】がライチュウの顔面に炸裂し、大きなダメージを与える。そしてスミレはすかさず指示を出し、【つるのムチ】を縮め、その反動を利用して飛んだ。高速で空中を一直線に突き進んだフシギソウは、そのまま【たいあたり】を決める。ライチュウは胴体に重い一撃を受け、戦闘不能になった。
「ライチュウ、戦闘不能!フシギソウの勝ち!!よって勝者、マサラタウンのスミレ!!」
審判の宣告が下り、スミレの勝利が決まる。
「Oh my god!!!!」
マチスが頭を抱えて悔しがる。
「・・・よく頑張った。お疲れ様。」
スミレはフシギソウの頭を優しく撫でると、ボールに戻した。
マチスはスミレにオレンジバッジとわざマシンを手渡すと、清々しい笑顔で握手し、さらにはハグもされた。少々力強かったが、下心も何もない、純粋な賞賛のハグは、スミレには何処か温かく思えた。
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「サトシ、ヒマワリ。2人にライチュウ対策で思いついた事があるんだが。」
スミレ対マチスの戦いの結末を見たタケシが、何かを思いついたように言った。
「教えてください!!」
ヒマワリが食い気味に迫ると、あまりに近い距離に少し顔を赤くしながらも咳払いを一つすると、話し始めた。
「あのライチュウの強みはその攻撃力だ。サトシのピカチュウやヒマワリのヒトカゲでは届かないだけの火力がある。だが、その反面ライチュウには弱点があるんだ。」
「何だよ・・・勿体ぶらずに教えてよ。」
サトシが回答を急かす。
「まぁ焦るなって・・・。あのライチュウの弱点はズバリ、素早さだ。」
「「「素早さ???」」」
サトシ、カスミ、ヒマワリが首を傾げる。
「そう、ピカチュウからライチュウに進化するとパワーは強くなるが大柄になる分スピードが遅くなる。おまけに直ぐに進化させた影響でピカチュウの時に覚えられるスピード技を覚えていないしな。そして大きくなった事で、ピカチュウより小回りが効かなくなった。だからスミレのフシギソウは相手の動きを待ってからでも対応が出来たんだ。相手の攻撃は高い火力でも、直線的でしかも対応可能な速さだったから。・・・違うか?スミレ。」
「・・・いえ、流石です。タケシさん。」
丁度スミレが合流した。カスミがすぐさま駆け寄って、スミレを労う。
ヒマワリはギュッとスカートの裾を握り締めた。
「ライチュウは最終進化ということもあってタフだし攻撃も強い。だがスピード勝負なら、ピカチュウとヒトカゲにも突破口はあるはずだ。その方針で、やってみないか?」
「よぉし!やってやる!!」
サトシは気合を入れ直す。勝負はこれからだ。
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一度ポケモンセンターに戻り、準備を整える。サトシとヒマワリで相談し、サトシが先になった。サトシはマチスに、ピカチュウを進化させるよう言われたらしいが、サトシはピカチュウの意思を汲み、ピカチュウのままで挑むらしい。ピカチュウも回復済み、対策も出来て準備万端。一行はクチバジムに向かった。・・・のだが。道中で見覚えのありすぎる2人組が立ち塞がる。
「何だお前ら・・・?」
サトシの疑問に、2人組は答える。
「「なんだかんだと聞かれたら「違うニャー!!!!」そうでした・・・。」」
いつものノリで名乗ろうとして、ニャースに後ろから叩かれる。
「ニャー達は、公式戦に挑む者に、愛のエールを贈る応援団ニャー!」
「「ウス!」」
「ほぇー、そんな人いたんだぁ。」
ヒマワリはその正体に気がついていないらしい。実はこの2人と1匹、ちゃんとヒマワリやスミレの試合もハラハラしながら見守っていたのであるが、正体に気がついているスミレですら、それは知らない事である。
「それではー!ピカチュウくんとヒトカゲくんの必勝を祈ってー!!三三七拍子!!」
ニャースが掛け声をかける。
「ピッカ、チュウ!「あそれ!」ヒット、カゲ!「あそれ!」ピッカ、チュウ!「あそれ!」ヒット、カゲ!頑張れー、頑張れー!ピッカ、チュウ!頑張れー、頑張れー!ヒット、カゲ!「もう一丁!」ピッカ、チュウ!ヒット、カゲ!」
「rrrrrrrrrrrrr!」
旗を振りながら全く纏まりのない応援を披露する2人と1匹に、ヒマワリ以外は呆然としている。ちなみにヒマワリは自分が誰に応援されてるのかも知らずにはしゃいでいる。今日は感情がジェットコースターと化しているようだ。
「必勝ニャー!!」
ニャースがそう叫んで、ポーズを決めると
「お粗末ニャ。」
「「ウス!」」
「「じゃっ!そういう事でー!!!!」」
そう叫んで何処かへと走っていってしまう。
「・・・何しに来たんだ?」
タケシが呟く。
「犯罪者のやる事じゃないでしょ・・・・。」
スミレは頭が痛いと言った風に額を押さえながら言った。
「応援ありがとうねー!ロケット団の人たちー!!」
カスミが堂々と礼を述べると、走り去るロケット団は一瞬よろめき、
「何でバレてるニャー!!!!」
とニャースが叫ぶと、
「「やな感じー!」」
と2人も叫びつつ、スピードを上げて逃げ去っていった。
「・・・ええっ!?あれロケット団だったの!?トキワシティの!?」
「気づかなかったの!?」
ヒマワリの反応に、カスミのツッコミが入った。
サトシは嬉しそうに彼らを見送ると、気を引き締める。絶対に負けるもんか、と。
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ジムのライトが順に灯され、コートを照らす。
「Hey, baby.またやられに来たのか?しかも未だにピカチュウのままとは・・・。お勉強が足りねぇぜ?」
マチスが煽る。
「結果を見てモノを言えよ!」
サトシがすかさず言い返す。
「よかろう!show time だ!!」
その言葉にマチスは獰猛に笑った。
「チャレンジャーサトシ!使用ポケモンはピカチュウ!!ジムリーダーマチス!使用ポケモンはライチュウ!!使用ポケモンは1対1、時間無制限!公式戦、開始!!!!」
合図が鳴らされ、スミレ、ヒマワリ、タケシ、カスミ。そしてロケット団が見守る中、サトシのリベンジが始まった。
「作戦通りにやればチャンスはあるぞ!!行け、ピカチュウ!!」
「ピカァァ!」
「面白い!その作戦とやらを見せてもらおうか!!Go,ライチュウ!!」
「ラァァイ!」
勢いよく飛び出したピカチュウの頬をライチュウの尻尾が叩き、ピカチュウは地面を転がる。立ち上がるピカチュウだが、ライチュウはすかさず追撃、尻尾でピカチュウを乱れ打ちにする。
「よぉし、ライチュウ!【のしかかり】攻撃だ!!」
「ラァァイ、チュウ!!」
ライチュウが気合の声と共に勢いよくピカチュウにのしかかり、ピカチュウは苦悶の叫びを上げる。
「勝負あったな!ライチュウ、トドメだ!!」
マチスは勝負所と見てトドメを指示する。
「負けるなぁ!!!!」
倒れ伏していたピカチュウだが、サトシの言葉に立ち上がり、ライチュウのトドメを回避する。
「what!?」
ライチュウは地面に勢い余って叩きつけられ、マチスは動揺を露わにする。
「行けっ!ピカチュウ、【こうそくいどう】だ!!」
ピカチュウが高速で走り出す。
「ライチュウ、【のしかかり】攻撃だ!!」
マチスは冷や汗を垂らしながら攻撃を指示するも、ライチュウののしかかりをピカチュウはそのスピードで回避、続く攻撃も連続で躱わす。
「ラ、ライチュウ⁉︎」
マチスが動揺する。進化前に進化形が翻弄されるなど、マチスにとっては考えられない事だった。
「行ける!思った通りね!」
カスミはピカチュウの勝利を確信する。
「ああ、さっさと進化をさせたから、アイツはピカチュウの時に覚えられるスピード技を身につけていないんだ!」
タケシも嬉しそうに言う。
「頑張ってー!サトシ、ピカチュウ!!」
ヒマワリは声を出して応援する。スミレは、サトシの勝ちを予測する。
サトシは、流れを掴むと強いのだ。スクールでは、バトルの授業もある。ポケモンをレンタルして、それで戦うのだが、サトシは実力にかなりムラがあり、最初から欲をかけば負けるし、調子に乗れば負けるし、何もしなくても負ける。だが、追い詰められてスイッチが入ると、自慢のポケモンと仲良くなれる特技を武器にポケモンと絆を結び、流れを掴み、ジャイアントキリングを引き起こす。流れを掴んだサトシは強く、たった一度、されどスクール生で唯一、張り巡らされた策と相性差を打ち破り、スミレに勝利した事がある(ちなみにその後、調子に乗ってシゲルを煽りバトルを仕掛けてボコボコにされた後、スミレと再戦して叩きのめされた)。そして今、作戦の成功でサトシは程よくノリに乗っている。序盤のピンチから流れが完全に切り替わり、サトシは油断もない。サトシが勝てる条件が整っていた。
「よぉーし、もっともっと【こうそくいどう】だ!」
サトシが指示を出し、ピカチュウは更に加速する。ライチュウはそのスピードに追いつけず、自身の周りを高速で回るピカチュウを呆然と目で追うばかりだ。そして回るピカチュウを目で追い続けたばかりに、ライチュウは目を回してしまう。
「お前のライチュウは速く動けない!そこが弱点なんだ!!」
サトシはマチスに向けて言う。
「goddamn!!ライチュウ、babyの動きを封じろ!【10まんボルト】だ!」
「ラァァイ、チュウゥゥゥゥ!!!!」
放たれた雷撃がジムを破壊しながら暴れ回り、サトシ達はあまりのパワーと範囲に驚愕する。窓から観戦していたロケット団は、流れ弾に頭を伏せる。
「The end だな・・・。何!?」
マチスは得意げに笑うが、その光景を見ると直ぐにその笑みが消えた。
ピカチュウが尻尾を地面に突き刺して立っていたのだ。
「ピカチュウ!!」
サトシが歓喜の声を上げた。
「なるほど・・・尻尾をアース代わりにして電撃を受け流すか。考えたね。」
スミレが感心したように呟く。
「そりゃアー、スっごいね。」
「ドガアー、スっごいね。」
ギャグに走るムサシとコジロウ、そしてその為に呼び出されたドガース。
「くだらんニャ!!!!」
それをニャースが殴りつける。
「ちゃんと真面目に見るニャアース。」
「アンタもかぁ・・・」
「ドガァス」
・・・ニャースも同類だった。
「ライチュウ、もう一発【10まんボルト】だ!」
息を切らすライチュウに、マチスは再び指示を出す・・・が、何度出そうとしても電撃が出てこない。そう、先程の一撃は普段撃っている【10まんボルト】を超える出力で撃っていた故に、溜めていた電気を使い切ってしまったのだ。
「どうした⁉︎ライチュウ!!」
マチスが焦る。
「しめた、アイツ充電しきれてないぞ!」
タケシがそう言った。
「よぉーし、【でんこうせっか】だ!!」
「チュウゥゥゥゥゥゥ!」
チャンスを逃さず、サトシは攻撃を指示し、ピカチュウは高速で突進する。
「ライチュウ、【とっしん】攻撃だ!」
ライチュウは迎え撃つが、スピードの差で当てきれず、【でんこうせっか】を食らってしまう。そしてすかさずピカチュウが尻尾に電気を纏わせて追撃、ライチュウは感電しつつ目を回し、倒れた。
「Unbelievable!!」
マチスは叫ぶが、勝負は決まった。ピカチュウの勝利だ。
素直に勝負の結果を受け入れたマチスやジムトレーナーからの賞賛と共にオレンジバッジを貰ったサトシは、ピカチュウの電撃に包まれて勝利の星を物理的に見ることになったのであった。
そして、ヒマワリの挑戦が始まる。
ありがとうございました。
前回書いてなかったんですが、マチスはアメリカ出身からイッシュ出身に変えてます。イッシュがアメリカをモデルにしてるので・・・。
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