ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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星10や9を入れてくれて本当にありがとうございます!ご期待に応えられる作品を書いていこうと思いますのでよろしくお願いします


第160話 スミレのポケモンゲット講座

 スミレは、新人トレーナーであるミコトとユウタが初めてのポケモンを貰う様子を静かに見守っていた。

「ユウタはん、ひとつええですか?」

「……ん?もう決まったのか?」

「ええ。ですが希望が被ってしまったらどないしようかと思いまして」

不安そうに眉を下げるミコトに、ユウタは笑う。

「まぁ、それは被ったら考えようぜ。ひとまず、どのポケモンが良いか教えてくれよ」

そう尋ねられてミコトは、視線を1体のポケモンに合わせる。

 

「チコリータはん、うちはこの子と一緒に行きたいんや」

照れたように笑うミコトに、ユウタは見惚れたのか顔を赤くして動きを止める。それを見兼ねたスミレが、脇腹を軽く突いた。

「……あ、ああ。俺は別のポケモンにしようと思ってたから良いぜ。…………悪い、助かる」

「ん。気を付けて」

ボソボソと会話を交わす2人に、ミコトは困ったような表情を浮かべる。

「ほんまに?……うちに気ぃ使うて我慢したりしてへん?」

「大丈夫だ、ダイジョーブ!俺はコイツにするよ。行こうぜ、ヒノアラシ」

ミコトに笑い掛けながらもしゃがみ込んでヒノアラシに目線を合わせるユウタに、ヒノアラシは堂々と胸を張った。対するワニノコは選ばれなかった為か落ち込んだ様子を見せる。

「そっか……。なら、一緒に来てくれへん?チコリータはん」

そう言って手を差し出したミコトに、チコリータはそっけない態度を示しながらも様子を見るようにチラチラとミコトに視線を向けつつ、頭の葉をその手に乗せる。するとミコトは、嬉しそうに笑った。

 

「スミレちゃん、選ばれなかったワニノコなんだけど、君に預けるというのはどうだろう?」

「体のいい厄介払いですね。選ばれなかったポケモンは精神に支障をきたして問題を起こしやすい」

ウツギの提案をスミレは、不機嫌な様子で切り捨てる。

「……なんか、すごく辛辣だね。その側面がないと断言するのは立場上できないが、無理なお願いなら別にいいんだ。研究所で育てる。……ただ、研究所所属トレーナーが貰える御三家個体は、それなりに優秀な個体を用意してもらっているからね。オーキド研究所所属で支援金もそれなりにある。なんなら、カントーリーグで3人中2人が決勝トーナメント進出、更に予選落ちした1人も異名持ちの撃破など見せ場があったから、研究所への資金援助と、それに伴い所属トレーナーへの支援金はかなり増えているはずだ。資金面は問題なし、個体も優秀、メリットは大きいと思うんだが」

「確かに支援金は目に見えて増えましたね。私個人へのスポンサーも付きましたし」

そう呟くスミレの脳内には、スポンサー絡みのゴタゴタが思い起こされた。幾つか打診があった内、殆どをエリカが弾いたのである。聞けば、トレーナーのアイドル売りをしていてスタイルが制限されるだとか、ロケット団に支援していた容疑で捜査中など散々である。その結果残ったスミレのスポンサーは現在2社で、タマムシジムにある老舗和菓子店と、そしてもうひとつ。

 それはある日、突然やってきた。妙に豪華な紙箱の中には、妙に高級な手触りのハンカチと手紙が入っている。それはエリカと共に行った呉服店、『繚乱』からのものだった。手紙によれば店としてはまず少額の支援から始めるらしく、実績に応じて報酬もグレードアップ、リーグ優勝くらいの実績を打ち立てれば、完全オーダーメイドで和服の制作に取り掛かるとの内容が入っていて、店にあった美しい和服を思い出して思わず頬を赤くしたのは恥ずかしい思い出だ。

 サトシの場合、どうやら運動靴のメーカーがひとつスポンサーに就いたらしいが、このようにリーグ決勝へ進んだ場合はスポンサーが付きやすい。将来性を見越してのことだが、期待を裏切るような結果を残せばそれは消し飛ぶ。つまりスポンサーによって得られた資金はあれど、今後どの程度供給が続くから未知数なのだ。

「どうだい?」

「……将来は確実ではありません。とはいえみずタイプの陸上アタッカーが有用なのは確かですから、その点でも受け取るメリットはありそうです」

そう呟くとスミレはゆっくりとワニノコに近付き、しゃがみ込む。

「ワニャ?」

ワニノコは不思議そうに首を傾げるが、スミレの表情は至って真剣だ。

「私は正直、貴方は居ても居なくてもいい。……だから、貴方次第。来たければ着いてくればいい。でも私は甘くはないから、厳しいのが嫌なら付いて来なくてもいい。犯罪者を相手に命懸けの戦いをしたくなければ、私には付いてこない方がいい。……たとえどっちを選ぼうと、私は責めない。だから選んで。貴方の進む道は、貴方自身で選んで。ここで私と共に進むのか、ここで立ち止まって違う未来を探すのか」

そう言って、手を差し出した。鋭い視線に射貫かれ、ワニノコは視線を彷徨わせながら考える素振りを見せた。簡単に決断できることではないから当然の話である。

 

 

「…………ワニャ」

そして迷いに迷った末にワニノコは、スミレの手を取らなかった。ただ決意の籠もった瞳で、首を横に振る。それを見たスミレは、優しげに笑った。

 

◾️◾️◾️◾️

「……良かったのかよ、ワニノコ」

研究所から29番道路に3人だけで歩いてゆく最中、ユウタがそう尋ねた。ワニノコは結局、ウツギのポケモンとして預かられることとなっている。

「うちも思います。……ワニノコ、後から後悔とかしてへんとええですけど」

ミコトの心配そうな声に、スミレは眉を顰める。

「そうだね。でも、あのワニノコは本当に凄い奴だよ。……あの場面で、臆病ではなく先を見据えて逃げることを選ぶのはかなり勇気が要ると思う。昔の私には、それが出来なかったからよく分かる。……ただがむしゃらに前へ進むだけじゃなくて、時には立ち止まって困難を避ける勇気も時には必要だから。だから私はワニノコに進む道を選ばせたし、ワニノコが断っても責めなかった。そして私達の進む道はワニノコが断った時点で、逃げる覚悟を示したその時点で別れてる。アイツが私の手持ちに加わることはないよ」

「野生ポケモンにも、そうやってんのか?」

「……いいや。それはしてない。野生で育ったポケモンは、よほど子供だったり事情があったりしなければ大抵殺し合う覚悟は決めてるものだからね。じゃないと、トレーナーを攻撃したりはしない。覚悟がない奴が居るなら置いていくだけ。使わないし鍛えてやるつもりもない。さて、この世界を旅するには危険だからこそ必要なのがポケモンバトルとゲット。ポケモン同士を戦わせ、時には捕獲して戦力にする。そうやってトレーナー達はポケモンと出会い、大自然での旅を行っている。今から私が、ポケモンゲット実演してみせる。……その後で、野生ポケモンとのバトルを2人にも経験してもらおうかな」

スミレは、そう言って軌道修正をする。本題はあくまでポケモンゲットを教えること、それさえ終わらせて仕舞えば旅に出られるのだ。

「……よろしく」

「お願いしますぅ」

ユウタは照れ臭そうに、ミコトは笑顔で言う。その言葉を背に、スミレは地面から木の枝をひとつ拾い上げた。

「この道路に生息する主なポケモンはオタチにホーホー。……私が欲しいのは、こっち」

そう言ってスミレは、木の枝を放り投げる。それは近くに立つ樹木の大きな穴に吸い込まれると、中から影が飛び出した。スミレは登録の為にポケモン図鑑を向け、一歩遅れてユウタとミコトはそれに続く。

「ホーッ!!!!」

スミレに向けて威嚇するのは、一本足で立ち、体に対して大きな目が特徴のとりポケモン。

「ホーホー、ノーマル・ひこうタイプのポケモン。これが今回私のターゲット」

そう冷静に説明しながら、スミレは腰にたったひとつ取り付けたモンスターボールを取り外す。

「それって……!」

ユウキが、興奮気味に言った。

「うん。このボールに入っているのは、カントー地方から私を助けてくれている、私にとって最強の相棒。……さあ、行こうフシギバナ!」

高らかに投げられたボールから光が迸る。その光は輝きを放ちながらポケモンの巨体を形作った。そして光が弾けると共に、そのポケモンは姿を表した。

 

「バナァァァァ!!!!」

フシギバナが、吠えた。強者の気配を察したのか空のポッポが逃げ出し、地上をオタチが駆け回る。そしてその姿をすぐ近くで見たユウタとミコトは、その威容に目を見開いた。

「……す、すっげぇ」

「これが……うちらの先輩。これが、最終進化のポケモン」

しかしそれを横目で見ながらも、スミレはホーホーに鋭い視線を送る。目の前のホーホーはフシギバナを見て目に怯えを浮かべながらも、必死な表情で威嚇する。

「成程……。私は幸運だよ、本当に。覚悟を決められる奴は嫌いじゃない。でも、力の差が歴然なのが不満だね。【つるのムチ】」

「バナァ!」

スミレはそう言って笑うと、フシギバナから伸ばされた蔓が、飛び回るホーホーを捕まえて締めつけた。

「さて、相手を消耗させたら今度はゲット。ポケモンの場合、戦闘不能にして少し立つと体が縮小されるんだよね。その特性を利用したのがモンスターボールだとかなんだけど、それを草むらでされてしまうと見つけられない。だから、例えば戦闘不能直前まで追い詰めるとか、状態異常で弱らせるとか、不意打ちのモンスターボールでバトルもせずに捕獲するとか、色んなやり方がある。……っ」

スミレはそう説明してからモンスターボールを投げた。蔓に縛られたホーホーにモンスターボールが当たるとその体は吸い込まれるように中へと消えた。そして落ちたボールは回転を3度繰り返し、カチリと音を立てた。

「……おっ?捕まえたってことか」

ユウタが言い、スミレはフシギバナをボールに戻しながら頷く。

「そ。これでゲットは完了。因みにポケモンをゲットしたら、ポケモンセンターやポケモン図鑑で登録をしなきゃいけない。その辺はお願いすればどっちでも詳しくやり方を説明してくれるから、私が教える必要はないけど。まぁ、簡単だからあんまり問題じゃないけど、面倒臭がってやらなかったら密猟扱いとなって犯罪だから注意して。場合によっては、一応国際警察の協力者扱いになってる私が、このフシギバナと肩を並べて戦えていた精鋭達を連れて叩き潰しにやってくるから。……さて、それじゃあ2人とも。1人ずつ草むらに入って、ポケモンバトルをやってみようか」

「俺が行く!!」

「ほなら、うちは見学しときますわぁ」

スミレの誘いに、まずはユウタが手を挙げた。それを見たミコトは、あっさりと引き下がる。

「なら、草むらを歩いてポケモンを探してみて。フシギバナの脅威で隠れていたポケモン達が、出てくる筈だから」

その言葉の通り、フシギバナの去った草むらにはチラホラとポケモンの姿が見えはじめている。そして1匹のポケモンが、一歩前に踏み出したユウタに目をつけた。

「……ッ来た!」

ユウタは、自身を睨みつけるそのポケモン。オタチに、思わず息を呑む。

「大丈夫。……ポケモンを信じれば、意外となんとかなる」

スミレがユウタを励ますように言葉を掛けると、ユウキは緊張に震える手でボールを掴む。

「いくぞっ、ヒノアラシ!」

「ヒノッ!!」

「ポケモン図鑑に、使える技は乗ってるからミコトも確認してね。そのヒノアラシが今使えるのは、【たいあたり】と【にらみつける】のみ。さ、やってみて」

「おうっ!……ヒノアラシ、【たいあたり】!!」

ユウタの指示で駆け出したヒノアラシが、オタチの胴に体当たりをぶつける。跳ね飛ばされたオタチは、すぐに立ち上がり怒りの表情を浮かべた。

「ポケモンは生き物。指示次第では攻撃を避けられるし防ぐこともできる。ただ、指示が混乱すればそれはできない。トレーナー次第で、自分のポケモンは傷つくし傷つかない」

突進するオタチに視線を向けながら、スミレがアドバイスを飛ばす。

「……よしっ、避けろヒノアラシ!」

その言葉でヒノアラシは体を横にずらすと、オタチの【たいあたり】は不発に終わる。

「今」

「行け、ヒノアラシ!【たいあたり】!!」

ヒノアラシの【たいあたり】がぶつかってオタチは吹き飛ばされ、そのまま素早い足取りで逃げ出した。

「逃げたか。これで終了、貴方の勝ち。なかなか悪くない立ち回りだったよ。……それじゃあ、次はミコトの番」

「……分かりました、うちの番ですね。それではお願いします、チコリータはん」

「チコッ」

ミコトが投げたボールからチコリータが飛び出した。目の前には、野生のポッポ。

「チコリータはん、【なきごえ】」

初めにチコリータは、鳴き声を上げた。【なきごえ】によってポッポの戦意が僅かに削がれ、攻撃力が下げられる。

「変化技で自分に有利な戦況を作る、それも戦術」

そんなスミレの解説を背に、ミコトは目の前で羽ばたくポッポを見据える。

「ポーッ!!」

空を舞い、飛び掛かるポッポ。その姿にミコトは一瞬目に怯えが浮かび指示が遅れるも、勝手に動いたチコリータがそれを躱す。

「チコッ!」

チコリータの葉が、ミコトの尻を叩いた。

「いたぁ……、何しますの?」

尻を押さえて眉を下げるミコトに対して、チコリータは鼻息荒く頭の葉でポッポを指し示す。

「つまりチコリータは、逃げるなって言ってるの。初めてのバトルで怖いかもしれないけど、最低限の覚悟もなきゃ草原を自分の血で染めることになるだけ。……進むなら、せめて逃げるな。そんな勇気がないというなら、魂を燃やして絞り出せばいい。何がしたくて旅に出るのかは知らないけど、引き際を見失った人間ほど惨めなものはそうない。だから、決断するときは今だよ。本当に旅に出るのか、それを辞めて新たな道を探すのか」

スミレが放ったその厳しい言葉に、ミコトは表情を泣きそうに歪めた。

「…………うちは」

「チコッ!!」

チコリータが、真っ直ぐにミコトを見ている。

「すみません、そんなこと言わせてしもうて。……うちは大丈夫です」

ミコトは、しっかりと目を見開いた。

「そ」

スミレはただ一言呟いた。

「ポーッ!!」

ポッポが、鋭く鳴きながら空を舞う。それをミコトは、チコリータと共に真っ直ぐと見据えた。

「チコリータはん、【なきごえ】を掛けてください。そして避けて【たいあたり】!」

ポッポの【たいあたり】に対して、チコリータはまず【なきごえ】を発動。ポッポの攻撃力を下げると、それでも突っ込んでくるポッポを避けたチコリータが、【たいあたり】を決めた。

「よっしゃ!!」

ユウタが、思わず歓喜の声をあげる。

「お願いします、モンスターボール!」

そしてバッグから取り出した空のモンスターボールを、ポッポめがけて投げつけた。ポッポの体がモンスターボールに吸い込まれ、モンスターボールは回転し、そして止まった。ゲット成功だ。

「これでゲット成功、おめでとう。……それじゃあ、私はそろそろ行くよ」

スミレはその光景を見届けると、一歩前に踏み出した。

「もう行くのか?」

「うん、結構なタイムロスをしたしそろそろ進まないと。ホーホーのことも鍛えてやらないといけないし」

「すみまへん、うちの勝手に付き合わせてしもうて」

頭を下げるミコトを、スミレは鼻で笑った。

「私は人が嫌いでね。本当にやりたくないことを態々やるのはもう辞めたんだよ。だからいちいち気に病まれても困る」

「そうですか……」

ミコトは、スミレの言葉にホッとした様子で微笑む。

「ああ、それと」

スミレが、立ち止まって思い出したように呟く。

「……なんだ?」

ミコトとユウタが、首を傾げた。

「少なくともこの世界はそう人間に優しくない。生きていれば必ず良いことがあるなんて、そんなの詐欺師も真っ青な大嘘だ。それでも、生きているからできる良いこともあるかもしれない。全てを失ったと思っても、まだ手に入るものはあるかもしれない。……だから、命はそれなりに高い優先順位に置いておきなよ。そして逃げることも、回り道も視野に入れて、広い視野を持って行動すること。視野が狭まれば、世界はそこを必ず狙ってくるのだから」

そう言って歩き出すスミレに、2人は何も聞けなかった。何かを背負っていることは分かるけれど、それ以上踏み込むことが、許されない気がしていた。

「ありがとなー!!」

「ありがとうございます!」

だからせめて、とばかりに。2人の大声が響いた。スミレはその声に口の端を僅かに上げると、そのまま振り返ることなく歩いていった。

 

 

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