ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第161話 大人の思惑

 「さて、集まったようじゃの」

そう告げるのは、まるで枯れ木のように痩せ細った老人。彼は、マサラタウンでも最高齢の男だ。そしてそれを取り囲むのもまた、5人の老人ばかり。うち3人が男性、2人は女性だ。

「……それで、わたしらを呼んだのはどういうことかね?町長も博士もおらんじゃないか」

1人の老婆が口を出せば、最高齢の男はニヤリと笑った。

「2人も事情は知っておるが、説得して来させんかった。かなり渋ってはいたがね。これは町の子供……特にスミレによく関わることじゃからな」

「なんだい、クズキのジジイめ。またスミレに何か押し付けるつもりかい?町を挙げて反省しようってなったばかりじゃないかい」

老婆が眉を顰めるが、最高齢の男……クズキは首を横に振った。

「違うわい。……ミシマの爺さんや、近頃の世界の人口はどうなっとる?」

「超人が異様に増えたな。それまで多数派だった、常人が一気に割合で逆転されておる。このままだと、その内超人こそが常人になってゆくだろう」

ミシマ、と呼ばれた厳つい顔の老人が難しい表情で話す。

「そうじゃ。それと、皆はカレンダーをよう見ておるな?」

「ボケでも来たか?カレンダーなぞ何処を探してもありゃせんわい。しかも、気を抜いたらそれが普通みたいに思うてしまう」

横から、別の老人が笑いながら口を出す。

「そうじゃ。オーキドに聞いてみれば、どうにも時の流れに異常があるかもしれんとのことじゃ。ヒマワリの一件も、それ絡みで色々と思い詰めてのことだと聞いている」

「なんだい、それとスミレがどう関わるんだい?」

老婆が尋ねると、クズキはニヤリと笑った。

「マサラタウンの伝説に、『波導の勇者』と『呪詛の黒姫』についてあったじゃろう?」

クズキの問いに5人は頷く。

「よぉ分からん部分は多いがね。もう古い文献だ、翻訳されているものなんてほんの表層だ。アーロンがどこに消えたのかも分からんし、黒姫が道連れにしたという呪詛が何なのかも分からん。……もしや、お前はスミレを呪われた子だとでも言うつもりかい?確かに黒姫以来初めてのマサラ生まれの常人、不思議なのは分かるがね」

「スミレの意思と関係なく、呪われていたとしたら?……少なくとも、トウリ、モモカと血が繋がっているのは確認が取れている。確実に2人の子であることは間違いない。だが、その家系を遡った所で、常人は出てこんのだ」

老婆による非難に、クズキはそう考えを告げる。

「……つまり、黒姫の呪いと時間のおかしさに関係あるっちゅうことかい?」

「分からん。じゃが、ワシは常々思うて来た。スミレが常人として産まれたことに、どのような意味があるのかと。そして旅立ったその年に、時間の流れがおかしいと気がついた。何かがある、しかしスミレに知らせて重荷とするのも忍びない。じゃから、ワシは1人でも町に伝わる呪いを調べる。それを手伝ってもらいたいのじゃ」

その言葉に、1人の老人がカラカラと笑い声を上げた。

「なるほど、ジジイやババアだけ集めた理由が分かったわい!クズキのジジイ、ワシらを道連れにするつもりじゃな?」

その言葉に、他の4人も笑った。まるで、死を恐れてなど居ないかのように。

「なんじゃなんじゃ、結婚もせんで今更1人で死ぬのが怖くなったか?」

「呪いを学べば呪いにかかる、なんて考えておるのか。まぁワシらが死んでもただジジイやババアが減っただけ。誰も困りゃせんもんな。テメェ、髪は残ってないくせに回るじゃあないか」

「んだな。でもスミレに伝えねぇってのは納得だ。変な心配されても、スミレが苦しいだけだからね」

「……遺書はどうすんだい?」

「爺さん、気が早いで。わたしは呪いなんぞで死ぬ気はないからねぇ」

その反応に、クズキは深々と頭を下げた。

「…………すまんっ、ワシと一緒に死んでくれ」

その態度に、5人の老人達は愉快そうに笑った。

「ええなぁ、5人もいれば死ぬのも寂しくなさそうじゃ」

「うむ」

「子供の未来を守るために死ぬ、死に損ないのジジイには勿体無い死に様じゃのぉ」

「やる価値はありそうじゃ。呪いとやらに、マサラのジジイとババアの力を見せてやろうぞ」

「うむ、どうせ皆子も孫もおらんしな。このまま死ぬよりマシじゃろうて」

彼らにとって、死などそれほど恐れるものでもなかった。彼らが生きた時代はそれこそ修羅、サナダ達がロケット団と戦争を起こしたように、人と人でさえも血を流しながら戦った、ポケモンと人間の共存に法とモラルが追いついていなかった時代を生きてきた、文字通りの生き残りなのだから。彼らは、見据える。今は町を駆け回る子供達が、いつか立派な人間となって多くの人を救う姿を。スミレが呪いの根源か、呪いの被害者か、はたまたまた全く別の存在か。そんなことはどうでも良かった。

「…………世界如きが、幼子の未来を壊すなど思い上がるなよ」

クズキは、そう呟いて建物の天井を睨みつける。これは、死に損ないと自分らを卑下する老兵達の、最後の戦いだ。世界の謎を解く手掛かりを探り、もしも謎に呪い殺されればその事実は未来に繋がる。謎が解ければ、世界を正すことができたなら。その先にきっと、子供達に、そしてその1人であるスミレにとって生きやすい世界が待っているとそう信じて。

 

6人の老人たちは、黒姫の伝承を調べ始めた。世界に巣食う謎を解き明かすひとつの鍵を求めて。

◾️◾️◾️◾️

 「成程、やはり断られたか」

ロケット団本部で、サカキは嬉しそうに笑みを浮かべた。対してその前に立つ男女とポケモン……ムサシ、コジロウ、そしてニャースは引き攣った笑みを浮かべる。

「申し訳ありません、どうやらジムリーダーエリカの助言を受けて決めているようでして」

彼らの報告は、スミレへのスポンサー契約の一件だ。サカキはスミレへの監視の一環としてスポンサーになろうとしたのだが、エリカによって阻止されていた。

「よい。これくらいは想定済みだ」

「しかし……ロケット団に協力する政治家達も大勢捕まりましたし」

ムサシの心配に、サカキは一瞬虚を突かれた表情を浮かべると、笑い声を上げた。

「はっはっはっは、お前がそれを心配するか!!」

「……も、申し訳ありません!」

「いやいや、むしろ逆だ。すまんな、説明不足であったか。……お前達が中心になって潰したカラシ、その傘下や影響下にある取引先を私が丸々吸収できたのだ。それを手に入れられたからこそ、私は身分を明かしてジムリーダーを辞めることが出来た。そして、他の捕まった政治家共が隠し持っていた財源も、我らロケット団の手の内に入った。勿論、奴らが抱えていた戦力もな。つまり我らは、今の段階で動きを変えることが出来る、そんな余裕のある段階だ。そして今のリーグは、ワタルを始め有能な連中が揃っている。そして、あの場に居た4人の子供のようや、新世代も育ち始めている。今までのままでは確実に間抜けな政治家共から我らの情報が抜かれ、大きな打撃を受けていただろう。だから今の余裕があるうちに奴らの金を吸い付くし、そして我らの力をより一層隠し通しながら戦力の増強を図っているのだ。……だから、お前達があのサトシという小僧をどれだけ追いかけようとも咎めはせんし、その過程である程度失態をしようともお前達が挙げた功績にはほど遠い。お前達は、ルギアの一件で世界を救う作戦に参加、貢献した功績もあるからな」

「「「ありがとうございます(ニャ)!!!!」」」

「……それで、今度は何処に向かうのだ?」

「ハッ、ジャリボーイはもうじきジョウト地方に向かうようです!既に他の幼馴染3名は全てジョウト入りをしていると報告がありました」

コジロウの言葉に、サカキはニヤリと笑った。

「ほう?それでは、またもや我らとぶつかる可能性が出てきた訳か。良いだろう、ロケット団の戦力増強は我らに任せ、お前達はそのジャリボーイを中心に4人をマークしておけ」

「「「ハッ!!」」」

 

「……ああ、そうだ」

サカキは、何かを思い出したように呟く。

「「「……?」」」

「ジョウトでは近頃、私の手が届かぬのを良いことに、我らに従わぬポケモンハンターの組織が蔓延っておる。もしもの時には、必ず本部へ報告を上げよ。切迫した事態の時は、あの4人を始めとするリーグのトレーナーと手を組むことを許可する。敵対するからこそ分かるが奴らは、何処ぞの馬の骨よりは余程役に立つだろう」

「「「ハッ!!」」」

「特にそのニャースは狙われやすい。人語を話せ、機械の開発や操作が出来るポケモンなど、目を付けられてもおかしくない。力を合わせて、よく守ってやるが良い。もしもの時には信頼できる救援も送る。……そして、奴らの動きがあまり目に余るようなら、その時は私が出る。直々に叩き潰してやるから、遠慮はせずに頼るが良い」

「「「サカキさまぁ〜!!!!」」」

サカキの宣言に、3人は手を取り合って喜びの声をあげる。それが可笑しかったか笑みを浮かべると、窓の外に広がる空を見つめる。

 

 

「ククク……。楽しくなってきたぞ」

 

◾️◾️◾️◾️

 スミレが出て行ってから。トウリとモモカは、とある場所に向かっていた。それは、エトウの元だった。

「なんで、アンタらにスミレちゃんのこと話さなきゃいけないんですかね。今まで、能天気だったのはどこのどいつですか。……僕も暇じゃない、次の患者が待ってるのに、頭ファンシー夫婦の世話なんぞ焼いてられませんよ」

苛々とした態度を隠さないエトウに、2人は何も言い返せない。これまで、スミレの精神状態を楽観的に見てきたのは自分達なのだ。その結果、他の子供……特にヒマワリには不利益を与えてしまっていた。

「分かっています。……警察の人にも、散々怒られました。取引先のヤーコンさんには頭をぶん殴られて説教されました。職場だって、『家族の為に働け』って大目玉食らってイッシュの本社からカントー支社に異動になりました。それだけ、事が大きいなんて思っても見ませんでした。そしてそれ以上に、初めて見たんです。スミレの素顔を。……死にたくなりました。素のスミレは、殆ど笑わないんです。確かに自殺未遂をして、社会復帰してからあの子が暗くなったのは知っていました。でも、僕らの前では少しだけ明るく居てくれていました。……それが、僕らに気を遣ってのことだなんて、気づきもしなかったんです。全く、滑稽どころの話じゃない。それに、旅から帰ってきても、ほとんど家にいないんです。研究所にいるか、ずっとタマムシジムに籠ってる。家に居ても、寝不足の日々が続いているようで。聞いてみても、『悪い夢を見た』と言うんです。それなのに、タマムシジムから帰ってきたスミレは何処か元気があるんです。素顔を見せてくれているのに、今の僕らに見えているのは、自分達の罪が生んだ地獄でした。…………僕らのせいなんです、僕らがあの子を追い詰めた、家を悪夢を見る場所にしてしまったんです。僕らのせいなのに、町の人達にも謝らせてしまったんです。荒れたあの子が、人を傷つけたんです。でも、どう償っていけば良いのか分からないんです。取り返しのつかないことすぎて、どうすれば良いのか分からないんです」

トウリは、震える両手で顔を覆った。

「そうなんです。……私は、もっとあの子を分かっていると思っていました。でも違ったんです。スミレの師匠になってくれたエリカさんと、話をしました。……あの人は、私達の知らない、スミレが好きなものや嫌いなものを知っていました。私達が知っていたのは、スミレが演じていた着せ替え人形だったんです。エリカさんに、胸倉を掴まれました。泣きながら、口調が崩れるほど怒鳴られて、そして思ったんです。……私達、あの子の為にそんなに怒ったこと、無かったかもしれないと。私達が思っていたほど、私達はあの子のことを愛せていなかった。全く、ふざけてるどころの話じゃありませんよ。ジムリーダーとはいえ、沢山の弟子を持っているとはいえ、15歳の子供に人を育てる人間として負けたんですから。足元にも及ばなかったんですから。リーグの最後であの子を抱きしめられたのだって、お膳立てが無ければあの子を見つけられもしなかったんです。……ショックを受けて、色んなことを思い返して、そして夫と相談しました。2人が一緒に死ねば、償いになるのかと。答えは、分かりませんでした。私達が生きて働いて、あの子に金を渡し続ける。それが出来たとして、あの子は私達が生きてることを望んでないじゃないでしょうか」

モモカが俯き、涙を流す。2人の言葉に、エトウは目を見開いた。予想以上に、彼らは憔悴していた。

「……成程、お花畑は枯れ果てたと見えますね。良いでしょう、相談に乗ります。ただし、あの子と同い年の子供達も順番待ちしています。その後で良いですか?」

「はい、大丈夫です」

「お願いします、先生」

2人の言葉に、エトウは鼻を鳴らす。

「彼女とは偶に会って居ますがね。……少なくとも、カントー行き前よりはずっと精神は安定してますよ。どこぞで変な影響を受けたせいか、妙に覚悟が決まって任侠映画みが出てきてますがね。ま、傾向としては悪くないでしょう。詳細は診察全部終わってからお話しますよ。……18:30頃にここに来れますか?」

「「はい」」

2人は、間髪入れずに頷いた。その答えに、エトウは満足げに頷く。

 

「……あの子自身は、多分私の手をもう離れ始めている。勝手に救われてる段階に入っている今、私の手はあまり必要じゃない。どちらかと言えば、私の存在を忘れるフェーズに入りかけているんです。でも、あの子の家族がこうして苦しんでいるのなら、そこにまだやれることがあるなら、私は医者として全力で助けるだけです」

エトウは、そう言って机上のカルテを見つめる。そこに書かれていたのは、最も酷い状態だった頃のスミレの様子。あの時を思い出して、エトウは小さく笑みを浮かべる。2人の言葉を聞けば、スミレの確実な成長が見て取れる。気を遣っていたら『悪夢を見た』なんて言わないし、自宅を殆ど離れているなんてこともない。自宅で笑わなくなったのは、むしろ家族に対して正直な気持ちを伝えるようになった証拠でもある。

 

(君はこれから、少しずつここに来なくなるだろう。……それで良いんだ、それが良いんだ。元気に笑って、僕のことなんて、こんな病院のことなんて忘れて、幸せに生きてくれた方が良いんだ。だがせめて、僕は最後に贈り物をしよう。せっかく家に帰っても、歩み寄っても、家族が罪悪感で潰れかけていては居心地も悪いだろう。だから、僕が彼らを救うよ。……それが、僕が君に贈る退院祝いだ。ちゃんとこんな所を忘れられるように、形がなくて素敵だろう?)

エトウは、立ち上がる。かつてのスミレにも似た子供達が、まだまだ待っているから。こんな所で、立ち止まってはいられないのだ。

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