ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第167話 謎の修行僧

 ハヤト対スミレ、ジョウト地方にやって来て初めてのジム戦はスミレの勝利に終わった。とはいえ、スミレにとって満足の出来る試合内容では無かったようで、無表情ながら不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。

「……敢えて言おう。" おめでとう、君の勝ちだ " 」

ハヤトの言葉に、スミレは肩を揺らす。

「嫌味ですか?」

「いいや。……勝てたとは思えない勝利、か。ではどうして失敗し、勝てたと思う?」

ハヤトに尋ねられ、スミレは先のバトルを思い返す。

「……私は、ポケモンに勝敗の決定打を依存しています。対策をすることで苦手を潰しているけれど、強みを伸ばしている訳ではないから結局比較的苦手な状況に味方を追い込んでしまってる。それでも勝てたのは、ポケモン達が強くて、しかも私を勝たせるために全力を振り絞ってくれるから。今回だって、フシギバナのスペックで無理矢理押し込んだだけです。つまり合理的作戦に、私自身が穴を作ってしまっているのが現状だと思います。……そもそもバトルは臨機応変に進む物、フシギバナがどれだけ強くてどれだけ信頼していても、ポジションを固定してしまえば作戦の幅を狭めてしまいます」

「そうだな。……だがポケモンバトルというものは、空のように幅広く奥深い。取れる手段は山の如くある以上、合理的でない選出が勝利を呼び込むことはありえる。だが、切り札だからと出し惜しみした挙句苦手な分野のバトルで出撃となれば、ポテンシャルを十全に活かすことなどできないのもまた事実だ」

ハヤトの指摘にスミレは、分かっているという意味を込めて頷く。

「分かってます。……ですが、先のリーグで思い知った筈なのに」

「では、先のリーグでフシギバナを起用した理由は?」

「……異名が与えられる程のサワムラーを倒すには、私の最大戦力をぶつけなきゃいけないと思い込んだのは事実です。でもそれ以上に、私の最強で異名持ちを落としたかった。勝ちたかった、と思います」

スミレの回答に、ハヤトは満足げに頷いた。

「それで良いんじゃないか」

「……何処が?」

「良いんだよ、このポケモンで勝ちたいから選ぶって選出法もな。ただ、リーグでそれをやるなら下準備としてサポートできるポケモンの存在は不可欠だ。例えば、他のポケモンを確実に落として1対1の状況を作ったり、フィールドを自分有利に整えたりとな。ポケモンには適材適所というものがある、バトル向きのポケモンも居ればバトルが苦手なポケモンだっているように。……まぁ、すぐにとは言わんが色々と検討して、試してみると良い。試行錯誤をして、失敗しながら改善していけば、その先で違う壁に当たった時も対処法が自然と思い浮かぶものだ」

つまりは、ヒントは出すが自分で考えろということだ。ごねて説明をせがむだけではなく、自らの知恵と行動で最適を導き出せということだ。それはフシギバナだけでなく、きっとガルーラのことも含まれている。

「…………道理ですね。すみません」

「いいや、謝ることはない。アドバイスもジムリーダーの務めだ。何もかも教えてはいかんがな。……そら、本題に戻るぞ。これを持っていけ」

そう言ってハヤトは、スミレの掌の上にバッジを落とした。

「これが、キキョウジムのジムバッジ……」

「ああ。これはウイングバッジだ。そして、渡すわざマシンはこれだ」

バッジを渡したハヤトは、続いてわざマシンをスミレに手渡す。そのわざマシンに収められた技の名前は、【どろかけ】。

「【どろかけ】……。ええと、じめんタイプの技で相手の攻撃命中率を下げる、でしたよね?」

「そうだ。ひこうタイプのように機動力で戦うポケモンは、このような技で相手の命中率を下げてやればより有利にバトルを進めることができる。お前ならきっと、この技を上手く使える筈だ」

「ありがとうございます。……それでは、失礼します」

スミレはそう言って一礼すると、ハヤトに背を向ける。

「頑張れよ」

背中に向けられたハヤトの言葉は、暖かいものであった。

 

◾️◾️◾️◾️

 1つ目のバッジを手に入れキキョウジムを後にしたスミレであったが、ポケモンセンターでポケモンを預けると大きくため息を吐いた。取り敢えず、フシギバナとホーホーを除く4体は再びカントーのオーキド研究所に送っておいたのだが、スミレにとってガルーラは悩みの種になっていた。

(……捨てるのが最適解だね。野生の癖に覚悟はなっちゃいないし)

そう考えるも、不思議とスミレ自身にもその思考は苦し紛れのものに感じられる。ガルーラはひとまず研究所でしっかり戦闘訓練をさせるよう、カイリューにバタフリーへの伝言として伝えて送ったので、今は研究所で扱かれているのだろう。そのうちまた呼び寄せて様子は見るが、ホーホーの育成と新戦力の確保が最優先な以上は今はこうする以上は思いつかなかったのである。

「とはいえ、今後戦力になるかどうか……」

正直な話、スミレはサファリゾーン組の全員がこの先も第一線、つまりフシギバナやバタフリーと肩を並べて戦える、各地方のチャンピオンが使用するポケモンと真っ向勝負ができるまで強くなれるとは思っていなかった。しかし現状ある程度は戦える以上は、持てる戦力を最大限活用したいと思うのは別におかしなことでもないだろう。後々インフレに置いていかれるとしても、現状では立派な戦力なのだから。

 スミレが向かった先にあるのは、マダツボミの塔というまるで寺院の五重塔にも見える塔だ。そこは古くから修行僧の稽古場として使用されており、今では野生のポケモンが住みつくだけでなく多くの野良トレーナー達が鎬を削っている。

「……たのもー、だっけ」

スミレが呟きながら入ると、中は木造の広い空間だった。上に続く階段があるので、上には上がれることが確認できる。全体を構成する木材はそれなりの古さであるが、ポケモンや人がバトルで暴れ回れる程度の強度を有している辺り、野生ポケモンが住み着いている割にはかなり頻繁に手入れがなされているようだ。棲みついた野生ポケモンはコラッタにゴース。

「ラッタァ!」

スミレの姿を視認するとすぐに、野生のコラッタが威嚇の声を上げる。

「……行って、ホーホー」

スミレの答えは一択、迎撃だ。ホーホーをボールから出すと、ホーホーはコラッタを睨む。

「ラーッ!!」

先制はコラッタ。【たいあたり】でホーホー目掛け突き進む。

「ホーホー、【エコーボイス】」

「ホーッ!」

しかしホーホーが【エコーボイス】を放てば、凶悪な音波にコラッタは足を止める。

「もう1発、【エコーボイス】」

連続で放つことで威力が増す【エコーボイス】が再度放たれ、その攻撃によってコラッタは目を回す。あまりにアッサリとした勝利だが、その個体ではジム戦によって多くの経験値を得たホーホーには及ばなかったというだけの話だ。

(……しかし、どうも)

スミレは、チラリと辺りを見回した。何処からか、視線を感じるのである。その視線は不思議なことに、悪意を全く感じられない、むしろバトルを見学する観客のような視線であった。しかし、正体のわからないスミレにとっては気味の悪さを感じる。

「……戻って。次、フシギバナ」

その為スミレはホーホーを戻すと、続いてフシギバナを呼び出した。

「打ち払え、【はなびらのまい】」

スミレの判断は、広範囲殲滅。凄まじい勢いで飛び散った花弁がホーホーとコラッタの戦いでスミレに警戒の目を向ける野生のポケモン達を強襲、悉くを吹き飛ばす。

 

「…………誰?」

そしてスミレの耳は、【はなびらのまい】が荒れ狂ったことにより動いたその人物の足音を捉え、その方向を睨みながら声をかけると、そこには僧侶が立っていた。袈裟に身を包み、深々と編笠を被り、手首には数珠を付けて杖を突いた、長身の男だ。

「不躾な視線を失礼致した。私の名はショウガ。修行僧としてつい先日旅を始めたばかりだ。……貴殿はここに挑むトレーナーであるか?」

編笠を取り、深みのある声と共に一礼するその男は出家している為か頭を丸めている。

「はい。……私はスミレ、ポケモントレーナーです」

「成程。突然で済まぬが、私とポケモンバトルをして貰えないだろうか?……とはいえ、先程のフシギバナと我が相棒では天と地程の差がある故に其方のホーホーでお相手願いたい」

ショウガの頼みに、スミレは眉を顰める。

「良いですけど、野良トレーナーを探す暇があるならそこらの野生ポケモンと戦えば良いのではないですか?」

「道理だ。しかし我が相棒には少々込み入った事情があってな、より強い者と戦い早急に強くなる必要があるのだ」

スミレの疑問にショウガは真っ直ぐな瞳で答え、スミレは小さく溜め息を吐く。

「……成程、その相棒とやらはこんな場所で出しても大丈夫なのですか?」

「うむ、現状は問題ない。……特殊な技を所持してはいるが、取り敢えずは通常種と見分けは付きにくい故にな」

ショウガが渋い表情ながらも頷き、スミレは腰のボールを取る。

「良いでしょう、相手になります。……ホーホー」

「ホーッ!」

ボールを投げ、飛び出すのはホーホーだ。

「感謝する。……出でよ、オドシシ」

「……」

対するショウガが袈裟を翻してボールを投げると、飛び出したのはオドシシだ。オドシシは無言のまま地に降り立つと、ホーホーを真っ直ぐに見据える。

「ホーホー、飛び立て」

「オドシシ、【たいあたり】」

オドシシが地を駆けて突進し、ホーホーは空中を舞うことで躱す。

「ホーホー、【エコーボイス】」

「躱して【めいそう】」

ホーホーは【エコーボイス】を放ち、オドシシは躱しきれずダメージを受けるが、すぐに【めいそう】を使用する。【めいそう】は、特殊攻撃と特殊防御の能力を上昇させる技だ。

「(……【めいそう】の使用、特殊型!)なら、【エコーボイス】」

「突き破れ、【たいあたり】」

ホーホーがオドシシの正面まで降下して【エコーボイス】を放つと、オドシシは真っ直ぐそれに突っ込んだ。【エコーボイス】とぶつかり合い、衝撃波が放たれる。それを見たスミレは、驚愕に目を見開いた。

(なんで……!?物理攻撃の【たいあたり】が、【めいそう】によって火力を増してる!)

「突き崩せ、【バリアーラッシュ】」

「(何その技、知らない!?)……くっ、躱してホーホー!!」

スミレが焦ったように叫ぶが、地を蹴ったオドシシは不可思議なエネルギーを纏い突進、ホーホーを巻き込み勢いよく吹き飛ばした。

「……ホー」

地を転がったホーホーは、傷つきながらも立ち上がる。スミレは安堵のため息を吐くと、目の前に立つオドシシを観察するように見つめた。

(【バリアーラッシュ】、そんな技聞いたことない。……新技?ショウガさんが普通に言ってるってことは、戦術として確立されたオリジナルの技か私が知らないだけで実在する技ってことになる。いや、でもバトル前にショウガさんは、相棒を特殊と言っていた。ならあの技は、元から存在していて尚且つ特殊と言われる程に確認されていない技)

「…………もしかして」

そこまで考えた瞬間、スミレの脳内にとある仮説が浮かび上がった。スミレ自身も信じられないが、かつて出会ったフーディン老師やニドキング王の事例を考えれば不思議ではない。

「む。気付かれたか?」

「はい、多分。……でも、私の推測が正しければ、今ここで大々的に種明かしして良いものでは無さそうです。それはあまりに希少個体だ、ハンターにいつ狙われても可笑しくない」

「成程、恐らく貴殿の推測は正解だろう。そしてその危惧もまた当然のものだ」

ショウガが静かに話すが、スミレとしては衝撃で頭の回りが良く無かった。

「……ヒント出し過ぎ、あまりにも迂闊です。そして正直が過ぎるし分かりやす過ぎる。そっちに知識のある人間なら、直ぐにその答えに辿り着くでしょう。一旦バトルは中断します。このまま続けても、私の負けは確実ですから負けで良いです。ポケモンセンターでポケモンを回復させたら、オーキド博士に相談しますよ。拒否権はありません、良いですね?」

頭が痛い、といった様子で放たれたスミレの言葉に、ショウガは自身の思った以上に事は重大なのだと思い知らされただ目を見開いた。

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