ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
シゲルと別れ、ショウガと共に向かったのは32番道路。ポケモンの鍛錬も遺跡でそれなりに出来たが故に、あまり寄り道してポケモンを鍛える必要性もない。
「……しかし、人間の縁というものは奇妙なものだと実感した。白と黒では分けられぬ関係性もあるのだな」
ショウガがしみじみと呟くと、スミレは頷く。
「私も昔は知らなかった。……あの3人組が居なければ、知らないままだったかもね」
「そうか。貴殿は縁に恵まれていると思うか?」
スミレの返答に、ショウガは少しだけ踏み込んだ質問をする。
「まだどっちとも言えない、が答えかな。……お察しの通りね」
対するスミレの返答は曖昧。つまりは、まだあまり踏み込むなという拒絶のサインだ。
「……了解した。いつか、話せるようになれば教えてくれ」
「いいよ」
ショウガの頼みにスミレは頷く。今はダメでも、いつかは話すかもしれない。そんなスミレの反応にショウガはただ頷くしか出来ない。
「さて、次はヒワダタウンか。この道路はどうする?」
「相手から来ない限りは突っ切る。遺跡での経験値が思ったより美味しかったから、ネイティも戦力に数えられそう」
方針を尋ねることで話題を逸らしたショウガに、スミレは即座に乗った。現在のジム戦用のポケモンはホーホーとネイティだが、既に2度目のジム戦に挑んでも良いレベルには達していた。スミレ的にはあまり実感が無かったのだが、どうやら群れを相手取ったのが大きかったらしい。
「つまり32番道路、つながりどうくつ、33番道路を一気に抜けてヒワダタウンまで真っ直ぐ行くということだな?」
「そういうこと。……それで大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
2人は視線を合わせて頷くと、先を見据えて真っ直ぐ歩き始めた。
◾️◾️◾️◾️
32番道路を真っ直ぐ歩いていった先に、その男は立っていた。水辺で焦った様子で何かを探している釣り人らしき中年の男の姿に、ショウガは眉をひそめる。
「……何やら困っているようだが。行っても良いか?」
確認を取るショウガに、スミレは頷く。
「まぁ、いいよ。……あんまり長くなるなら先に町へ行くけど」
人助けという行為が嫌いなのか、若干不機嫌な様子ながらも了承したスミレにショウガは首を傾げる。
「嫌ならば先に行ってくれ。私含めて誰もそれを責めはせんよ」
「…………嫌なのは否定しないよ、でも私もこういうことが出来るようにならなきゃいけないから」
「分かった。では手短に済ませよう。……もし、そこの人。何やらお困りの様子ですが何かありましたか?」
ショウガに声を掛けられた釣り人は、僧侶と少女という奇妙な組み合わせに驚いた表情を浮かべながらも口を開く。
「聞いてくれや、俺ァシイラって者でこの辺で釣りやってたんだがよ。偶々ギャラドス引っ掛けちまって竿を持ったかれちまったのさ。他に竿はあるけどアイツは高けぇし針刺さったまんまじゃあギャラドスも怒って危ねぇしでどうしたもんかと悩んでたんだよ」
「ヒワダやキキョウにはジムリーダーが居るが、連絡はしましたか?」
「ああ。キキョウの方に連絡したけど、ジムリーダーはちょっと今不在らしい。ジムトレーナーも殆ど出払ってて遅くなりそうでよ。だからヒワダに連絡して、今ジムリーダー待ちなんだ」
「成程……。だがもう少し時間は掛かりそうか」
そう言って頭を掻くシイラにショウガは困った様子で考え込むが、スミレは知らない振りをしてあくびをひとつ。正直な話、釣り針である程度の挑発は出来ているのだから暴れているのをフシギバナでさっさと片付けてしまえば良いだけだ。業腹ながらもスミレは自身のギャラドスが暴走した経験があるので、ギャラドスというポケモンの短気さは身に染みて分かっている。
「なぁ、そっちのお嬢さんはどう思う?俺ァどうすりゃ良いだろうか」
釣り人に尋ねられ、スミレは小さく溜め息を吐く。
「……そのギャラドスの強さ次第。私もギャラドスは持ってるから、奴の短気さはよく知ってる。今は静かでも、多分水中では相当荒ぶってるはず」
水面に視線をやれば、魚影が忙しなく動いているのが分かる。ついでに、ギャラドスらしき影が水中を激しく動き回っている姿も見えた。
「では、すぐに水面に出てくると?」
「そ。強さによるけど、上がってきたところを私とフシギバナで倒せばいい。……別にしないけど」
不機嫌な様子のスミレに、シイラは困った様子で眉を下げる。
「そりゃあないぜお嬢さん。礼ならなんでもするから、助けてくれよ」
「…………助けるのも吝かではないです。でもこういうのは、ジムリーダーが来るのを待った方が良いですよ。私もギャラドス育ててるから知ってますけど、相当暴れますからね、アイツ。レベルによっては私でも手がつけられないこともあり得ますし、無闇に手を出すと死ぬだけです」
「そりゃあそうか……すまねぇ、馬鹿なこと頼んだ。ギャラドスは確かに危ねぇもんな」
「いえ、理解できる頭と冷静さが残ってるなら上等です」
スミレの説明にシイラは謝り、スミレはそっぽを向く。あまりに素っ気ないスミレの対応に、ショウガの胃が少しチクリと痛んだ。
「すみません、仲間が失礼な態度を……」
「構いやしねぇ、俺が悪いし。……にしても、人嫌いか何か知らねぇが、もうちょい言葉は選べるようになった方がいいぜ。そりゃ近くにいる大人の役目だ、分かってんな?」
「ええ、無論です」
渋い表情を浮かべながらも頷くショウガを背に、スミレは小さくため息を吐いた。
(……やっぱり、難しい)
円滑な人付き合いと自分が望む生き方の両立は、スミレの想像以上に難しいものであった。
◾️◾️◾️◾️
「こんにちは。通報者の方に……ああ、スミレさんですか」
数分後。数人のトレーナー……しかも少年少女ばかりの中の1人である大人びた雰囲気の少年に名前を呼ばれ、スミレは一瞬視線を鋭くさせる。
「……成程。ジムリーダーのツクシさん、で合ってますか?」
「うん、そうだ。君のことはカントーリーグで知ってる。……でもごめんね、ジョウトのジムリーダーでは僕が1番若いし弱いんだ」
そう言っている少年だが、正直若いというのはどうでも良いことだ。実際、スミレ達も10歳でリーグ戦出場をしているし、なんならスミレの師匠であるエリカは相当大人びているがなんだかんだで15歳なのである。しかし弱い、というのは聞き捨てならない。
「……弱い?ひょっとして貴方」
「そうだよ。僕のポケモンはジム2つ目くらいの実力しかないんだ。ジムリーダーになったのも、むしポケモンの知識とその扱い、後は前ジムリーダーだったお祖父様の縁があってのことだよ」
スミレは内心、ハズレを引いたかと感じた。カントーでいうタケシのような、トレーナーの腕は高くてもポケモンが弱いタイプのジムリーダーというのは、ギャラドスという怪物を鎮圧するに当たっては少々心許ない部分があるのだ。
「あはは……、その反応は傷つくなぁ。でも、この湖のギャラドスは僕くらいでもなんとかなる程度だから大丈夫だ。君に任せっきりにはならないよ」
困ったように笑うツクシに、スミレは小さく頷くと迷わずに2つのボールを手に取る。
「……なら良いですけど。行って、ホーホー。ネイティ。ショウガは先頭には加わらずにシイラさんを守ってて」
「ホー!」
「……」
「…………承知した」
ボールから呼び出したのは、ホーホーとネイティだ。つまりフシギバナによる全力での鎮圧ではなく、ホーホーとネイティに経験値を積ませようということである。
「成程、なら僕も参加しようかな。……行っておいで、バタフリー」
「フリィ!!」
対してツクシが呼び出すのはバタフリー。スミレも同族を持っている為、むしタイプのエキスパートが育てたバタフリーには興味の視線が注がれる。
「いや、君のバタフリーみたいに尖った編成はしてないから参考になるかどうかは保証しないよ。……まぁそれは良いとして、バタフリー。【サイケこうせん】」
「フリィィィ!!」
ツクシが苦笑しつつ指示を飛ばすとバタフリーが水中に向かって【サイケこうせん】を放つ。そして直後。
「ギャオオオオオオオオオッッッス!!!!」
激しい咆哮を放ち、水飛沫を撒き散らしながらギャラドスがその顔を出した。空気を震わせる威圧感に対して、スミレとツクシを除くその場にいた人間達は危機感に身構えた。
「成程、この程度ですか」
「君が使っていたギャラドスよりも余程レベルは低いだろう?」
「そうですね。……フシギバナもゲンガーも、出すまでもない」
スミレとツクシはそう会話を交わし、
「やろうかなっと……。ああ、口元に釣竿が付いてるね。バタフリー、取ってきてくれ。ジムトレーナーはサポートお願い、スミレさんは好きにして良いよ」
ツクシが指示を飛ばすと、ツクシの周囲を固めていたトレーナー4人は一斉にポケモンを呼び出す。呼び出されたのはスピアー、パラス、レディバ、イトマルである。
「スピアー、【みだれづき】!」
「パラス、【ねむりごな】」
「レディバ、【ひかりのかべ】!」
「イトマル、【いとをはく】」
「……行こうバタフリー、【ねんりき】」
レディバが味方を護る壁を貼り、イトマルの糸がギャラドスの体を締め、【ねむりごな】によりギャラドスは僅かながらも眠気を感じる。そしてその隙に懐まで飛び込んだスピアーが放つ連続での突き攻撃にギャラドスは表情を歪め、その間にバタフリーは【ねんりき】を使用。釣竿を取り外しに掛かる。
「……ホーホー、【なきごえ】。ネイティは【にらみつける】」
ホーホーが飛び上がってギャラドスに【なきごえ】を放ち、ネイティは地上から【にらみつける】を使用する。【なきごえ】は相手の攻撃を下げる技、そして【にらみつける】は防御を下げる技だ。釣り竿の取り外し作業という迂闊に倒せない状況下では最適な指示だろう。
「フリィィィ!!」
バタフリーが叫んだ。それは、作戦成功……つまり釣竿の取り外しに成功した証である。
「今だ……、頼んだよハッサム!【バレットパンチ】!!」
その合図でツクシはボールを投げるとボールからは新たにストライクの進化形として図鑑に登録されたポケモン、ハッサムが飛び出した。ハッサムは腕に付いたツメに鋼のエネルギーを纏わせると凄まじい速さで突き出し、ギャラドスの首元に強烈な打撃を放った。
「ハッサムに続け!スピアー、【みだれづき】!!」
「お願いパラス、【すいとる】!!」
「レディバ、【たいあたり】!」
「イトマル、【すいとる】!」
スピアーとレディバが翅を使って飛び回り攻撃を加えると、パラスとイトマルは遠距離から追撃を放つ。
「ガァァァァァ!!!!」
「ホーホー、【エコーボイス】。ネイティ、【アシストパワー】」
怒り狂ったギャラドスは口にエネルギーを溜めるがスミレはそれを見逃さない。すかさず指示を飛ばすと、ホーホーの【エコーボイス】とネイティの【アシストパワー】が口に着弾、ギャラドスの技は暴発しギャラドスはひっくり返るとそのまま水面に叩きつけられた。
「……やったか?」
水中に沈んだギャラドスにジムトレーナーの少年は呟く。
「ギャラァァァァ!!!!」
「うわぁっ!!」
「きゃあっ!」
「ぐっ!!」
「あぁっ!」
「まだ来るか……!下がっておれ!!」
「畜生……、やるしかねぇか!?」
しかし瞬間飛び出したギャラドスは、傷だらけの体で咆哮を上げた。放たれた閃光がジムトレーナー達のポケモンを薙ぎ払い、吹き飛ばす。ジムトレーナーとはいえ、才能があるとはいえ子供ばかり。パラスを使役していた少女が尻餅を付き、他3人の少年たちはそこまでは行かずとも顔を青くし立ちすくんだ。その姿に辛抱がならなかったか、庇うようにショウガが立ちはだかりオドシシを呼び出し釣り人は怯えながらもモンスターボールを投げタッツーを呼び出すと、子供達を庇うように立つ。
「ハッサム、【バレットパンチ】。バタフリーは【サイケこうせん】」
「ホーホー、【エコーボイス】。ネイティ、【アシストパワー】」
しかしそれは杞憂でしかない。ただ2人冷静さを保っていたツクシとスミレのポケモンによる一斉攻撃がここまでで消耗しきったギャラドスを、再び水中へと叩き落とした。ギャラドスはもう、上がってこない。
「……作戦終了。お見事だ、スミレさん」
「貴方もやりますね。ポケモンのレベルが低いのが本当に惜しい」
ツクシはスミレに笑みを向け、スミレは無表情ながらもツクシの強さを認め讃える。
「坊さんよぉ……」
釣り人が、悲しげな声を漏らす。
「何ですか?」
「俺達、情けねぇな。……大人の癖に、子供に守って貰ってよぉ。ちゃんとポケモン、鍛えときゃあ良かったなぁ」
「……」
釣り人の言葉に何も返せず、ショウガは唇を強く噛み締めた。滲んだ血の味は、悔しさの味だった。