ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第172話 つながりのどうくつ

「さて、後始末は僕らがやっておくから大丈夫だよ。……君らは先に進み、僕のジムに挑むといい」

「そうします」

ツクシの誘いにスミレは頷く。

「僕のジム戦は3対3、もう1体ポケモンを捕まえておくことをおすすめするよ。君が現在使用している、ジム戦で戦闘可能なポケモンは恐らくホーホーとネイティの2体だけだからね」

「はい。……どの道、先にはつながりのどうくつなんかもありますし、ポケモンを捕まえるのもいいかもしれませんね」

「うん、あそこは良いよ。沢山ポケモンは生息しているし、野良トレーナーも多いからポケモンを鍛えるには丁度いい」

「成程……参考にします。さ、ショウガ。行くよ」

「う、うむ……」

思考の渦から抜け出し頷いたショウガはスミレの後に続き歩き出す。

「待った!」

「……?」

しかしそれをシイラはリュックを漁りながら呼び止め、スミレは困惑しつつ振り返る。

「助けて貰った礼だよ。これ、持って行きな」

そう言ったシイラに渡されたのは、高級品の釣りセットだった。しかもそれは、スミレとショウガの2人分。2人とも釣りの道具は持っていなかったのでありがたいが、どちらも人気モデルの高級品。2人とも流石に遠慮の気持ちはあるし、特にショウガとしては心苦しさもあった。

「しかし私は……」

「アンタ、守られてばかりは嫌だろ?強くなろうぜ、お互いによ。コイツは過去に勝った釣り大会の商品でな、俺はさっき取り返して貰った愛用の竿……まぁコイツらみたいな高いモノじゃないが、釣りを始めてからずっと使ってる相棒を持ってるから必要ねぇし、でもこれはこれで良いモンだから予備として持ってたんだが、こうして活用出来るのは嬉しいぜ。俺もこれからは、バトルも鍛えるさ。こんな時があった時に、何も出来ねぇのは嫌だからな」

「ありがとうございます……!」

断ろうとしたショウガの肩を叩き笑うシイラに、ショウガは深々と頭を下げた。小さく、しかし遠くを走る少女を支えるためにはやらなければならないことがあるのだから。

「……すみません、ありがとうございます」

「気にすんな、お嬢さんも頑張りなよ。……世の中、探せば良いことなんて幾らでも見つかるんだ。人生もっと楽しめよ」

礼を言うスミレにシイラは明るく笑いかけ、肩を優しく叩く。

「善処します」

◾️◾️◾️◾️

 後始末はツクシ達に任せ、スミレとショウガは先に進んでいた。ヒワダタウンまではまだ先、つながりのどうくつと呼ばれる、カントー地方と繋がる洞窟を抜けて33番道路へと向かう必要がある。

「……頼みがあるのだが」

「ポケモンを鍛えたいって話?」

ショウガは洞窟を歩きながら言葉をかけ、スミレは察しているかのように尋ねる。

「ああ。もう守られてばかりでいないように、強くなる必要がある」

「……気にしなくて良いのに。まぁでも、そうしようか」

そう言いつつもスミレは、上機嫌だった。スミレ的には、真っ直ぐな向上心のある人間は嫌いじゃない。

「感謝する」

そう言って笑うショウガに、スミレは顔を逸らした。

 

 暗い洞窟で、ショウガはポケモンと対峙する。目の前には向かい合うイシツブテとオドシシ。スミレは周辺のポケモンが乱入するのを防ぐべく戦っており、ホーホーとネイティがそれぞれ1対1のバトルをしている側で、フシギバナとゲンガーが暴れ回っている。

「オドシシ、【バリアーラッシュ】!」

「ヘイラッシャ!!」

オドシシが【バリアーラッシュ】で突っ込むと、イシツブテは地面に腕を叩きつけ【じならし】を放つ。オドシシは地面の揺れに体勢を崩して転び、技の発動は失敗に終わる。

「ぬぅ……!まだだ、【めいそう】!」

オドシシは目を閉じて精神統一、能力を高める。

「ラッシャイ!」

「避けろ」

イシツブテは【たいあたり】で突っ込むが、オドシシはショウガの指示に合わせて機敏な動きで躱すとエネルギーを溜める。

「力業で行くぞ、【バリアーラッシュ】!!」

「ドォッシィ!!」

【バリアーラッシュ】のエネルギーをより攻撃に振った一撃が叩き込まれ、吹き飛ばされたイシツブテは気絶する。

「バーット!!」

続いて飛び出したのはズバット。素早く飛行するとオドシシの首筋に喰らいつく。

「ぬぅッ!?……振り解け!!」

オドシシが首をやたらめったら振り回すと、ズバットは弾かれ空中で静止する。

「バーット!!!!」

「早業行くぞ、【たいあたり】」

通常よりも素早く放たれた【たいあたり】が突っ込んできたズバットを跳ね返し、洞窟の壁に叩きつける。ズバットとオドシシでは重さがまるで違うので、衝突を起こせばこうなるのは必然であった。

「……これで8体目か。しかしまぁ、中々良い経験値だな」

呟きつつオドシシをボールに戻すと、先程まで野生ポケモンの相手をしていたスミレが戻ってくる。

「どう?」

「ああ、大分育ってはいるな。レベルもかなり上がった。そちらはどうだ?」

ショウガに尋ねられ、スミレはチラリと腰のボールに視線を向けた。

「かなり強くなった。……とはいえ、まだ進化には遠いかな」

「成程。……しかしまだまだ、貴殿のフシギバナのようになるには道は遠いな。鍛えていると、強者が積んだ研鑽の凄まじさを実感せずにはいられない」

「当然でしょ。私のフシギバナはカントーの旅を経てる。ここから始めたばかりのオドシシじゃあ、遠く及ばない」

「その通り、当然分かっているとも。だが、フシギバナこそが今の我らが目標とする地点。今は届かなくとも、研鑽あるのみ」

「……そ。でもま、オドシシも疲れてるでしょ。さっさと抜けてポケモンセンターに行くよ」

ショウガの目標にスミレは何も言わず、ただ先を促す。

「そうだな……。オドシシも大層消耗した、体力だけなら兎も角技を放つにも限界はある。致し方ないが、ここは退くとしようか」

スミレは、目を閉じて精神を集中させると、ボールを手に取る。

「いいや、ここからだよ」

「む?……ッ!!」

スミレの言葉に一瞬訝しげな視線を向けるが、すぐにその音を聞き取った。それは、まるで地中で雷が鳴っているかのような轟音。スミレがボールを投げると、ボールからはネイティとホーホーが飛び出す。

「丁度良かった。……ヒワダジムで出されるポケモンは3体、フシギバナやゲンガーは過剰戦力だし、新戦力は欲しかったんだ」

「イワァァァク!!!!」

咆哮と共に姿を現したのは、イワーク。最近、ハガネールという進化形が図鑑に正式登録されている。

「……これは私が捕まえるから、手出し不要。ホーホー、【なきごえ】、ネイティは【アシストパワー】」

スミレはショウガに釘を刺すと指示を飛ばし、ホーホーは【なきごえ】でイワークの攻撃を下げると、ネイティは【アシストパワー】で攻撃を加え、イワークは表情を歪めた。イワークは防御の硬さや強そうな見た目に反して、物理攻撃が低いという特徴がある。それはイワークの全身を構成する鉱物の軽さに由来するもので攻撃力の低さをネタにするトレーナーも多いが、スミレはそれが全てだとは思わない。実際ポケモンリーグにもイワーク使いは多く、例としてホウセンがメインの手持ちに採用しているように使い手によっては凄まじい怪獣へと変貌するのがこのイワークなのである。とはいえそれなりのトレーナーが育てなければ、ネタにされるレベルの攻撃力からは逃れられない。そこにスミレは、【なきごえ】を撃たせた。つまり現状、イワークの攻撃力はその威容と比較すればあまりに低すぎるのだ。そしてもうひとつ。イワークは物理にこそ無類の強さを発揮するが、特殊攻撃への耐性はそこまでない。つまり、特殊攻撃が使えるホーホーとネイティにとっては、まさに丁度いいサンドバッグであった。

「イワァ!!」

イワークの【たいあたり】がホーホーを弾くがホーホーは空中で静止し、【いわおとし】でネイティは地面に叩きつけられるが再び立ち上がる。

「なんかちょっと可哀想だけど……、合理的だしまぁ良いよね。ホーホーは【エコーボイス】を連続で、ネイティは【アシストパワー】で援護して」

連続して着弾する特殊攻撃に、イワークは苦しげに体を捻じ曲げる。

「イワァァァ!!」

そして突進。渾身の【たいあたり】がホーホーを吹き飛ばし、振るった尻尾の一撃がネイティを撃墜した。ここまでの反撃は想定外だったか、スミレは目を丸くする。

「へぇ……やるね。良いよ、私のポケモンになるならそうでなくちゃ。でも、まだまだだよ……!【エコーボイス】、ネイティは回り込んで【つつく】」

連発により威力を増した【エコーボイス】がイワークを苦しめると、首筋に飛び乗ったネイティが【つつく】を発動。イワークの胴体をやたらめったらに突き始めた。イワークの防御の前に、ネイティの攻撃はほとんど通らない。しかし、攻撃により気が散った所をホーホーは狙っている。

「【エコーボイス】」

【エコーボイス】がイワークを苦しめ、イワークは倒れ込む。戦闘不能にこそなっていないが、この連続攻撃は大層効いたらしい。すぐにスミレは空のモンスターボールを投げた。ボールはイワークの巨体を難なく呑み込むと回転し、カチリという音と共に固定される。ゲット成功だ。

「ゲット成功か。おめでとう」

「ん、ありがと……。でも大分消耗した」

スミレはショウガの言葉に小さな会釈で返しつつ、ボールを睨む。野生ポケモンとの戦闘により、ここまででかなり消耗している。ポケモンセンターで回復させるなり、野宿を決断して休ませるなりしなければならないだろう。

「流石に野良トレーナー避けるのは無理そうだし、回復して行こうか」

「だね」

 

 洞窟を2人で進んでゆくと、スミレにとっては見覚えのある顔が見えた。

「……あれ、ユウタ?」

「ん?おお、スミレじゃねぇか。久しぶりだな!」

そこに居たのは旅立ちを見送った少年、ユウタだった。ユウタはスミレを見ると弾けるような笑顔を浮かべて駆け寄る。

「調子はどう?」

「順調だぜ!ミコトも俺も、ジムバッジ1つはゲットしてる。そっちはどうだ?」

「こっちもまぁ良い感じ。……ああ、それとこっちは旅仲間のショウガ」

「ショウガと申す。宜しく頼む」

スミレの紹介で頭を下げるショウガに、ユウタは好戦的な笑みを浮かべる。

「へぇ……アンタ、ポケモントレーナーか。強いのか?」

「いいや。まだまだ未熟だ」

「そうなのか?」

ショウガの回答に疑いを持ったのか、ユウタはスミレに視線を向ける。

「弱いよ、まぁ精々今の貴方と対等くらい。ま、良い機会だし1対1でもやってあげて。この人、強くなりたいらしいから」

なんでもないように答えたスミレにショウガは目を伏せる。

「ちぇっ、なんだよ。坊主の格好した厳ついオジサンなんて強そうな見た目してくるせに、強くなきゃ嘘だぜ?……ま、良いけどさ。でも条件がある」

「……?」

そう言ったユウタに視線を向けられ、スミレは首を傾げる。

「俺がそのショウガってオジサンと1対1でバトルする。だから、スミレは2対2で俺とバトルしろ。……どうだ?」

「乗った。丁度新入りが入ったばかりでね。性能を試したかった」

ユウタの提案に、スミレは即決で乗る。

「いいね。じゃあおじさん、俺とやろうぜ!」

「むぅ……しかしオドシシは消耗している。せめてポケモンセンターなりで回復してからだと有難いのだが」

ユウタの誘いにショウガは、オドシシの消耗もあり二の足を踏む。だがそれを、スミレが睨みつけた。

「キズぐすりで体力は回復してるし、ここで逃げてどうするの。折角のチャンスだし、同格との対人戦くらいやっておくべきだよ。ポケモンセンター寄ってからじゃあ、時間が掛かりすぎる」

「成程、承知した」

スミレのアドバイスにショウガは納得すると、ユウタと距離を取り向かい合う。

「もう良いのか?」

「……いい年した大人が情けない所を見せて済まない。ではユウタ殿、早速バトルと参ろうか」

そう言ってボールを構えたショウガに、ユウタは好戦的な笑みを浮かべた。

「よっしゃあ!ガンガン行くぜ、サンド!!」

「サァン!」

ユウタが投げたボールから飛び出したのは、サンド。カントーにも生息するじめんタイプのポケモンだ。

「頼むぞ、オドシシ」

「ドォッシィ!!」

対するショウガもボールを投げ、オドシシが鼻息荒く飛び出した。

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