ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第173話 vsユウタ

 つながりのどうくつにて始まった、ユウタとショウガのバトル。先手を取ったのは、ショウガだった。

「オドシシ、【めいそう】」

オドシシは目を閉じると精神統一、ステータスを上げることで次の攻撃への準備を行う。

「サンド、【どくばり】!」

しかし立ち止まって【めいそう】を行うオドシシは格好の的、サンドの【どくばり】が直撃し表情を歪める。

「ぬぅ……!【バリアーラッシュ】!!」

「……!?【まるくなる】!!」

対するオドシシは【バリアーラッシュ】で突っ込み、サンドは【まるくなる】を間に合わせて防御を上昇させるも吹き飛ばされる。

「行くぞ……!【バリアーラッシュ】!」

「なんだあの技……!?転がって躱せ!」

オドシシは追撃の【バリアーラッシュ】を放ち突進するが、サンドは丸くなって地面を転がることで技を躱す。オドシシはそのまま壁に激突、自滅し脳を揺らすと足元をふらつかせた。

「くっ……、立て直せオドシシ!」

「分からねぇ技だけど、弱点は分かったぜ!【すなかけ】しながら壁際に寄れ!」

頭を振って意識を戻すオドシシだがそれは明確な隙、相手の攻撃の命中率を下げる技、【すなかけ】を発動。目に向かって掛けられた砂が、オドシシの視界を潰しにかかる。そしてその間に移動したサンドは、壁を背に立った。

「【たいあたり】!」

「引きつけて躱せ!!」

オドシシは突っ込むが、サンドは激突する寸前で脇に回避。オドシシは利きにくくなった視界や壁との距離が近すぎて上手く止まれず、そのまま壁に突っ込んだ。

「……詰んだな」

スミレが、呟いて目を閉じる。もはやこの試合は消化試合、スミレにとっては見る価値すらも無かった。それを横目に見てしまったショウガは表情を歪め、思考が焦りに掻き乱される。

「【ひっかく】!」

壁に激突したオドシシをサンドは側面からひっかき、オドシシは倒れる。

「くそ……、どうすれば……!ええい、【めいそう】だ!!」

「【すなかけ】しつつ壁際に寄れ!!」

再び【めいそう】を行うオドシシだが、サンドは【すなかけ】をしつつ壁に寄ることで、再び壁に激突するよう仕込みを行う、

「素早さで振り切る……!【バリアーラッシュ】、早業だ!!」

 

「技のバリエーションがないとこうなる。直線的な突進攻撃は完全に対応されてるのに、それ以外の択を取れない。取りようがない。多少早く攻撃しようが、飛び抜けてなければ軌道を読まれて予め避けられ壁に叩きつけられるだけ」

1人、ショウガに聞こえるように呟くスミレ。グサリグサリと突き刺さる言葉にショウガは何も言い返せない。目の前では、切り札の【バリアーラッシュ】が直線的な突進であることをユウタに見抜かれた挙句【すなかけ】により命中率を下げられたオドシシが決死の突進を避けられ壁にぶつかり、更にサンドが背中に乗って攻撃を加えたことでオドシシは倒れた。

「……くっ」

ショウガは悔しげに表情を歪めるが、目の前の結果は己の弱さを示すもの。スミレに同格と評されたにも拘らずの、惨敗という結果がそこにあった。

「ちぇっ、つまんないの。……なぁスミレ、横からごちゃごちゃ言わないでくれよ。オジサン自滅したじゃんか」

「ごめん。でもこの人、向上心は割とあるし多分一皮剥ければちゃんと強くなるから。今はその為に挫折して貰いたかったんだよね」

スミレに文句を付けるユウタに、スミレは悪びれていないような無表情で謝ると、ユウタは大きなため息を吐いた。

「だったら、今度はスミレの番だ。……ありがとな、サンド」

ユウタはサンドを労いつつボールに戻すと、新たなボールを手に取った。

「……ショウガ」

スミレはそれを見ながら腰に付けたボールを取り、歩くとオドシシをボールに戻しながら俯く。

「面目ない。私は……」

「私は綺麗事が嫌いだ。友情だの、絆だの、それで限界を超えるなんて馬鹿げてる。でも、それでも強い奴を私は知ってる。その強さの源は知らないけど、アイツはポケモンを愛し、けれど戦いからは逃げ出さない心の強さを持ってる。でも、貴方にはそれがない。傷つけたとしても、進む勇気がない。傷ついてるのはオドシシだけなのに、オドシシが傷つくことに貴方が一番冷静さを失ってる。オドシシの為に強くなりたいなら、そのオドシシがどれだけ滅多打ちにされても、そこから逆転できる備えをしないといけないの」

「……それが、私の弱さか」

「そ。ポケモンは共存する生き物ではあるけど、戦闘時は道具でもある。私のバトルはただ合理的に組み立てた戦略を使い分け、時にポケモンを捨て駒にしたとしても確実に勝つやり方。私とポケモン、両者が役目を果たしてやっと勝てる戦い方だ。貴方のように、普段守られてる側を突然前線に押し出してるだけじゃない」

落ち込むショウガに向けて、スミレは言葉を紡ぐ。無表情で、怒っているようにも見えるスミレだがその目は泳ぎ、言葉を選びながら話していることが分かる。

「だが私は、オドシシを……ポケモンを道具のように扱うことは出来ない」

「だろうね、見れば分かる。……でもそれを貫くには今の貴方じゃ弱過ぎる。伝えるには、強くするには私は弱過ぎる」

(そう……私はあの人のようには出来ない)

スミレの脳裏に、自分を強くしてくれた師匠の、小さくも大きな背中が映る。

(人に伝えるのって……難しい。エリカさんは、何を考えて私に向き合ってくれたんだろう。どうやって、私を見てくれたんだろう。あの頃の私なんて、ショウガよりも余程面倒くさかっただろうに…………)

「……ごめん。五月蝿く言ったのに、ちゃんとアドバイスできない。私の戦術はポケモンとの信頼関係を前提としてないから。だから、貴方とオドシシがどうすべきなんて何も言えない。だけど、ポケモンと役割分担する強さは、割り切ることの必要性は多分見せれる筈」

「いいや、感謝する。私は貴殿の言葉で、己の弱さを自覚出来た。そうだ、私はオドシシを守ろうとばかりしていたのかもしれぬ。……これは、仏に祈るだけでは、人を磨くだけでは分からなかった弱さだ」

ショウガの迷いが混じった感謝に、スミレは鼻を鳴らす。ショウガは弱さに気付いたけれど、けれどそこから先をスミレ同様に知らなかった。だから、改善の仕様もない。今のショウガは、自身がどうあるべきか、オドシシにどうあって欲しいか分からない迷いの中にある。だがそれは、スミレにも分からない以上は何も言えない。これが師匠ならどうしただろう、と思わずにいられなかった。寄り添ったのだろうか、叱ったのだろうか、背中を押したのだろうか。

「……ごめん、待たせた。やろう」

だからスミレは、ショウガの横を通り過ぎた。待ちぼうけを食らっていたユウタに謝ると、ボールを構える。その表情は、真剣そのもの。相対するユウタは、その気迫に思わずたじろいだ。ショウガはスミレから離れた位置に向かうと、2人の勝負を見守りに入った。

「へへっ、すげぇや。スミレの奴、本気だろ……。でも、それならそれで戦い甲斐がある!さぁ待たせたな、ズバット!!」

「バーット!」

「お願い、ネイティ」

「……」

「ズバット、【すいとる】!」

「【アシストパワー】で迎え撃ちつつ接近」

ズバットの【すいとる】とネイティの【アシストパワー】が激突、爆発を起こす。しかし一撃を指示したユウタに比べ、二撃目を指示していたスミレ側の方が、行動は速い。

「速い!?……ズバット!!」

「【アシストパワー】で爆煙を裂いて」

その指示でネイティは【アシストパワー】を放つ。それは空中の煙を切り裂いて、ズバットの姿を丸見えにした。

「【おどろかす】!」

「無視して、【つつく】」

【おどろかす】によりネイティはダメージを受けるが、それを無視して突っ込むとその嘴が輝きズバットをつつくことで跳ね飛ばす。

「ズバット!?」

「追撃、【アシストパワー】」

「……くっ、【すいとる】」

だが今日のスミレは、ショウガを叱った手前割と本気だった。それこそ、ジム戦くらいには熱が入っていた。そのスミレにとってズバットはネイティのエスパー技で効果抜群が取れる上にまだ未熟。ユウタのトレーナーとしての練度を考えると、追撃した所をカウンター貰って沈む展開が想定出来るほど強くない。そのため積極的な突撃でダメージを稼ぐ作戦であった。放たれた【アシストパワー】がズバットに当たり、ズバットを撃墜した。

「せ、戦闘不能……!これがリーグベスト16のトレーナーの腕か!?」

ショウガの驚愕に、スミレは頷く。

「最初の攻撃が相殺すると、爆煙で相手の姿は見えなくなる。だから私は、それを予測、利用してネイティを前進させた。ネイティから見えないから流れで【つつく】を使わせなかったんだけど、ズバットの姿が見えてたら攻撃させてたね。そして【アシストパワー】で煙を晴らし、視界の確保と相手の確認、そして牽制攻撃を同時に行った。そして見つけた相手を狙い撃って終了。トレーナーが冷静に回避と迎撃を選択する隙を与えずに決着を付けたんだよ」

「成程……。つまり、バトルの外側で指示を出すトレーナーだから、目の前で煙幕を展開されたネイティよりも冷静に状況判断を行い、行動への繋ぎを速くできたという訳か」

スミレの説明にショウガはハッとした表情を浮かべた。負けたユウタもズバットをボールに戻しながら、その説明を聞いている。

「そう、それがトレーナーとポケモンの役割分担であり、ポケモンを駒として使役するということだよ」

「そうか。それもひとつのあり方……いや、正解かもしれぬな。ただポケモンに甘いだけで、戦場を潜り抜けられる訳がない。私の覚悟が甘いだけか」

自分に言い聞かせるように呟くショウガに、スミレは首を横に振る。

「……正解なんて知らん。貴方の正解くらい、貴方が探してみせろ。私は現状での解答例を示しただけ。今後変わらないとは言い切れないし。お疲れネイティ」

そう言ったスミレは話を切るとバトルに意識を戻し、ボールにネイティを仕舞う。

「これで1敗……、でも俺は、最後まで足掻いてやる!行くぞヒノアラシ!!」

「ノッシ!」

背中の穴から炎を吹き出し、ヒノアラシが力強く飛び出した。

「戦力テストだ、行くよイワーク」

「イワァァァク!!」

対するスミレのポケモンは、新入りのイワークだ。再びの相性不利かつ威圧感さえ感じる巨体に、ユウタの表情が引き攣った。

「マジかよオイ……!」

「このイワーク、さっき捕まえたばかりの新入りだし倒せるかもよ」

しかしスミレがなんて事もないように言った情報に希望を見出すと、力強く笑みを浮かべた。

「やるっきゃねぇな!ヒノアラシ、周辺に【えんまく】!!」

「イワーク、尻尾を煙幕内で振って空気をかき乱して」

ヒノアラシが黒い煙を鼻から放出、煙幕を貼るもイワークはそこに長い尻尾を突っ込み回転させる。すると空気が掻き乱され、煙幕は風に流され散って行く。

「ウッソだろォ!?」

「【えんまく】で攻撃の命中率を下げに行くのは悪くない手だけど、ポケモンの生物的特徴を活かすのもポケモンバトルだよ。……【いわおとし】」

「避けろヒノアラシ!」

イワークの【いわおとし】によって岩石が空から降ってくるが、ヒノアラシは小さな体で必死に躱す。

「イワーク、【うちおとす】」

「躱せ!!」

イワークは尻尾を空中に持ち上げると勢いよく叩きつけ、衝撃波が発生する。だが速度で勝るヒノアラシは走ることで攻撃を回避した。

「ヒノアラシ、【ひのこ】!」

「攻撃は無視、尻尾で捕まえて」

ヒノアラシは火の粉を発射、イワークの体に着弾するもスミレはそれを無視するよう指示を出すとイワークはその体で攻撃を受け止めつつ尻尾を動かし、ヒノアラシの小さな体に巻きつくことで拘束した。

「(ネイティの時と違う、連携が出来てないから指示は具体的で長い!そこは確実な隙だ。……でも、それでも強い。レベルでは確実にこちらが上、なのに勝てない。トレーナーとしての腕で、俺はスミレに全く歯が立ってない!)顔に向けて【ひのこ】だ!」

「目を閉じて耐えて、目に入ったら流石に不味い。でも尻尾は緩めないで、捕まえていれば場所は分かるはず、【いわおとし】!」

【ひのこ】がイワークの顔に命中し、イワークは目を閉じて攻撃に耐える。スミレが指示を飛ばすが、イワークの尻尾は緩みその隙をついてヒノアラシは脱出する。

「ふぅ……(イワークの練度が低いから助かった。こんなの、次は通用しないぞ絶対!)。ここからだ、逆転するぞ!」

「ヒノッ!!」

気合いを入れ直すユウタとヒノアラシは、未だ戦意に衰えを見せない。

対するスミレはイワークを睨み、イワークは心なしか落ち込んだような表情を浮かべる。

「指示はした。……いずれは耐えるようになって貰うよ」

「イワァ」

「行くぞ、【ひのこ】をしながら走れ!【たいあたり】だ!!

「甘い……。尻尾を地面スレスレの軌道で横に振って」

ヒノアラシは、イワークの顔面目掛けて【ひのこ】を放つと、そのままイワーク目掛けて駆け出した。イワークは一瞬怯むが、着弾前の時点で既に振るわれた尻尾が地面スレスレを撫でるように振われ、ヒノアラシへ直撃すると高く跳ね飛ばす。

「ヒノアラシ!?」

「これで終わり、【いわおとし】」

吹き飛ばされたヒノアラシを上空から降ってきた岩石が撃墜し、ヒノアラシは目を回す。

「クッソォ!!やられたー!!!!」

「新参のポケモンを使いながらもあっさりと勝つとは……。私が思うより、ずっと遠い……」

ユウタは悔しげに叫びつつヒノアラシをボールに戻し、ショウガはスミレの強さに冷や汗を掻く。

「イワークの強みは、その巨体による間合いの広さ。下手に突っ込めばこうして対応されることもあるの。イワークは体を構成する鉱物が軽いから攻撃力は低い。でも、ヒノアラシ程度の小柄なポケモン、軽々と吹き飛ばすだけのパワーは持っているんだよ。勝負を急がず、特殊技の【ひのこ】で間合いの外を維持しつつ攻撃してれば、もっと良い勝負は出来たかもね」

「成程な……」

そう言って考え込むユウタの顔には、実に楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「…………負けたのに、楽しいの?」

スミレは、眉を顰めて楽しむ。スミレには、バトルを楽しむ感覚があまり分からない。特に、負けたバトルでは反省こそすれ笑うことなんて出来ないだろうと思っている。

「そりゃそうだろ。俺が目指すべき、そんな先に居る奴にボッコボコにされて差を見せられたんだ。いつか勝ちてぇって思うし、そのためにどうすれば良いかなんて、考えるだけでワクワクするぜ」

心の底から楽しそうなユウタにスミレは目を見開くも、すぐにイワークをボールに戻して背を向けた。

「……やっぱり私、その辺はまだ分からないや」

「そうなのか?……バトルって、楽しめなきゃ続かないだろ。ポケモン傷つけるんだしさ」

その言葉が、スミレの脳裏に引っかかる。好きでないと続かない、というのはひとつの真理でもある。しかしスミレの場合、護身という割と重要な役割があって鍛えてる側面が無駄に大きく出てくるので楽しさなどあったとしても気付かない所にしまわれているのだ。

 

「一理ある……検討してみるよ。さ、ショウガ。行くよ」

「うむ。対戦ありがとう、いずれまともな強さを身につけ、そうしたらまた挑ませて頂きたい」

そう言って先に進むスミレへチラリと視線を送りつつ、ショウガはユウタに一礼する。

「おう。また会ったら、その時は相手になってやる。だからちゃんと強くなっとけよ。……スミレも、バトルしてくれてありがとな!!」

ショウガは改めて一礼しスミレに着いて歩き出すと、その2人の背中に向かってユウタは大声で叫び、大きく手を振りながら見送る。それにショウガは大きく手を振り返し、スミレは小さく会釈を返して、2人はまた歩き始めたのである。

 

 

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