ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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星10ありがとうございます!


第177話 特殊な家庭事情

 病室を出たスミレは、自身がランスと戦った現場に戻ってきていた。そこには多くの警察官が立ち入り、現場の記録を行っている。

「……すみません、スミレですけど。キクコさんはいらっしゃいますか?」

「ああ、ご苦労様です。キクコさまならあちらにいらっしゃいます」

現場の若い男性警官に尋ねると警官は捜査をしている外で、見知らぬ一家と何かを話しているキクコを視線で示した。

「?あの家族はなんですか?」

「……あー、あれはスミレさんのゲンガーが突っ込んだ家の住人です。ここだけの話ちょっと拗れてるので今は近づかない方が宜しいかと」

「なるほど?騒いでる感じか……。ただまぁ、壊したのは事実ですし一言詫びは入れなきゃですね」

耳をすませば、何やら怒鳴っている声が聞こえる。スミレは小さくため息を吐いた。

「いえ、その辺りはキクコさんがやって下さいます。被害自体も、外壁が破壊されたのと室内が汚れた程度です。ゲンガーは透明化できますので、それを使って上手く被害を押さえてくれたみたいです。なのでむしろ、近付かれない方が丸く収められるかと思います」

「…………そうですか」

苦い表情で頷いたスミレに、警官は眉を下げる。

「本当に申し訳ない限りですよ……。ランスは10人以上の人間を殺害した凶悪犯、それを止めるべきは町の警察やジム関係者であるべきだというのに、結果的には余波の処理しかできていない状況でした。それを貴女は止めてくれたにも拘わらず、いい歳した大人が壁と少し家具が破壊されたからと喚き責め立てる」

「……人にとって何を重視するかは違いますから」

「そうですね。それでも、恥ずかしさはどうしても感じられます」

悲しげに表情を歪める警官に、スミレは困ったように眉を下げる。

「……警察がどうなってるか分からないんですけど、町の警官ってどのくらい強いんですか?……貴方基準で良いです」

スミレが尋ねると、警官は苦い表情で首を横に振った。

「いやぁ……、私もジムバッジは5年頑張って3つしか取れませんでした。どうにもバトルが下手くそでして、レベルを上げても戦術で叩きのめされたのですよ。……強いトレーナーはそのまま専業になることがほとんどですから、警察になった人材のうち強力なトレーナーをPSATのような対ポケモン犯罪の戦闘部隊へ配置すると、他が足りなくなるのが現状でして…………。町の警官はもうポケモンバトル素人からバッジ集めの途中で折れた半端者ばかりです。だからこそジムリーダーやジムトレーナーが治安維持に協力しているのです」

「成程、それでリーグ常連への協力要請も多いんですね。確かに、あれらを相手取るなら相応に強くないと手も足も出ないから納得です」

警察の事情というのは現実の治安に反して随分と厳しいものだとスミレは若干の同情を感じる。

「おい、何話してるんだ!?大変なことになった、ちょっと来てくれ!!」

そこに中年の警官が慌てた様子でやってきて、スミレと警官は訝しげな表情を浮かべる。

「先輩、どうしたのですか?簡単に持ち場を離れては不味いでしょう」

「それがそうも言ってられん……、3つでもジムバッジ持ちが欲しいんだ!ここは私が代わるから行ってくれ!!」

中年警官は額の汗を拭いながらも言い、スミレは鋭い視線を向ける。

「バッジ持ち?ロケット団でも来たのですか!?」

「違う、竜胆組だ!!……アイツら、どういう訳か勢力連れて病院に押しかけて来やがったんだ!!」

「なんですって!?……スミレさん、申し訳ありませんが念の為来てくれませんか!?」

若い警官に頼まれたスミレは困惑しつつも頷くと、急ぐべくボールを投げた。

「竜胆組?…………まぁいいか、カイリュー!」

「バゥゥゥゥン!!」

「私も続く、ギャロップ!」

「ヒヒィィィィン!!」

スミレがカイリューに飛び乗り宙を駆け、警官はギャロップに乗ると地を走る。

「警官さん、その組ってなんですか!?」

「ジョウトの地元ヤクザのひとつです!……かなり大きな勢力を誇っていますが基本的には穏健派、所謂任侠と呼ばれる連中で手勢を連れてくるなんてほぼしないんです!!」

スミレは尋ねるが

「……それが手勢を率いて病院に?エビル団的な考えられるとしたらショウガかミコト絡みですけど!」

「心当たりは!?」

「ないです!……ミコトに関しては、ウツギ博士に聞いてください!!」

警官のギャロップは流石にジムバッジ3つ止まりというだけあって優秀でもないようで、カイリューは速度を落として飛行しながら上で情報を交わす。

「ウツギ博士の所ですか!?分かりました、確認します!……スミレさん、私は弱いです!!だから私は気にせず先に行ってください!」

「……了解!」

警官に促され、スミレは軽くカイリューの首筋を叩く。

「バウゥゥゥン!!!!」

カイリューは吠えると翼に力を込め、一気に加速する。そして何やら揉めている警官と和服を来た集団の間に降り立った。

「なんだぁ!?」

空から突然降ってきたカイリューと少女に、和服の集団から驚きの声が漏れる。

 

「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け……ってやらなくていいか、普通に釣られた……。すみませんが、要件は私が聞きますよ」

そう言いながら腰を軽く叩くと光が伸び、フシギバナとバタフリー、ラプラスがカイリューと共にスミレの背後に降り立ち集団を威圧する。しかし集団から出てきた男がスミレのポケモン達による威圧をまるでそよ風を受けているように流しながら一歩前に歩み出る。男は年齢的には40くらい、白髪混じりの短髪に黒地に金の装飾が入った羽織の中に黒の着物、灰色の袴を履いて腰には刀と脇差を差しており足が悪いのか杖を付いている。

「テメェは、カントーリーグで見たツラだな。名前は確かスミレだったか?それで、俺等が何者かは分かって立ち塞がるのか?」

「ジョウトのヤクザ、竜胆組。比較的穏健派とは聞きましたが、随分と穏やかではありませんね。ここは病院、カタギの患者が多く入っている以上、なんの確認も取らずに通すのは物の道理に反しましょう」

掌に汗を滲ませながら、スミレは毅然と返答する。目の前の男からは、サカキと対峙した時のようなプレッシャーを感じられた。

「おう、最低限は分かっているようだな。そして何より、そこらのボンクラよりは話が分かりそうな娘だ。……では俺の娘、ミコトがそこに入院しているということは知っているか?」

男は警官達を睨みつけながらも強気な笑みを浮かべて問いかける。

「ミコトのお父上が貴方だとは知りませんでした。ですが、彼女がここに入院していることは知っています」

「では、通して貰おうか?」

「…………それを判断するのは、私ではありません」

「だろうな。テメェがどれだけ強かろうと、ガキに判断の責任を委ねるなんざプライドだけのサツが許す筈もねぇ。……それに、テメェが居る限りはそんなことさせねぇさ。なぁ、キクコさんよぉ」

そう言って男が背後を睨みつける。舎弟達が道を開けるように脇へ逸れると、集団の背後にはキクコが立っていた。周辺には、スミレが話していた警官も含めて何人もの警官がモンスターボールを構えて立っている。

「娘の見舞い、というには随分と物騒だねギバラ。カチコミでもしに来たかい?」

「場合によっちゃあなぁ。……俺らが聞いたのは、愛娘が病院に入れられるほどの怪我をさせられたってことだけだぜ?事情も碌に話さず、怪我の報告だけされたんだ、黙ってられると思うか?」

「なんだい、警察のボンクラ共はそんなことやってんのかい?……ミコトを襲った連中を知れば、アンタらとの本格的な抗争になる。それを嫌ってわざとぼかしたんだろうが、コイツらにそれは逆効果だよ。家族の危機となれば、繋がりが強いコイツらが動かない筈がないのさ」

額に青筋を浮かべるギバラと呼ばれた男に対して、キクコは小さくため息を吐く。

「ほう?……それじゃあ、ウチの娘に手を出したのはハンターかロケット団ってことだな?」

「ロケット団だよ、豪華なことに幹部のランスまで動員してヤドンの井戸で狩りをしてやがってね。それにアンタんところの娘さんは巻き込まれたってことさ」

「ランス……!成程な、それで娘はどうなってる」

凄まじい怒気を放ちながらもギバラは事情を尋ねるが、その放たれる怒気は凄まじくキクコを除く人間が思わずたじろぐ程であった。

「メンタルの方は心配だが怪我の方は問題ないよ、今は病院で寝てるだろう旅の僧侶がミコトを守って下っ端共を撃退したんだ。……そして肝心のランスは、そこにいるスミレがアタシが来るまでの時間を稼ぎ切った。本人は尻尾を巻いて逃げ出したが、死者はゼロで済んでる」

キクコが言うと、周囲に放たれていた怒気がまるで吸い込まれるように消えてゆく。

「……そうか。そりゃあ、そこのお嬢には悪いことしたなぁ」

「今回は警察も悪いがね、スミレには詫びを入れときな。病院襲撃なんてやめてくれよ、心臓に悪い。お前とポケモンバトルなんてしたら、町を護りながら勝てる自信はないしお宅の連中を相手取るのはPSATとスミレだけじゃあちとキツイ」

ギバラはバツの悪い表情で顎を撫で、キクコは声に安堵を滲ませながらもため息を吐く。

「だろうぜ、ウチの舎弟どもはどいつもこいつも鍛えられた精鋭ばかりだ。……それはそうと、自分から矢面に立ってたとはいえビビらせて悪かったな。アンタは娘の恩人と言っても過言じゃねぇってのによ」

「いえ、娘を思えば当然の反応です」

「ふぅん……、まぁいい。コイツは詫びと礼代わりだ」

そう言うとギバラは懐から取り出した一枚のカードをスミレに渡す。

「これって名刺、ですよね……?」

スミレが受け取ったのは、ギバラの連絡先が書かれた名刺であった。

「おう。今後もしもロケット団やポケモンハンターと戦う時、必要になれば連絡をくれ。その時は必ずやお前の味方として戦ってやるからよ」

「はい、ありがとうございます」

ニヤリと笑ったギバラにスミレは礼を言う。

「良いってことよ。……それじゃあキクコ、俺たちは入っていいか悪いか、結論を聞こうじゃねぇか?ミコトに会いてぇし、例の恩人にも礼を言わなきゃならねぇからな。通さねぇなんてほざいてみろ、ただじゃあ済ませねぇぞ」

ギバラはそう言って今度はキクコを睨みつける。

「条件付きだけど、面会は許可しようかね」

「ほう?聞こうじゃねぇか」

「護衛は2人まで、それ以外は家族のみ。面会が終わればさっさと帰れ、終わるまでは両者手出し無用。そして、アタシが監視としてついて行く。……それでどうだい?」

「いいぜ、乗った。……チョウゾウ、ハンタ!護衛頼むぜ」

「オウ、親父」

「ヘイッ!親父!!」

チョウゾウと呼ばれた髭面の大男とハンタと呼ばれたヒョロヒョロと細い体格の男が進み出る。

「オメェらはここで待ってろ!こっちからの攻撃は御法度だが、もし約束を破ってサツが攻撃を仕掛けてきたら、相手が誰だろうと容赦なく叩き潰せ!!いいな!?」

それは暗に、攻撃してくるならスミレでも倒せという意味に捉えられた。正直スミレとしてはなんだかんだで味方に出来そうな勢力と敵対するのは今後を考えると避けたい所ではあるので、間に入ってでも争いは止めなければならないと掌に汗を握る。

「警察としては手を出すつもりも、手出しを許すつもりもない!安心して進まれよ」

そう警察側の責任者から宣言が出たことで、両者の緊張が一気に緩和する。スミレは大きなため息を吐くと、疲れたとでも言うようにラプラスの甲羅に腰を下ろした。

「…………あぁ、そういえば。ギバラさん」

「ん?どうした、何かあったか?」

スミレがギバラに声を掛ける。

「ミコトの病室に、護衛として私のフーディンを置いてます。敵じゃないので、攻撃しないようお願いします」

「あい分かった、感謝する。……さあ、行くぞ」

そう言って院内へと消えてゆくギバラを他所に、スミレは緊張が解けたのか力無くラプラスの甲羅の上に寝転んだ。

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