ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第178話 ヒワダジムへの挑戦

 結局、ギバラが病院から出てきたのは空が夕焼けに染まった頃であった。その表情には影が差し、両隣の護衛は涙で顔を汚している。そしてギバラはキクコに『また来る』と言い残すと、部下を伴い静かに去って行ったのであった。

「……それでキクコさん。ショウガには会ってました?」

「ああ。アイツにはスミレと同じく連絡先を渡したのと、ポケモンのタマゴを渡してたよ」

「へぇ、ポケモンのタマゴですか……。それで、ミコトに関しては?」

「親としては、一度旅を辞めて帰って来て欲しいみたいだよ。旅をしたいなら、ゆっくり心の傷を癒してから、また改めて行けば良いって言ってた。でもミコトの方は、旅に未練があるから迷ってるみたいだね」

「成程。そこは家族の問題ですからね……」

「さてと、事件も終わったし酒でも飲んで帰るよ。今日は疲れることばかりだ。アンタはどうすんだい?」

「私は、ジョウトで手持ちに入れたばかりの子たちをちょっと鍛えてから帰ります。折角先輩達がいる良い機会だし、戦わせようと思って」

「熱心だねぇアンタも。くれぐれも、無理はしないようにね」

孫を見るかのような心配をするキクコに、スミレは小さく笑みを浮かべると頷いた。

「分かってます。……では、失礼します」

「ああ、お疲れ様。リーグからの礼は改めて振り込むよ」

そう言ってスミレはキクコと別れ、まずはゲンガーを受け取る為にポケモンセンターへと向かった。

 

◾️◾️◾️◾️

 翌日。スミレは、ヒワダジムに来ていた。腰にはフシギバナ、ホーホー、ネイティ、イワークのボールが付けられ、ゲンガーをミコトの護衛に置いてはいるがそれ以外はカントーの研究所に預け直している。先日の激闘によって町に活気は見られず警察で溢れかえってはいるものの、ジムは絶賛営業中。スミレとしても、ショウガが傷を癒している今のうちにジムは突破しておきたいものだ。

「こんにちは、先日はありがとうございました。……ジム戦ですね?」

ポケモンセンターで予約をしているので、ジムの受付で予約を確認して先へと進む。

 ヒワダジムは森の中にバトルコートが設置されている、と言った作りのジムであるため周囲は植物の迷路のようになり、虫ポケモンの音色が聞こえる。その中を歩いてゆくと、2人の少女に出会した。

「こんにちは、おねーさん!」

「昨日はありがとう!でも今日は、ジムトレーナーとして戦うよ!」

10歳未満の少女ということは資格持ち、そして双子との同時バトルだ。スミレは腰からボールを2つ取り外して構える。

「お願いね、イワーク。ネイティ」

「行くよー、レディバ!」

「お願い、イトマル!!」

双子の少女が投げたボールからはレディバとイトマル、対するスミレはイワークとネイティだ。

「レディバ、【たいあたり】!」

「イトマル、【いとをはく】!!」

「イワークは前進して庇って。ネイティは後方から【アシストパワー】」

イワークがその巨体を横倒しにすると、【たいあたり】と【いとをはく】が体に着弾する。しかし【たいあたり】は物理技のため物理耐性の高いイワークはビクともせず、【いとをはく】は相手の速度を落とす技だがイワークは元から遅いのでほとんど意味がない。イワークの体に飛び乗ったネイティは反撃の【アシストパワー】で、イワークに接近していたレディバを弾き飛ばした。

「レディバ、【ちょうおんぱ】!」

「【アシストパワー】で防ぎつつ突進、【つつく】。イワークは尻尾でイトマルを牽制して」

レディバの【ちょうおんぱ】にネイティの【アシストパワー】が直撃して爆発、レディバは爆風を受けて後退するが、そこに突っ込んできたネイティの【つつく】を受けて吹き飛ばされる。一方のイトマルは集中攻撃を受けるレディバを援護したいところだが、イワークの尻尾がまるでムチのように振り抜かれた。地を這うイトマルは尻から糸を飛ばして木にぶら下がることで難を逃れるが、イワークには近づくことさえ出来ない。

「くっ……、やっぱり強いよ」

「そうだね!でも私たち姉妹も、負けない!」

「気合いは結構……でも、まだ単調。イワーク、【いわおとし】で木をへし折れ」

スミレの指示でイワークが【いわおとし】を放ち、イトマルがぶら下がる木の枝がへし折れるとイトマルは空中に投げ出される。

「ああっ、イトマル!」

「援護するよ、レディバ!!」

「……それをさせると思う?ネイティ。【つつく】」

レディバが飛行することでイトマルの援護に向かうが、ネイティが先回りして【つつく】を放つ。レディバはなんとか攻撃を躱すが、援護には迎えなくなってしまう。そしてそれは、イトマルにとって致命的。

「イトマル、逃げて!」

「イワーク、【たたきつける】」

しかしイワークが尻尾を勢いよく振り下ろし、イトマルは地面に叩きつけられた。

「レディバ、【たいあたり】で加速!突破して!!」

一方のレディバは【たいあたり】を放つ。それを軽々と躱すネイティだが、レディバは避けられた勢いそのままにイワークへと向かってゆく。

「イワーク、連続の【いわおとし】で牽制。ネイティは【テレポート】でイトマルに向かって【つつく】」

イワークはレディバに連続で【いわおとし】を発動、レディバは必死に躱すが遂に1発が直撃、撃墜される。その間にネイティは【テレポート】を使いイトマルに接近すると、【つつく】で吹き飛ばしてトドメを刺した。目を回したイトマルを、双子の片割れが回収する。

「うぅ……!レディバ、【スピードスター】!」

「ネイティは【アシストパワー】で攻撃を防いで、イワークは【いわおとし】で攻撃」

星の形をしたエネルギーが空を駆けるが、ネイティの放ったサイコパワーに阻まれ爆発、止まっているところを狙われて空から降ってきた岩石に叩き落とされ目を回す。両者戦闘不能で、スミレの勝利だ。

「あー、負けちゃったぁ!!」

「ううう、強いよぉ」

悔しげに叫びながらポケモンを戻す双子を他所に、スミレはポケモンをボールに戻す。

「これで、ジムトレーナーは後何人いるんですか?」

「あと3人だよー!」

「それに勝ったらツクシくんだね!」

スミレの質問に双子の少女は指で数える仕草をすると答えた。

「なるほど。では、失礼します」

「「がんばってー!!」」

スミレは頷くと、次に向かって歩き始めた。

 森の中を歩いていると続いて出会ったのは、虫取りの格好をした少年だ。少年はスミレを見つけるや否やボールを構える。少年の手持ちは、どうやら2体のようだった。

「行くぜ、キャタピー!」

「行って……、ホーホー」

少年はキャタピー、スミレはホーホーだ。タイプ相性や食物連鎖での関係においてはスミレが圧倒的に有利であり、キャタピーが種族としてあまり強くないのはキャタピーをゲットしたことのあるスミレは百も承知だ。だがしかし、スミレが油断できないのはカントー地方で過去にキャタピー1体でリーグを優勝した怪物がいたからであるし、スミレ自身も罠を張ってポッポを捕まえタコ殴りにした経験があったからである。

「キャタピー、【いとをはく】!」

「飛び退きつつ【なきごえ】」

先制したキャタピーが糸を吐き出してホーホーの移動速度を下げに掛かるが、ホーホーは翼を動かし飛び退くと【なきごえ】を発動、キャタピーの攻撃力を下げにかかる。

「【いとをはく】で飛び移れ!」

その指示でキャタピーは木の枝に糸をくっつけると引かれるように跳躍、木の上に飛び乗った。

「【エコーボイス】」

「避けろ!」

ホーホーの【エコーボイス】で木の枝が砕けるも、キャタピーはまた違う木に飛び乗り難を逃れる。

「近づいて【つつく】」

「【いとをはく】!」

それを見かねたスミレの指示でホーホーはキャタピーに接近するが、キャタピーは【いとをはく】ことでホーホーの体に糸を絡ませ、素早さを落とす。

「……!?」

「今だ、【たいあたり】!」

動揺を浮かべたスミレを見てすかさず指示を飛ばし、キャタピーがホーホーに突っ込みダメージを与える。瞬間、スミレの視線が鋭く尖った。

「【エコーボイス】」

音波攻撃が至近距離でキャタピーを襲い、少年は攻撃を誘われた……つまり、【いとをはく】をわざと受けて攻撃の隙を作ったということに気がついた。

(しまった……!罠だ!?)

「少しはやるキャタピーですが、あまりにも迂闊ですね。【エコーボイス】」

追撃の【エコーボイス】がキャタピーを吹き飛ばし、地面に叩きつける。

「くっ、キャタピー!!」

「これで終わり。【エコーボイス】」

立ちあがろうとするキャタピーだが、一切の容赦がない【エコーボイス】の追撃を受けて遂に倒れる。戦闘不能だ。

「くぅっ……!オレのミスだ、ごめんなキャタピー」

「このまま行けるでしょ、ホーホー」

少年はキャタピーをボールに戻すと、次のボールを構える。対するスミレは、ホーホーを続投する構えだ。

「行くぞ、ビードル!」

少年が続いて繰り出したのはビードル。スミレは思わず眉を顰めた。

「……いくらジム戦とはいえ、2度も幼虫とは舐められたものですね」

「オレが鍛えたポケモン達だ。舐めてなんかない」

少年はスミレの物言いにカチンと来たのか、声に怒りを滲ませる。

「へぇ、じゃあ期待しますよ。【なきごえ】」

「……ッ!!【どくばり】だ!!」

「避けて」

攻撃を下げにかかるホーホーに対してビードルは毒針を発射、しかしホーホーは飛び上がって躱す。

「くっ、やっぱり速い!」

「【エコーボイス】」

ホーホーは空中で静止して【エコーボイス】を発動、ビードルは音波攻撃に苦しめられて表情を歪める。

「ぐぅッ……、【どくばり】」

「【エコーボイス】で弾いて」

毒針を放つビードルだが音波の壁に弾かれ当たらない。少年は悔しげに歯を食いしばるが、スミレは小さくため息を吐いた。

「くっそぉ!【いとをはく】」

「避けて」

ビードルは糸を吐くが、ホーホーはそれを軽々と躱す。

「飛べ、ビードル!【むしくい】!!」

「ネタの使い回しは、対策がされやすい。横に回って【つつく】」

木の枝に糸をくっつけて飛ぶと、途中で糸を切ると【むしくい】を発動、空中のホーホーに向かって飛びかかる。しかし、糸を使った空中機動は先程キャタピーがやったばかり。多少は違うとはいえ結局のところは直線的かつ制御不能な突進だ。ホーホーは真っ直ぐに突っ込んでくるビードルの側面に回ると【つつく】を発動、側面からの攻撃で跳ね飛ばされたビードルは、地面に向けて勢いよく吹き飛ばされる。

「ビードル!!」

「……これで終わり。【エコーボイス】」

呼び掛けることしか出来ない少年を他所にスミレは容赦なくトドメを指示、【エコーボイス】で追い討ちをかけるとビードルは地面に叩きつけられ目を回す。

「くぅ……!負けたッ!!(舐められた……!?何言ってんだ俺、そうじゃなかった……!これは、俺とこの人との差だ!!町の為に戦えた子供と、ジムトレーナーの地位に踏ん反り返ってた俺の!)」

少年が悔しげな声を漏らすが、スミレは小さくため息を吐く。

「(初心者向けジムのジムトレーナーとはいえ、まぁ弱いね)……終わり、ですね」

「ああ。俺の手持ちはもう居ない、ジムトレーナーはあと2人だ。それより、俺はどうだった?どうすればもっと強くなれたと思う?」

少年に尋ねられ、スミレは首を横に振る。

「キャタピーもビードルも、レベルだけならさっきの双子より高いです。育て方自体もそんなに悪いものではないと思いますよ。でも、技の範囲が狭すぎて対策があまりにもしやすいし対策が効く程度の強さならなんとでもなります。その中で勝つなら、戦術を見返した方がいいと思いますよ。少なくともそれなりに経験を積んだトレーナーの前では、変態になりきれない中途半端な空中機動はただの的です。せめて糸の射出速度や移動速度、木々を使用した空中での立ち回りをしっかりした方がいい」

「……そうだな。攻めるんだったら最終進化まで育ててから、幼虫のうちは罠張って待って粘り勝つってことか」

少年はその戦術が気性に合わないからか、苦い表情を浮かべる。性格的に待ちが合わないのに無理矢理待ち戦術をすればタイミングがズレて却って弱体化することは良くあるが、そこは本人が調整すべきことである。

「はい。バタフリーやスピアーのような機動力がない間の戦術は、基本は専守防衛。自分から動くなら、相応に場を整えないと大変なことになります」

「そうかー……。ごめんな、本当なら俺が指導する立場なのにさ」

「見れば分かりますよ、ジムとしても新体制になってからあんまり経ってないんでしょう?」

「そうなんだよ。ツクシも俺達も頑張ってるけど、アイツの爺ちゃんはボケちまったし当時のジムトレーナーもツクシが弱いからってほとんど出ていくしで散々なんだ。リーグだってカントーやジョウトのことでてんてこ舞いだから中々対応できないし。……実際このジム、大人が片手で数えれるからな。正直、ニャースの手も借りたいくらいだ」

少年は疲れ切った表情を浮かべ、スミレは眉を顰める。大人が数えられるほどしかおらず、前任者は痴呆の中でやっていくのは相当な苦労が伴うだろう。実際、ギャラドスの一件で出動したジムトレーナーも先程戦った双子も全員未成年で練度もそれ程ではなかった。

「キクコさん、今この町にいるし頼んでみては?」

「そうだな。むしポケモンは専門外でも、純粋な戦力強化は手伝ってくれそうだ。……いや、俺が言いたいのってそうじゃないや。あれだよ、あんまり俺以外の奴を……特にツクシを、そんな目で見ないでやってくれないか?弱くてガッカリするのは分かるけど、これでも手一杯でやってるんだからさ」

そう言われてスミレは、思わず手で口元を覆い隠す。どうやら失望が態度に出てしまっていたらしい。思い返せば、割としっかり失礼なことを言ってる。

「……あー、それはすみません」

スミレの謝罪に、少年は笑いながら頭を掻く。

「はははっ、俺は全然怒ってないぜ。ただ、新人トレーナーを鍛える感覚でやってくれるとありがたい。……ああ、でも手加減は無しな?」

「分かりました。……では、そろそろ次に進みます」

「おう。頑張れよ」

気まずげなスミレと何もなかったように明るく笑う少年は握手を交わすと、スミレは先へ向かって踏み出した。

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