ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ヒワダジムの森の中を進んでいたスミレだが、人を見つけて立ち止まる。そこにいたのは、先程立ち塞がった少年と似たような格好の少年だった。腰に付いたボールは3つ。
「次は僕だ、チャレンジャー」
「……なるほど」
少年はスミレを見るとすぐにモンスターボールを構え、スミレもまたボールを構える。
「行くぞ、ビードル!」
「ネイティ」
少年が出したのはビードル、対するスミレはネイティだ。
「……【どくばり】!」
「【アシストパワー】」
ビードルが【どくばり】を放つが、ネイティによる【アシストパワー】で撃墜される。
「ビードル、【いとをはく】!」
「避けて」
ビードルが糸を吐き出すと、攻撃は避けきれなかったネイティに命中する。
「行くぞ、【むしくい】!」
糸を手繰るようにして突っ込んだビードルが【むしくい】を発動、ネイティを跳ね飛ばす。
「立って。【アシストパワー】」
しかしすぐに立ち上がったネイティは【アシストパワー】で反撃、ビードルは地面を転がる。
「くっ、立てるかビードル!?」
「……突っ込め、【つつく】」
「転がって躱せ!!」
ネイティが倒れるビードルを追撃するが、ビードルは地面を転がることにより間一髪で攻撃を躱す。
「【アシストパワー】」
しかし、地面を転がるビードルは近接こそ躱せても広範囲の攻撃は躱せない。すぐに戦略を切り替えたスミレの指示により【アシストパワー】が反撃できないビードルを跳ね飛ばす。
「くっ……!」
「これで終わり、【つつく】」
宙を舞ったビードルに効果抜群な一撃が入るとビードルは地面に叩き落とされ、目を回す。一戦目はネイティの勝利だ。
「そっかぁ……。ありがとう、ビードル。次はお前だ、コクーン!」
少年がボールにビードルを戻すと、すぐに次のボールを投げコクーンを呼び出す。コクーンはビードルとスピアーの間にある進化、要するに蛹なので機動力は殆どないと言っていいだろう。
「ネイティ、戻って。……出ておいで、イワーク」
耐久勝負ならばと、スミレはネイティを下げてイワークを呼び出す。勝つだけならネイティでも良いが、新参のイワークには経験を積ませなければならないのである。
「コクーン、【かたくなる】!」
「イワーク、【いわおとし】」
コクーンは【かたくなる】により防御を上げる。対するイワークは【いわおとし】で攻撃、効果抜群の攻撃に目を細めるが、元々の硬さに【かたくなる】を重ねている上にイワークの攻撃が弱いため、耐えることが出来ていた。
「コクーン、反撃だ!【どくばり】!!」
「イワーク、【たたきつける】」
コクーンは【どくばり】を放って攻撃するが、イワークは尻尾で叩きつけることで反撃をする。両者の攻撃が命中してイワークは表情を僅かに歪め、コクーンは目を細めて苦痛を堪える。
「やっぱり相性が悪すぎる……!」
「タイプ固定の辛いところですよね。戦術に工夫が効きにくいポケモンでは、タイプ相性の影響が大きすぎる。……【がんせきふうじ】」
ここでスミレは、新たに搭載した技を使用する。【がんせきふうじ】、タケシに貰ったわざマシンから覚えさせた技だった。岩石が動けないコクーンに殺到、コクーンの全身を打ちのめす。
「頑張れ、【かたくなる】!!」
「……こればかりは相性が悪すぎる、運が悪かったですね。【がんせきふうじ】。それからトドメの【たたきつける】」
再び岩石がコクーンを打ちのめし、更には追撃の【たたきつける】が頭に入り、コクーンは目を回し倒れる。物理攻撃に強く、効果抜群技ばかり使ってくるポケモンというのは戦術的、相性的に天敵レベルに悪かった。
「コクーン、戻れ……。最後の1匹、頼むぞスピアー!!」
そして少年は最後のポケモン、スピアーを繰り出した。
「イワーク、まだやれるでしょ」
対するスミレは、消耗も少ないためイワークを続投する。
「スピアー、【みだれづき】!」
「イワーク、【がんせきふうじ】で迎え撃って」
「避けろ!!」
スピアーが高速で突っ込み【みだれづき】を放つ。しかしそれを軽々耐えたイワークは反撃に【がんせきふうじ】を発動、イワークの操作で動く岩石達をスピアーは空中を素早く舞うことで躱す。
「【ずつき】」
「……避けろ!【むしくい】!!」
イワークがスピアーを仕留めようと頭から突っ込み、しかしスピアーは空中を舞うことで躱すと背中に接近して【むしくい】を放った。攻撃を受けたイワークは表情を歪めて唸り声を漏らす。
「(成程、先程までよりは余程出来るね……)【がんせきふうじ】で牽制しつつ【いわおとし】」
スピアーは次々に襲いかかる【がんせきふうじ】を躱すが、上空から降ってきた【いわおとし】を受けて動きが止まる。
「くっ……!躱せスピアー!!」
「今……、【たたきつける】」
尻尾を上空に持ち上げ振り下ろすと、スピアーの脳天を岩の尻尾が打ち付け、スピアーはふらふらと高度を下げ始める。
「スピアー!!」
「ここで終わらせる……!【がんせきふうじ】」
幾つもの岩石が先程のダメージを引き摺るスピアーに向かって放たれ、それらがスピアーを一方的に打ちのめす。ここまでの3連撃は全てがいわタイプの技、つまり効果抜群の技ばかりなのだ。それを受けて耐えられる筈などなく、スピアーは力無く落下し目を回す。戦闘不能、スミレの勝利だ。
「負けたか。これでジムトレーナーはあと1人、凄いな」
「……タイプ的にも、このジムには相性が良いので」
トレーナーとしての実力で言えばスミレの方がまだ上だ。スミレよりトレーナー歴こそ長いかもしれないが、それでも同じポケモンで戦えばスミレが勝つ自信はある。それはそれとして、ポケモンの相性が良いというのは当然ある。ホーホーとネイティのひこうタイプ、イワークのいわタイプはどちらも相性抜群。ここまでの快進撃には、トレーナーとしての力量差だけでなくタイプ相性による攻撃火力の増幅も含まれていた。
「だとしても、君は凄いよ。俺たちも見習わないと」
「……強くなろうとすればそれなりに強くはなれますよ」
悔しさを滲ませながらも笑う少年にスミレはそう返し、背を向けた。残るジムトレーナーは、あと1人。
少し歩いた先に少年は立っていた。メガネを掛け、先程までとは違い落ち着いた雰囲気を感じさせる。腰に付けたボールは1つ、つまりは1対1だ。
「ここまで来たかい。僕がジムトレーナー最後の1人だ。……長々と話しても無駄だし、早速バトルしよう」
「……ですね」
両者は同時にボールを構えると、天高く放り投げる。
「行こう、パラス!」
「行ってきて、ホーホー」
少年が繰り出すのはパラス、対するスミレはホーホーだ。その対面にスミレは、内心有利を確信する。ホーホーはひこうタイプの技が使用できるため、くさタイプとむしタイプを併せ持つパラスには相性がすこぶる良い。そして相性が良いのはタイプだけでない。現在はまだ研究段階にあるが、ポケモンには特性というものがある。ホーホーに確認されている特性は現在2つで、そのうちスミレが自身のホーホーに当て嵌まるものと推定している特性は『ふみん』なのである。『ふみん』とは、相手の技や自分の技関係なく、眠り状態にならないというもの。これにより【ねむる】を使用した回復は使えないが、相手からの眠りの状態異常を防ぐという特性は、眠り状態の付与をメイン戦術とするパラスにとってはまさに天敵であった。そしてもうひとつ。飛行により機動力があるホーホーに対して、パラスの歩く速度は遅すぎるのだ。
「相性は最悪……、それでもやるんだ。【すいとる】」
「無視して突っ込んで、【つつく】」
パラスは【すいとる】を放ちその全身から体力を奪うエネルギーが放たれるが、ホーホーは迷わずその中に突っ込んだ。【すいとる】攻撃に蝕まれ表情を歪めながらもホーホーは攻撃の中を掻き分けて、【つつく】を発動。一撃で大きなダメージを受けたパラスは後方に少し吹き飛ばされて全身をひっくり返された。
「立って【れんぞくぎり】」
しかしすぐに体勢を立て直したパラスが鋏を振るい、接近していたホーホーを弾き飛ばす。
(……【れんぞくぎり】は発動する度に威力が上がる技。となると、パラスはあれを連発して火力を出さないと、この天敵には敵わないと考える筈)
(【れんぞくぎり】の連発で火力を補いたい……。けど、この考えはきっと読まれてるッ……!どうする……?)
スミレは表情を動かさず、少年は苦しげに表情を歪めて思考する。
「【つつく】」
「今……、【しびれごな】!!」
突っ込んだホーホーの【つつく】を受け、パラスは吹き飛ばされる。しかし、寸前に撒き散らされた【しびれごな】がホーホーを麻痺状態に陥れ、麻痺に侵されたホーホーは表情を苦しげに歪める。
(眠り以外の準備はしてたか……、迂闊だった。でも、問題はない。現状を覆すには、今のパラスは技が整っていなさすぎる)
(苦し紛れでも、限界まで粘ってやるッ……!)
「行くぞ、【れんぞくぎり】!」
「避けれなくても良い、【エコーボイス】」
パラスは鋏を唸らせホーホーを弾き飛ばすが、空中で体勢を整えたホーホーは【エコーボイス】を発動、音の衝撃波がパラスを襲う。そう、【れんぞくぎり】が連続命中で威力を増す技であるなら、そもそも当たらない空中から遠距離攻撃で叩きのめせば良いだけの話である。例え麻痺を受けていようが、速度は遅くなるものの空を飛ぶこと自体はできるのだ。
「パラス、【すいとる】!」
「ホーホー、【エコーボイス】」
パラスは【すいとる】でホーホーから体力を奪いにかかるが、放つ度に威力が上がる【エコーボイス】の前では【すいとる】など簡単に弾けるものでしかなく、【すいとる】は音波攻撃によって霧散し、ホーホーには届かない。
「ぐぅッ……!」
「残念でしたね、こればかりは同情します。……【エコーボイス】」
更に重ねられて威力を増した【エコーボイス】がパラスを呑み込んだ。ひこうタイプではあるがノーマルタイプでもあるホーホーが【エコーボイス】を放てば、タイプ一致で技の火力が上がるというのはポケモンバトルに詳しければ常識の話だ。つまりはタイプ補正と技の効果による強化が技の火力を底上げしている。
「頑張れッ……!」
懇願するような少年の声に応えるようにパラスが【すいとる】を放つも、一瞬で消し飛ばされる。そしてパラスはそのまま、威力の上がった【エコーボイス】に呑み込まれ、爆発を起こした。
「詰み、ですね。私の勝ちです」
「…………そう、だね」
爆煙立ち込めるフィールドに視線を向けながらスミレは勝ちを宣言し、少年は悔しげながらも素直に頷く。煙が晴れた先には、地に足を付けて立っているホーホーと、目を回して倒れるパラスの姿があった。
「お疲れ様、余計な消耗させてごめんね」
「相性最悪の相手によく粘ってくれた、ありがとう」
両者はポケモンを労いながらボールに戻す。
「……これでジムトレーナーは終了。あとはツクシさんに勝つだけですね?」
「うん。僕らはまだまだジムトレーナーとしては弱いけど、ツクシくんは強いよ。レベル的な話じゃなくて、トレーナーとして」
スミレが念の為に確認すると、少年はそう言って警戒を促す。
「はい。ギャラドスの一件で、その辺りは身に染みてます。あの人とのバトルは、これまでと同じようには行かない」
しかしスミレはそんなことは分かっているとばかりに言葉を返す。
「でも、ここまで来たんだ。折角だから獲っていきなよ。ヒワダジムのジムバッジをさ。だから、影ながら応援してる。頑張って」
「応援、ありがとうございます。……負けるつもりは毛頭ありません、全力で勝ちに行きます」
少年からのエールを新たに背負い、スミレは先へと進む。森の中を歩く道も、もうすぐ終点だ。
「……来たね」
そして暫く歩いた先。開けた場所にあるフィールドに、少年は立っていた。周囲の草むらからは様々なむしポケモンが顔を出し、空にはバタフリーやモルフォンが舞い踊る中、少年……ヒワダジムのジムリーダー、ツクシはバトルコートの端にある定位置で、堂々とスミレを待っていた。中央には審判らしき大人が立ち、準備万端なようだ。スミレはツクシから感じるプレッシャーに応えるように、腰に着いたボールを外しながらコートに入る。
「ジムトレーナーは全滅、後は貴方だけですね。ツクシさん」
「そうだね。バトルはぜんぶ見ていたよ、流石に上手い。……けれど」
ツクシはスミレを褒め称えながらも、ボールを構える。
「……!」
「簡単に僕を倒せるなんて思わないでね。……物足りないなんて、言わせはしないから」
「楽しみにしますよ」
「これより、ジムリーダーツクシと、チャレンジャースミレのバトルを始めます!使用ポケモンは3体、時間は無制限!!それでは、1体目のポケモンを!!!!」
審判の宣言に、両者はボールを高らかに放り投げる。
「頼むよ!!」
「……お願い」
2人の手を離れたモンスターボールが、空中で開き光が放たれた。