ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ポケモンセンター横のバトルコートで向かい合う。ギャラリーはサトシとカスミのみ。審判はタケシが務める。ヒマワリの表情には緊張と決意が、スミレの表情には研ぎ澄まされた刃のような冷徹さが浮かんでいる。
「逃げる気は・・・ないのね?」
スミレは最後の問いを投げかける。これは最後の情だ。逃げなければ、フシギソウ、バタフリー、ユンゲラーの3体で徹底的に潰しにかかる。ユンゲラーはまだ臆病さが抜けないが、バタフリーとフシギソウでカバーしてやれば良いし、ここで覚醒してくれたら万々歳だ。
「逃げない・・・逃げないよ。ヒマは、スミちゃんに気持ちを伝えたいから。」
ヒマワリはただ、前を向く。
「これより、スミレ対ヒマワリのバトルを始める。使用ポケモンは3体。勝敗はどちらかのポケモンが全滅するまで!交代は両者無制限!・・・バトル、開始!!!!」
タケシの宣言で、2人はボールを投げる。
「仕事だ、バタフリー。」
「お願い!ポーちゃん!」
スミレの1体目はバタフリー。ヒマワリはピジョンだ。
「ポーちゃん!【かぜおこし】!!」
「バタフリー、風に乗れ。【むしくい】。」
ヒマワリとピジョンは予想外の展開に驚愕する。ヒマワリの予想では、最初は【かぜおこし】と【しびれごな】のコンボ技だった。なので【かぜおこし】で返してやろうと思った。だが、スミレにとってそんな考えを読むなど、容易いことだ。そしてヒマワリにとって何よりの失敗は、焦って指示を先出ししてしまったこと。ピジョンの放つ風に乗り、高速で接近したバタフリーが一撃を叩き込む。
「バタフリー、【かぜおこし】で離脱。手筈通りに行くよ。」
バタフリーは烈風を起こし、ピジョンの体勢を崩すと即離脱する。
「ポーちゃん、風になって!【でんこうせっか】!!」
「今・・・。」
バタフリーは、スミレの合図で【しびれごな】を散布し、ピジョンの突撃をまともに食らうがピジョンは麻痺状態に陥った。
「えっ⁉︎」
ヒマワリは、改めてスミレの強さを実感する。事実、スミレはスクールに転入してきてから卒業するまで、サトシ相手にたった一度敗れたことを除けば無敗で、スミレを追い詰められるのは、調子がいい時のサトシと、シゲルくらいだった。そして今、スミレと共に戦っているのは、そのスミレが実力を信頼し、一番手を任せたほどの強者。突破は楽ではない。とはいえ、【でんこうせっか】は確かに当たったのだ。やりようは、まだある。
「もう一回!【でんこうせっか】!!」
「【かぜおこし】で急降下。」
ピジョンの高速の一撃がバタフリーを掠めるが、当たる直前にバタフリーは地面に【かぜおこし】を放ち、その風に乗って急降下する。素早い離脱のせいで完全にはヒットしなかった。
「戻れ、バタフリー。」
ここでスミレは交代を選択する。スミレとしては、ピジョン以外にも麻痺を押し付けたいため、バタフリーをあまり消耗させたくはなかった。
「仕事だ、ユンゲラー。」
ユンゲラーはバトルコートに呼び出されると、涙目でスミレを見る。
予想通り、ユンゲラーはバトルがまだ怖いらしい。
「ポーちゃん、まだいける⁉︎」
「ピジョォォォォォ!!」
ピジョンは麻痺こそ食らったが気合いは充分、まだまだ戦える。
「ポーちゃん、【かぜおこし】!!」
ピジョンが烈風を起こし、ユンゲラーを襲わせる。
「ユンゲラー、あれは危ない。【ねんりき】。」
ユンゲラーはバトルを怖がっている。だが、いい感じで誘導してやれば技は放てるという事が分かった。スミレは、ピジョンの【かぜおこし】がユンゲラーに当たると危ないからという名目で【ねんりき】を指示。ユンゲラーは涙目のまま発動し、ピジョンの攻撃を逸らす。ユンゲラーのサイコパワーは強力で、【かぜおこし】程度なら簡単に支配できる訳ではない。
「ポーちゃん!【でんこうせっか】!!」
ピジョンは一気に加速し、ユンゲラーに突進するとダメージを与える。
ユンゲラーは痛みに怯え、【テレポート】を使うとボールに逃げ出し、代わりにフシギソウが呼び出される。
「・・・チッ。使えない。」
スミレが逃げ出したユンゲラーを罵ると、ユンゲラーのボールがカタカタと震え、スミレの頭をフシギソウが叱るように蔓で叩く。
「ソウ!」
「はぁ・・・仕方ないか。やるよ、フシギソウ。」
「フシギソウ・・・やばいかも。【かぜおこし】!!」
「耐えて【つるのムチ】。足を狙え。」
ピジョンの攻撃を受け切ったフシギソウが蔓でピジョンの足を掴み、振り回す。スミレの手持ちでも最強のポケモンであるフシギソウのパワーは凄まじく、振り回されたピジョンは目を回してしまい抵抗ができない。
「叩きつけろフシギソウ、それから【はっぱカッター】。」
スミレの指示でフシギソウはピジョンを地面に叩きつけると、【はっぱカッター】を連続で発射。よろめきながら起き上がったピジョンの胴体に直撃し、吹き飛ばす。
「ポーちゃん、負けないで!!」
「ピジョォ・・・ピジョ⁉︎」
必死に動こうとするピジョンだが、ダメージと麻痺で上手く動けない。
「潰せ、フシギソウ。」
冷徹な指示が飛び、フシギソウは蔓を出し、本来2本のものを編み込んで1本に纏めるとそれをピジョンの顔面を叩くように薙ぎ払い、ピジョンは何もできずに地面を転がり、意識を刈り取られた。
「ピジョン、戦闘不能!フシギソウの勝ち!!」
タケシの宣言が響く。
「ごめん、ポーちゃん・・・・。」
ヒマワリは悔しそうな表情でピジョンをボールに戻す。
「一旦休んで、お疲れ様。」
スミレは交代のため、フシギソウを戻した。
「お願い!ピーくん!!」
「ピィィィ!!!!」
「再び仕事だ、バタフリー。」
「フリィィィ!!!!」
第二ラウンドの開始だ。
「ピーくん、【アシストパワー】!!」
ピッピは不思議なエネルギー波を出し、バタフリーに攻撃を仕掛ける。
対してバタフリーは初手で地面に【かぜおこし】。風を受けて一気に飛び上がりピッピの初撃を避ける。
「バタフリー、いつもの。」
酒場の常連客みたいな指示を飛ばすと、バタフリーは【しびれごな】を放ち、続いて【かぜおこし】を放ち、ピッピに麻痺を押し付ける。
「あっ・・・!ピーくん、【アシストパワー】!!」
ヒマワリは一瞬動揺するも直ぐに立ち直り、指示を出す。ピッピは再び不思議なエネルギー波を放出、避けきれなかったバタフリーはダメージを受ける。
「面倒な・・・。バタフリー、【ねんりき】。」
ここで使うのはバタフリーの新技だ。ピッピがバタフリーのサイコパワーで動きを止められる。ピッピはジタバタと体を動かし脱出を図るもそれは叶わない。
「バタフリー、【むしくい】。【ねんりき】で掴んで持ち上げろ。」
そして動きを止めたところを接近して攻撃すると、今度は【ねんりき】をしながら捕まえ、ピッピ諸共飛び上がる。バタフリーは筋力に欠けるため、ピッピを抱えて飛ぶとなるとスピードがかなり落ちてバトルどころではないし、個体によっては持ち上げられないのだが、【ねんりき】で補助することで持ち上げを可能にした。
「ピーくん、【あまえる】!!」
ヒマワリはピッピに【あまえる】を指示し、攻撃を下げるがもう遅い。
「墜とせ、【かぜおこし】。」
「フリィィィィィィィ!!!!」
空中でピッピを手放し、落下させるとその体に烈風をぶつけて落下速度を上げさせる。ピッピは地面に勢いよく叩きつけられた。
「ピーくん!!」
「甘い・・・【むしくい】。」
動揺するヒマワリを他所にバタフリーの追撃が入り、ピッピは目を回して倒れる。
「ピッピ、戦闘不能!バタフリーの勝ち!!」
タケシが宣言し、ヒマワリのポケモンはリザードのみ。対するスミレは、3体共に残っている。
「お願い!カゲちゃん!!」
「リザァァァド!!」
ヒマワリの最後のポケモン、リザードが姿を現す。
「挽回の機会をくれてやる、ユンゲラー。」
スミレはバタフリーの消耗が激しいため、一度引いてユンゲラーで消耗させる作戦に出た。
「カゲちゃん!【ひのこ】!!」
「【サイケこうせん】で相殺して。」
火の粉を怪しげな光線が撃ち抜く。このユンゲラーは攻撃こそまともに出来ないし一度攻撃を食らえば怖気付くが、防御目的なら十分に運用可能だ。
「連続で【ひっかく】!!」
「【テレポート】で回避。」
リザードが攻め込んでくるがユンゲラーは【テレポート】で距離を取る。
「【ひのこ】!!」
「【サイケこうせん】で相殺。」
火の粉と怪しげな光線がぶつからんと迫る。しかしここでヒマワリは一手を打った。
「カゲちゃん!ひのこに【りゅうのいぶき】!!」
竜のエネルギーが火の粉に勢いを与え、【サイケこうせん】を打ち破りユンゲラーに大きなダメージを与えると、ユンゲラーは直ぐに怖気付いて【テレポート】で逃げ出す。
スミレは一瞬ユンゲラーの逃げ帰ったボールを睨みつけると、バタフリーを呼び出す。
「・・・ごめん、バタフリー。」
「フリィ!」
気にするなとばかりに鳴いてスミレの謝罪に応えるバタフリー。
「行くよ!【ひのこ】!そしてそこに【りゅうのいぶき】!!」
「最後の仕事だ、【しびれごな】。」
バタフリーは炎の竜に呑まれて倒れる。だがリザードにしっかりと麻痺を与えて退場した。
「バタフリー、戦闘不能!リザードの勝ち!!」
「・・・いつもながらいい仕事ぶりだったよ、バタフリー。」
スミレはバタフリーを労いながらボールに戻す。
「残るは実質1体・・・フシギソウ、出陣。」
「ソォォウ!!!!」
「・・・来た、フシギソウ!」
「リザァァァド。」
ヒマワリとリザードは警戒心を強める。相性有利など、簡単に覆されてしまうだろう。だから油断も隙も作れない。
「ねぇ、ヒマワリ。」
「ほぇ?」
不意に、スミレが声を掛けた。突然のことにヒマワリは間抜けな声で答える。
「貴方は知らないでしょ?私が旅の中でやりたかった事。」
ヒマワリにとっては初耳だ。普段、スミレは人前で嫌なことは伝えるが、自身の希望などを話したりはしない。
「う、うん・・・。」
ヒマワリは困惑しつつ答える。
「・・・でしょうね。なら今話すけど、私はずっと、1人旅がしたかった。黙々といろんな所を回って、色んなポケモンと出会って、人の余計な干渉も、人の薄汚い悪意もない場所で、静かな1人旅がしてみたかった。目標なんて何もない。サトシやシゲルのように本気で夢を語れる訳でもないし、貴方みたいに、何の根拠もない希望を持って生きていられる訳じゃないけれど、私はただ静かな、煩わしさのない広い世界に出たかった。博士にも親にも話したし、賛同してくれた。でも実際、どちらも私を裏切った。お前の存在だよ。やりたい事を最初の日から無視された。知識も無く、実力も足りず、自分の世話も碌にできない役立たずがトサキントの糞みたいに着いてきた。私が拒否しても、勝手に連れて行くよう決められた。役立たずの癖に底抜けに性根は善人で、お陰様で貴方が勝手に始めた人助けに付き合わされる事にもなった。私の意思は一体何処へ行ったの?何で私が他人の我儘如きで自分の旅を台無しにされなきゃいけないの?ねぇ、答えろよ。」
スミレの言葉に殺意がこもり、ヒマワリはあまりに冷たいスミレの瞳に狼狽える。
ここまで、不満を抱いているなどヒマワリは知らなかった。気づかなかったし、気づこうともしなかった。スミレはいつも、面倒臭そうな雰囲気は出しつつも、嫌な顔はせずにいつも助けてくれた。だからヒマワリは気づくことができなかった。少しずつ苛立ちに変わってゆくスミレの心に。強い光は、影を濃くすると言うが、このケースにも適用されるだろう。ヒマワリは、何度もスミレの脇で人助けをして、スミレが邪険に扱おうが好意を向けてきて、何かしてやればオーバーでも喜んで感謝する。スミレはそんな一面は美徳と思っているが、それ故に近くでは見れない存在だったのだ。ヒマワリは考えこそ足りないが、善意に満ち溢れている。その横に居なければならなくなった、捻くれた性格のスミレの、何と惨めな事だっただろうか。ヒマワリにコンプレックスを抱き自己嫌悪により増した息苦しさが、日常的な不満や思うような旅ができない苛立ちを取り込んで大きな暗い影となり、憎悪に変わり、こうしてスミレを呑み込んだと言うことでもあるのだ。
「私は、排除する。・・・私の平穏を脅かす、"敵"をッ・・・!」
スミレの顔から冷たさが消えて代わりに表情が浮かぶ。それは決意か、怒りか、憎しみかは分からない。だがヒマワリは、そんなスミレの顔を直視することが、できなかった。
ありがとうございました。
いやぁ、ギスっております。
実際、スミレからすれば悪質ですよね。一生に一度の旅で、1人で熟せるスキルも身につけたのに友達とは思ってない奴にやりたい事全部無視されて、潰されて、挙句友達ヅラされたらキレますよね。それに、ヒマワリは人の気持ちは分かってないですが、善意の押し売り業者みたいな感じで、善行は首を突っ込んででもするので、過去の事件から人間への対応がかなり冷淡になったスミレからすれば、眩しくて溶けてしまいそうだし、そんな自分に嫌気差すよねって思います。
スミレも味方と認定した相手以外には大概酷いので、性格悪いと言われても仕方の無いような人間ですが。