ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第182話 親子の力

 フシギバナが森を駆け、バタフリーが空を飛ぶ。スミレの手持ちでも屈指の実力者が怒りに震えながら進む威容に、弱いポケモン達は怯えて逃げてゆく。そしてフシギバナの上に座るスミレもまた、冷たい表情を浮かべたままネイティとガルーラの子供にキズぐすりを与えていた。

『……ごめん。みんな負けた』

事情を話し、変わらない表情ながらも少し落ち込んでいるネイティの頭を、スミレは優しく撫でた。

「大丈夫。それにホーホーの判断は正しいよ、何も出来ずに捕まったあのバカよりずっとマシだ」

そう言ってガルーラの子に視線を向けると、ガルーラの子供は親が馬鹿にされていると分かったのか、スミレを涙目で睨み返した。

『怒ってる……。ママのことバカにするなって』

「そ。でも今回の件、明らかにガルーラの失態だよ。治安の悪い現状で私から過度に離れて作戦会議。おまけに襲われたら1番強いくせに迷いに迷って動けず戦力外。ホーホーが報告を指示していなければ、私が嫌な予感で動き始めていなければ、実に不味い展開だったのは間違いないよ」

冷静に説明するスミレだが、子ガルーラは納得がいかないという様子でスミレを睨む。

『この子……まだ子供。理屈、通じない。怒ってる』

ネイティが告げると、スミレは眉を顰める。

「分かってる。でも、実際ガルーラは誰よりも足を引っ張った。なら、そのままで良いの?私からのお前の親への評価は、今のままだと『レベルしかないカス』止まりだけど」

「ガルッ」

子ガルーラはスミレの言葉にショックを受けたのか俯いた。

「ねぇ。……貴方、私の評価を覆してみたくない?自分の親は凄いんだって、証明したくない?」

スミレが先程までとは打って変わって暖かい視線を向けると、子ガルーラは驚いて肩を跳ねさせる。

「ねぇ、……母親助けるために、命かけれる?」

「…………ルゥ」

子ガルーラは、怯えながらも頷いた。

◾️◾️◾️◾️

『うぅ……。くっ…、ここは?』

気絶していたホーホーが目を覚ますと、全身を覆う網が見えた。

『起きたか、ホーホー』

そう声をかけたのは、イワークだ。イワークも全身ボロボロで、近くで落ち込んだ様子のガルーラにも網が掛けられているため、全員捕まっていることが分かる。

「へぇ、起きたかカス共」

ホーホー達を捕まえた男がホーホーの目覚めに気づき、悪どい笑みを浮かべる。

『私たちは、捕まったんですね……』

『うむ。だがネイティとガルーラの子供だけは難を逃れた。せめてもの救いだが……、親のガルーラはあのザマだ』

イワークの視線の先にいるガルーラの背中は、レベルの高さに反比例するくらいには小さく見えた。

『逃すためとはいえ、無理矢理引き剥がしてしまいましたからね』

『いいや、その判断は正しかろう。主殿もきっとそう言うはずだ。しかし、理屈で全て割り切れるほど軽い愛情ではないのは確かだ』

『……それは、そうですね』

ホーホーはやはり自分のミスかと暗い表情を浮かべる。

 

「なにくっちゃべってるか知らねぇが、俺様は映えある黒髭一味。テメェらには勿体ねぇほどの待遇で売ってやるから泣いて喜べ」

そう言って笑う男とヘルガーに、イワークは目に怒りを宿して体を起こそうとする。瞬間、イワークの全身に激しい衝撃が走った。

「イワァ……!」

「こいつぁ特殊な網でな。ポケモンによる内側からの攻撃を弾くし破ろうとしたカスには攻撃を浴びせるのさ。しかも電流じゃねぇから、じめんタイプにも通るぜ」

男は得意げに網の能力をひけらかし、ホーホーとイワークは悔しげに表情を歪める。

『大丈夫ですか!?』

『あ、ああ……しかしかなり痛いぞ。気をつけろ』

『……くっ、それでは脱出が!』

ホーホーは悔しげに表情を歪める。つまりこれは、自力での脱出が実質不可能ということだ。どうしようかとホーホーは思考を巡らせ、しかしそれを確認すると目を見開いた。

 

 

「…………ただしそれは下っ端用の物だ。外側はまるで普通の網だよ、特殊素材なんて高くておいそれと使える物じゃない。内側半分でも、お前には過ぎた玩具だけどね」

「ああそうだよ、でも功績を挙げれば良いモンが……あ?」

男は背後から聞こえる涼やかな声に思わず反応し、しかし自分の態度に疑問符を浮かべた。そして振り返るとそこには、10歳くらいの少女が冷たい表情を浮かべて立っていた。

「さて、人のポケモンに手を出したんだ。相応の落とし前ってモンがあるんじゃないかな?」

「ああ?ガキが粋がりやがって!……ヘルガー、殺」

「やれ」

瞬間、男の腕に小さな影が飛びかかった。その影は男の腕に噛みつき離さない。

「いだだだだだッッ!!なんだコイツ……!?」

男が痛がりながらその影を見ると、それは子ガルーラであった。目尻に涙を浮かべながらも、必死に男の手に噛み付いていたのだ。

「テメェ……!失せろ!!」

「離して」

スミレの指示で牙を緩めると、男が腕を振った勢いで吹き飛んだ。

「ルゥゥゥラ!!!!!!」

子ガルーラは空を舞い、親ガルーラのすぐそばまで飛んでゆく。それを見た親ガルーラは、激しい咆哮を放った。

「クソッ……!殺せ、ヘルガー!!」

ヘルガーは子ガルーラを仕留めんと駆け出すが、バタフリーが【サイケこうせん】を放ち地面が爆発。激しい光と爆音と土煙にヘルガーは思わず目をつむり動きを止めると、爆煙を切り裂いて飛んできた【はかいこうせん】がヘルガーを吹き飛ばした。

「ネイティ、【つつく】。フシギバナ、【つるのムチ】」

トレーナーながらもそんなことができるとは知らなかったスミレは思っておらず、バタフリーの変態的エネルギー操作に困惑しつつ、走りながら指示を飛ばす。ネイティとフシギバナの攻撃が網を引きちぎり、スミレのポケモン達が遂に解放された。

 

『おお……、なんで危ないことをしたんだ!?』

『…………お母さんはすごいって。レベルだけのカスなんて言われたくないもん』

『それを、あの子が言ったのかい?』

『今のままだとって』

『アタシのことをどうして気にしたんだい!?アタシは何言われても平気よ!』

『ボクがいやだもん!』

『……!』

『お母さん助けるために、ボクがんばれるもん!!』

『アンタ……』

子供を心配する親ガルーラと親を助けるために奮闘する子ガルーラ、その会話の内容をスミレは知らない。ネイティに聞けば分かるだろうが、今はそんなことは大事ではなかった。

 

「ガルーラ」

スミレの冷たい声が響き、親ガルーラは子ガルーラを庇うように立つ。

「お前は間違いを犯した。味方の足を引っ張り、何も決断できぬまま捕まり、こうして今戦うべき敵すら見失ってる。でも忘れてるんじゃない?お前の腹には、誰よりも貴女がかっこいい母親であることを願っている子供がいることを。その子供はいつか貴女と同じ大きなガルーラになる、そんな潜在能力に満ちた子供であることも。……そいつは、貴女を助けるために命かけれるかと聞いた時、怯えてはいたけど頷いたんだ。そしてその意思の通り、あの男に一撃かましてみせた」

「ルゥ……」

「貴女はどうする……?このまま座っているもよし、立ち上がって子供に良いところ見せるもよし。好きにしなよ。その後については保証しないけどね」

親ガルーラは、それでも迷っていた。子供を危ない場所に置きたくないし、しかし離れるなんて論外であったから。グルグルと回る思考回路は、まるで結論を出してやくれない。

 

「ガルッ!!」

しかしそんな思考の渦を掻き消したのは、小さくも勇ましい鳴き声。ガルーラが視線を向けると、怒りに燃える男とヘルガーと対峙するスミレの眼前で立つ、自身の息子の姿であった。

『なんで……!?』

親ガルーラの悲痛な声に、子ガルーラは何も答えない。子ガルーラは体を震わせ、目尻に涙を浮かべてなんとも悲惨な姿だ。それでも子ガルーラは、ヘルガーに向かい合っていた。

「ガルーラ」

『……!?』

スミレが、ガルーラに声をかける。ガルーラにはもう背中しか見えないが、その声音は先程までとは異なり暖かいものだった。

「……人もポケモンも、ちょっとしたことがキッカケで変わることがある。それは良い意味でも悪い意味でもあって、私がこの人格になったのも小さなキッカケの積み重ねではある。でも、変わることが悪いこととは決まってない。私がヒマワリ達と本当の意味で友達になれたのも、こうして貴女達と共に戦えるのも小さなキッカケを掴めたから。だから、ガルーラ。……今だよ。キッカケを掴むなら、変われない自分と決別するなら、きっと今なんだよ。貴女の息子は、貴女の仲間は貴女がきっと立つと信じている。そして私は。……信じてないよ、でも確信してる。貴女は子供の為に、仲間の為に、立ち上がれる強さがあるって。……だから」

「バナァァ!!」

「フリィ!」

「……ティ」

「ホー!!」

「イワァ!!」

自身を励ますポケモン達の声が、ガルーラの耳へ染み込むように入ってゆく。そして。

 

「立って、ガルーラ」

 

ガルーラの膝から、砂が零れ落ちた。先程まで力なくそこにあるだけだった足で大地を踏みしめて、瞳には強い意志を示す輝きを浮かべて。

「ガルゥゥゥゥゥッッラァ!!!!!!」

ガルーラが、吠えた。弱い自分を跳ね除けるように、強い自分でいられるように。

 

「なんだァ!?さっきまでとは……!!」

驚愕する男を他所にガルーラは、愛する息子の元へと歩み寄る。

『お母さん!!』

『ごめんね……。そしてありがとう。よく頑張った、ここからはアタシとお前で奴に勝つ。できるかい?』

『ウン!』

親と子で会話を交わすのを見つめながら、スミレはその背中にキズぐすりを振りかける。ガルーラは傷が治り体力が回復してゆく感覚に、スミレの方を振り返りニヤリと笑った。

「みんなは手出し不要だよ。……私が指示を出す。ガルーラ、奴はお前が倒せ」

「ルゥラ!!」

スミレの指示に親ガルーラは強気な笑みを浮かべて吠え、子ガルーラは定位置の袋に乗り込んだ。

「テメェ……!さっきからウルセェんだよ!ヘルガー、【かえんほうしゃ】!!」

「【ねこだまし】」

ヘルガーは口から炎を放とうとするが、ガルーラは両手を力強く叩いて衝撃波を放ち、怯んだヘルガーは技の発動に失敗する。

「クッソがぁ!【かえんほうしゃ】!!」

「【れいとうビーム】」

今後こそ放たれた【かえんほうしゃ】と【れいとうビーム】が激突し、相性の良い【かえんほうしゃ】が勝利しそのまま突き進む。

「突っ込んで。【かみくだく】!」

しかしガルーラは腹の子供を気にせずに炎の中に突入、ヘルガーへと突っ込んだ。

「馬鹿め!そんなんじゃあ腹のガキは……!」

男は笑みを浮かべるが、スミレはそれを鼻で笑う。

「馬鹿はお前だけだよ」

「ガルゥラ!!」

スミレの言葉が終わるとほぼ同時に、ガルーラは炎の中から腕を伸ばすと、ヘルガーの首筋を掴んだ。炎が途切れ、出てきたガルーラは親子共々健在だ。ガルーラはそのままキバを輝かせると、ヘルガーに噛みついた。

「ルガァ!?」

「くっ……!ヘルガー、【ほのおのキバ】!!」

「ルガァ!!」

「躱せ」

ヘルガーは体を捩ってキバに炎を宿すと噛みつこうとするが、ガルーラは飛び退くことでそれを躱す。

「クソォ……!!俺は、テメェなんかに……!!!!」

「ガルゥ!!」

「装填」

怒りのあまり顔を真っ赤にして怒鳴る男の一方で、子ガルーラが力強く吠えた。それを聞いたスミレはただ一言指示を出す。すると親ガルーラの全身にエネルギーが満ち溢れ、更に袋から飛び出し地に降り立った子ガルーラは、親のそれより遥かに弱くとも同じエネルギーを纏う。

「ヘルガー!【ほのおのキバ】!!」

「ルゥッガァァァ!!!!」

ヘルガーは真っ直ぐに駆け出す。狙いは子ガルーラ。しかし親ガルーラは左腕を、子ガルーラは右腕を引き絞ると、2体の纏うエネルギーが繋がり大きな力へと変わる。

「……くっ、でも関係ねぇ!勝つのはオレだ!!」

「絆なんて信仰する気はさらさらないけど、まぁ認めるよ。……この世には、理屈だけじゃ説明できない力が存在する。そしてガルーラは親子でひとつの個体を為すポケモン。故にこの技が、己の全てを振り絞るこの技が2体の同時攻撃で成り立つのは道理だった」

「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ!!やれヘルガー!!!!」

「ルゥガァァァ!」

ヘルガーが子ガルーラに向かって飛び掛かる。子ガルーラには見えない一瞬でも、親ガルーラには見えている。そして何より、タイミングを指示するトレーナーの存在があるから。

「お前如きじゃ、この力は打ち破れない。…………受けてみなよ。これが本当の」

親ガルーラが子ガルーラに視線を向け、同時に腕を動かす。思い切り引き絞った腕を、ただ真っ直ぐに。それだけで、この技は放たれる。

「「ガルゥゥゥゥゥラ!!!!」」

 

「【とっておき】だァァァァ!!!!」

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