ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第183話 黒髭

 放たれた衝撃波がヘルガーを捉えた。攻撃はヘルガーをまるで風に巻き上げられる木の葉のように軽々と吹き飛ばし、ヘルガーは白目を向いて衝撃波に飲み込まれる。男の遥かに背後で、吹き荒れる衝撃波が爆発した。ヘルガーは衝撃波でいくつもの樹木を叩き折りながら吹き飛ばされると、何本目かの樹木にぶつかりそのまま落ちる。

「そ、そんな……!」

男が声を震わすが、スミレはそれを冷たく睨みつけた。

「見たところポケモンは1体か。そしてそれも今倒した。……それで、どうする?逃げられると思ってるなら大間違いだけど」

スミレが視線を向けると、スミレのポケモン達が男を逃すまいと取り囲んでいた。

「は、ハハッ……!テメェらも愚かだ、俺が誰の部下か知らねぇんだ!!」

そう言った男は、懐から通信機を取り出す。

「……へぇ、誰?」

「あの " 黒髭 " だ!今はアルフの遺跡に居る筈だ、テメェ如き簡単に殺せるぜ!!」

男は嘘を言っている訳でもないし、その認識は間違っているとは言い難い。男が通信機のボタンを押すと、何処かに連絡を飛ばす。

「それが事実として、なんなの?」

スミレとしては、ただポケモンが襲われたから取り返しただけ。つまりは正当防衛であって、これで因縁を付けて来られても困るのである。

『こちらブラック=アン号。応答せよ』

「こちら3番隊のアンドーだ、船長に喧嘩を売る馬鹿が現れた。……船長に繋いでやくれないか?」

通信機から女性の声が届くと、男は捲し立てるように言った。まるでスミレが悪いかのような言い草に、スミレは眉を顰める。

「…………正当防衛だっての」

『了解致しました。船長は現在お戻りになられていますので、連絡致します』

しかしスミレの呟きも虚しく、通信機の向こう側では人が動き出す音がした。どうやら当初の予定よりも、ずっと大事になりそうだ。

 

「ハハハッ!これでテメェは終わりだぞ、クソガキ!我らが船長は世界最強の大海賊だ、ちょっと強いだけのガキなんかに遅れを取るもんか!!惨めに命乞いをするなら今のうちだぜぇ!!!!」

大笑いをする男を他所に、スミレは頭を抱える。いつか黒髭と対峙することはあると思っていたのは事実だ。だが、よりにもよって今。ジョウトの仲間も育ち切っていない、ジムバッジを集めてジョウト内に人脈を増やした後ではないからだ。

 

 

『……おい、一体どういう訳か聞こうじゃねぇか』

そして、通信機から響いた重々しい声に、息を呑んだ。

◾️◾️◾️◾️

「船長!俺は3番隊のアンドーでございます!至急報告したいことがありまして……!!」

『ああん?最近入った奴か。何があった?』

通信機越しに聞こえる声は、スミレからしてサカキと同等。つまり、悪のカリスマ的な何かを感じさせる声だった。大海賊、黒髭エドワード。通信機の向こう側には、その大物が確かに居るとスミレは冷や汗が流れるのを感じた。

「俺、ウバメの森でポケモンを捕らえていたのですが……。突然、ポケモントレーナーのガキが乱入してきたんです!戦ったのですが、数の力にはとても及ばず……。船長のお力で、この小生意気なクソガキを始末して欲しいのです」

『ほう?……なら、居るんだろう?そのトレーナーがそこに』

「は、はい!」

『代われ。喧嘩を買うのは、俺様の仕事だ』

「はい!……ハハハッ、お前は終わりだぜ!船長に逆らうからこうなるんだ……」

男は愉悦に表情を歪めながらもスミレに通信機を渡す。

 

「代わりました。……スミレと申します」

『スミレ。ほう、マサラタウンのスミレか。なるほど、お前は確か国際警察の協力者だったなぁ。ならば俺様達の邪魔をするのも頷けるってモンだ』

「…………その情報を何故知っているのかは今は聞きませんが、あの男が言ってることは嘘ですよ。奴が捕まえたのはガルーラとイワーク、ホーホー。全部私のポケモンです。現に、ウバメの森にガルーラとイワークは生息していませんし」

『敬語は要らねぇよ、俺様は敵だぜ?……だがつまりテメェが言いたいのは、俺様の部下がこの俺に向かって嘘を吐いたということか』

ビリビリと伝わってくる緊張感に、スミレは手が震えるのを感じた。

「……はい」

『分かるぜ。怖いだろ?……テメェは俺の脅威を知らねぇ訳じゃねぇな。緊張してるのが手に取るようにわかるもんだ。だがそれも当然だろうぜ、テメェはサカキ程の男が態々壁になった程のトレーナーだからな、この俺様に喧嘩を売ることがどれだけ危険か分かっているようだからなぁ』

おかしい。スミレとサカキが戦ったのはミュウツーの一件、それこそリーグが選別した関係者とロケット団しか知らない筈である。

「まさか、リーグに!?」

『いいや、違う。そいつも何人か居たが、ワタルの野郎にアッサリ捕まった。だが別にロケット団にスパイが居るのさ。こっちにも奴ら側のスパイが紛れているがな。俺もサカキも、分かっていて放置しているのさ』

「それは……なぜ?」

『俺も奴も、最後は真っ向からの戦争で終えたいのさ。互いに違うとはいえ悪の道を真っ直ぐ進んだ同類だ。だから奴らを潰すなら、正々堂々と叩き潰す。騙し討ちなんぞクソ食らえだ』

「……理解は、出来ない」

スミレは、エドワードの理論に

『だろうな。…………で。アンドーだったか?』

「は、はい!!」

男が、勢いよく背筋を正す。

『テメェが正しいか、奴が正しいか。……通信越しじゃあまともに判断出来ねぇがな。テメェ、嘘は吐いてないよな?』

瞬間、見えない圧力で押し潰されたかのように、男は地面にへたり込んだ。

「は、はい……!滅相もない!!」

『今なら見逃してやるが……。このまま嘘を吐き通してもしもバレたら。その時はテメェとテメェの親族の首を、ジョウトの中心に並べてやるがそれで良いな?』

「ヒィ……!!」

男は自身の末路を思い浮かべて顔色を悪くする。その顔色はもはや真っ青を通り越して真っ白ですらあった。

『スミレだったか。テメェにも聞くぜ。……テメェ、嘘は吐いてねぇだろうな?』

今度はスミレにも、エドワードの威圧がのし掛かった。緊張で全身から汗が吹き出し、喉がカラカラに乾く。

「……嘘は、吐いてない。私はポケモンを取り返しただけ」

スミレがたどたどしくも、はっきりと事実を伝える。

 

『おい、アンドー』

「は、はい!」

『テメェは大人しく捕まってろ。俺はもうテメェなんぞ必要ねぇ』

「…………は?」

『今の問答で分かった。テメェ、俺に嘘を吐きやがったな?しかもそれだけには飽き足らず、自分が返り討ちにあったからと黒髭の名前を出して偉ぶったな?……つまり俺様の旗に、泥塗った訳だ』

「ち、違います!そんな訳じゃあ……!」

『勘違いすんじゃねぇぞ小僧……!!俺様の威名は、俺達の一味は、テメェみたいなカスが傘に着て粋がるためにあるモンじゃねぇ……俺様のジョリーロジャーは、テメェの為にあるものじゃねぇんだぞ!!!!』

雷鳴のような怒号が飛び、男は恐怖のあまり涙を流して蹲る。

 

『……テメェはもう要らねぇ。テメェくらいの強さのトレーナーなぞ、ウチには掃いて捨てるほどあるんだ。1匹減ったところで知ったことじゃねぇし、それ以上にテメェがやったことの方が問題だ。……テメェはせめて大人しく、俺達に今後敵対するだろうそのガキの手柄にでもなっていろ。親族の首は、すぐに晒してやる。俺様を出し抜こうとした馬鹿への良い見せしめだ』

「…………待って、それはダメ」

しかしここでスミレが、待ったを掛ける。

『ほう?良い子ちゃんのつもりか?』

「それは違う、コイツとコイツの家族がどうなっても知ったことじゃない。……でも、それを見逃す私を私は許せない。だから、やらせない」

 

『ガッハッハッハッハッハ!!!!!!』

少しの間が空いて、エドワードの大笑が響いた。

 

『良いぜ、流石はサカキが認めたトレーナーだ。俺様好みとはちと違うが、中々に悪くねぇ。良いだろう、テメェの矜持に免じて、この馬鹿の親族を処刑するのは勘弁してやる。……それでテメェはどうする?改めて俺様に喧嘩を売るのか?』

「……いいえ、遠慮しておく。次に売る時は、ポケモンリーグからの正式な宣戦布告だと思うし。私個人が、勝手に動く訳にはいかない」

スミレが言うと、エドワードは鼻を鳴らす。

『フンッ……!そこで堂々と喧嘩を売らねぇ辺り、賢い餓鬼は退屈だな。どの道テメェは、俺と戦うことはそうねぇだろうよ』

「……?どうしてそう言えるの?」

『俺様はリアリストが嫌いでな。擬きのテメェとは当然気が合わねぇもんだが、それはそれとして敵として俺様の前に立つ奴は倒すだけだ。とはいえテメェの在り方はそこまで嫌いでこそねぇが、奴のように壁として立ちはだかってやる気はさらさらねぇんだよ。……俺様は先程、良い目をしたガキを見つけたんでな』

良い目をしたガキ、そしてアルフの遺跡。スミレの脳内に嫌な予感が過ぎる。

「……待って!そのガキってまさか」

『安心しろ。バトルで勝っただけだ、手は出してねぇ。あんな骨のあるガキ、弱体化したまま潰しちまうなんて勿体無いからな』

スミレの嫌な予感が加速する。幼馴染の誰かに目を付けたのかもとスミレは喉を鳴らした。

「…………その言葉は、正しいんだね」

『疑いたきゃあ疑え。テメェがどう感じるかなんて、俺様の知ったことじゃあねぇんでな。……まぁ良い、俺様もそう暇じゃねぇ。ここまでだ』

そう一方的に言われると、通信機は沈黙した。どうやら、切られたらしい。

 

「……大丈夫、かな」

スミレは汗だくになった掌を、強く握りしめた。

 

◾️◾️◾️◾️

「あれがスミレか……。想像通りのガキだな、アレは確かにサカキが好きそうだ」

大きな椅子に座り、側には美女を侍らせ、悪どく男は笑った。身長は190にも達し筋肉もあるため横にも縦にも大きな大男、口元には長く漆黒の髭を蓄えている。彼こそがポケモンハンター……いや、種類に限らず様々な財宝を集める凶悪なトレジャーハンターにして歴史に名を刻む大海賊。 " 黒髭 " エドワード。

「せんちょぉ……。あの子、放っておくんですかぁ?」

エドワードの腕の中で甘えた声を出す女に、エドワードは笑って頷く。

「ああ。奴は俺様が試練を与えてやるようなガキじゃなさそうなんでな。だったら、俺様自身が何かするこたぁねぇだろうぜ」

「船長……。お呼び出し頂き参上致しました」

そこにやって来たのは、細身の長身で四角い眼鏡を掛けた生真面目そうな男だ。

「おい、ロウ。待ってたぜ。……さっさと本題に行くが、テメェんところのアンドーとかいう野郎が俺様の威を借りて偉ぶりやがった挙句、マサラタウンのスミレに喧嘩を売って返り討ちにされた。そいつぁ俺様の海賊旗を穢す行為だ、当然落とし前は必要だよな?」

ロウ、と呼ばれた男は難しい顔で頷く。ロウは、スミレが倒したアンドーという男の直接の上司、つまり男が所属する3番隊の隊長兼黒髭一味の幹部であった。

「ハッ……。奴の家族構成は把握しております。処刑ならばすぐに移れますが」

「いいや?今回ばかりは、スミレの矜恃に免じて親族の処刑は勘弁してやる。……だが、奴本人は許さねぇ。分かるな?」

「護送中、あるいは収監後に奴を消せ、ということですね?」

「おう。だが晒すのは内部でのみだ、いいな?」

エドワードの命令に、ロウは静かに頷き退がっていった。

 

「ねぇ、船長」

「ああん?」

「今日は随分と機嫌がいいのね。さっき行った遺跡で出会った子、そんなに気に入ったの?」

女に尋ねられ、エドワードは静かに笑う。

「ガハハハハ……。ああ、気に入ったとも。俺様はああいう、バカみたいな夢を本気で目指す奴が大好物なんだ。……俺様は人間の中でもそういう手合いこそが宝だと思っている。ああいう馬鹿は、知らねぇ内に世界を変えてるもんだからな」

 

◾️◾️◾️◾️

 時は数時間前に巻き戻る。ジョウト地方でひとつ目のジムを突破したサトシは、旅仲間のタケシ、カスミの2人と共にアルフの遺跡へとやって来ていた。

「ポケモンパーク?」

「ああ、この遺跡のすぐ近くにあるらしいんだが……。俺ももう少し育成枠を増やしたくてな」

地図を見ながら話すタケシだが、タケシはカントー地方を旅していた頃から随分と強くなった。サトシとカスミ、そしてケンジの3人がオレンジ諸島を旅している時は別行動を取っていたのだが、どうやら別れている間に鍛え上げたらしい。

「うーん、古代ポケモンパークでしょ。アタシも知ってるけどこの辺じゃなかった?」

カスミが横からタケシの手元にある地図を見るが、不意に人が近付いてくる音が聞こえて3人とサトシの肩に乗ったピカチュウは揃って顔を上げた。

「や、久しぶりだね。サトシ。カスミとタケシさんも久しぶり」

やって来たのは、シゲルだった。見知った顔の登場に、3人は揃って顔を上げた。

「シゲルー!久しぶりだなぁ!!」

「久しぶりだね。……残念ながら、ポケモンパークは休園してるよ。またの機会にしてくれ」

シゲルが眉を下げて言うと、サトシとカスミは不満そうな表情を浮かべる。

「そうなのか?知らなかったなぁ……」

「ははは……。でも、遺跡なら入れるよ。これから行われる調査にボクは同行するんだが、来てみないかい?」

「ホントか!?……なあタケシ、カスミ!!」

シゲルの誘いにサトシは目を輝かせ、タケシとカスミに行きたいと視線を送る。その様子に2人はクスリと笑うと、頷いた。

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