ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「……なるほど、なんだいそのザマは。随分と弱体化してるじゃないか」
そう言ったのはシゲルだ。出発前にと久しぶりにバトルをしたのだが、サトシはまるで初心者かというくらいに弱体化しており、ピカチュウを使用して尚惨敗だった。その結果にシゲルは、勝利したものの不満そうな表情を浮かべる。
「ははは……、上手く行かないなぁ」
サトシは苦笑いを浮かべながら頭の後ろを掻く。
「君、さてはあれだね?戦術を根本から見直してるのか。戦術が固定化してしまうと、スミレみたいな相手には手も足も出ずに負けるから」
「そんな感じだよ。オレがオレンジリーグでユウジさんに勝った時、ピカチュウがカイリューの頭の上に乗って電撃浴びせて勝ったんだ。だからオレとしては、ピカチュウの身軽さはもっと活かした方がいいなーって。元々そういうスタイルだけど、今まで以上にな。技も【でんこうせっか】以外は遠距離の電気技だし、もっと動きをよくしないとアイツの……特にバタフリーやフシギバナの相手は出来ない。…………まぁまだまだこの有様だけどさ」
シゲルの分析にサトシは腕組みをして悩む素振りを見せながらも頷く。要するにサトシの弱体化は、戦術の転換をして動きを変えたもののそれがまだ定着しておらず、噛み合わずに戦術の体をまだ為していないということだ。ゴチャゴチャとして初めから噛み合っていないトレーナーとポケモン、しかもポケモンは元々バトルに向いた個体とは言えないピカチュウだ。元々から種族としてバトル向きでないのに立ち回りがボロボロならば、初心者でもある程度はやり合えるだろう。そのくらいに、今のサトシとピカチュウは弱体化していた。
「全く、早く定着させてくれよ。そんなキミを倒したところで、自慢にもなりやしない」
「ああ、頑張るよ」
「ピッカァ!!」
グッと拳を握るサトシに、ピカチュウが同調する。その光景にシゲルは、口元を綻ばせた。
「それで、今回の調査は一体なんなんだ?」
そこでタケシが調査について尋ねる。
「ああ。これはボクとスミレ、そしてスミレの旅仲間の3人でここに入った時にね。アンノーンというポケモンをサンプルとして捕まえたんだけど、中々面白いことが分かった。……アンノーンの年齢は、それこそ1000年以上。そして体表に僅かに付着していた土を調べると、アルフの遺跡が作られた当時の地層の土と一致した。そして試しに1体のアンノーンに機械を取り付けて放してみると、そのアンノーンの行動によって不思議な空間を発見することができたんだ」
「へー」
そう言うサトシだが、その意識はどちらかといえばスミレの旅仲間に行っていることは他の誰の目から見ても明らかである。
「彼は悪い人じゃない、まぁ安心して良いよ。……それはそれとして、空間の発見に伴って調査が行われることになった。サトシも知っていると思うが、先日ヒワダタウンで起きたスミレとランスの激突。その影響で、今後治安が悪化して余計な横槍が入る前にやってしまおうってことでね」
「……なるほどな。ワタルさん達は居ないのか?」
タケシの疑問に、シゲルは首を横に振る。
「ハヤトさんとジムトレーナーは同行してくれるけど、護衛はそのくらいだ。……正直、今はワタルさん達の援護は期待できない。元々カントーとジョウト地方ではワタルさんが4人目の四天王とチャンピオンを兼任していたんだけど、治安維持のためにサナダさんを一時的にカントー四天王に、キョウさんをジョウト四天王の座に据えるらしくてね、その手続きやカントーリーグ上位勢の助力を求めることも含めてカントーに戻ってるんだ。この頃はカントーとジョウトを行ったり来たりしてて忙しいらしい。他の四天王も多忙だ。……まずカンナさんはオレンジ諸島周辺に居る。ジョウトが大物ハンターがひしめく魔境になったせいで、それらとは争えない二流以下の犯罪組織がラプラスの生息地を狙っていて、それの掃討作戦を行っているんだ。シバさんは、今はとある大物ハンターの迎撃に出ていて不在。キクコさんはヒワダタウンの事件への対応で多忙だ」
「つまり、何かあったらアタシ達でなんとかしないとってことね……」
カスミが嫌そうな顔をすると、シゲルは頷く。
「ああ。最近はこの辺りで黒髭の船を見たと言う声もある。遭遇したらボクらじゃまず勝てない。スミレがサカキと戦った時のように、手加減をしてくれたらまた別だけどね。……しかし、君が弱体化していなければもう少しマシな戦力になったんだが」
「ウッ……、悪かったって」
シゲルがあからさまにため息を吐くと、サトシは苦い表情を浮かべた。
「ま、まぁまぁ。それよりも、調査があるなら早く行こう。遅れちゃいけない」
そんな2人をタケシが仲裁し、4人は調査隊の待機場所へと向かっていった。
向かった先に居たのは沢山の研究者と、ハヤト達キキョウジムの面々……そして、もう1人。シゲルもその男が居るとは知らなかったのか、驚いた表情を浮かべている。
「……成程。サトシ君にシゲル君、そしてニビジムのタケシさんにハナダジムのカスミさんか。護衛戦力としてはそこそこだろう」
そう言うのは、ヨレヨレのコートに身を包み、顔には無精髭を生やした何ともだらしない風体の男。彼の名はジン、カントーリーグにおいて準優勝を飾った、紛れもない猛者だ。
「久しぶりです、ジンさん。ご無沙汰してます!」
そう言って握手を交わすのはタケシだ。彼は元ジムリーダーという関係で、ジンとも少しは関わりがあった。
「久しぶりだ。…………見れば分かるが、随分と強くなったらしいな。雰囲気が研ぎ澄まされている」
「はははっ……、そう言って頂けると有難い限りですよ」
「事実だ。しかし戦闘準備は問題ないか?……ここ最近、黒髭のブラック=アン号の目撃情報が多い。奴の相棒、 " 白き災害 " でも降ってきたら俺1人で全員は守り切れないぞ」
「サトシは戦闘スタイルの調整関係でかなり弱体化していますが……。これでも俺は、バッジ8個レベルくらいまでは仕上げたつもりです。最悪、3人だけでも逃す余裕はあるかと」
ジンの忠告にサトシとカスミ、そしてシゲルは不安そうな表情を浮かべるが、タケシは神妙な表情で頷いた。
「…………そうか。ならば良い」
サトシの弱体化には少し眉を顰めるが、すぐに背を向けた。
「では、参加者も揃ったようじゃし始めるとするか。……ワシはタマムラ。ジョウト古代文明の研究をしておる。今回の調査は、そこのシゲルくんとここには居ないスミレくんの2人が捕まえてくれたアンノーンを糸口に発見された、地下空間を探る。細かい内容は現地で指示をする、トレーナー諸君は露払いをよろしく頼んだ。現在の治安悪化も鑑み、余計なことは言わん。……出発!!!!」
そしてすぐに、作業服に身を包んだ老人が口を開くと、大声で呼びかけた。話を長引かせるつもりもないらしい。早口で言うべきことを言ってしまうと、遺跡にさっさと入ってゆく。
「……行くぞ」
ジンはそう言うと、コートのポケットに手を突っ込んで歩き出す。
「はい!……行くぞ」
タケシが返事をすると、サトシ達を振り返り促す。そうして一行は、遺跡の中へと足を踏み入れた。
◾️◾️◾️◾️
遺跡内部を、跳ね飛ばされたネイティオが飛んでゆく。ネイティオを跳ね飛ばした張本人……ジンのラムパルドは、鼻息荒く構える。
「くっ……、【10まんボルト】!!」
サトシの指示が飛び、ピカチュウの放つ電撃がアンノーンを吹き飛ばす。
「追撃よ、【スピードスター】!」
しかし弱体化の影響で仕留めきれず、カスミのスターミーが巧みな追撃を放つことでそのアンノーンを撃破する。
「…………くっ、ダメか!」
サトシとピカチュウは苦々しい表情を浮かべる。足並みの揃わないサトシとピカチュウだったが、戦術の乱れは技の火力にも大きく影響していた。というのも、立ち回りに必死で上手く威力を上げられないのだ。つまりは、初心者とほぼ変わらないのがピカチュウの今の強さであった。
(シゲルは強くなってる……そしてタケシも、カスミも。なのにオレは…………)
カスミはずっと共に旅をしてきたからその実力は分かっているが、兎に角みずポケモンを使った立ち回りが上手い。レベルでいえば大体ジムバッジ6個分といった所だが、流石はみずタイプジムリーダー姉妹の妹である。性格とは裏腹にまるで流水のような、緩急のある攻めで的確に味方をサポートしている。タケシに至っては見違えた。カントー最弱のジムリーダーと呼ばれてはいたらしいが、今のタケシはジムバッジ換算でいうと8個分だろう。オレンジ諸島をサトシ達が旅していた時は同行していなかったのだが、その間に鍛えていたのだろう。タケシの使うサイドンが、尻尾を振るい野生ポケモンをバッタバッタと薙ぎ倒している。聞いた話によると、サトシと別行動している間に捕まえたらしい。そしてシゲル。彼は上昇率で言えばそうでもない。しかし彼らしく堅実に成長している。シゲルのカメックスが【かみつく】でアンノーンの【サイコキネシス】を食い破り、【ハイドロポンプ】で吹き飛ばしている。ハヤトのピジョットを先頭にキキョウジムのポケモン達が空中を駆け回り、攻撃を仕掛けている。一方、トレーナー達の中で最も強いのはジンだ。彼の出したポケモンはラムパルドとジンの相棒であるプテラだが、これがまた強い。野生ポケモンの内特に強力な個体を全て単独で引き受けていながら、余裕のある戦いを見せていた。
(この中で1番弱いのは、オレだ……)
サトシは悔しさに唇を噛む。情けなさすぎて今すぐにでもタケシかカスミに相談でもしたい気分だ。だが、そんなことをしている暇はない。ネイティの【アシストパワー】がピカチュウを狙う。
「ピカチュウ、【でんこうせっか】!逃げ回れ!!」
「ピッカァ!!」
サトシの指示で、ピカチュウが走り出す。それを羽ばたいて追うネイティではあるが、流石にピカチュウの速さには着いていくのに必死である。
「今だ、ターンしろ!」
そして瞬間、ピカチュウが振り返る。追いかけるのに必死になっていたネイティは目を見開くが、ここで想定外が起きた。
「ピッ!?」
ピカチュウが、足を滑らせた。サトシの表情が一気に青ざめる。
「……ラムパルド、【パワージェム】」
しかし側面から放たれた攻撃がネイティを吹き飛ばし、戦闘不能にさせる。
(くっ……!オレはまた……!!)
「焦るな」
表情を歪めたサトシに、ジンの声が届いた。
「……!?ジン、さん」
「立ち回りの強化……。戦術の急激な変化はコンディションの悪化に繋がるが、しかし良い目の付け所とセンスだ。……お前の課題は戦術そのものではなく慣れ、つまり場数を踏んで戦術を身に付けることだろう。それが出来れば、お前はもっと強くなれる」
ジンに戦術を肯定され、サトシは小さく笑みを浮かべる。
「へへ……。慣れれば、強くなれますか?」
「無論だ。俺は世辞が苦手、強くなれん者に希望を持たせるようなことはできない。……ここでのバトルは役に立つことを考えず、あくまでも慣れるための練習にしろ。それが出来る環境を整えるために、お前の仲間はあれだけ前線で暴れているのだから」
チラリとジンが視線を向けた先には、野生ポケモンと戦うタケシとシゲルの姿だった。よく見れば少数の弱いポケモンは通し、強力なポケモンは食い止めているのが分かる。そしてカスミは、味方の援護をしながらもサトシを気遣うようにチラチラと見ている。
「……オレは」
「今すぐ覚醒するのははっきり言って無理だ。そんなご都合主義で世の中回っていくばかりではない。……だから今は臥薪嘗胆の時だと思え。その屈辱は、いつか必ずお前の糧となるから」
「ハイッ!!」
「ピカァ!!」
サトシとピカチュウは力強く頷くと、次の敵に向かって行った。
所謂サトシリセットの話です