ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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お待たせ致しました。めっちゃ忙しかったです


第185話 強襲、黒髭

 野生のポケモンの群生地となっていたアルフの遺跡の奥底で、研究者達が忙しなく動く。流石に調査中の戦闘は良くないため、ゴールドスプレーという、ポケモンが近寄ってこないというスプレーを吹きかけての作業だ。とはいえこの匂いはトレーナーの手持ちポケモン達にも嫌なようで、戦闘要員のトレーナー達は少し離れた位置で作業を見守っていた。

「……すみません、フォローありがとうございました」

サトシが頭を下げると、ハヤトはサトシの態度に笑みを浮かべる。

「構わない。ジンさんに多分色々とアドバイスは貰ったのだろうが、本来野生ポケモンとのバトルは鍛錬なんだ。やりたいことがあれば、どんどん試していいと俺は思う」

「……そうだな。シゲル君はどうだ?やってみたい内容はあるか?」

ジンに視線を向けられ、シゲルは考える素振りを見せた。

「ん……。ああ、そうだ。ちょっと聞きたいことがありまして」

そう言って何やらゴニョゴニョと相談を始めるシゲルとそれを聞くジンに、聞かれたくないことなのかと納得したサトシは傍に座るタケシとカスミに視線を向けた。

「タケシにカスミも、ありがとな。良い練習になった」

「いいのよ。流石にアンタが色々悩んでるのは知ってたしね」

「良い練習になったなら、俺達も頑張った甲斐があったよ」

カスミは照れ隠しか顔を赤らめてそっぽを向き、タケシはそれに笑いながら言った。

「……にしても、タケシは強くなったなぁ。強くなってるのはわかったけど、ここまでなんて思わなかったぜ」

サトシの感嘆にタケシは頬をかく。

「ははは。元々何処かのタイミングで纏まった修行時間を取ろうとは思ってたからな。サトシやカスミが成長してるんだから、俺だけ " カントー最弱のジムリーダー " のままでなんて居られないんだよ。俺はお前達の兄貴分だからな」

そう言って笑うタケシにサトシは目を見開いた。

「そっか。ありがとな」

サトシが照れ臭そうに笑うと、タケシは優しくその頭を撫でた。

(……全く、ホントに兄弟みたいなのよね)

それを見ながら、カスミもまた笑う。面倒見が良いだけでなく彼らを守ろうと努力するタケシに、そのタケシを慕っているサトシ。

(アイツも昔はただの意気小僧だったのに……。今じゃもう、立派なトレーナーね)

カスミの視線の先では、サトシとタケシがピカチュウの戦術について話し合っている。その光景はまるで本当の兄弟のようで、カスミの密かなお気に入りであった。

 

「おーい!みんな、ちょっと来てくれ!!」

そんなところに研究員から声が掛かり、休んでいたトレーナー達は再び立ち上がると歩き出した。

◾️◾️◾️◾️

「……一体なんの」

用件を尋ねようとしたジンの言葉が、続かなかった。その後に続くトレーナー達は疑問を抱くが、目の前へと広がった光景に、同じく言葉を失った。

 

 遺跡の壁に、古代文字が描かれていた。それも縦は天井から床のギリギリまで、横は遺跡の端から端まで。掠れて読めない部分も多いが、それでも巨大な壁の全体に文字が書かれていることは分かる。そして反対側の壁には、色とりどりの壁画が遺っていた。

「これは……何が書かれているんだ?」

「これはな、世界の始まりに関する神話なのじゃ。……それも現代には残されていない、失われた神話」

タケシの独り言に答えるように、タマムラが興奮気味に答える。

「古代文字が読めるんですか!?」

カスミの疑問に、タマムラは胸を張る。

「これでも研究者なんでな。当然じゃわい。……まぁそんなことより、まだしっかりと解読はしておらんから断片的ではあるが、少しだけ内容を教えてやろう」

「お願いします」

タマムラの言葉にシゲルはそう返答し、続きを促す。

「うむ。……『異界より降り立ちし人。異能を用い見知らぬ装いをする』。『勇者、赤龍を討ちて英雄となる』『異能の勇者に縋りし愚者、勇者亡き後ただ滅ぶのみ』。目についたのはそこじゃな。どうやら異界から異能を持った人間が何人もやってきて、英雄となった。しかし英雄に縋り、自らを高めることをやめた愚者は勇者を失った後はただ滅ぶだけだった、とな。記録を取っているからあまり近くで読めてなくてな。じゃが幾つか、気になる単語を見つけたぞ。『転生』、『創造神』、『原典』、など、色々と謎ばかりじゃから、早く全てを読み解かなくてはならんな」

明らかにウキウキとした様子のタマムラだが、辺りを見渡せば慌しく動く人々もテンションが高く見える。

「しかし……これを読む限り、この世界が創作物とする説もあながち間違いでもなさそうですね」

「馬鹿モン。研究者ともあろう者が目の前にある記述を鵜呑みにしてどうする。こういう資料はたかが神話と切り捨てるにはまだ早いが、真実と断定するにもまだ早すぎる。……歴史は主観で描かれることが多いのだ、あれだけ突拍子もない説を検証するならば、通常よりも念には念を入れて調査すべきじゃろう」

研究員に言われ、タマムラは先程とは打って変わって顰めっ面で返す。

「……すみません、確かにそうですね。気になる記述が多くて舞い上がってました」

「良い良い、舞い上がる気持ちも分かるし、ワシも舞い上がっておるわい」

タマムラはそう言って研究者の肩を叩くと、改めて壁の文字を見る。

(……『勇者と魔王。2つの力は世代を超えてぶつかり合う。終焉を担う最後の勇者は』この先は読み辛くなっているが、誰かの名前が書かれているのは間違いなさそうじゃの)

「博士ー!!こっちの記録取るので指示お願いします!!」

「うむ、すぐ行くわい!!」

しかし研究員の声に思考を遮られ、タマムラは思考を打ち切り研究者達のいる場所へと歩き出した。

 

「……!」

ピクリ、と身動きしたのはジンだった。一瞬にして張り詰めた雰囲気を漂わせるジンに、ハヤトとタケシが何かを察したか慌てて立ち上がる。

「ジンさん、一体何が……!?」

「君」

シゲルの問いには何も返さず、ジムトレーナーの1人を呼んだ。

「ええっと、なんですか?」

「博士に伝えてきてくれ。……調査中断、敵襲だ」

ジンの言葉にジムトレーナーの青年は血相を変えて走り出す。同時に、サトシ達も顔色を変えた。

「今は何処に?」

「遺跡上空だ。……ハヤトを除くジムトレーナーは調査チームを護衛し即時脱出。【テレポート】要員は連れてきている筈だ」

「分かりました、伝えてきます!」

ジンはハヤトの疑問に答えると指示を飛ばし、1人のジムトレーナーが駆け出した。ハヤトはそれを視線で見送ると、自身の腰からボールを1つ取る。

「オレ達は?」

「……迎撃に出る。外で索敵をしている俺のドータクンが時間を稼いでくれてる筈だから、ハヤトのポケモンで【テレポート】する」

「ボクのフーディンも可能です!」

「……なら頼む」

「分かりました!行くよ、フーディン!!」

「行ってこい、ネイティオ」

シゲルがフーディンを、ハヤトがネイティオを呼び出す。

「……ネイティオにはハヤト、俺、サトシ。フーディンにはシゲル、カスミ、タケシで行こう」

ジンの指示で素早く分かれ、転移する。

 

そして【テレポート】した先で見たのは、空に浮かぶ巨大な帆船だった。

◾️◾️◾️◾️

 「最悪だ」

ジンの言葉に、ハヤトが頷いた。

「……最悪?それってまさか」

サトシの声に、ジンは頷いた。

「ああ。……あれが、大海賊黒髭の海賊船。ブラック=アン号だ」

頭上には空を覆いつくすかのような巨大な木造……当然、そう見えるようにしているだけではあるが兎に角巨大な船があった。船の帆は黒く、その中央には巨大な髑髏を模したマークが描かれている。

 

「ガハハハハハハ!!!!!!」

そしてそんな船から、雷鳴のような大笑が轟いた。船から飛び降りる人影は途中でポケモンらしき影に飛び乗り、ゆっくりと降りてくる。そしてその影が地上に近づくにつれ、その姿が露わになった。腹まで伸びた黒い髭、2メートルにもなるかという長身に太った体。海賊を絵に描いたような装いに、体のあちらこちらには宝石などの装飾をしている。凶悪に笑うそんな男が、緑色のポケモンに乗って降りてきたのだ。

「……あのポケモンは?」

「トロピウス、ホウエン地方のポケモンだ。くさタイプとひこうタイプの複合だよ」

サトシとタケシはそんな会話をコソコソとしながらも、厳しい表情を崩さない。

 

「お迎えご苦労、と言った方がいいかな?諸君」

「……貴様には刑務所からの迎え以外は必要ない」

「テメェはジンか。……それに、シゲル。サトシ。ハヤトにタケシにカスミか。それにしても、随分と人材不足らしいな」

「ほう、人材不足とは随分な言いようだな」

「そりゃあそうだろう。テメェは弱かねぇが俺様にはまだ届かねぇ。ハヤトはまだ経験不足。シゲルは頭でっかちでまだまだ未熟。タケシは多少強くなろうが所詮はカントー最弱、カスミはあの姉妹の更に出涸らし。遂にはそこのサトシなぞ、今や弱体化しているだろう?……俺様の情報網を甘く見てもらっちゃあ困るぜ」

黒髭の言葉に、ジン以外のトレーナー達が警戒心を強め身構える。

「流石な情報網だ。使い方がカスでなければ、もっとマシな生き方ができただろうに」

「へっ……!俺様は社会的な立場よりも夢を追い求めたんだ。その結果辿り着いたのが海賊、なんの後悔もありゃしねぇよ」

ジンの言葉も、黒髭は軽く笑い飛ばす。挑発が効かないと知ると、ジンは小さく舌打ちをした。

「……そうか。だが、情報が全てではないのは知っているだろう?」

「おうとも。弱かった奴が何かのキッカケで急に強くなるなんて、トレーナーやってりゃあ日常茶飯事だ。だが、その想定外を想定してりゃあ対応もできる。それよりも俺様は、この先の遺跡に用があるんだ。テメェらじゃあ俺様には勝てねぇ。さっさと通しな」

 

「待ってくれ!!」

断る、とジンが言おうとしたその時、サトシの声が響いた。

「ほう、マサラタウンのサトシか。……テメェ、雑魚の癖に吠えるじゃねぇか」

黒髭が鋭い眼光で睨みつけると、サトシを凄まじいプレッシャーが襲う。

「……お前、遺跡になにするつもりだ?」

「歴史を学びに」

「海賊のお前を、信じろっていうのか」

「なんだ。職業差別か?俺様も生きてるのによぉ。まぁそんなことはどうでもいい。……テメェ、なんでしゃしゃり出てきた?ジンの背後で、突っ立っておけばいいものをよ」

意地悪く笑っている黒髭にサトシは、汗の滲む掌を強く握りしめた。

「オレが、お前を放っておけないだけだ。……それよりお前は一体、何を知りたいんだ?」

「流石にロケット団と戦っているだけのことはある。その性根はそこらのガキとは一味違ぇな。…………俺様が知りてぇのは、世界の創造?いや、変容だ。仕事柄、色んな遺跡や宝物を目に見る機会があってよ。だから、俺様はポケモンの誕生以前から今までの歴史を探ろうと思ったのさ。……知らねぇことを知るってのは面白れぇだろ?」

「その為に、海賊をやってるのか?」

「歴史だけじゃねぇがな。俺様はロマンの為に海に出た。この世の富・名声・力。男なら誰しも憧れるそれに、俺様は全力で手を伸ばしてるだけなのさ」

「その為にやることが、悪いことでも?」

「正義を自称して本気で正義を思い込んでる悪党なんざ、俺様から言わせりゃ三下だ。一流の悪党ってのは、自分の悪としての生き方から目を逸らしたりはしねぇのさ」

ニヤリと余裕そうに笑う黒髭と、厳しい表情で睨みつけるサトシは、まさに対照的な存在だった。

「……オレがお前を止める、と言ったら?」

「伊達や酔狂で言ってねぇのはその目を見りゃ分かる。……だが、もうちっとばかり現実を見た方が良いぜ。テメェの幼馴染のスミレって小娘でさえ、ジムリーダー程度の実力に抑えたサカキを倒すのがやっとだった。それにまだほとんど勝ててねぇ上に立ち回りが弱くなったテメェに、一体何ができる?」

「……だからと言ってお前を見逃すオレを、オレとオレのポケモンは認めてくれるのか?」

疑問符を付けるサトシだが、その目を見る限り答えは決まっている。黒髭は余裕綽々の笑みから心底愉快そうな笑みへと表情を絶妙に変える。

「いいぜ。じゃあ、テストをしてやる」

「……テスト?」

「簡単な質問だ。……テメェの夢はなんだ?」

「ポケモンマスター」

黒髭の質問に、サトシは即答した。その答えに、黒髭は一瞬呆気に取られるもすぐに笑い声を上げる。

「ガッハッハッハッハ!!!!……ポケモンマスターか、そんなバカバカしい夢を見てやがるのか。テメェは、ポケモンマスターをどんなものだと思ってる?」

「分からない。……オレ、馬鹿だからさ。そんなものまだ分からない。それをずっと探しながら、旅してる。でも、どうしてかすげぇ憧れるんだ。なりたいって、絶対になってやるって思えるんだ。理由なんて、ポケモンマスターがどんなものかなんて、その後で良いって思えるんだ」

サトシは、夢を語りながら強気に笑う。具体性も計画性も何もない、ただあやふやな名前だけの称号に手を伸ばす。それで良いじゃないかと、世界的な大海賊に向かって、堂々と言い放ったのだ。

「ガッハッハッハ……!!いいぜ、気に入った。具体性のない夢?計画性のない未来?結構じゃねぇか。男なら、一生に一度はそんな馬鹿らしい夢を見るもんだ……!!俺様はテメェの夢を笑うが、嗤いはしねぇ。そんな馬鹿は時に、世界の常識をまるっきりひっくり返すからな。……だからこそテメェらには、俺様の切り札を見せるに値する。さあ、行ってこい!!」

そう言って黒髭は、高くボールを放り投げた。それを見ると、ジンとハヤトが真っ先にボールを構え、タケシはサトシの側に立つ。少し遅れてカスミとシゲルが動き出すと、ジンのドータクンとハヤトのネイティオ、シゲルのフーディンが遺跡を守るようにバリアを展開した。

「……奴の相棒。つまりはアイツか、厄介な」

「アイツ……?あの、先程言ってた白き災害ってヤツですか?」

ジンの呟きに、サトシは首を傾げる。

「ああ、奴は凄まじい硬さと殲滅能力を誇る、まさに動く災害だ。……そしてなにより、一介の犯罪者が持つにはあまりにも希少なポケモンでもある」

 

「バリアか、賢い選択だ。……だが、だからこそコイツは好きに暴れられるのさ!!」

ボールから光が伸び、空を覆いつくすかと錯覚する程の凄まじい巨体へと変貌する。

 

「その脅威と希少性から付けられた異名は " 白き災害 " あるいは、 " 白鯨 " 。世界でも数例しか確認例がない、色違いよりもずっと希少な色違い」

 

「行くぜ、ホエルオー!!!!」

 

「全身の体色が白い、白変種のホエルオー。それこそが、奴が誇る最強の切り札だ」

 

「ブオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

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