ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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ポケポケやってるんですが、フシギバナEXが一向に来ません……来て……


第187話 迷い、苦しみ

 時間を現在へと戻す。ヒワダタウンの公園に、シゲルはポツンと座り込んでいた。時刻は夜、街灯に照らされた公園にはシゲルの他に誰もいない。町のポケモンセンターに向かえばスミレが宿泊しているのだが、スミレに相談するような内容でもない。

「……なんだかなぁ」

シゲルは黒髭との戦いから、心の中に蟠りがあった。タケシはサトシと一緒にもう旅をしていてどこに居るかは分からないし、ジンとハヤトはキキョウシティで事件の後始末に追われていてそれどころではない。

「よう」

そんなシゲルに背後から突然声を掛けられ、シゲルは慌ててベンチから立ち上がる。

「……ジンさん」

そこに居たのは、ジンだった。背後に音もなく立っている姿はホラー映画の如し、いやジンの不審者然とした風貌を考えるとサスペンスの1シーンである。シゲルは突然のことに響く心臓と引き攣る表情をどうにか落ち着け呟いた。

「こんな時間に悩み事か?」

そう言いながらも、ジンはシゲルの座っていたベンチに腰を下ろすと、自身の隣を手の甲で軽く叩く。

「どうして……」

「仕事はハヤトに押し付けて来た。……迷える後輩の相談に乗るのは、先輩トレーナーとして当然のことだ」

「そうですか。……ありがとうございます」

そう呟くと、シゲルは小さく息を吐いた。

「それで?……悪党とはいえ、大物に幼馴染が次々と認められて。置いてかれてる、とでも思ってるのか?」

ジンの質問にシゲルは、小さく頷いた。

「はい。スミレならまだ、ずっとボクらより先に居たから分かります。……でもサトシは、アイツはずっとボクと同じくらいだと思ってました。でも、カントーリーグで。ミュウツーの一件で。そして今回の一件で。ボクはアイツの大きさを、強さを、そしてアイツとボクの間にある越えられないほど大きな壁を知りました」

「……壁?バトルの実力じゃあ、あんまり変わらないと見えるがね。そういうことじゃないんだろう?」

「はい。ボクはアイツのように、真っ直ぐ自分の夢を語れる自信がありません。ポケモンマスター、それは確かにボクにとっても憧れることでもあります。でも、それだけを見据えることは、あんな風に宣言出来るほど貫くことはボクには出来ないんです。それにあろうことかボクは、この先ポケモントレーナーを続けるか、世界の謎を追う研究者になるのかで迷っているんです。……ボクは一体どうすれば良いのか、とっかかりが見つからないんですよ」

息苦しそうな表情を浮かべて空を見上げるシゲルに、ジンは小さくため息を吐く。

「……黒髭に関しては、ああいう奴が特に好みなだけだ。シゲルに関してもそれなりに認めてはいるだろう。それはそれとして、お前がどうしたいかは俺には分からん。……だが、俺は手持ちからお察しだが古代のポケモンについて興味を持ってな。トレーナー自体は10歳からやっていたが、それをセーブして大学に行き、大学院で博士号まで取得した」

「す、凄いですね。両立したんですか?」

「勉強が中心だったがな。……無闇に育てるポケモンを増やしたりしなければ、偶にの休みで鈍らない程度に鍛えてやれば、それなりにリーグでも通用する。俺はそうだったが、お前も恐らくその域には行けるだろう。……まぁ、つまりだ。無理にどっちかを、ひとつの道を真っ直ぐ突き進む必要はないんじゃないか?自分の人生に一本筋を通そうが、寄り道をしながら人生に幅を持たせようが、生き方の正しい正しくないは、余程のことをしない限りは自己評価でしか判断できない」

ジンの言葉に、シゲルは納得したように頷く。

「…………勉強もしたい、トレーナーもしたい。どっちも取ったって、ボクの人生だから良いんですよね」

「そうだ。……他人に迷惑を掛けすぎない程度ならな。お前はサトシと違って、器用だと俺は思う。愚直に我が道を突き進むことはできないかも知れないけれど、その一歩後ろでより広い場所を見渡すことができる。それは君に出来てサトシに出来ないことだと、俺は思う」

「ボクに出来ること……」

「さて、進路相談はこれで終わりだ。……夜も遅いしさっさと帰れ、と言いたい所だが」

「……?」

そう言いながら立ち上がったジンに首を傾げるシゲルだが、ジンはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「ちょっとだけ、悪いことしてみるか?……この町には一軒ばかり、美味くてこんな時間にもやってるラーメン屋があるんだぜ」

悪ガキのような悪戯っぽい笑みを浮かべるジンとは対象に、シゲルは生唾を飲み込んだ。深夜にラーメン、あまりにも凶悪な誘惑である。昔の自身ならしなかっただろうとシゲルは確信できるが、今のシゲルには逆らうことなど出来やしなかった。

「食べたいです!」

「良い返事だ。今日は俺の奢りで良い、たらふく食って明日からまた好きなように生きてみろ」

少年らしく目を輝かせるシゲルにジンは優しく笑ってその肩を叩くと、2人は夜の街へと歩き出した。

 

◾️◾️◾️◾️

 丁度シゲルとジンの2人が深夜ラーメンという犯罪に手を染めている頃、ショウガは病室の窓から外を見ていた。普段話相手になってくれているスミレはもうポケモンセンターで眠っている頃、スミレのポケモンもこの時間に起きているのは夜により活動的になるゲンガーと瞑想し修行をしているフーディンくらいなものだ。周りには夜警用のポケモンやら警備員が巡回しており、空を異様にヨルノズクが飛び回っているのが印象的だ。つい先日、スミレが黒髭の下っ端を叩きのめし本人と話した事件があった。その結果、ただでさえロケット団案件で厳重だった警備が更に厳重なものへと変わっていた。

(……外に出たい)

ショウガは、そんな感覚に襲われる。この頃は治療やらリハビリやらで、修行が一切できなかったのである。ロケット団との戦いでショウガは、己の強さを高める道を見つけたのだ。自身の生身での戦闘に関しても、ポケモンバトルにしても、改善点があるのだからすぐに直したい、すぐにでも鍛えたいと思っていた。

「随分とバトルジャンキーだね、最近の坊主は」

「!?」

しかしそんなことを考えるショウガに声を掛ける声がひとつ。ショウガ以外誰もいない筈の部屋に、暗闇から人が浮かび上がった。

「よう、元気かい?」

「……貴女は、キクコ殿」

「堅苦しいね。だがまぁ良い。事後承諾だが、夜分遅くに失礼するよ」

「夜分遅く、というかそもそもこの時間は面会禁止の筈では……?」

「構いやしないよ。アタシとゴーストポケモンなら忍び込める程度のセキュリティだし、アタシはこれでも100%リーグ側でね。このくらいじゃちょっと怒られるだけで問題はないのさ」

ショウガの疑問にキクコは軽い調子で肩をすくめる。

「それで、今宵は何用ですか?」

「そうだね……。まずひとつだ、ギバラに貰ったタマゴはどうだい?」

「順調に育っております。孵化もそう遠くはないかと」

そう言ってショウガは傍に置かれた孵化器とその中に置かれたタマゴへ視線を送る。中のタマゴはよく温められており、中身も順調に成長していることは検査で分かっていた。タマゴからポケモンを育てたことのあるスミレ曰く、産まれてからが本当の地獄らしいので内心恐ろしくはあるが、それでもタマゴが日に日に成長してゆくのは、ショウガとしても嬉しさがあった。

「ふぅん。ま、問題ないなら良いよ。タマゴポケモンは産まれてからが勝負だ。トレーナーによって、育てるポケモンによって向き不向きが分かれるからね。人から貰ったタマゴなら尚更さ。……それをアンタが育てられるか否か、こっちとしては不安だよ」

「ご心配痛み入ります。しかし私もトレーナーの端くれ、立派に育ててご覧に入れましょう」

「そうかい、楽しみにしているよ。……それはそうとアンタ、そろそろ鍛えたくなったんじゃないかい?」

話を変えるキクコに、ショウガは視線を逸らす。

「その通りです。私は己を、そして相棒を強くしたいのです。私がもっと強ければ、あの子を、そして相棒をより傷つけずに助けることが出来たのだから。スミレと共に歩む仲間として、そしてポケモントレーナーとして、このままでは……弱いままではならんのです!だから私を、鍛えては頂けませんか!?」

そう強い目で言い切ったショウガに、キクコは口の端を吊り上げた。

「いいね、悪くない目だ。……だがアタシも四天王、そして今は事件の真っ最中。黒髭という脅威が迫っている現状、最前線で幹部とやり合うにはスミレの実力ですらギリギリだろう。それなのにお前程度のトレーナーを鍛えてる暇なぞあると思うかね?そんな時間があったら、スミレ達を黒髭の幹部と戦えるくらいに育てた方が余程有意義だと思うが、アンタはどう思う?」

「……おっしゃる通りです」

キクコの厳しい言葉に、ショウガは悔しげな表情を浮かべながらも頷いた。現状、ショウガのオドシシは【めいそう】を限界まで積んでやっと第一線級の戦力になるのだ。そんなトレーナーを鍛えている暇があれば、初めから戦力に数えられているスミレ達を鍛えて伸ばした方が、余程効率的である。

「だが、その心意気を無駄にする気はないよ。……この深夜に、アタシが少しでもバトルをしてやろう。どうせこの時間に仕事をやろうったって仕事にならないだろうし、ゴーストタイプは夜が好きだからね。コイツらの有り余った元気を消費させてやりたいのさ。だからそこで鍛えるんだね。己の肉体と、ポケモンをさ」

「ありがとうございます……!」

ショウガが感激した様子で頭を下げると、キクコは小さく鼻を鳴らす。

「ふん……!どうせスミレが戦いに出る時は同行するつもりなんだろう?ならばせめて、あの子の足を引っ張らないようにしな。……それと、あちらには言ってあるが、無理は禁物だ。病み上がりの人間なのだから、己の限界を見極めつつも頑張りな」

「はい!」

「うるさいよ。看護師にバレたらどうするんだい。……だがま、今日だけは特別サービスだよ」

キクコはやれやれと言った様子で杖を地面に打ち付けると、瞬間。ショウガとキクコは、何処か知らない場所に立っていた。そこは、思い切りバトルが出来る程に幅広い空間である。それも、地面にはバトルコートの線が配されているバトル専用施設だ。

 

「こ、これは……」

「アタシが四天王としてチャレンジャーを迎え撃つ時、必ず使うバトルコートさ。……今日だけは特別だ。アンタの気の済むまで、このキクコがバトルに付き合ってやろうってことだよ」

キクコがニヤリと笑った瞬間、キクコの足元にある影が伸びた。不自然に伸び縮みするその影はキクコの形を崩して、ポケモンの姿を映し出す。

「これは、ゲンガー……!キクコ殿の、切り札!?」

「安心しな。コイツは四天王の手持ちとして出られるレベルじゃあない。ジムバッジ換算だと、6つ分になる強さだ。ロケット団のポケモンと戦いレベルが上がったアンタのオドシシの壁には、丁度いいとは思わないかい?」

「…………成程、ご配慮に感謝致します。そしてこの試練に感謝を。これを乗り越えて私は、より強いポケモントレーナーになる。行くぞ、オドシシ!」

ショウガは冷や汗を流しながらボールを投げ、オドシシを呼び出す。

「行くよゲンガー、【ふいうち】!」

「オドシシ、躱して【めいそう】!」

今は他の四天王が揃いも揃って居ないのを良いことに、秘密のバトルが始まった。

 

◾️◾️◾️◾️

 ガバリ、と勢いよく体を起こす。全身にかいた汗はじんわりと体を冷やし、不快感で包み込む。

「ぅう……うぇ…………」

噴き上がる吐き気に口元を抑えるが、ただ苦しいだけで何も出てこない。事件から数日。ショウガが特訓をしている程に回復したのに対して、ミコトは心の傷が未だ癒えずに居た。そうなるのも当然のことだ。ロケット団という悪業に手を染めた人間による本気の悪意と暴力を一身に受け、頼みの綱のポケモンは一時とはいえ奪われ、助けてくれたショウガは自分を助ける為に重い怪我を負った。ミコトの実家はヤクザの家である。しかしミコト自身は普通とは家庭環境が大きくズレているだけで、普通に可愛がられて育った普通の子供にすぎない。ミコトは毎日のように、その恐ろしい光景をフラッシュバックさせては苦しみに悶えていたのである。

『どうする?旅やめて帰ってくるか?』

見舞いに来た父ギバラに、そう言われたことを思い返す。その時ミコトは頷こうとして、どうしてか首を縦に振れなかったことを今でも覚えている。ポケモンは手放さなくて良いとは言われたのでポケモンと別れたくないという理由でないのは確かだが、決められなかった理由は分からない。

「…………うち、どうすればええんやろ」

トレーナーの道も捨てられず、かと言って前にも進めず。ミコトは布団に寝転ぶとまるでゼニガメが自らの身を守るため甲羅に入るように布団の中で小さく丸まり、無理矢理にでも目を閉じた。そんなことでは解決しないと、分かっていながら。




別サイトのオリジナルとか、ハリポタのとか、ミリ単位でしか進んでない作品あるのにまた別の作品を作りたくなっちゃったりしてますが、既存の作品はできるだけ進めたいと思ってます……。進んでなくて申し訳ないです
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