ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第189話 オドシシ特訓開始

 スミレからの連絡と医者からの許可を貰い、ショウガは病院内のとある施設に来ていた。目的はスミレ曰くオドシシの特訓らしい。キクコから鍛えて貰ったショウガではあるが、深夜に特訓した通りキクコには日中暇な時間があまりない。更に言えばキクコももう若くはないので、体力的な問題もある。スミレはそこを考慮し、特訓を課すというのである。

「……しかし。誰も居ないな」

普通、怪我をしたポケモントレーナーがバトルの勘を取り戻す為に使用する施設だが、この時は誰も居なかった。

「そりゃそうですよ。今日使うのってショウガさんとわたしだけですからね」

「……何者!?」

そう上から見知らぬ声に返事を返され、ショウガは警戒心を露わにして上を睨みつける。ショウガの視線の先……施設の上から観戦できる場所に、見知らぬ少女が立っていた。オレンジ色の髪の快活な印象を感じさせる少女は、いつの間にか手摺りに腰掛けて足をぶらぶらと振りながらショウガのことを見下ろしていた。

「あはは!これやってみたかったんだよね、怪しい人っぽくてカッコいいでしょ」

「馬鹿、そこは!」

少女はそう笑いながら手摺りから飛び降り、ショウガは思わず声を荒らげるが、少女を背に乗せるように大きなポケモン……リザードンが足元に割り込み、少女を地上へと降ろす。

「……よっと。まぁ超人とはいえ、この高さは危ないですからねー。でも大丈夫、わたしのポケモンは強いんです」

少女は笑って、側に立つリザードンを撫でる。リザードンはやれやれといった仕草をしながらも笑っている。

「貴女は一体……」

「わたし?ああ、そっかそっか。わたしは一方的に知ってるだけですね!わたしはヒマワリ、スミレちゃんの幼馴染で友達です。キクコさんは忙しいし、スミレちゃんは手加減が苦手だから、わたしが代わりに特訓を手伝います!!」

「スミレの幼馴染……。成程、道理で」

ニコニコと笑うヒマワリに、ショウガは側のリザードンに視線を向ける。武術を嗜むショウガだからこそ分かるが、ヒマワリのリザードンに付いた筋肉は並大抵のものではない。身体は標準的な大きさを逸脱こそしていないが、無駄のない実践向けの筋肉が詰まっていることはすぐに分かった。

(なんと無駄のない筋肉……。ヒマワリという娘、上手い)

「分かります?上手くやれば、ポケモンはとっても強くなれる。たとえわたしがバトルが苦手でも、ポケモンが強ければそこそこ埋めれるって思うんですよね」

「成程、一理ある。……しかし、ここまでとは。リザードンなど、懐かせるのも大変だろうに」

「そこはまぁ、ちょいちょいっと」

なんて事もないように言うヒマワリにショウガは好戦的な笑みを浮かべた。

「ははは。……育成の天才か、私としては是非とも参考にさせて頂きたい!」

「その為に来ましたしねー。と言うわけで、お願いリキイチ!」

「リッキィ!!」

ヒマワリがボールを空に放り投げると、ボールから光が伸び形を作る。そして姿を現したのはカイリキー、凄まじい威圧感にショウガは口の端が引き攣る。

「……行くぞ、オドシシ!」

「シッシィ!!」

しかしオドシシも、恐れることなくカイリキーに向かい合う。

「流石に力の差があり過ぎですからね。3回、【めいそう】を使ってください。それで多分良い感じかもしれません。一旦、普通にバトルしてみましょっか!」

「そうさせてもらう。……オドシシ、3度連続で【めいそう】!能力を引き上げろ!!」

ヒマワリの提案に乗り、ショウガは指示を出す。【めいそう】によってオドシシの能力はみるみる上がり、オドシシは力強くカイリキーを睨みつけた。

「……さ、初めましょっか」

「ああ。では、先手は頂くぞ!【バリアーラッシュ】!!」

「投げて」

ショウガの指示に対してヒマワリはそれだけ告げる。そのことに違和感を覚えるショウガだが、オドシシは全身にサイコパワーを漲らせると、カイリキー目掛けて突っ込んだ。オドシシの速度にカイリキーは表情を強張らせ。

 

 

「は?」

思わず、ショウガの口から困惑の声が漏れた。真っ直ぐに突っ込んだオドシシに対して、カイリキーは仰向けに寝転ぶと、突っ込んできたオドシシを捕まえ、腕と足を使っていとも簡単に投げ飛ばしたのである。投げられたオドシシは【バリアーラッシュ】のエネルギーを持て余したまま地面に叩きつけられ、爆発が起こる。

「やー。相変わらずリキイチは凄いね!!」

ニコニコと笑うヒマワリを他所に、ショウガは悔しげに口元を歪めた。

「(今のは……【ともえなげ】か!?)大丈夫か、オドシシ!!」

「ドォッシィ!!」

ショウガの心配にオドシシは咆哮で応えるが、立ち上がる姿にショウガはまた違和感を感じた。

(どういうことだ……。確かに痛手だが、かくとう技をノーマルタイプが受けたにしては、オドシシのダメージは少ない)

「じゃ、反撃行きますよー。【いわくだき】」

「クッ……、相手の動きを見切るんだ!!」

「がんばれリキイチ!」

ヒマワリの指示で、カイリキーが動き出す。カイリキーは深く腰を落とすと、4本の腕を器用に使い、【いわくだき】を放つ。それはさながら、ボクシングのラッシュのようだ。オドシシは初めこそ上昇した能力値を活用して躱すが、次第にその速度に対応しきれなくなってゆく。拳が顔の横をすり抜け、角の先を揺らし、何発かが体を捉え、オドシシはジリジリと後退を余儀なくされる。

「【たいあたり】!続けて【にどげり】、距離を取れ!!」

オドシシが【たいあたり】をするとカイリキーは後退こそしないが僅かに動きを止め、追撃の【にどげり】で後退させるとその隙にオドシシは距離を取る。

「よーし、じゃあいくよリキイチ!これで決着にしよう!!」

しかしここでヒマワリが大技を放つ素振りを見せた。追い詰められたショウガにとって、ここが千載一遇のチャンスであった。

「オドシシ、早業でいくぞ!【バリアーラッシュ】、出鼻を挫いて次に繋げるんだ!!」

「シィッシィィ!!!!」

オドシシが凄まじい速度で突っ込み、攻撃がカイリキーに減り込んだ。エスパータイプの攻撃はカイリキーに効果抜群、カイリキーは表情を歪めた。

「ここから畳み掛けるぞ!【バリアー】……」

「【カウンター】!」

ショウガは追撃を加えるよう指示を出そうとするが、ヒマワリの指示に思わず言葉が続かなかった。

(しまった……!読まれて……)

ショウガが悔しげに表情を歪めるが、次の指示を出すには展開が早すぎた。

「連続ラッシュだ、【いわくだき】!!」

拳の雨がオドシシを一方的に打ちのめす。オドシシは攻撃を躱そうと体を動かすが、カイリキーの拳は攻撃を躱すよりもずっと速い。だから、放たれる拳の全てがオドシシに届いてしまう。

「オドシシ!!」

叩きのめされ、地面に倒れるオドシシへショウガは呼び掛けるが、オドシシは既に目を回していた。

「……オドシシ、戦闘不能でわたしの勝ち!ですね!!」

やったー、と純粋に喜ぶヒマワリとは対照的に、ショウガは悔しげに口を引き結んだ。

 

◾️◾️◾️◾️

「では、教えてくれ。今のバトルで私に何が足りなかったのかを」

「んー、色々?ですね」

「むぅ……」

ヒマワリの返答に、ショウガは唸る。

「まず、レベルが足りない。まぁこれはしょーがないです、というかレベルはもっと低い方が良かったかも?」

「もっと低い方が……?私はキクコ殿に特訓を付けて貰ったが、そんなことは言われなかったぞ」

「んー……。それは多分、時間があんまり取れないからじゃないですかね。前線でやるには論外なレベルだし。でもだって、急にレベルが上がっちゃったんでしょ?それって、どう育てるか決める時間がないって話じゃないですか。レベル上がればその分ポケモンは強くなりますけど、どこをどのくらい強くしたいっていうのを調整できないと、同じレベルの同じポケモンでバトルした時に、そこをちゃんとしたポケモンには勝てないですよ」

「……確かに、それもそうか」

ショウガが納得したように頷く。

「そーです。だから、そのオドシシくんは【バリアーラッシュ】が得意技なら、足とか腰をもっと重点的に鍛えてあげなきゃ、突っ込む時に余計な動きが入ったりしてスピード出し辛くなっちゃいます。真っ直ぐに来るなら待ち構えれるのに、反撃できるスピードで突っ込んだら負けるしかないですね」

「むむむ。反撃を考えるよりも先に攻撃してしまえ、ということか。……いや、キクコ殿とバトルした時、逃げ回るゲンガーを追いかけ回した記憶があるぞ」

「それです!あー、キクコさんもちゃんと分かって教えてますね。その辺のアドバイスとかはまだしてないみたいですけど。わたしはスミレちゃんみたいに相手の動きを崩せないし、シゲルみたいに安定したバトルも出来ないし、サトシみたいに自分の流れも作れないし突飛な作戦も考えつかない。4人の中じゃあ間違いなくわたしが最弱だけど、頭が悪くて才能ないなら火力とスピードで全部破壊すれば良いって思いまして。なので、真正面から最高速度と最高火力で相手と殴り合って勝つ。それがわたしのバトルです」

「では……あのカイリキーの【ともえなげ】はどうなのだ?」

「あー、あれはカントーを旅してた時に仲良くなった柔道の先生に教えて貰いました!なので、技の【ともえなげ】じゃなくて人間の柔道の巴投になりますね。後は【いわくだき】を使ってる時はボクシングで、これはジョウト来たばっかりの時にバトルしたボクサー選手にお願いして教えて貰いました!リキイチが【たいあたり】されても動かなかったのは相撲です、スミレちゃんのヤドランと同じカントーの相撲部屋の人に習いました。わたしはポケモンに武道みたいな人間の動きをポケモン用にアレンジして教えてるんです」

恐ろしい話だ、とショウガは思った。ヒマワリという少女は人脈を作り、活用するのがなんとも上手いのだ。ボクシングに至っては、ジョウトに来た後で知り合った人物というのが凄まじい。

「……それだけの量をよく教えられたな。ポケモンからは不満は出なかったのか?」

「あー、これってわたしが超人だから出来るやり方なんですけど、ポケモンにやらせる特訓は殆どわたしも一緒にやってるんです!特にリキイチなんてかなり一緒にやりましたよ。そう、どれだけ出来なくてカッコ悪くても、ポケモンが苦しんでる時は一緒に苦しむ、そうやってればみんなは付いてきてくれました」

ショウガはヒマワリのやり方に感嘆すると共に、それは自分にも出来ることではないかと考えた。元々超人で、特訓の結果としてはポケモンと戦える能力はある、ならばオドシシと同じような特訓をし苦労を分かち合うことは出来るのではないかと思った。

「…………成程。では、オドシシはやはり足か」

「はい。特にスタートダッシュですね。そこを鍛えつつ、レベル上げしましょう。【めいそう】は能力を上げてくれますけど、素の強さが弱かったら能力が高いだけの弱い奴ですからね。素の力を強くして、強い奴が能力を上げてるって状況に変えましょう」

「分かった。それと、技についてだが」

「ノーマルで【たいあたり】に近い技だと【すてみタックル】とか【とっしん】辺りですけど……うーん、その辺だと反動がネックなんですよね。それに【たいあたり】でちょっと押して【にどげり】に繋がるって動き自体は、技ひとつでできた方が良いのはそうだとしても良かったですからね、代わりになってもうちょっと強い技が良いような気もしなくもないです。【にどげり】、【バリアーラッシュ】、【めいそう】は一旦抜かなくて良いにしてもどうするか……。遠距離から【チャージビーム】で能力上げるのも良いし【10まんボルト】で麻痺狙ってから突撃もアリだし」

「技の選択は私の方が得意分野ではありそう」

悩むヒマワリに第三者の声が届き、ショウガは驚いたように、ヒマワリは意外そうに声の主へと視線を向けた。

「スミレちゃん。自分の特訓は良いの?」

「ジョウト組はフシギバナとバタフリーに任せてきたから、今特訓してるよ。……人にお願いしといて、丸投げは躊躇われるしね。……で、どう?ショウガは」

「うん!強くはなれそうだし、わたしのやり方でそこそこは強く出来そう。やっぱり、スミレちゃんよりもわたしの方がスタイルが近いかもね」

「やっぱりか。ポケモンと殴り合いできるバカ根性の持ち主と、私じゃあ戦略的に全く相性が悪いからね。頼んで正解……というか、頼らせて貰ってありがとう」

「良いの良いの、頼ってくれてありがと!」

小さく微笑むスミレに対して、ヒマワリは照れたように笑う。2人は全くタイプの違う人間同士だがこうして見ると、友達という表現にも納得がいくものだ。

「で、どうするの?」

「うん!一旦、足を鍛えるよ。スミレちゃんは、【たいあたり】に変わる技の案を考えてくれない?」

「了解。……取り敢えず、このヒマワリが貴方の師匠って扱いになるから。私は精々横からちょっと口を出すだけ。良い?」

 

「……ああ。ヒマワリ殿、いや師匠!宜しくお願い致します」

「あはは、さっきまでと変えなくて良いですよー!じゃあ早速、始めましょっか!!」

こうしてショウガの、そしてオドシシの特訓が始まった。

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