ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第190話 鬼ごっこ

 病院にある施設で始まったショウガとオドシシの特訓。それを見つめるスミレの目は、呆れ返っていた。というのもヒマワリが課した修行は、ヒマワリのポケモンを相手に行うおにごっこ。鬼役は先程オドシシを倒したカイリキーが務め、オドシシとショウガは必死に逃げ回っている。

「やっぱり超人って意味が分かんない」

スミレは、ポケモン同士の鬼ごっこに普通に混ざれているショウガに、さも頭が痛いといった様子で額を抑える。

「あー、確かに言われてみればそうかもね。わたしも普通にやってたけど」

「……それにしても、実戦向けの訓練に鬼ごっこなんて、考えたね」

「あはは、未成年だからこのくらいしか出来ないけどね」

「成人してたらどうしてたの?」

「うーん……、ジープで追いかけ回すとか?」

「やめなさい」

さらりととんでもない発言をするヒマワリを、スミレは表情を引き攣らせながら止める。ジープで追いかけ回すなどスミレからすれば、いや人間の常識で考えれば狂気の沙汰だ。

「そっかー。緊迫感はあるから良いかなーと思ったんだけど。それでスミレちゃん。今ジムバッジは2つ?」

「そうだけど。ヒマワリは?」

「わたしは3つだよ。予想よりはサクサク進んでるよ」

「へぇ、やるね。私も本当なら先に進んでた筈なんだけど」

「事件があっちゃしょうがない。……で、ジョウトで捕まえたポケモンはどんな感じ?」

スミレはヒマワリの質問に渋い顔をした。

「悪くない……けど、カントーのメイン6体とニドキングに比べると根本的に劣るかな。戦力にはなっても、戦況をひっくり返せるエースになれるかって言われると微妙」

「へぇ。でも、比べる対象が強すぎるってのはあるかもね」

「それはそう。カントーのメインパーティーは、私に言わせてもオールエースの精鋭部隊だからね。それと比べてるから劣ってるだけだけど」

「あのポケモン達強いからね。わたしの手持ちは結構良い感じだよ、今度バトルしない?」

「そうだね。……アレを鍛えるついでに、ちょっとやろうか」

ヒマワリの提案に頷きつつ、視線をコートに送る。そこでは相変わらず、ショウガとオドシシがカイリキーから必死な表情を浮かべながら逃げ回っていた。

 

「うおっ!?」

ショウガは、驚いたような声をあげて振り下ろされたカイリキーの腕を躱す。躱されたカイリキーの掌が地面に激突、僅かな衝撃を放つ。

「(実戦のような緊張感……、あの時よりも遥かに強い相手……、成程。相棒だけでなく、私を鍛えるにも丁度良い!!)オドシシ、【めいそう】!……うおおおお!!」

この鬼ごっこにおいて、逃げる側は鬼であるカイリキーに対し、攻撃が許可されていた。ショウガはオドシシに【めいそう】を指示すると、雄叫びをあげて突進。カイリキーの腹に回し蹴りを決めると、カイリキーは僅かに後退る。

「わっ……。そこらのポケモンよりずっと強いね、あの人。4つ目くらいまでのレベルなら、生身でいけるんじゃない?」

「あの人の戦闘は初めて見たけど、そんなに強いんだ。因みに私は?」

「スミレちゃんは……1つ目も無理。精々トキワの森の弱いポケモンといい勝負ってところだよ。フシギバナの血を入れてるから、これでも強くなった方だけど」

「だと思った」

ヒマワリとスミレのそんな声に、ショウガは悔しげな表情を浮かべる。生身でバッジ4つ程度、というのならそれ以上の相手よりは弱いということだからだ。

「リッキィ!!」

カイリキーが反撃に技を使わず殴りかかる。この鬼ごっこ、鬼側が攻撃する際は手加減が必須な上に技の使用が禁止なのである(とはいえ、技を使わずとも人間の1人2人は潰れたトマトにできるのがカイリキーであるが)。それをショウガはバックステップで脇に跳んで躱す。すると、カイリキーの視線の先には、【めいそう】を積んだオドシシが立っていた。

「オドシシ、力業だ!!【バリアーラッシュ】!!」

「リッキィィ!?」

そして威力を高めた【バリアーラッシュ】でオドシシが突っ込み、効果抜群の突進でカイリキーは吹き飛ばされる。

「よし、一度距離を取るぞ」

「シッシィ!」

そして、攻撃に成功したショウガとオドシシは反対方向に別れ、カイリキーから距離を取った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「いいね、今はオドシシの方がトレーナーよりも強くなったんだから、こうやってオドシシをメインアタッカーにできる」

「……そういえば、あの人が超人って知ってたの?」

「まー、これでもポケモン育てる為に武道とかやってるし。……それに、一回ロケット団に袋叩きにされてポケモン奪われたんだよ?人がどれだけ強い武道家か分かるくらい、旅しながら護身術は修行したよ」

そうじゃないとパパもママも許してくれなかったし、と言って笑うヒマワリに、スミレはハッとした表情を浮かべた。

 

「…………ねぇ」

「なに?なにかあったの?」

スミレの声に何かを感じ、ヒマワリは心配そうな顔をする。

「もし、貴女と同じようにロケット団に負けてポケモンを奪われかけて、心に傷を負った子供がもう一度立てるようにしたい時。貴女はどうやって、なんて声を掛ける?」

スミレに聞かれてヒマワリは、悲しげな笑みを浮かべた。

「そっか、話に聞いたミコトちゃんのことだね」

「そ。ショウガが頑張ってくれたから、私が見る限り少しはマシになってると思う。……でも、まだ足りない。ゆっくり考えれば良いとショウガは言った。それは正しいけれど、私達が居られる時間には限界がある。言えることがあるなら、背中を押せるなら今しかない」

そう呟くスミレに、ヒマワリは首を傾げる。

「でも、それは本当にスミレちゃんがしなきゃいけないこと?ショウガさんがしなきゃいけないこと?……スミレちゃんはさ、スミレちゃんを救けようと焦って事態を悪化させた馬鹿のことをよく知ってる筈だよ。…………人を助けるなら、人としっかり向き合うなら、まずは助ける側に余裕がなきゃダメなんだとわたしは思う。ショウガさんは兎も角スミレちゃんは、そういう意味ではその救い方ができるほど心に余裕ないんじゃない?今やらなきゃって急いでるのに、本当にあの子のための言葉が出せるの?」

ヒマワリの指摘に、スミレは目を見開いた。図星だ、あまりにも耳が痛い話だ。最初にショウガがミコトと話すと言った時に誰よりも怒って止めたのは自分自身だ。そんな自分が今こうして必死にミコトを救おうと考えている。方向性だけで言えば良い方向なのかもしれないが、そこに救うという目的を実現できるだけの余裕はない。

「……確かに、そうだね。私も変な情が湧いてたらしい」

「トレーナーデビューを見守ったんでしょ?なんだかんだで優しいスミレちゃんなら、情が湧いてもしょうがないよ。でも、今はスミレちゃんが出る場面じゃない。スミレちゃんもわたしも、旅を通じて色んな凄い人に会ったと思う、色んな言葉を掛けてもらって影響を受けたと思う」

「うん、そうだね」

「どんなに言葉を尽くされたって、どんなに凄い人に影響されたって、結局最後に立つのは自分の足だし、先に進んで良いか判断するのはお父さんやお母さんだよ。……わたしやスミレちゃんに、出る幕はない。口を出せたとして、その資格があるのは先にその子へ言葉を掛けたショウガさんだけ。だから、今は何もせず見守っていよ」

ニッコリと笑ったヒマワリにスミレは、小さくため息を吐いた。

「……ねぇ、ヒマワリ」

「ん?」

「ミュウツーの時なんかも思ったけど貴女、私が思ってるよりずっと賢いよね。座学は散々、バトルも上手くなかったり、私から見れば馬鹿でしかなかった貴女が、よくもまぁここまでなったよ」

「あはは、ハッキリ言うなぁ。……元々、裏表があったとかそういうのじゃないよ。ま、それも旅に出たおかげだね。知らないままなら幸せだったことも、いろいろ知っちゃったから」

ヒマワリの返答に、スミレは小さく頷いた。旅に出て、世の中の悪意と対峙したのはスミレだけでなくヒマワリも同じだ。ヒマワリはその旅の中で少しずつ変わっていったのだろう。

「…………そっか」

「そうだよ。……旅に出なきゃ良かったなんて、口が裂けても言わないけどね」

「そうだね。私もそう」

「だと思った」

そう言ってヒマワリは笑うと、ショウガとオドシシに視線を移した。

 

◾️◾️◾️◾️

 

「オドシシ、ジグザグになるよう走って逃げるんだ!スピードは落とすな、全力で駆け抜けろ!!」

ショウガの指示でオドシシは、それまでの真っ直ぐ進む走り方からジグザグに進む走り方へと切り替える。捕まえんと手を伸ばしたカイリキーの掌をするりと躱して、駆け抜ける。

「よし、ターンだ!」

そして追加の指示でオドシシはトップスピードを維持しながらターン、カイリキーは慌てて走る速度を緩めるが、その隙にオドシシはカイリキーから距離を取る。

(よし…‥!最高速度を維持したままの進路切り替えは成功だ!)

ショウガは全身を汗だくにし、表情は疲労に歪みながらもニヤリと笑みを浮かべた。ここまでで捕まった回数は3回、試行錯誤をしながら逃げ回ってきたが、ある程度続けたことでこの状況に慣れてきたようである。

「ならば私も……おおおッ!!」

ショウガは素早くカイリキーに突っ込むと、掴むように振るわれた腕を屈んで躱し、無防備な脛にローキックを叩き込んだ。カイリキーは脛への痛みに表情を歪める。

「リッキィ!!」

痛みを堪えながら手を伸ばすカイリキー、しかしショウガは一歩下がるとその腕を掴んだ。

「おおおおおッッ!!!!」

そして裂帛の気合いと共に背負い投げ。カイリキーの巨体が人間の手によって持ち上げられ、そして背中から地面に叩きつけられる。

「リキィィ……!」

しかし、相手はバッジ8個持ちのトレーナーが使うカイリキー。その程度の攻撃では、それまでの攻撃の積み重ねがあったとて倒しきれない。しかし、ショウガは今までの自分とは明らかに違う。そう、オドシシという最高の相棒と、肩を並べて戦えるのだ。そしてオドシシは、その全身にエネルギーを滾らせる。

「行くぞ相棒、力業だ、【バリアーラッシュ】!!!!」

「シッシィィィィィ!!!!」

そしてここまでの攻防の疲れがあるとは思えない、凄まじい速度でカイリキー目掛けて突っ込んだ。カイリキーは4本の腕を組み姿勢を低く保つことで、衝撃に備える。

「そこまで。カゲちゃん、【ドラゴンクロー】」

瞬間。側面から目にも止まらない速さで突っ込んできたリザードンが、【ドラゴンクロー】でツメを振るい、オドシシの【バリアーラッシュ】を真正面から受け止めた。【めいそう】を積み、ここまでのカイリキーとの訓練でリアルタイムで経験値を積み重ね強くなったオドシシの突撃に、真正面から己のツメを叩きつけたのである。衝撃波がコート内を吹き荒れ、ショウガは思わず顔を覆う。

「…………くっ、どうなった!?」

一瞬で吹き荒れた衝撃波が去ったことを確認すると、ショウガはオドシシに視線を送り、そして衝撃に目を見開いた。

 オドシシの全身が、リザードンによって押さえ込まれていた。リザードンの足元に小さなひび割れが出来ている辺り、リザードンもかなりの力で踏ん張ってはいたのだろうが、それにしてもアッサリとオドシシの突撃を受け止めてしまったのである。

「成程」

スミレの呟きが、ショウガの耳に嫌に響いた。スミレの声に、一切の動揺は感じられない。つまりは、両者がぶつかった時にどうなるかが予測できて、尚且つ想定内であったということである。

「ごめんなさい、遮っちゃって。……でも、そろそろリキイチもお疲れですし、あんまりやりすぎちゃうとお互いに要らない怪我をしちゃいそうなので止めちゃいました」

「……あ、ああ。ではこれで?」

「はい、今日は終わりです。ストレッチの仕方は教えますから、それやったら回復して終わりにします。……というわけでありがとう、リキイチ」

「付き合ってくれて感謝する」

「ブルルッ!」

ショウガとオドシシはヒマワリに続いて、ボールに戻されてゆくカイリキーに礼を述べる。それに、ヒマワリはクスリと笑った。

「律儀ですねー。まぁそんな人だから、スミレちゃんも旅仲間に選んだんでしょうけど。……スミレちゃん、先に行ってジョーイさんに終わったって報告しといてくれない?コート整備の申請は先に出しておいてるから」

「了解。じゃ、後は任せる」

ヒマワリの頼みに頷いたスミレが施設を出ていくのを目で追って、ヒマワリは小さく息を吐いた。

 

「スミレちゃん、変わったなぁ」

「そんなになのか?」

ショウガは、そんなヒマワリの呟きに驚いた様子を見せた。

「はい。今のスミレちゃん、とっても柔らかくなってますよ」

「…………基準を知らんからどうなのかがサッパリだな」

「わたしが知ってる範囲では、かなり変わったんです。だから」

「決して、彼女を裏切るな。そういうことだろう?」

ヒマワリの言いかけた言葉を繋いで、ショウガは続ける。ヒマワリは、向日葵の花のような明るい笑みを崩さないまま、頷いた。

「そーです!さすがに分かってますよね」

「ああ。そして私に彼女を裏切るつもりは一切ない。信じろ、とは言わんが信じてもらえるよう努力は続けるつもりだ」

「そうしてください。……ああ、一応言っときますけど。もしも悪意を持って裏切るようなことがあれば」

「…………あれば?」

瞬間、ヒマワリの表情が変わった。それまでの笑顔が失われ、ゾッとするような無表情になる。

「わたしが、貴方を懲らしめてあげますから」

「……私には無縁だろうが、気には留めておこう」

ヒマワリの脅しに、ショウガは冷や汗を流しながらも頷く。

「あはは、冗談ですよ冗談!……じゃ、ストレッチしましょっか」

ヒマワリはすぐにいつものような明るい笑顔に戻ると、ショウガに背を向けて歩き出す。

「行こう、オドシシ。……大丈夫だ、彼女はただ友達を思っているだけ。そして彼女に従うことは、我々が強くなるため通るべき道だ」

ショウガは傍らで警戒心を露わにするオドシシにそう声を掛けると、ヒマワリに続いて歩き出した。

 




ポケモン世界でも躊躇われるジープ特訓
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