ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ポケモンセンターに入ったスミレは、見覚えのある人物を見つけて驚きで目を見開いた。
「……あれ、スズキさん?」
「ああ、スミレさん。探しましたよ」
にこやかに手を伸ばしてくるのはカントーリーグ優勝者のスズキ。スミレは伸ばされた手を取り握手を交わす。
「ジョウトまで来てたんですね。やはり、例の件ですか?」
「ええ、ワタルさんからも頼まれましたからね。会社のことはある程度遠隔で出来ますし、我が社の人員は皆優秀ですので任せられる部分は任せてあります。社の商売から防衛まで、色々と熟せますよ。なんといっても、私は一代でロケット団と争える規模の会社まで育て上げた自負がありますので、戦いながら仕事くらい簡単に出来ます。…それで、貴女に急なお願いがございまして」
スズキからのお願い、という言葉にスミレは首を傾げた。
「なんですか?……私にできることであれば、ですけど」
「一週間後、コガネシティで大会をしようと思いまして。それに出て頂きたいのです。……そのお誘いのため、ここに居たんですよ。ランスと戦った後、ここに止まっていると伺ったので」
「成程……ですが大会?ジム巡りをしていれば自然とコガネに辿り着きますが、どうしてわざわざ私へ招待を?」
「それがですね。その大会が、私が主催する完全招待制の大会だからです。……理由としてはそろそろこちら側の戦力を誇示しておくべきだと思ったのと、あとはトレーナー同士でバトルして経験を積む場が欲しかったものですから。因みに、参加者は私とスミレさんが出てくれるのであればスミレさん含めて8人、優勝者には私の金で賞金も出ますよ」
スズキの考えに、スミレは納得したというように頷いた。要するに、リーグ側の戦力を示すことで半端な犯罪者に対する牽制を行い、犯罪抑止に繋げようというのだ。更には、実力者同士でバトルを行うことで経験を積み、今後の戦いの糧にしようというのである。スミレの手持ち自体、リーグに出た個体の情報は把握されていてもおかしくない以上、情報漏洩は考えずに参加した方がメリットが大きいとスミレは考える。
「成程。なら私も参加します」
スミレがそう答えると、スズキは嬉しそうに頷いた。
「それはありがたい。これが招待状です、移動費がかかる場合はこちらに請求が行くようにしておりますので、こちらを運転手に見せてください。それと、招待用にチラシも数枚渡しておきましょうか」
そう言って取り出したのは、綺麗な封筒とそこに入れられた招待状、そして大会の概要が書かれたチラシだ。
「ありがとうございます。……お互い、頑張りましょう」
「ええ。リーグ優勝とはいえ、私が簡単に勝てる程度の相手は誘っておりませんからね。楽しみにしておいてください」
「分かりました。本気のパーティーで、参加させて頂きます」
スミレは、戦意に胸を高鳴らせながら頷いた。
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立ち上がる、といっても色んな意味がある。物理的に立ち上がる。それは特殊な事情画ない限り、多くの人間が当然のように出来ること。しかし精神的に立ち上がるというものは、物理的に立つよりもずっと難しい。それを、ミコトは思い知っていた。
「……さて。答えを聞こうか?」
父親でヤクザの組長であるギバラに鋭い視線を向けられ、ミコトは目に怯えを写す。
「えと、あの……」
「なんだ?ハッキリと言え」
「うちは…………旅に未練があります。外の世界で、色んな物を見て、そして色んなポケモンと出会って、そうやって旅してゆくことを諦められへんのです」
ミコトがオドオドとしながらも答えると、ギバラは小さく舌打ちをする。
「この馬鹿娘、現実を見ろ。……旅に出てあちこち行くんなら、お前は必ず俺たちの手が届かねぇ場所に行っちまう。ロケット団の雑魚どもにすら勝てなかったお前に『野放しにしてください』って言われて、はいそうですかと許可する程俺は馬鹿じゃあねぇんだぜ?」
「はい。ですが、これから鍛えて強くなります。それにショウガはんは、旅仲間を見つけろと言っておられました。……一人旅はさせられないし、許可が降りないだろうと。だから、旅仲間を探して旅立つつもりです」
「そりゃあそうだ。んで、どうする気だ?一緒に旅立ったガキにでも頼るか?それとも、恩人にもう一度縋りつくつもりか?」
「……それは」
「それに、旅立ったとて戦えるのか?バトルでそうなったテメェに、ポケモンバトルがもう一度できるのか?」
「…………」
言い淀んだミコトに、ギバラは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「だから馬鹿娘と言ったんだ。テメェは具体性もねぇのに理想論を語りやがる。ショウガやスミレを頼るってんなら、俺は反対だ。少なくともスミレはそれなりに強ええが、奴らは最前線に立つ戦士。テメェみたいな未熟者が踏み込むにゃあちと生臭すぎる。今のテメェでは戦いに巻き込まれても碌な敵を倒せず死ぬのがオチだからな」
「……そうかもしれません。ですが、うちはまだ旅を辞めたくないみたいなのです」
「だったら、まずは時間を掛けてポケモンを鍛えてからだ。町と町の移動くらいは組のモンを寄越せば出来るし、ウチは極道。それなりにポケモンバトルの腕はある。俺らの保護下でバッジを集めて、相応に自衛が出来るようになってから旅立つほうが、余程安全だと思うがな」
「それはそうです……でも」
「でももクソもねぇ。先があろうが、今は今。現実から目を逸らして見る夢はただの現実逃避だぜ。……一度、テメェを信じて送り出した。クソみてぇな治安のジョウトに、護衛も付けずに1人でだ。そうしたらこれだ、二度目は流石にねぇ。……弱えテメェの意思を確認してやってるだけありがたいと思いやがれ。本来なら、雑魚にゃ死に場所すらも選べねぇんだからな」
苛立った様子のギバラにミコトは俯く。
「…………否定は出来ません。でも、納得も出来ません。だからもう少し、考えさせてくれませんか?」
苦し紛れの言葉にギバラは、笑って頷いた。
「良いぜ、いくらでも待ってやる。コイツァ人生を左右する決断だ、簡単に出来る話でもねぇわな。それなりに悩んで、頼れる奴には頼って、それから答えを導き出すんだな」
ミコトの、実質的な降参にギバラは笑うと、荒々しく椅子を立つ。
「……っ、あの!」
「あん?」
「必ず、答えますから!」
「分かってる。……待ってるぜ」
ミコトの言葉にギバラは背を向けて、病室の外に出る。扉を閉めると、ギバラは大きなため息を吐いた。そして。
「で、人が悪いぜ?親子水入らずの会話を盗み聞きなんざ」
壁にもたれかかる少女……スミレに声を掛けた。
「すみません。ですが、少し彼女に用がありまして」
スミレの返答に、ギバラは片眉を吊り上げた。
「あん?用たぁ、テメェに何が出来る?そのご大層な傷でも見せびらかして、偉そうに講釈でも垂れるつもりか?」
「するつもりもなければ、そもそも私には出来ません。友達が今の私にミコトを助ける余裕がないって気付かせてくれましたから。だから今の私に彼女の心を動かすのは、彼女を救うことは出来ない。……ですが、少し、ポケモントレーナーの先輩としての背中を見せてやろうかと」
「ほう。では、どうする?」
「そうですね、これをミコトに渡そうと思いますので、宜しければ親子で来てください」
そう言ってスミレは、一枚のチラシを取り出した。そのチラシは、とあるバトルイベントの開催を示すもの。
「ほう。 " 第1回スズキカップ " ねぇ。成程、ハンターやロケット団への牽制か。手持ちの情報は流れてるが、それなりの強者はリーグなんかで手持ちは補欠含めて割れてるモンだからな」
チラシを一瞥しただけで意図を正確に読み取る、流石は極道の大きな組を率いるボスだとスミレは内心感嘆する。
「はい。私も参加選手として誘われ、先ほど承諾しました」
「成程。バトルする姿をアイツに見せようってことか。……まぁ好きにしろ。どの道、アイツが強い旅仲間なりなんなり見つけられねぇなら強制的に旅は終わりだ」
そう言って廊下を歩くと、スミレの側を抜けて歩き出す。
「必ず、来てください」
「構わねぇが、必ずは確約できねぇ。アイツの決断次第だ」
「それで良いです。……本当に、旅を辞めさせるつもりですか?」
「答えが出ねぇ、あるいは進む答えのひとつすら他人に依存するようならな。あれは甘ったれの餓鬼だが、何処ぞのカス風情に殺されるくらいなら恨まれようが先延ばしにしてやるのが俺のやり方だ」
「父親、だからですか?」
「あたぼうよ。子を愛さない親なんざいくらでもいるが、ウチはそうじゃねぇ。甘ったれで世間知らずのガキだが、俺と組にとっちゃあ可愛い可愛い愛娘。情に流されて死なす訳にゃいかねぇんだよ。そんなことになりゃあ俺達は、全員で敵にカチコミかまして死んでやる。……まぁそんなことはどうでも良い。ほら、会いに行くんだろ?行けよ」
ギバラが去ってゆく姿を、スミレはただ見送った。
父が去って、ミコトはベッドの上で空を見上げた。旅に出たいか、というのは確定ではないがそれでも気持ちはどんどん膨らんでいる。けれど、父ギバラの反応は良いものではないし、ギバラの言葉に上手く反論も出来ない。どうすれば良いのか、ミコトは大きなため息を吐いた。すると、コンコン、とドアを叩く音が響く。
「……?はい、どうぞ」
ミコトが許可を出すと、ドアを開けて現れたのはスミレであった。
「こんにちは」
「……スミレはん」
「元気ではなさそうだけど、傷の具合はどう?」
「ええ。順調に治っとります」
「なら良かった。……ま、それは兎に角。貴女に誘いがあって来た」
「誘い、ですか……?」
誘い、という単語にミコトは首を傾げる。
「そ。スズキさんから誘われて小さなバトル大会に出ることになったから。……だから、これ見てバトルへのリハビリのひとつにして欲しい」
「バトルのリハビリ、ですか?まぁ確かに、バトルはまだしてないからどうなるかは分かりませんが……。ですが、有り難く頂きたいです」
微笑みを浮かべてチラシを受け取ったミコトに、スミレは鼻を鳴らす。
「意外と今の所の忌避感はありません。……でも、もしトラウマになっていたら、とは想像してしまいます」
ミコトの不安に、スミレは渋い表情で頷いた。
「だろうね。トラウマって意外な方向からやってくるから、不安になるのも仕方ない。だから、ここが勝負どころ。スズキさんは恐らく、リーグ上位レベルの猛者を連れてくる。この大会に出場するのは全てが味方、貴女を守ってくれるだろう人だよ。だからここで、旅仲間なりを依頼してみると良い」
ミコトはスミレの誘いにしばらく考える素振りを見せ、そのチケットを受け取った。
◾️◾️◾️◾️
その日、ジョウトのとある屋敷の大広間。
「ちょっと待ってくれ、金ならいくらでも……ぐべぇっ!!」
ポケモンの毛で作られた部屋着に身を包んだ、禿頭で丸々と太った中年の男が、勢いよく殴り飛ばされる。
「ハッ!人を蹴落として稼いだ汚ねぇ金なんざ、ドブに捨てた方がマシだぜ。金が欲しけりゃ、まともにバイトすりゃあ良いんだ」
男を殴り飛ばしたリーゼントの厳つい男……ホウセンは、胸を張ってそう言った。ホウセンが殴り飛ばしたこの男は、賄賂によって富を得ただけでなく、ロケット団から密猟ポケモンを買っていた。だからこそエビル団の襲撃を受けたのである。
「……くそぉ、片田舎のクソガキ風情が」
「その片田舎のクソガキよりも汚ねぇのがテメェだよ。こんなナリだが生憎俺達は思い込みで殴り込む集団じゃあなくてな、テメェの悪行は証拠も含めてキッチリ押さえてんだぜ?」
「ぐぬぬ……警備員はどうしたというのだ」
「警備員?ああ、あのゴロツキ共か。アイツらなら」
ホウセンがそこまで言ったところで轟音が響くと大広間の壁を突き破り、バンギラスが大広間に突っ込んだ。バンギラスは地面に倒れると、目を回して動かない。
「ば、馬鹿な……!こいつは屋敷1番のバンギラスだぞ!」
「そりゃあそうだろう。戦って分かったけど、こいつは密猟品だ。人間を恨んでるバンギラスなんて、そりゃあ強いだろうね」
男の驚愕に、バンギラスの開けた穴から入ってきたのは、エビル団のユッカだ。
「ユッカか。倒したのか?」
「ああ。ゴロツキ共は全員捕らえた。このバンギラスはやたら暴れるから幹部3人でやっとだったが、他は大したことなかったよ。……そっちは、終わったらしいね」
「おう。この豚饅頭は思いっきし殴れてスッキリしたぜ。無駄に脂肪を蓄えた体だ、殴ったところで問題ねぇよな」
「問題ないよ。……じゃあ、さっさと縛って連れて行こうか。スズキさんの大会、出るんだろ?こんな肥溜め居るよりゃ絶対に良いよ」
「ああ、だな」
場面は移り、ジョウトのとある道場。吹き飛ばされたフシギバナが、壁に叩きつけられる。
「つ、強い……!」
フシギバナのトレーナーが呟く先に立つのは、チャイナ服に身を包んだ少女……ユウキである。ユウキもまた、ホウセンと同じく招待選手の1人であった。
「サワムラー、良い出来ですね」
「サワッ」
ユウキがサワムラーを褒め称えると、サワムラーは表情を変えずに頷いた。
「でも、彼女のフシギバナだったら次はどうでしょう」
「サワッ」
「ですよね。あの方が対策をしない筈がありません。……むしろ、フシギバナをぶつけるかも怪しいです。もし再戦することになれば、不利なのはこちらかもしれません」
ユウキの推測にサワムラーは険しい表情で頷く。
「なら、徹底的にやろうじゃないか。……その子の手持ちと戦術、教えてくれるかい?」
そんなユウキとサワムラーに道場主は声を掛ける。
「ありがとうございます。宜しくお願いします!」
こうして、ユウキとサワムラー、そしてその他のポケモン達は訓練に励む。次のバトルもまた勝利するため。
スミレ、スズキ、ホウセン、ユウキ。そしてあと4人。ジョウトには強者が、続々と集まって来ていた。
リアルめっちゃ忙しいタイミングなので、投稿は控えめになってます。すみません