ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
大会への出場が決まった。貰ったチラシによるとバトルは4人ずつ2リーグに分けての3対3による総当たり戦後、その中での順位でもうひとつのリーグの同順位トレーナーと6対6のフルバトルで戦い、最終的な順位を決定するようだ。本来ならトーナメントにした方が楽な筈なのにリーグ戦方式にしているというのは、経験不足であるスミレに対する配慮で経験を積む場としてくれているのは明らかであった。だからこそスミレは、貰ったチャンスは物にしなければと決意し、招待状を受け取った翌日に1人病院近くのコートに立っていた。ショウガは、相変わらずヒマワリから特訓を受けている。
「……まぁ、ひとまず私も鍛えないと」
大会までの時間は僅か、一分一秒でも特訓して勘を取り戻さなくてはならない。今回出場するのは、群れに戻っているニドキングを除いたカントー組全員である。ジョウト組は、実力不足のため当然見学だ。
(エリカさん、午後にはこっちにこれるっぽいからなぁ)
頼みの師匠も、決して暇ではない。ジョウト地方には今朝早くに到着したようだが、リーグとの情報共有やらで忙しく、スミレを鍛えるためにこちらへ来るのは早くても昼少し前くらいになる。だからそれまでに、なるべく強くなっておく必要があった。
「そうだね。……フシギバナ、バタフリー、ラプラス、フーディン、ゲンガー、カイリュー」
スミレは少し考える素振りを見せると、メインパーティの6体を呼び出す。そしてスミレは6体を見回して言った。
「メインのバトル訓練はエリカさんが来てから。とりあえずはみんなの戦闘の勘を取り戻す。……だから、貴方達6体はサファリゾーン組をそれぞれ相手して、あの子達の特訓相手になってあげて」
スミレ1人で多数のポケモンに指示するのは手が回らない。だからスミレは、この6体を教師役に据え、続いてサファリゾーン組のポケモン達を呼び出した。
「良い?貴方達はこの6体にそれぞれ向かっていって貰う。だから6グループに分かれて。そしてフシギバナ達は次のポケモンに行っていい時はどこに行けって指示を出して。出来ればサファリゾーン組には、6体全員を回って欲しい。……出来る?」
スミレの問いに全員が頷く。
「いいや、それでは些か非効率でしょうねぇ」
しかし背後からそんな声が掛かり、スミレはハッと驚いた様子で背後を見た。そこには、シルクハットにタキシード姿のピエロという如何にも怪しい男が立っていた。
「(気付かなかった……!)貴方は、リングさんですよね」
「えぇ、リーグ以来ですねぇスミレさん。ここを偶然通りがかったもので」
飄々として感情の読めないリングに、スミレは眉を顰める。
「……偶然。もしかして、貴方もスズキさんの大会に?」
「いえいえ。ですが、私は同時に行われるイベントの方に出番がありますねぇ」
「イベント?」
スミレが、知らない話に怪訝な表情を浮かべる。
「ええ。急遽決まったことでしてね。……スズキさん曰く、招待選手以外のトレーナーを鍛え、次世代の強者を育て上げるそうで。まぁ、十中八九サトシ君やシゲル君、ヒロシ君やヒマワリさんといった子達に経験を積ませる為の方便でしょうねぇ」
「サトシは出ないんですか?」
スミレは、首を傾げた。サトシの性格を考えれば、強者とバトルする機会を逃すはずがないからである。
「ええ。弱体化を理由に断られたそうでして。……本人は実に不満そうだったと聞きましたが」
「…………弱体化?」
リングから放たれたワードに、スミレは目を見開いた。
「ええ。まぁ、これもトレーナーには良くあることですねぇ。自分のスタイルを見直したり、育て慣れないポケモンや癖の強いポケモンを育てていたりすると、トレーナーの実力が驚く程落ちてしまうことがあるんですよねぇ。それこそリーグレベルのトレーナーが旅に出てすぐの新人に負けるなんてこともあり得るんですよ。そうなっている辺り彼はとても勤勉で良いトレーナーですねぇ、本人にとってはたまったものではないでしょうが」
「よくあるんですね。……知らなかったです」
「あるんですねぇ。まぁそのような訳でして、私は後進の育成に関わるのでそちらは不参加ですよ。そんな訳で直近でぶつかるライバルでもありませんしここで会ったのも何かの縁、私のポケモン相手にぶつかり稽古でも如何ですか?」
「お願いします」
ニコリと笑ったリングにスミレは頬を引き攣りながらも頷いた。なにはともあれ、リーグ上位の強者に揉んでもらえる機会だ。ぶつかり稽古とは先程スミレがやろうとしていた練習で、先生役のポケモンに生徒側のポケモンが順番に連続して勝負を挑み、ある程度で次に交代するというものである。
「それではショータイムです、行きなさい。バリヤード、フーディン、ルナトーン、カラマネロ、チャーレム、ネイティオ」
リングがボールを投げると、ポケモンを呼び出す。そのポケモン全てがエスパータイプを持っている。あくタイプ相手では無効化されてしまうというのにエスパータイプのみでパーティーを組み、尚且つそれでリーグ上位に食い込んでいる。凄まじい実力の表れであろう。
「凄いですね……相当強い」
「お褒めに預かり恐縮です。……それでは皆さま、お相手はスミレさんのポケモン達です。レベルは高く数も多い、けれどそれをいなせる実力があるとワタシ信じておりますのでねぇ。それでは、行ってきなさい!」
リングが号令を掛けると、リングのポケモン達はそれぞれ相手を見繕いバトルを仕掛けに向かった。彼らは初めにメインを頂く派らしく、バリヤードとフシギバナ、ネイティオとバタフリー、ルナトーンとラプラス、フーディンとフーディン、カラマネロとゲンガー、チャーレムとカイリューが戦闘を開始した。
「……あ、そういえば」
「おや?」
それを見ていたスミレは、あることを思いついた。
「リングさんって確か、エスパータイプがお得意でしたよね」
「ええ、その通りですが。……ふむ、育成のご相談ですかな?」
「はい。育て方、というかバトルスタイルで相談したいことがあるんです」
スミレは少し緊張した様子で切り出した。それに対してリングは、怪しげな笑顔を深める。
「聞きましょう」
即答したリングにスミレは胸を撫で下ろすと、相談を始めた。
「私の今の手持ちに、ネイティとホーホーがいるんです。どちらもひこうタイプやエスパータイプの技を多用するポケモンなので、どう役割を分担して差別化するかを考えてて……」
その質問にリングは、帽子のつばを軽く撫でた。
「んー、その問いに答えるのは至極簡単ですねぇ。ですが簡単に教えては貴女の学びとしてどうか。という訳で、質問をしましょう。ヨルノズクとネイティオ、ポケモンとしての特徴の違いはどのようなものがあるでしょう?」
その問題にスミレは、オーキド博士の研究所で読んだ本の内容を思い返した。
「ええと……ヨルノズクは森に住む夜行性で、暗闇を飛んで小さなポケモンを捕食する猛禽類。ネイティオは遺跡に暮らすポケモンで、敵が迫った時は周囲にテレパシーを送り、指揮を執るようなポケモンです」
「その通り。それが書いてあるのは『ジョウト地方におけるポケモンの生息状況と生態』、ジョウトにおけるポケモン研究の先駆けのようなものですねぇ。なかなか渋いものを読んでおられる」
「オーキド博士の研究所にはいろんな本があるので……」
スミレがそう返すと、リングは納得した様子で頷いた。
「成程成程、確かにそれならあってもおかしくはありませんねぇ。それでは、続いて。ワタシは資格を持っていますので新人トレーナーに初めてのポケモンを渡すことがあるのですが、その際は必ずホーホーをプレゼントしています。それはヨルノズクの特徴に由来するのですが、それはなんだと思いますか?」
続く質問に、スミレは先程よりも頭を悩ませる。
「……ええと、頭が良いとか夜目が効くとかですか?」
その答えにリングは、首を横に振った。
「一部正解、ですが足りませんねぇ」
「……そうですか。むむむ」
悔しげに唸るスミレに、リングはクスクスと笑い声を溢す。
「いいですよぉ、どんどん悩んで下さい。降参の時はいつでも回答しますからねぇ」
「…………音波、とか?」
「正解、ですがまだ足りません」
続く答えにリングはまたも不正解と答え、スミレは答えに窮した。
「すみません、降参です」
そう言って両手を挙げたスミレに、リングは頷く。
「いい線は行っていましたが、惜しかったですねぇ。……正解は、環境への適応能力です。貴女が仰るようにヨルノズクは夜目が効くため野宿をする際の夜警に最適、かつ音波で敵を探るので索敵による奇襲への警戒が可能です。更に猛禽特有の闘争心とずば抜けた頭脳を持つため正面戦闘や頭脳プレー、音もなく飛べるので奇襲攻撃も熟せ、森を主な生息地とし空中を舞うため閉所や足場の悪い場所での戦闘が可能です。つまりヨルノズクというポケモンは、どのような環境でも敵を迎え撃て、トレーナーの死亡率を引き下げられる優秀なポケモンなのです。……そんなヨルノズクを最大に活かそうとするなら、相手をどうにかするよりも己の動きを磨くことがより強くなる一歩ではないでしょうか?ヨルノズクはエスパータイプではなく、エスパー技も使えるノーマル、ひこうタイプなのですから。獰猛な鳥には、特殊な能力よりも鍛えられた翼を与えた方が輝けると思いますねぇ」
「己を磨く……。ということは、補助技は入れてもひと枠程度に抑えて、ひとつは決め技に【ブレイブバード】や【ゴッドバード】、残り2つは自由枠って感じでやると良さそうですね。どちらかといえば攻撃型の編成で、それを特殊技や補助技でサポートする」
「良い考え方ですねぇ。ですが、その場合【エコーボイス】は外した方が宜しいかと思いますよ」
スミレは、リングの意見に思い当たる点があったのか、苦笑いを浮かべる。
「……手札が縛られるってことですか?」
「ええ。連発して威力が上がる技は、決まれば強力ですが一々続けるか途切れさせるかの選択肢を強いてきますから。別に切り札がある状態でそういう技を入れてしまうと指示を考えるたびにどこで止めるかで迷いが生じます。ほんの一瞬の迷いが何度も訪れるというのは、トレーナーの足を引っ張る悪手といえるでしょう。まあ、その表情を見るに分かりきっているようですがね」
答えるリングに、スミレはホーホーの現状を思い返した。現状のホーホーにとって、【エコーボイス】は切り札だ。しかし【ねんりき】を隠す手段としても使っているため、【ねんりき】を使えば威力上昇は途切れてしまうのである。
「(良い技が来たら変える、辺りは検討が必要だよね……)それで、ネイティオはどうですか?」
視線を向ければリングのポケモン相手にいいようにやられている自分のポケモンが映るが、今はそれから目を逸らして尋ねる。
「ネイティオは全体的な能力値ではヨルノズクに勝りますが、ヨルノズクよりも動きが大雑把です。そして何よりも、特殊技や変化技を得意としています。いわば、ひこうタイプも保持しているエスパータイプなのですよ」
「つまり、補助技と特殊技をメインで組めば……」
「ええ。よりネイティオに合わせた戦術が出来、ホーホーとネイティの差別化も進みますよ。ヨルノズクが攻撃型、ネイティオがバランス型といった風にね」
「成程。私も知識は自信があったのですが、まだまだですね」
「まぁ、それはまた経験ですよ。ワタシも大人ですから、人生長く生きた分だけ色んな学習をしていますからね」
リングは、そう言うと得意げに胸を張った。
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「お待たせ致しました。お預かりしたポケモンは、みんな元気になりましたよ!」
笑顔のジョーイから大量のモンスターボールを受け取ると、スミレはメインの6体を腰に付け、他はバッグに放り込む。リングのポケモンと特訓してボロボロになったスミレのポケモン達を回復するために、ポケモンセンターに来ていたのである。
「すみません、お待たせしました」
それが終わると、待合室で待っていたリングに声を掛けた。
「ええ、大丈夫ですよ。それよりも後でフシギバナとバリヤードでバトルしませんか?」
「?……是非」
リングからの誘いに困惑しつつも、スミレは了承する。それにリングは嬉しそうに頷くが、そこに声がかかった。
「せっかくバトルするなら、審判が必要ではありませんか?」
届いた声に2人が振り返ると、そこには和服に身を包んだ少女が立っていた。カントー地方ジムリーダーにしてスミレの師匠、エリカである。
「エリカさん」
スミレの声が、僅かに上擦った。
「……貴方は、スミレさんの改善点を教える上でいい対戦相手になると思っておりました。それがこんな機会でやれるとは渡りに船、是非とも一戦やってやってくださいませ」
「貴女が師匠ですか、道理で強い訳です。……改善点については理解しておりますのでねぇ。是非ともやらせて頂きますよ」
エリカに頼まれ、リングは恭しく頷いた。
「あの、エリカさん……」
エリカに歩み寄ったスミレに、エリカは笑って掌を向け制止した。
「まぁまぁ、再会の挨拶はまた後で幾らでも出来ますから。……今はやれることをやりましょう。ね?」
「はい」
エリカに頭を撫でられ、スミレはやや薄めの笑みを浮かべた表情を引き締めた。3人は使っていたコートに戻ると、両者はボールを構える。
「行って、フシギバナ!」
「ショータイムですよ、バリヤード」
フシギバナとバリヤードが飛び出し、睨み合う。
「バトル、開始!」
そして、バトルが始まった。