ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第193話 あえて、壁を越えずに

「フシギバナ、【つるのムチ】」

先制攻撃は、スミレのフシギバナであった。フシギバナの背中から蔓が勢いよく伸び、バリヤードに迫る。

「いいですねぇ。【サイコキネシス】」

それに対してバリヤードは【サイコキネシス】を発動、【つるのムチ】を綺麗に結んだ挙句空中で止めてしまう。

「……!切り離して、【じしん】」

それを見たスミレは眉を顰めるが、すぐに蔓を引き離して【じしん】を発動、激しい振動がバリヤードに迫る。

「【まねっこ】」

しかしバリヤードは【まねっこ】で【つるのムチ】を真似、フシギバナの背中に蔓を巻きつけ飛び上がることで攻撃を回避する。

「……でもっ、空中なら。【はなびらのまい】」

空中に舞い上がったバリヤードにフシギバナは切り札、【はなびらのまい】を放つ。

「クククククッ……!」

しかしそれを見たリングは、余裕の笑みを浮かべた。

「何を……!?」

スミレは言いかけるが、すぐに思い出した。カントーリーグでリングが行っていた、理解不能な芸当を。

「【サイドチェンジ】」

バリヤードが手を合わせ叩いた瞬間、フシギバナの目の前に展開されていた花弁の暴風が、砂嵐に変わる。そしてもう一度手を叩くと、砂嵐は柔らかい風と入れ替わりバリヤードを撫でる。その光景にフシギバナとスミレが呆気に取られるのも束の間、足元から飛んできた【はなびらのまい】が、フシギバナを襲った。

「バナァァァァ!?」

「フシギバナッ……!」

苦しむフシギバナに、スミレの心に焦りが宿る。

(情報で知っていても、どう来るかで頭が混乱する……。あれを攻略しないと不味い……!)

「次ですよ、【マジカルフレイム】」

対抗策を考えるが、その前に【マジカルフレイム】が着弾。大きな爆発を起こす。

「くっ……!【ギガドレイン】」

「【マジカルフレイム】で焼き払いなさい。続いてもう一度」

フシギバナが【ギガドレイン】を放つが、【マジカルフレイム】で焼き尽くされる。そしてバリヤードが再び手を叩き。

「……あっ」

フシギバナが対面に立っている。バリヤードが自身に背中を向けている。位置を変えられた。それを理解するのに、その一瞬はあまりに大きな隙だった。

「【マジカルフレイム】」

激しい炎がフシギバナを包み、爆発。フシギバナは大きなダメージに呻き声を漏らす。効果抜群の技に焼かれたフシギバナは、体中に傷を負いながらもバリヤードを睨んだ。

「くっ、【じし……」

「【サイドチェンジ】」

(入れ替わった……ということは次は)

バリヤードが手を叩き、フシギバナとバリヤードが本来の立ち位置に戻される。それをスミレは認識して指示を変えようと思考し。

「【マジカルフレイム】」

フシギバナが【マジカルフレイム】によって焼かれ、目を回し倒れた。

「…………あ」

スミレの表情が凍りつく。

「フシギバナ戦闘不能、バリヤードの勝ち。よって勝者はリングさんです」

エリカの宣告が下り、スミレは思わず膝をつく。この戦いの結末は、あまりにも一方的な敗北だった。その事実が、スミレに重くのし掛かる。

「……こ、こんな一方的に」

思わず震える声に、真っ暗になりそうな視界。だがその肩に、温かい手が乗せられる。

「スミレさん。まずはポケモンセンターに参りましょう。……これは練習です、これからリングさんも交えて講評しますから。強くなりたければ、今は一旦歩きましょうか」

「…………はい」

◾️◾️◾️◾️

「さて、何が悪かったのか教えていきましょうか」

ポケモンセンターのカフェスペースで、3人は話し始めた。因みに飲み物はリングがブラックコーヒー、エリカはハーブティー、スミレは紅茶である。

「……お願いします」

スミレは、少し落ち込んだ様子で返す。

「まず、そもそもの地力。地力があれば、そう簡単に技の支配権を奪われることはありませんでした。これは経験を積むだけでなんとかなります。それと、スミレさんの場合は相手の情報を学習するタイプなので初見殺しに滅法弱いこと。更に、想定を超えた戦術を使われると相応に判断力と対応力を削られ、思考が追いつかなくなること。そして何より、相手のリズムを崩すことが得意でも、自分がそのリズムが崩されると一気に崩壊してしまう不安定さ。相手にペースを握られたまま挽回できずに敗北。身に覚えはあるでしょう?」

「ユウキさんに、負けた時のバトルですね」

エリカに問われ、スミレは悔しげに頷いた。その様子にエリカは、苦い表情で顔を逸らす。

「……私としては、これを本格的に改善させるならジョウトの旅が終わるくらいまでは待つつもりだったんです」

「?……何故ですか?」

エリカの言葉に、スミレは思わず眉を顰めた。改善点があるなら、すぐに直すべきだと思うからである。

「そもそも、そこらのトレーナーではペースを奪えないくらいには貴女は強いんですし挽回も出来るんです。だから、そこからの発展はゆっくり、そしてしっかり積み上げて行ってもいいかなと。そしてそれ以上に、ペースを握られてからの挽回ってメンタルがかなり重要でして……」

そこで、エリカが顔を逸らした理由に納得がいった。

「あー……」

スミレも自覚があるのか、思わず言葉を濁す。

「大幅にマシにはなったと思いますよ?表情も明らかに明るくなりましたし、周りも出会った時以上に見えるようになってますし、前よりもずっと人やポケモンに優しくなりました。……でも、それは元が悪すぎるからってだけで、今の貴女もメンタルは十分に良くないです。人並みを遥かに超えて病んでることには変わらないですから、そこで強いメンタルが要求される課題を課すと、貴女を余計に追い込んでしまいかねないんですよね」

「……でも、ワタシが丁度いい練習相手だったので、この機会にしようと思ったと。随分と間が悪かったようですねぇ」

悩ましげなエリカに、リングはそう言って肩をすくめる。

「いえ、いつかはぶつかる問題だったので……。むしろ彼女のステップアップの為には恐れずにこうすることも必要だったかもしれません。リングさんは相手の意表を突くことに長けたエンターテイナー。スミレさんの弱点を最短で突ける人材なので、いずれは必ずバトルし叩きのめされるべき相手でした。……まぁいいです。私がいっそやってしまえと決行したのは、問題を改善させる為ではなく、問題だと自覚させる為のものです。改善自体は、ゆっくりやってよろしい。どうせ1年をループし続けるなら、どれだけ掛かったっていいんです。ゆっくりでも早くても、この問題を自覚して向き合おうとすることが大切だと思います。……他の3人にも言えることなんですが、劣勢からの挽回なんて本当は中級者になってから教えるものなんです。旅に出て1年くらいのトレーナーが、ようやくぶつかる壁なんですよ。けれど貴女は碌な壁にぶつからずに中級者の領域を通り過ぎてしまったので、きちんと努力と経験を積ませてやれなかった。その状況で今壁にぶつかってしまったからこそ大きなミスのように感じられるだけであって、きちんと経験を積んでいけば問題なく改善可能です。と、言うわけで貴女は今すぐ壁を越えようとはしないで下さい。まずは壁を見据え、自分を見据えることがスタートラインですからね」

「…………はい」

スミレは、悔しげな様子ながらも頷いた。メンタル面は、スミレにとって大きな課題だ。例えば、発作はよほどマシにはなったがブーバーを直接見るとまだ思考が鈍るし、【かえんほうしゃ】は他のポケモンでも使えない。それ以外にも問題は山積み、あまりにも未熟だとスミレは思う。

「まぁ、あまり思い悩むことでもありませんねぇ。……先程のバトル、【はなびらのまい】を途中で中断していましたから。【スキルキャンセル】、確かに【はなびらのまい】にてエリカさんの十八番、千刃花を行う為には有効なスキルですねぇ」

しかし、リングの言葉に呆気に取られた。確かにそれは、カントーの旅が終わった後タマムシジムに入り浸って練習していたものだ。【スキルキャンセル】、連続発動の技を途中で中断し【はなびらのまい】でいう混乱のような反動を軽減するスキル。結局、練習では完成しなかったものだが、リングとのバトルを思い返せばほぼ無意識に指示を出し、成功させている。

「そういえば……。私、無意識でした」

スミレが驚いた様子でエリカに視線を向けると、エリカは自分の成果に目を丸くするスミレに微笑みを浮かべた。

「成程。では、意識してできたらより良いですが良い傾向ですよ。……まぁ師匠としてリングさんの言葉に続けさせてもらうと、貴女は努力を積むことができ、それを実らせる能力のある人です。それは信用だけではなく、客観的な事実でもあります。だから、今言った課題も、いつかは出来るようになると思います。だから今は、無理に改善しようとはしないでください。私がいくらでも付き合いますから、着実に成果を積み上げていきましょうね」

「…………はい」

そう言ってエリカは、スミレの頭を撫でる。少し照れた様子で俯いたスミレに、エリカはリングと顔を見合わせ笑い合った。

「ああ、それと」

しかしエリカは、何かを思い出したように真顔になる。

「?どうしましたか?」

目を瞬かせるスミレに対して、エリカは病院のある方角に視線を向けた。

「貴女の旅仲間に挨拶と、少しばかりお礼をしたいんですが」

◾️◾️◾️◾️

「成程。キクコが出てきたか」

カントー地方のとあるビルで、サカキは下っ端から報告を受けていた。

「ハッ!おまけにスミレや竜胆組が出てきたようで、ランス様は援軍を求めておられます」

下っ端の言葉にサカキはすぐに頷く。

「よろしい。竜胆組の娘に手を出すのはいずれやっていたことだ、事故とはいえ咎めはすまい。そしてキクコ、奴はどうしてる?」

サカキの言葉に下っ端は胸を撫で下ろしつつ、胸元から資料を取り出す。

「ハッ、ヒワダタウンを離れて警官隊の鍛錬に当たっています」

「ふむ。警官隊……ということは、大規模な作戦行動は想定されていると見てよいな。では、スミレはどうしてる」

「ヒワダタウンでポケモンの鍛錬に励んでおります。……どうやら、井戸の団員を倒した坊主の旅仲間らしくそいつが怪我をしたため立ち往生をしているようです。また、スズキがコガネシティで招待制の大会を開くらしく、それに向けてのものかと」

「ほう。では、同時に講習会でもやるのではないか?」

「仰る通りでございます」

下っ端は、サカキの予測に頭を深々と下げ感服の意を示す。それを聞いたサカキは、愉快そうに卓上のワイングラスを手に取ると、血のように赤いワインを口に含んだ。

「ならばそれは、我々への牽制……と共に、若きトレーナーを育てるつもりだな。流石にスズキ、一筋縄ではいかん奴よ。だからこそ面白いというものだが」

「どのようになされますか?」

「……ラムダには本部防衛を命じ、隊員50名を付ける。それ以外の戦闘員は、総員出陣用意」

「では……!」

「ランスにはこう伝えろ。『心配するな。私が出る』とな」

「ハッッ!!!!」

興奮気味に出ていく下っ端を見送ると、サカキは手元のボールを転がす。

(さて。……役者を揃えてやろうか)

顔に浮かべる笑みからは、絶対的な自信と邪悪が滲み出ていた。

 

 

「はーい!」

突然の来客に声を張り上げ、モモカがドアへ向かう足音を聞きながら、トウリはパソコンに向かっていた。貿易関係の仕事に就いているトウリであるが、スミレの一件が社内で知られた現在は家族と向き合えというイッシュ本社からの命令で在宅勤務となっている。簡潔に言えば、一時的な左遷という奴だ。とはいえ肝心のスミレはジョウトへ旅立っていて家には居らず、カントー地方に居ても自宅は居心地が悪いのかオーキド研究所かタマムシジムに居て殆ど顔を合わせないので向き合うことは中々難しかったりする。

「……ん?」

トウリは仕事をしながら、ふと視界の端にあるボールが激しく揺れているのを見て首を傾げた。自室にあるボール6個は、全てトウリが現役トレーナー時代に使役していたポケモン達だ。超人よりも体がずっと弱いスミレが生まれてからは、特に娘の前でボールからポケモン達を出したことはない。しかしそんなボールが震えていて、トウリは思わずボールに手を掛ける。瞬間。

「……貴方ッッ!!」

モモカの叫び声が聞こえ、トウリは慌ててボールを引っ掴むと自室を飛び出す。そして玄関に視線を送ると、そこには怯えた表情で後退りをするモモカ、そして玄関口に立つ黒いスーツ、黒い帽子、そして胸に『R』の文字のバッジを付けた中年の男が立っていた。その男の名を知らないカントー人がいる筈もない。

「お前は……サカキ!」

トウリは、震える指で男を指して呟いた。

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