ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

194 / 220
第194話 サカキ、襲来

 サカキは、トウリの警戒するような視線とモモカの怯えた視線に突き刺されながらも、スミレの生家を見渡す。

「ふむ。随分と整った自宅だな。スミレのあの面にしては、まとも寄りの家庭らしい」

サカキの言葉にモモカは酸欠になった魚のように口をパクパクと開き、トウリはボールに手を掛ける。

「……お前がスミレの何を知っている」

「むしろ知らないのかね?貴様の娘は、ジム戦用の手持ちとはいえフルパーティーの私を真っ向から倒したトレーナーだよ。なんだ、そんなにも信用がされていないのか」

トウリの警戒にサカキは嘲笑を浮かべる。どうやら、この夫婦はスミレがどのような旅をしてきたのかを碌に知らないらしい。

「スミレが前線で戦っているのは本人から聞いてるよ。……だがそこまでとは。いいや、今はそれどころじゃない。お前はここへ何しに来た?スミレを見て、僕達に人質の価値を見出した訳でもあるまい」

「言っていて空しくならんかね?自分に人質としての価値がないとは」

「なるさ。だが、これは僕らが生涯背負う業だ」

サカキの挑発にも、トウリは平然を装いつつも返答する。だが、サカキの返答は大笑いだった。

「はっはっは、貴様らはやはり何も分かっておらんらしい」

「……なんだと?」

「奴は助けるさ。貴様らだろうとな。……確かに奴が貴様らに思う所があるのは変わらんだろう。だが、奴は過去全てを背負ってなお世界を守る道を選んだ戦士よ。だからこそ私は決して交わらぬ敵と認めたのだ。

貴様らがどれだけ娘に恨まれているかは知らんが、それで貴様らを見捨てるような意思薄弱な女であるなら、あの時の時点で私に殺されている筈だ。随分と罪悪感を持っているようだが、随分と目が曇っているぞ?それで娘の顔は、ちゃんと見えるのか?」

「随分とスミレを高く買っているようだな。……指摘については、お前が帰ってからしっかり考えさせて貰うよ」

「ふん。私は意思を貫く者には敬意を払う。それがスミレでなくとも変わらんさ」

トウリはモモカに目配せをしながら一歩前に出ると、モモカはそそくさと奥へ走り出す。それをサカキは態とらしく見逃した。

「……お前がスミレのことをどう思ってるかは分かった。それで?その戦士の親を人質に取るつもりか?あまりにも恥知らずとは思わんかね」

「恥知らずは、愛娘への無知を晒したお前達自身だろう。……人質については私は奴にそれなりの敬意を払う一個人だが、同時にロケット団という群を統べるボスでもあるのでな。スミレは我らの邪魔をしすぎた。故に、恥知らずと罵られようとも、群の為に動くべき時だと私は判断したのだ。……むしろ、無駄な意地でスミレを野放しにしたならば、奴は必ず我らの邪魔をする。それで戦力が削られてしまえば、私は私を慕う部下に合わせる顔がない」

トウリの挑発に、サカキは堂々と胸を張る。トウリは説得が無意味だと悟ると、ボールを構えた。

「なら、これはどうだ!……ピジョット!!」

「ニドキング、制圧。【かみなりパンチ】」

トウリが投げたボールからはピジョットが飛び出しサカキに躍り掛かるが、サカキのボールから飛び出したニドキングが攻撃を防ぐ。そして反撃の【かみなりパンチ】でピジョットをフローリングに叩きつけ、ピジョットはその一撃で目を回す。

「なっ……!効果抜群とはいえ、一撃だと……!?」

「実力差も測れず、このような閉所でピジョットを出し、更にピジョットは前線を離れて久しい。かつての強者も、色恋に溺れて腐れ果てたか。……腑抜けめが」

驚愕に目を見開くトウリとは反対に、サカキはつまらなそうな表情で大きな溜め息を吐いた。

「ぐっ…………、戻れピジョット」

悔しげにピジョットをボールに戻すトウリに、サカキは不機嫌そうに歩み寄る。

「さて、答えはどうする?」

「……断ると言ったら?」

「そうか。着いてこなければ貴様らの体と娘の体をこうするだけだ。……やれ」

そう言って指を鳴らす。瞬間、激しい閃光が迸り部屋の一部が吹き飛んだ。

「モモカ!!!!」

トウリが鬼気迫る表情で叫ぶ。吹き飛んだ部屋の辺りには、モモカが通報の為行っていた筈だ。トウリは目の前に立っているサカキなど眼中から放り出して、吹き飛んだ部屋へと向かう。

「……あ、貴方」

しかし殺されたのではないか、というトウリの不安を吹き飛ばすようにモモカのか細い声が聞こえた。どうやら、部屋を吹き飛ばした閃光はモモカの真横を貫いていったらしい。視線を外へ向ければ、サカキの手持ちと思わしきサイドンが、数人の下っ端と共に立っていた。トウリは、泣きそうな顔でへたり込む。

「さあ、どうする?」

ゴクリ、とトウリの喉が鳴る。全身から汗が噴き出て、涙が出そうになる。たった10歳の自分の娘が、こんな怪物に真っ向から立ち向かったというのか。震える頭を、縦に振りそうになったその時。

 

「その必要はない」

 

知っている声に、震えが止まった。サカキは、驚いたような表情で振り返る。

 

「ハンサム殿から頼まれ警戒していたが。……遅れてすまない」

 

そこに居たのは、上半身は何も着ずに筋肉を露わにし、下には空手らしき道着を身に纏った偉丈夫だ。ポケモン空手を身に付けた、生身では人類最強とも言われる男。そして、カントーリーグ及びジョウトリーグ四天王の一角。

 

「もう大丈夫、俺が来た」

格闘使いのシバが、サカキの前に立ち塞がった。

 

「シバか。貴様は2日前、ジョウトでハンター組織の殲滅を行っていたのではなかったか?」

「その通りだ。そして、その足でカントーへと戻ってきた。お前達への警戒の為にな」

サカキが呆れた表情で尋ねると、シバはなんでもないように答えた。因みに『その足で』と言っているが、交通手段は文字通り徒歩。カントーとジョウトが繋がっているとはいえ、流石に馬鹿の所業である。

「随分とよく働く男だ。……私の狙いは、分かっていたのか?」

「いいや。だが、警察による想定の内にお前がスミレ殿の親を狙うことはあったのだ。だから、モモカ殿の通報ですぐに駆けつけられたのだ」

「フン……流石に有能だな。それでこそ侵略のしがいがある。しかしこの展開は流石に面倒だ。私はそこのカス共を連れていければ良かったが、シバの相手もしなければならないとなれば話は変わる」

シバの答えにサカキは笑うが、すぐに険しい表情を浮かべて周囲を見渡す。周囲にはまだ敵の姿は見えていない。精々、破壊の音で驚き出てきた地元住民くらいなものだ。しかし、それはシバのスピードに着いてこれなかっただけの話。後から続々と到着するに違いない。

「ご夫婦を人質に取ろうというなら容赦はしないぞ。……これは試合ではないのでな、俺自身を手を出させて貰う」

そう言って構えを取るシバに、サカキは鋭い視線を向ける。シバという男は、少なくとも先程倒したピジョットよりは強い。

「試してみるか。……ニドキング、【かみなりパンチ】!」

「ウー!ハーッ!!」

ニドキングが拳から雷光を迸らせ殴りかかるが、シバはその一撃を屈んで躱すと反撃の正拳突きをニドキングの腹に叩き込んだ。ニドキングは僅かに表情を歪める。そこに追撃の蹴りを放ち、反動で背後へ跳んだシバは、腰からモンスターボールを投げる。

「ボンッ!」

そして飛び出したのはニョロボン。ニョロボンは登場すると即座に【ハイドロポンプ】を発動、ニドキングを吹き飛ばした。それを見たサカキは、不機嫌そうに眉を顰める。

「流石に強いな。無傷で勝つのは不可能か」

「当然だ。若き世代が育つ今、それを守る我々もまた成長せねばならん。今の俺は、1秒前の俺よりもずっと強いぞ」

シバはそう言ってボールを手に取る。他の5つよりも薄汚れたそのボールの中身は、サカキが推察するにシバの相棒であるカイリキー。少なくとも、サイドン以外での勝利は難しいだろうし、サイドンで倒した所で激しく消耗するのは目に見えている。当然、リーグ戦力が全速力で向かっているだろうから、長期戦は分が悪い。サカキは潮時を悟ると、大きくため息を吐いた。

「チッ。……まぁ良い、ここは人質も諦め大人しく退いてやる。だがトウリ。そしてモモカ、よく聞け。私が放たせたその閃光がスミレを焼くことは、決して脅しではない。奴が我らを邪魔する限り、いつでも起こりうる事象だと記憶しておくと良い。我らはスミレの居るジョウトへと本格的に侵攻する。その時が来るのを、指を咥えて眺めているがいい」

そう吐き捨てるとニドキングとサイドンをボールに戻し、シバに背を向ける。すると下っ端がボールを投げてピジョットを呼び出すと、その背中に乗り込み、ひこうポケモンに乗った下っ端複数人と共に、空へと消えていった。

 

◾️◾️◾️◾️

 ひんやり、とした感触が全身に伝わる。そう感じるのは単に、汗だくになり上半身裸で地面に寝転がっているからである。ショウガとヒマワリの特訓は、非常に厳しいものであった。ヒマワリは座学が苦手で仲間が傷つけば動揺してしまう、いかにも戦闘向きではない性質を持つが、その部分を行動力とそこから積み上げた努力や経験で埋めているトレーナーだ。そんなヒマワリの特訓となると理論など知ったことかと言わんばかりに実践続き。純粋なポケモンバトルからショウガの肉体強化までを、ギッシリに詰め込んでいた。その結果、オドシシは一時休息のためポケモンセンターで回復させている。それ程にショウガ達は消耗していた。

「……だが、違う」

ショウガは、自身の掌を見つめる。ショウガは超人、根本的に人よりも強い。だからこそ、並のトレーニングでは鍛えたという実感が起こらない。しかしこの特訓は、普通にトレーニングするよりもずっと為になるものだと感じとっていた。まぁ、後にも先にも飛ぶピジョットの上で逆立ちをさせたりラフレシアの花粉を蹴りで吹き飛ばさせたりといった修行を満面の笑顔で課してくる師匠もそうそういないだろうが。そのヒマワリは現在、自身のポケモン達を預けに行っている。この後は、休息を挟みつつ考えるらしい。

「随分とお疲れの所、失礼しますよ」

達成感に浸っていた所に、ショウガの知らぬ声が掛かった。ショウガが視線を向けると、和服を身に纏い穏やかな表情を浮かべる美少女が立っている。その顔に、ショウガは見覚えがあった。

「……貴女は、タマムシジムジムリーダーの」

「ええ、エリカです。そして、スミレさんの師匠でもあります」

タマムシジムのジムリーダー、エリカ。ショウガは名前と顔しか知らないが、くさポケモンのエキスパートだと聞いている。しかし、続いたスミレの師匠という単語に、思わず体を勢いよく起こした。

「スミレの師匠……!?それは、スミレさんにはいつもお世話になっております」

地面に正座し、深々と頭を下げるショウガに、エリカは気まずげに笑う。

「いえ、こちらこそお世話になっております」

そう言うと、手にモンスターボールを持ち投げる。すると、中からはショウガのオドシシが飛び出した。

「オドシシ!?……なるほど、回収して頂いたとは。ありがとうございます」

「いえいえ」

そこまで笑顔で言った瞬間、エリカはショウガに顔を至近距離まで近づけた。その顔は無表情で目を見開き、額には青筋を浮かべている。

「……エリカ殿?」

「これだけ、ですか?」

ショウガの戸惑いの声に応えず、エリカは声に圧を込めて尋ねた。

「は、はい……?」

「貴方の手持ちは、これだけですか?」

ショウガは、やっとのことで状況を呑み込むと、恐る恐る頷いた。

「ええ。後は、ギバラ殿に貰ったタマゴが御座います。しかし手持ちは、現状オドシシのみになります」

「……へぇ。それではいそうですか、と行くと思います?」

エリカの言いたいことを察したショウガは苦い表情を浮かべる。その件に関しては、ショウガとしても問題視していることであった。

「申し訳ありません」

ショウガが深々と頭を下げると、エリカは額の青筋を一本増やした。

「成程、分かっていながら何ら対策を施さなかったと。……貴方は何故トレーナーが複数手持ちポケモンを連れるのか分かっていますか?」

「はい。ポケモンは強くとも生物、いくら実力差がある相手でも沢山戦っていればその分消耗するからです」

「その通り。……では、その舐め腐った手持ちはどうですか?スミレさんから聞いた限りだと、そのオドシシは特殊な血筋だと。そんな盗られたら困るポケモン、しかも場合によっては進化しかねないポケモンを馬鹿みたいに前に出すとは、敵に狙ってくれと言っているようなものではありませんか。そういうポケモンを前に出すならば、せめてバッジ8個目のジムリーダーが使う切り札と互角にやり合える程度は必要です。ですが貴方にそれだけの力はないし、手持ちを隠そうという警戒心もない。強くなる方向へ行こうとしても、力不足の現状からは抜け出せていないから所詮は雑魚が粋がっているだけです」

「……返す言葉もありません」

エリカの罵倒にショウガは何も言い返せず、ただ頭を下げ続ける。

「貴方が真っ先にすべきなのは、オドシシのレベルを上げるだけでなく並行して手持ちポケモンを増やすことだった。オドシシの攻撃が通用しない相手に対する有効打を持っておくべきだった。オドシシが狙われるような個体ならば、己を鍛えるよりも先に相棒に偽装できるような手持ちを持っておくべきだった。ヒマワリさんの特訓は己の戦闘力向上やオドシシの立ち回り強化、といった面では有効でしょう。けれど、根本的な戦力不足に対応できるものではありません。その状況で戦場に出てみなさい、下っ端の2、3人は倒せてもすぐに数で押し潰されてしまいあっという間にその相棒を奪われて終わりますよ」

「確かにその通りです。私の考えが甘うございました」

平謝りのショウガを見下ろしながら、エリカはため息を吐いた。自覚はある、守られてばかりはいけないという向上心もあれば、現状を良しとしないだけ恥も知っている。チラリとオドシシに視線を送れば、悔しげな表情でショウガを見ていた。どうやら、信頼関係はできているらしい。

「でしたら、良い試練があります」

「……?」

エリカがそう切り出すと、ショウガが不思議そうな顔で顔を上げた。

「貴方達が次に向かうのは、大会の会場があるコガネシティになるでしょう。しかしその為にはウバメの森という深い森を抜けねばなりません。……ところがここ数日、森の出口付近にとある野生ポケモンが出現しまして。それが強力な上にバトル好きの暴れん坊で、トレーナー達が困っていると報告を受けました」

これに関してはなんのでっち上げでもなく偶々だ。スミレがハンターと戦ったという場所からは離れているからスミレと出会わなかったのだが、出会っていたのならスミレは間違いなく戦力に加えただろうという確信がエリカにはある。それだけ強い個体が、どういう訳かコガネシティに繋がる出口付近に陣取り、トレーナー相手に力比べをしているというのである。

「それを倒せと?」

「いいえ、捕まえなさい。……無論スミレさんの力はひとつも借りず、己の武力を使わず、ただポケモンバトルによって屈服させなさい。それが出来れば、貴方は強力な手札を手に入れることができる。これからの戦いが、少しばかりはマシになるでしょう。無論、この話は既にスミレさんには通しています。良かったですね、あの子は貴方を強くする為の寄り道をしてくれるそうです」

「分かりました、挽回の機会を頂きありがとうございます。必ず、その任務果たして見せます!」

ショウガは、己に気合を入れて深々と頭を下げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。