ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第197話 潰し屋ミルタンク

 コガネシティに入ると、スミレはまずポケモンセンターに向かった。そこではショウガがオドシシとヘラクロスを預けているだろうし、何よりもコガネジムへの挑戦受付が出来る。

「という訳で、ジムへの挑戦は明日の午前9時からになりますがよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

ジョーイからの質問にスミレは頷き、手続きを済ませる。流石に今日の挑戦は無理だったのだが、翌日の朝イチは確保できた。ここで手早く挑戦を終わらせ、後は大会に向けての調整をしようと脳内で計画を立てる。

「明日の挑戦か。今日はどうする?調整でもするのか?」

「そうするよ。次はジョウトのジムでも屈指のトラウマ製造機って聞くし」

「かの有名なミルタンクか。しかし、ホーホーやネイティは制空権を持っている。そしてイワークは純粋に硬い。そして何より、君はバトルが上手い。……だから、あまり気負いすぎないようにな」

どこか不安そうなスミレに、ショウガは穏やかに言葉を掛ける。

「ありがと」

対するスミレは一言返し表情を緩めるが、その脳裏にはどうにも振り払えない嫌な予感がこびりついていた。

◾️◾️◾️◾️

 コガネジムはノーマルタイプのジムということもあり、特に工夫が凝らされている訳でもないシンプルな作りの道をぐるぐると進んでいくタイプのジムだ。ショウガは挑戦者ではないため迷路が見える上からの観戦、よって迷路にはスミレ1人で挑むことになる。

「頑張ってこい」

「……うん」

上から手を振るショウガの励ましに小さく頷くと、スミレは道を進み始めた。視線の先にはバトルコートが置かれ、ジムトレーナーと思わしき成人女性が立っている。リーグの設定で言えば、『大人のお姉さん』という奴か。なんだその名称とは思ってはいけない。その女性が立つ場所に赴けば、バトルは始まる。

「さて、来てくれてありがとねチャレンジャーさん。私はアケミ、最初の門番にしてジムトレーナー。貴女のような子供相手でも、簡単に負けてやらないからね」

「……そうですか。アッサリ負けないでくださいね」

大人の余裕という奴なのか、笑みを浮かべるアケミにスミレはため息を吐くとボールを構えた。

「あら、クールな見た目に違わず辛辣ね。じゃあ、無駄話はこれくらいにして……オタチ!」

「仕事だよ、イワーク」

「イワァァァァァック!!!!」

アケミが繰り出したオタチは身軽に着地したのに対して、スミレのイワークは凄まじい咆哮と土煙を上げながら着地。オタチはプレッシャーを感じたのか、毛を逆立てる。

「成程、私のオタチを萎縮させようと。……そうは行かないわ、【たいあたり】」

「潰せ、【がんせきふうじ】」

【たいあたり】を発動し駆け出したオタチであったが、【がんせきふうじ】が殺到して弾き飛ばし、オタチの小さな体が宙を舞う。

「オタチ!?」

「はぁ……【ずつき】」

そして宙を舞って無防備なオタチにイワークが【ずつき】を決め、そのまま長い体を唸らせ地面に己の顔面諸共オタチを地面に叩きつけた。この威力には参ったようで、オタチはたった2撃で目を回す。

「なっ……、この子、強い!」

「小手調べをいなした程度です。次」

驚くアケミにスミレはつまらなそうに声を掛け、アケミはオタチを戻すと次のボールを手に取った。

「くっ……、次はこの子よ、オタチ!」

そして呼び出したのは、またもやオタチ。しかし、先程よりもレベルは高い。

「尻尾で薙ぎ払え」

「跳んで躱して!!」

しかしそれを見るとすぐにスミレは指示を飛ばし、イワークはその尻尾を横薙ぎに振るう。対するアケミは回避を指示、オタチは素早く跳躍することで攻撃を躱した。しかしそれはスミレの読み通り。

「【りゅうのいぶき】」

先程と同様、空中に投げ出されたオタチに【りゅうのいぶき】を放ち、壁際まで吹き飛ばす。

「オタチ、せめて一撃……!」

「【ずつき】」

せめてダメージはと奮起するオタチだったが、その頭上にはイワークが迫っている。まるで釘を打つかのように上から【ずつき】を受けたオタチは、目を回して倒れた。2体目、戦闘不能だ。

「こうもアッサリ……、これじゃあ面目丸潰れよ!オタチ!!」

最後に出てきたのは、またもオタチ。しかしこのオタチは、更にレベルが上がっている。

「オタチの戦術はあくまで地上戦、かつ接近戦。そして、このレベル段階で使ってくる技はかなり絞られる。となれば、私のイワークは貴女のポケモンに対して絶対的なアドバンテージを持っています。例えば体の長さを生かした広範囲での直接攻撃、特殊技を使った遠距離攻撃だったり。……ジム戦という場なのが気の毒ではありますが、貴女の抵抗は全くの無意味。降参して下さい」

「それでもやるのが、ジムトレーナーよ!【みだれひっかき】」

「……【がんせきふうじ】」

押し寄せる岩石を、オタチは必死の形相で躱す。しかしそれを見るスミレの目は冷静だ。

「行きなさい!!」

「尻尾で岩を飛ばして」

迫るオタチに対してイワークは尻尾を振るい、【がんせきふうじ】の影響でフィールドに落ちた岩石を弾く。その行動にオタチは突進に急ブレーキをかけ、回避に専念せざるを得ない。

「オタチ、【でんこう……」

「イワーク、【りゅうのいぶき】」

イワークの放った【りゅうのいぶき】が、動きを制限されたオタチを吹き飛ばした。

「オタチ!?」

「【うちおとす】」

吹き飛んだオタチをイワークは尻尾を振るい地面に叩きつけた。その一撃でオタチは目を回す。戦闘不能だ。

「あー……。私の負けね」

「どうも。戻って、イワーク」

苦笑いを浮かべるアケミに対してスミレは、あまりに一方的だった為かつまらなそうな表情を浮かべて会釈をすると、そそくさと歩き出した。

 この後のジムトレーナー戦は3度行われたが、その顛末は語るまでもない。イワークの能力とこのジムで使われるポケモンが相性があまりにも良く、イワーク1体でそれら全てを蹂躙してしまえた。勿論レベル的に少し手古摺った相手もなくはないが、一方的に流れを握ってそのまま押し切ったので、仕留めるのに時間がどれだけ掛かったかの違いでしかなかった。

◾️◾️◾️◾️

 「ここまでのバトル見とったけど、まぁ相性が良いとはいえつまらんバトルさしてごめんなー」

笑いながらそう言うのは、ジムリーダーのアカネ。スミレより少し年上程度の少女だ。対するスミレは、小さくため息を吐く。

「いいえ、どうせここからは退屈しなくて済みそうですから」

「せや。……知っとるやろうけど改めて名のらして貰うわ。うちはコガネジムのジムリーダー、アカネ。言っとくけど、うちは強いで」

獰猛な笑みを浮かべるアカネに、スミレは鋭い視線を送る。

「ええ、存じ上げております。……やりましょう」

両者が睨み合う中、審判が口を開く。

「これより、ジムリーダーアカネとチャレンジャースミレのバトルを始めます!使用ポケモンはジムリーダー2体、挑戦者無制限!それでは1体目!!」

「そんじゃあ、いくでピッピ!!」

「ピィッ!」

審判の宣言と共に、アカネはボールを投げる。すると飛び出したのは、ピッピであった。それに対するスミレもまた、ボールを投げる。

「おいで、ホーホー」

「ホーッ!!」

ピッピとホーホーがバトルコートに着地し睨み合う。

「バトル開始!!」

そして審判の声が響いた瞬間、両者は口を開いた。

「ホーホー、【ねんりき】」

「便利やなぁ、【ものまね】や!」

初手で【ねんりき】を放つホーホーに対してピッピは【ものまね】で対抗、【ねんりき】をコピーし、放たれた2つの【ねんりき】は空中で激突し消滅する。

「ホーホー、【つつく】」

「ピッピ、【アンコール】!!」

スミレはホーホーに【つつく】を命令、嘴を輝かせて迫るが、対するピッピは【アンコール】を使った。【つつく】によってピッピは弾き飛ばされるが、これでは暫く【つつく】以外の技を使えない。つまり、メイン火力である【エコーボイス】を封じられたのである。

「だったら【つつく】」

「ピッピ、【おうふくビンタ】ァ!!」

だったらと突っ込むホーホーであったが、ピッピはそれを躱して【おうふくビンタ】を使用、連続で放たれたビンタがホーホーの体力を削る。

「下がってホーホー」

「逃がさへん!【ねんりき】や!!」

後退するホーホーだが、ピッピは【ねんりき】で追い討ち、ホーホーは体力を削られる。

「(不味い、流れを持っていかれてる……。無理矢理にでも変えないと)戻って、ホーホー」

「へぇ、交代か。冷静やな」

「そうしないと勝てませんから。ネイティ」

スミレはホーホーを戻しネイティを呼び出すと、深く深呼吸をした。

「……ええで。随分と倒し甲斐がありそうやな」

「倒させませんよ、きっと……!」

両者は再び睨み合い、思考を巡らせる。

「ピッピ、【ねんりき】や!」

「ネイティ突っ込んで、【つつく】」

ネイティはピッピの【ねんりき】を躱さずに突っ込み【つつく】を決め、攻撃を受けたピッピは地を転がる。

「くっ……、イチかバチかや、【ゆびをふる】!!」

ピッピの【ゆびをふる】。この技は、この世に数多く存在するポケモンの技をランダムに再現する技である。そして選ばれた技は、【きあいだま】。激しい光がピッピの掌に集まり、球体となる。これはかくとうタイプの強力な技、効果はいまひとつだが食らうとタダでは済まない。

「……でも、その技には欠陥がある。躱して【アシストパワー】、見極めて」

即ち、エネルギーチャージの間はあるし直線的に放つため避けやすいということ。放たれた【きあいだま】をネイティは横に動くことで躱し、【アシストパワー】を発動。ピッピの体にダメージを重ねる。

「ピッピ、【ねんりき】や!!」

しかしピッピもすぐにはやられず【ねんりき】を発動、ネイティを後退させると一気にネイティとの距離を詰めた。

「ネイティ、【つつく】……!」

「ピッピ、躱して【おうふくビンタ】ァ!!」

スミレは迎撃を指示するが、そのタイミングは少しばかり早すぎた。ピッピはネイティの嘴による一撃を身軽な動きで躱すと【おうふくビンタ】を決める。

「【つつく】」

しかし3撃目を躱したネイティの一撃で、ピッピの体は後方へと弾け飛んだ。

「ピッピ!?」

「ブチ抜け、【アシストパワー】」

そして追撃の【アシストパワー】がピッピを打ちのめし、攻撃を受けたピッピは目を回して倒れる。

「ピッピ、戦闘不能!ネイティの勝ち!!」

審判の声が響き、スミレは大きく深呼吸。対するアカネは『あちゃあ』と声を漏らしながらもピッピをボールに戻した。

「いやぁ、やるなぁ。うちのピッピを1体も失わずに倒すなんて」

「そちらこそ……。こっちはかなり削られました」

スミレが視線を向けると、ネイティはジッと視線を返す。この次も続行だ。それを見たアカネは次のボールを構える。

「さ、次はうちのエースや。さっきよりも更に強いで。レッツゴー、ミルタンク!!!!」

「モォォォォ!!」

アカネが出したのは、ミルタンク。沢山のトレーナーの手持ちと心を破壊してきた、ジョウトの潰し屋である。

「ネイティ、【アシストパワー】」

対して先手を取ったのはネイティ。挨拶がわりと言わんばかりに【アシストパワー】を放ち、ミルタンクは表情を歪める。

「ええ一撃や!でもそれじゃあ、うちの戦車は止められへんで!!ミルタンク、【ころがる】!!!!」

「飛んで!」

【ころがる】。いわタイプの直接攻撃技であり、一定時間継続する技である。その効果は、転がる度に威力が上がること。ジム用なので手加減も兼ねて【まるくなる】を持たないため更なる火力増強はされないが、それでも尚色褪せない攻撃力は強力かつ凶悪。これこそが、コガネジムのミルタンクが潰し屋たる所以である。【ころがる】の発動にスミレはネイティへ飛行を指示、ネイティは翼を使って飛び上がる。

「飛んだ程度で勝てるなら、潰し屋なんて呼ばれてへんで!【ふみつけ】!!」

「……しまったッ」

スミレはその指示に絶句、指示を飛ばそうと思考を回すがそれでは遅い。地上を転がっていたミルタンクはその勢いを利用して跳躍、地上近くを飛んでいるネイティの上を取ると、足の裏でネイティを蹴り落とした。

「さあ、これで仕舞いや!【ころがる】!!」

そして落下したネイティに対して着地したミルタンクは【ころがる】を発動、人間をトラックで跳ねるかのようにネイティを勢いよく弾き飛ばした。

「ネイティ、戦闘不能!ミルタンクの勝ち!!」

審判の判定に、スミレは強く拳を握った。制空権を取った、しかし素早い技の切り替えの前ではその程度はあまり意味が無かったと思い知らされたのである。

「だったら……、イワーク!」

「イワァァァック!!!!」

続いて出したのはイワーク。それを見たアカネは舌なめずりをする。

「出たなぁイワーク!うちはコイツを倒したかったんや」

「勝たせて貰います……!【がんせきふうじ】」

「【ころがる】、ひと回りしてから躱すんや!!」

イワークが飛ばす岩石を、ミルタンクは転がることで躱す。しかも、小さく円を描くように回転してから回避を行うことで、命中した岩石をものともしない。

(しまった……!対策が裏目に出た!)

スミレはそれを見て表情を険しくする。スミレの想定では、岩石を飛ばすことで攻撃をしつつも移動範囲を狭めつつ【がんせきふうじ】でスピードを殺し、そこを狙い撃つ想定であった。しかしミルタンクは先に一回転することで威力を増強、【がんせきふうじ】を躱す速度だけでなく、当たっても簡単に止まらない威力を得たのである。

「普段はやらん手やけどアンタは強いからなぁ!カントーリーグ上位勢のアンタには、こんくらいやってもええやろ!!」

「……!厄介な」

「行きや、ミルタンク!!」

「こうなったら……!【りゅうのいぶき】!」

【りゅうのいぶき】を放ち牽制するイワークだが、ミルタンクはそれを軽々と躱して突撃する。岩石を避け、【りゅうのいぶき】を避け進むことで威力を上げた【ころがる】がイワークに着弾、イワークの巨体が揺らいだ。

「まだまだ行くでぇ!!連打ァ!!!!」

「【がんせきふうじ】……!」

ミルタンクに向かって岩石が殺到するがそれを躱し、砕きながらミルタンクは突き進む。

「今や!」

そして超火力の【ころがる】がイワークの巨体に激突、弾き飛ばした。イワークの体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。ミルタンクは回転を止め、立ち上がる。

「くぅ……ッ!イワーク、【ずつき】!」

「【ころがる】!!」

イワークの【ずつき】がミルタンクを弾き飛ばすが、【ミルタンク】は立ち上がり再び【ころがる】を発動する。

「【うちおとす】!」

「躱し!!」

イワークが尻尾を振り下ろすが、ミルタンクは転がりながら躱す。

「……くっ」

「決めぇや、ミルタンク!!」

そしてその勢いのまま、ミルタンクはイワークへ突っ込んだ。イワークの体が大きく揺らぎ、そのまま沈む。

「イワーク、戦闘不能!ミルタンクの勝ち!!」

「……ッ。ごめん、イワーク」

審判の判定が下り、ボールにイワークを戻す。残りはホーホー、しかも手負いだ。

「さあ、これであと1体やで」

「……ここで負けたら負け、それだけです」

「せやな。諦めてないようで何よりや」

絶望的な状況でもスミレは真っ直ぐ先を見据え、アカネは嬉しそうに笑った。

「託したよ、ホーホー。飛び上がって」

「ホーッ!」

「さあ、最後までやるでミルタンク!」

「ミルッ」

ホーホーは力強く鳴き、飛び上がる。例え空中からの攻撃に対応されたとしても、有効な手段に変わりはない。

「ホーホー、【エアスラッシュ】!」

「ミルタンク、【ころがる】!」

空気の刃が幾つも放たれ、ミルタンクは転がることで躱す。

「……【エコーボイス】」

続いて音波を放つも、あっさりとミルタンクがそれは躱される。転がって突っ込んだミルタンクを、ホーホーは空を飛んで躱した。

「(【ふみつけ】は多分読まれとる。なら)ストップやミルタンク!ちょうどええ岩があるんや、飛ばしぃ!!」

「モォ!!」

ミルタンクは【ころがる】を中断すると、イワークが放った岩を投げ飛ばした。

「ホーッ!?」

空中に飛ぶホーホーは素早く身を翻して岩石を躱すが、ピッピ戦の消耗もあり1発が体を掠めた。ホーホーの体勢が崩れ、スミレの表情に焦りが浮かぶ。

「これで仕舞いや!【ふみつけ】!!」

そして【ふみつけ】によって地面に叩きつけられたホーホーは、目を回して気絶した。

 

「ホーホー、戦闘不能!ミルタンクの勝ち!!よって勝者、ジムリーダーアカネ!!!!」

残酷なまでに清々しく響いた宣告に、スミレは黙って天井を見上げた。




ジム戦での敗北はどこかで書きたかったです。なんか今はやや筆が乗ってる気がします(オリジナルは全然進んでないですが……)
気が向いたら何処かで1話目の加筆修正もしようかなーとふと思いましたね。もっと読みやすくしたいので。


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