ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「全く!無茶をして!!」
スミレは目覚めてすぐに、タケシによる説教に晒された。タケシは、近しい者ではかえってストレスかもしれないとスミレの見張りに立候補していた。説教の内容は、フシギソウが避ければ【りゅうのいぶき】の余波を自身が受ける事を分かった上でフシギソウに回避を指示した件である。ただ技の余波を食らった程度で、2時間近くも眠っていたらしいので、相変わらず貧弱な体だとスミレは苦笑する。スミレは、生まれつき体が弱かった。とはいえマサラ基準の弱い、であるから他の地方では標準的な体の強度なのだが、マサラタウンに集中して存在する、『スーパーマサラ人』と呼ばれる人間の域を超えた身体能力を誇る人種の血筋では、異常とも呼べる貧弱さだった。
「手間をおかけしてすみません・・・。」
スミレがベッドから起き上がり、丁寧に頭を下げるとタケシは慌てて顔を上げさせる。
「それはいいから・・・、兎も角、無事でよかった。まぁ、積もる話もあるから、他の人を呼んでくるさ。」
一旦矛を納めたタケシは、他の人を呼びに部屋を出てゆく。そんな中、スミレはぼうっと考えに耽ると、思い出すのは自身の暴走。不満はあったし、あの場で放った言葉が嘘という事はない。だが、それでも言い過ぎたのは事実だ。飲み込むべき言葉も、不満も、好き勝手にぶつけて被害者面して暴れて、相棒に叱られて。
「・・・情けない。」
スミレはポツリと呟いた。自己嫌悪がグルグルと頭の中を回る。なぜ気持ちに蓋をできなかったのだろうか、なぜ個人的なことにポケモンを巻き込んだのだろうか、と。色んな考えが脳を巡り、どこか思考がおかしくなってゆくも止めることは知らない。
(どうして、私は自分の気持ちを尊重してもらえるなんて思い上がったんだろう・・・?)
スミレはふとそんな疑問を抱く。思えば、自分など生きている価値のない存在で、意思なんて関係のない道具で、そうあるべきだったのだ。なのに一端の人間を気取ったのがいけなかったのだろう。道具風情が偉そうに人間様を傷つけて、玩具になる事を拒否して暴れて。とんだ不良品の屑だ。そう考えると、ストンと納得のいくものがある。自分を支えてくれたと思っていた両親も、自分を旅に出してくれたオーキド博士も、きっと自分の事を道具としての使い道があったから助けてくれたのだろう。全部自分の勘違いで、思い上がりだったのだろうか。
「フシッ!」
聞き慣れた相棒の声に、嫌な思考が中断される。扉を開けて入ってきたのは、サトシ一行にヒマワリ、変装したロケット団、そして母であるモモカとオーキド博士、ヒマワリの両親だ。
「まずは、ウチのヒマワリが大変申し訳ない事をした!!!!」
ヒマワリの父がヒマワリの頭を掴み、地面に叩きつけるようにして土下座し、ヒマワリの母もそれに続く。
「・・・いえ、私が悪いんです。初めから、決まってたんですよね?私をヒマワリの為に使われる道具だって。その為に私を支えてくれたんでしょう?なのに勝手に期待して、被害者面した挙句暴走して、ヒマワリを傷つけて・・・。私が全部悪いんですから、謝らnッ・・・何するの、フシギソウ。」
スミレが貼り付けたような笑みを浮かべて言葉を紡ぐが、途中でフシギソウの蔓に頭を叩かれ、言葉を中断させられる。フシギソウはヒマワリ一家を立ち上がらせると、スミレに向かって何かを言い始めた。そしてそれに続いて、スミレの手持ちが一斉に鳴き声をあげる。
「『たかが道具が、儂らを扱える訳が無かろうに、自信を持たんかい!』とバタフリーも言ってるニャ。ラプラスは、『わたしが前を向けたのは、スミレの言葉とみんなで過ごした日々。一緒に傷を舐め合って前向いて行こうよ。友達でしょ?』と、ユンゲラーは『いつも迷惑をかけてばかりで、失望されることも多いけど、それでも捨てずにいてくれるスミレさんが大好きなんです・・・!こんな臆病者だけど、ワタシのトレーナーはスミレさんしかいないんです!』、そしてフシギソウは、『帰ってこい』と言ってるニャ!!おミャーはポケモンからこれだけ愛されているのニャ!ポケモンとそれだけ信頼し合える存在が、道具な訳がないのニャ!!」
「・・・・フシギソウ・・・バタフリー・・・ラプラス・・・ユンゲラー・・・。」
スミレは呆然と呟く。
「ねぇ、スミちゃん。少し、お話を聞いてくれないかな?」
ヒマワリが、意を決したようにそう言った。
「ヒマはね、怖かったんだ。スミちゃんがトキワのスクールに通い出す前を、少し知ってたから。いつもとっても綺麗な笑顔を向けてくれて、遊んでるヒマたちをいつも優しく見守ってくれてたスミちゃんが、全然笑わなくなって、顔の右半分を前髪で隠すようになって、人を嫌いになっちゃった時は、とってもびっくりしたし、悲しかった。すぐにそのスクールが潰れた時は、何かあったんだって分かって、でも聞いても誰も教えてくれなくて、変わっちゃったスミちゃんだけが残った。ヒマが、友達になろうって言葉をかけた時、スミちゃんは逃げたよね。すごく泣きそうな顔で、『近づかないで』って一言。あれが忘れられなくてさ、ヒマは焦っちゃったんだ。どうにかしないと、優しくて可愛いスミちゃんが、どんどん知らないスミちゃんになって行って、そのまま居なくなっちゃうんじゃないかって。・・・だからヒマは、博士とモモカさんにお願いしてたんだ。スミちゃんを元に戻したいって。だから一緒に旅をさせてほしいって。・・・でもさ、スミちゃんからしたらただの迷惑で、スミちゃんを傷つけるだけだったんだよね・・・。ごめんね・・・もう、近づかないから。頼らないから。友達になってなんて言わないから。・・・せめて、今までやっちゃった事を、謝らせて。・・・ごめんなさい、本当にッ・・・ごめんなさい!」
涙声でそう言うヒマワリに、スミレは少しだけ目を見開く。ヒマワリはずっと心配していたのだ。昔のスミレが、スミレ自身の記憶にない訳じゃない。だがヒマワリは、何も知らないまま、ただ昔の、明るかったスミレを追い求めていたのだ。
「望んでもらっているところ悪いんだけど、もう、戻れないんだよ。・・・私は、ずっと皆んなにコンプレックスがあった。みんなみたいに早く走れないし、ポケモンの技を受ければ大怪我するし、傷が残ることもある。話も合わせられないし、遊びに混じれば体が弱いから迷惑がかかる。だから私は、勉強にかけた。勉強して、自分と話の合う人が欲しかった。でも、現実は甘くなかった。努力して身につけた学力のせいで、スクールでは嫌われた。色んな酷い目に遭わされたし、トラウマになるようなこともあった。だから私は、新しいスクールでは1人を選んだ。・・・本当は、行きたくなんてなかったけどね。それは兎も角、私は1人でいる事を望んで選んだから、旅も1人で行きたかった。人間関係での苦労を減らして、ただポケモン達と色んな場所を見て回るだけの旅。だけど貴方は、昔の私への執着でそれを妨害し、母さん達はそれに協力した。そしてポケモンの世話も自分の世話も碌に出来ない貴方の面倒を見ないといけなくなった。やりたかった事を、ことごとく潰された。それに関しては許せないし、貴方が足手纏いだった事実は変わらない。・・・だけど、それを免罪符に、私は貴方を好き勝手に傷つけた。暴言を吐き、ポケモンを傷つけ、心を折ろうとした。その部分は、少なくとも貴方は何も悪くない。私が悪い・・・・ごめんなさい。」
ぽつり、ぽつりと話し出す。手のひらで、前髪の下に隠れたソレ・・・かつてスクールでとあるポケモンの技を受けてついた、痛々しい火傷痕を撫でながら、昏い瞳で語る自身の心の澱み。信頼できる訳ではないが、やらかしてしまった以上は語らねばならなかった。消えてしまいそうな声で、だが確かに聞こえたヒマワリへの謝罪の言葉。互いの気持ちを語り合い、互いの非を謝り合うその姿は、まるで仲直りをする友達のようだった。
「ここまで、追い詰めてしまったとはのぉ・・・。些か、早計じゃったか・・・。」
話し合いも終わり、サトシ達やロケット団がそれぞれ旅だった後、オーキド博士は後悔を滲ませる。オーキドは、スミレはヒマワリと関わることで少しずつ明るくなってゆくだろうと楽観視していた。モモカと、ここにはいない父親は、心配しつつも、荒治療も必要だと許可を出した。その結果の発狂だ。昔から、スミレは周りから少し浮いていて、本人はその事を気にしていたのを、モモカもオーキドも知っている。他のマサラタウン出身者に比べて体が非常に弱く、彼らの遊びにも混ざることができず、性格も大人びていた為に近い年の子供とは話も合わず、いつも姉のような立ち位置だった。だから勉強に励み、トキワシティにあったエリート養成校に行った。しかしそこで人格が歪むほどの目に遭い挫折し、その後は引き篭もることも出来ずに新たなスクールへと通い、そして彼女の人生を狂わせた人間関係から離れられると思われた旅立ちでは、ヒマワリという、スミレにとっては親しくもない少女が無理矢理付き添った。思えば彼女の人生に、真に心休まる時がどれだけあっただろうか。
「・・・・・1番悪いのは、ワシだったのかもしれんなぁ・・・。」
その言葉は、空に呑まれて消えていった。
今回の話し合いの結果、スミレとヒマワリは別々で旅をすることが決まった。だが、ヒマワリにはスミレの接触禁止などは出ず、旅先で出会えば普通に接してもいいという許可が降りた。そしてスミレとヒマワリには定期的な連絡義務が課せられる。スミレは少しだけ不満げだったが、最終的に受け入れた。こうして、スミレとヒマワリの一大決戦は幕を下ろしたのである。
「じゃあ、私はこれで・・・。」
「うん・・・・。」
落ち込むヒマワリを他所に、そそくさと準備を完了させたスミレは、別れを告げる。タイムロスは甚大、遅れは取り戻さねばならない。早足で、歩き出す。
「あ、あの・・・!」
ヒマワリが不意に呼び止めた。
「何?」
そう聞く声は、いつも通りの平坦さで、しかし少しだけ、暖かみがあった。
「これからも・・・スミちゃんって、呼んでいい、かな・・・?」
恐る恐る尋ねるヒマワリに、スミレは振り返ることもなく、返した。
「・・・・別に、好きにするといい。」
「うんっ!!」
1人道を進むスミレ。その心は何処か、弾んでいた。
ありがとうございました。発狂して、そこからみんなで助け出すという感じで書いてたんですけど、中途半端な終わりにしようかとこうしました。完全な和解にはなっていない、首の皮一枚で繋がった関係です。
あと少しトラブルになるのが遅ければ、確実に修復不可能でした。
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3月19日19:25 スミレが眠っていた時間を4→2 時間に減らしました。
流石に長すぎかと思いまして。