ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
第4試合目、スミレ対リコリス。スミレとリコリスはフィールドに立ち向かい合うが、真剣な表情を浮かべるスミレに対し、リコリスは柔らかい笑みを浮かべている。
「……余裕、ですか?」
スミレが尋ねると、リコリスは首を横に振る。
「いいえ?貴女は強い。……ですがだからこそ、笑いが出る程に楽しみなのですよ」
「そうですか。そう言って貰えて光栄ですが、私は勝ちに行きます」
「勿論。負けるつもりで戦うトレーナーなどそう居ませんでしょう?私もまた、全身全霊をもってお相手させて頂きますよ」
そう言ってリコリスはボールを構え、スミレは大きく深呼吸をする。
「これより、スミレ選手対リコリス選手のバトルを始めます!使用ポケモンは3体、時間無制限!それでは、バトル開始!!!!」
審判の声と共に、両者はボールを投げる。
「……行って、ストライク」
「お願いしますね、ヤミカラス」
呼び出したポケモンはスミレがストライク、リコリスはヤミカラスだ。
『さあ、始まりました第4試合目!スミレ選手対リコリス選手!!初手はスミレ選手のストライクとリコリス選手のヤミカラスです!!!!』
『リコリスさんは手持ちにあくタイプが多いですからね、それ読みでのストライクでしょうが、ヤミカラスはひこうタイプが付いているのでむしタイプは効果抜群になりません。……完全に、読みを外されましたね』
「ストライク、【シザークロス】」
「ヤミカラス、【ふいうち】です」
ストライクが鎌を輝かせて突進するが、その芽を潰すかのようにヤミカラスは【ふいうち】で攻撃、ストライクの攻撃は失敗に終わる。
『速攻!!』
『相手が攻撃を選択した場合に先制できる【ふいうち】、初手で使ってきましたね。……スミレさんも想定はしていたでしょうが、想定よりも速いと驚いているかも知れません。映像データじゃあ、本来の速さやその後の成長は分かりません。それに、映像をどう読み解くかは経験が物を言います、その点ではリコリスさんの方に分がありますね』
(その通りだよ全くッ……)
スミレは内心で毒づいた。事前に得られるデータは、一戦の経験にはやはり劣る。知っていても対応できない、そんなことは日常だ。
「【こごえるかぜ】」
「くっ……!避けてストライク!」
ヤミカラスが翼をはためかせて【こごえるかぜ】を放ち、スミレが表情を歪めて指示を飛ばすとストライクはそれをギリギリで躱す。
「……やはり、速いですね。しかし想定の域を出ません。ヤミカラス、【エアスラッシュ】」
「【エアスラッシュ】で迎え撃って」
ヤミカラスは翼を素早く動かし、ストライクは腕の鎌を振るい、放つのは同じ【エアスラッシュ】。空気の刃が空中で激突し、連鎖するように爆発が起こった。
「……それでは、【ふいうち】」
【ふいうち】が決まりストライクは表情を歪めるが反撃の鎌を振るう。しかしヤミカラスの動きは俊敏で、あっさりと攻撃を躱した。
「ストライク、乱れ撃ちの【エアスラッシュ】」
その指示にストライクはやたらめったらと鎌を振り回す。不規則に飛ばされる【エアスラッシュ】をヤミカラスは戸惑い、一撃が命中し吹き飛ばされた。
「……ほう」
「ここで速攻!【シザークロス】」
そして背中の翅を全力で動かし接近すると、【シザークロス】を発動。【エアスラッシュ】によって体勢を崩していたヤミカラスには避けきれず連撃を受けた。
「ですが、【こごえるかぜ】」
しかし空中で体勢を立て直したヤミカラスは【こごえるかぜ】を発動、攻撃のため接近していたストライクを呑み込み、吹き飛ばした。
『ここで決まったー!!【こごえるかぜ】は、効果抜群だァァ!!』
『あくタイプの技への対抗策としてむしタイプを選択したのでしょうし半端な速さでは追いつけないと踏んだのでしょうが、結果的に相性の悪い相手に突っ込む形になりましたね。……さあ、どう挽回してゆくか』
「……ストライク」
「今です、【ふいうち】……?」
スミレの指示が来る、その寸前にリコリスは【ふいうち】を指示。動き出すヤミカラスだが、その攻撃は失敗に終わった。つまりそれは、攻撃技を使わなかったということ。
「【こうそくいどう】、そして【いあいぎり】」
「ガァァァ!?」
【ふいうち】を【こうそくいどう】で透かしつつも自分のスピードを上げ、【いあいぎり】で一閃。諸に攻撃を受けたヤミカラスは悲鳴のような鳴き声をあげて墜落する。
「……まだ。【エアスラッシュ】」
しかしスミレは追撃の手を緩めない。ヤミカラスに向けて【エアスラッシュ】を連発。風の刃がヤミカラスを襲い、ダメージを刻む。
「油断ない追撃、流石です。……しかし、そこで終わる私達ではありませんよ?ヤミカラス」
リコリスの言葉でヤミカラスは翼を振るい、【こごえるかぜ】を発動。ストライクは吹き飛ばされ、地面を転がる。
「くっ……、なら!【こうそくいどう】で近づいて【シザークロス】」
「ラァァァイ!!」
しかし立ち上がったストライクが【こうそくいどう】でスピードを上げつつ接近、鎌を振るう。しかしそれを見たリコリスは、怪しげな笑みを浮かべた。
「【ねっぷう】」
瞬間、熱を持った風が冷やされた空間に解き放たれた。
「……は」
スミレが呆然と立ち竦む中、至近距離で全身を焼かれたストライクが目を回して倒れる。
「ストライク、戦闘不能!!ヤミカラスの勝ち!!!!」
『最後は【ねっぷう】で決着!!スミレ選手、あまりの出来事に呆然としております!!』
『今のを見るに、完全に対策されていましたね。【ふいうち】によって技の出を潰し、副次効果も狙える【エアスラッシュ】に相性の良い【こごえるかぜ】と火力も高く相性もいい【ねっぷう】。恐らく本当に狩りたかったのはフシギバナかバタフリーでしょうが、ついでにストライクを持っていきましたね。読みと読みのバトルではより読めた方が勝ちとなりますが、さすがにリコリスさんに軍配が上がりました。……【ねっぷう】をヤミカラスが覚えられる、と言うのは意外かもしれないですがあるんですよ。ポケモンがどんな技を覚えられるのかっていうのはいちいち検証しないとわからないくらいまだ分からないことが多いのですが、実は覚えられるんです。そういう研鑽を含めての勝利と言えるでしょう。しかし、それだけ対策してなおあそこまで粘られた。一方的に弱点を突けて尚ここまで削られた。スミレさんもここから挽回することは、十分に可能と言えるでしょう』
エリカの解説を悔しげに聞きながら、ストライクをボールに戻す。手持ちは残り2体、ここから挽回するしかない。
「……お願いね、サイドン」
「ドォォン!!!!」
『2体目はサイドン!!』
『ほう』
「どんな相手でも、勝ちに行くだけです。【ふいうち】……」
ヤミカラスは【ふいうち】を仕掛けるが、サイドンは動き出さなかったため失敗に終わる。
「今……!【うちおとす】」
「……なっ」
そして反撃の【うちおとす】が、ヤミカラスに命中。効果抜群故に大きなダメージを負い、しかも副次効果でじめんタイプを無効化できないようになってしまう。そして体勢の崩れたヤミカラスをサイドンは掴むと、その腕にエネルギーを纏わせる。
「叩きつけろ、【じしん】……!」
その指示でサイドンはヤミカラスを掴んだ腕で【じしん】を発動、そのまま地面に叩きつけた。ゼロ距離での【じしん】と、地面に叩きつけられた衝撃。二重の攻撃はヤミカラスの意識を奪うには十分であった。
「ヤミカラス、戦闘不能!サイドンの勝ち!!」
『すぐに挽回しました、サイドンの勝利です!!』
『【うちおとす】はいわタイプなのでヤミカラスに効果抜群、更にひこうタイプが持つじめんタイプの技を無効化する特性を打ち消す効果があるので、その技を決めつつ【じしん】に繋げたのは良いコンボ技です。更に言えば、最初に敢えて動かず【ふいうち】を透かしたのは良いですね。リコリスさんも透かされたとして挽回が出来るからこそやったのでしょうが、サイドンは動かない時間に準備していたので技の出がより速かったのです。非常に上手いカウンターでしたね』
ヤミカラス戦闘不能の事実に、対するリコリスは嬉しそうに頷いた。
「あらあら、やられてしまいましたねヤミカラス。……ですが十分よく頑張ってくれました。後は任せてお休みなさい」
そう言ってボールにヤミカラスを戻すと、次のボールを手に取った。
「……随分と、余裕がありますね」
「不安そうにしているよりも、自信ありげに堂々と構える。トレーナーの立ち姿は、ポケモンにも見えますよ」
「成程、確かにそうですね」
スミレは納得したように頷いた。トレーナーが不安そうに指揮していても、ポケモンは安心して戦えないのだ。
「……私達は負けるつもりはありません。だからこそ、流れを変えましょう。お願いしますね、メガニウム」
リコリスが呼び出したのはメガニウム。チコリータの最終進化に、観客席のミコトがあっと声を上げる。
「相性、悪いか。でも、勝ちに行こう。全力で」
スミレは苦い表情を浮かべた。ヤミカラスを倒したと思えばこれである。対策をしたつもりだったが、されていたのは自分であった。それでも、あっさり負けるのは性に合わないと自分を奮い立てる。
「……勝たせませんよ、私達は強いので。メガニウム、【マジカルリーフ】!」
相手に必ず命中する能力を持つ木の葉が飛び、サイドンに命中しダメージを与える。
「【うちおとす】」
対するサイドンも【うちおとす】で反撃。岩石を飛ばしダメージを与えるが、メガニウムの一撃に比べればまだ軽い。
「だったら、【ギガドレイン】です」
しかし、メガニウムは手堅く【ギガドレイン】を選択。効果抜群の技がサイドンの体力を急速に削り、反対にメガニウムの体力はみるみるうちに回復してゆく。
「……くぅ。【じしん】」
「ドォォン!!!!」
サイドンはダメージに膝をつきながらも全力で地面を殴りつけ【じしん】を起こす。相性が悪いとはいえ高火力技、メガニウムの体力をジリジリと削った。
「追撃お願い、【メガホーン】!」
そして追撃。ツノを輝かせて突進すると、自慢のパワーでメガニウムの体を撥ね飛ばした。むしタイプの【メガホーン】はメガニウムに効果は抜群、メガニウムの体力を一気に減らす。
「素晴らしい一撃です、が……【ギガドレイン】」
しかし立ち上がったメガニウムは【ギガドレイン】を使用。サイドンは体力をまたもや大幅に削られ遂に地面に手を付いた。
「サイドン!」
スミレの呼び掛けに応え、立ち上がろうとするサイドン。しかし追撃を防ぐのに、そのサイドンはあまりに遅すぎた。
「ここで終わりです。【ギガドレイン】」
「ドォォォォォォォンッッ!!」
再度の【ギガドレイン】が命中。メガニウムの体力を回復させつつもサイドンの体力を削る。その苦痛にサイドンが絶叫すると、そのままうつ伏せに倒れて目を回した。
「サイドン、戦闘不能!メガニウムの勝ち!!」
「…………」
審判の言葉にスミレは、悔しげに項垂れながらもボールにサイドンを戻す。
『さあ、ここでメガニウムが勝利しました!!』
『このバトルは少し賭けの部分もありますが、概ねリコリスさんの想定通りに進んでいると見て良いでしょうね。まず、スミレさんの所持ポケモンはそれなりに居るので、カントーリーグの戦いを見るに予想は難しかったと思います。ですがリコリスさんのような自分以上のテクニックタイプを倒す際にどうするか、でいったら下手な策は利用されて返されるだけです。……となれば、打てる手は限られ自ずと使うポケモンも限られる。それを読まれて返されたからこその今この結果でしょう』
スミレは3つ目になるボールを持つと、天を見上げた。
「……どうする?」
戦術に関しては、自身の対策を暴力の上に上乗せして叩き潰す。地力で負けている以上はこのくらいしか出来ない。エリカが言っているのは、少し濁しているがそういうことだろう。だが、それで勝てるのかと言えばここまでの流れが無理だと言っている。
(だとしても……)
掌に収まるモンスターボールは、早く自分にも戦わせろと震えている。
「行くよ、カイリュー!」
「バウゥゥゥゥゥゥン!!!!」
ならば最後まで。ボールを高らかに放り、飛び出したのはカイリューだ。カイリューの登場に、リコリスは嬉しそうに手を叩いた。
「データでは知っておりますが実物を見ると凄いですね……。ドラゴンタイプの育成は難しいと聞きますが、ここまで立派なカイリューに育て上げるとは」
「手を焼きましたよ。……本当に。でも、力押しで突破しないといけない場面では、かなり強いポケモンです」
「そうですね……。期待、していますよ」
ニッコリと笑うリコリスと不安に震える拳を握るスミレは、同時に口を開いた。
「カイリュー、【ぼうふう】」
「メガニウム、【ハードプラント】」
カイリューが翼をはためかせると激しい風が吹き荒れメガニウムを襲うが、メガニウムが咆哮し地面から伸びた巨大な蔓がまるで樹海のように絡み合い、それを堰き止める。
「……【りゅうのまい】」
しかし、【ハードプラント】は反動で動けなくなる副次効果も持っている。つまりその隙に、カイリューは動ける。【りゅうのまい】を使用すると、まるで雷雲のようなオーラがカイリューの全身を包み込み、そのパワーとスピードを上昇させる。そしてそのままメガニウムの形成した樹海に突っ込むと、木々を薙ぎ倒しながらも突き進む。
「メガニウム、【マジカルリーフ】!」
「避けれないなら、弾けばいいだけ……!【ドラゴンダイブ】、ぶち抜いて!」
メガニウムは【マジカルリーフ】を使用、必中の木の葉で迎撃するが、カイリューは【ドラゴンダイブ】で突っ込んだ。【マジカルリーフ】を弾き飛ばし、勢いそのままにメガニウムを地面に叩きつける。
「相当なパワー……。だからこそ倒し甲斐があります!【ハードプラント】!!」
しかし至近距離から放たれた【ハードプラント】に呑み込まれ、カイリューは空中に吹き飛ばされる。しかしカイリューはすぐに体勢を立て直すと、メガニウム目掛けて突っ込んだ。
「【ぼうふう】!」
そして放つのは【ぼうふう】。激しい嵐が吹き荒れ、動けないメガニウムを吹き飛ばした。くさタイプにひこうタイプの技は、効果抜群だ。暴風で蔓を薙ぎ払ったことで、メガニウムとの間には何もない一本道の空間が生まれる。
「抑えきれない……!」
「貫いて、【ドラゴンダイブ】!」
そしてダメージを蓄積し満足に動けないメガニウムを、【ドラゴンダイブ】で地面に叩きつけた。
「メガニウム、戦闘不能!カイリューの勝ち!!」
審判の宣告が下り、スミレはため息を吐きつつカイリューに視線を送り、そしてハッと目を見開いた。
カイリューが、膝をついていた。見れば表情は苦しげで、動きが鈍い。この症状はスミレが多用するある技を受けたポケモンと同じものだ。つまりこれは。
「……【しびれごな】」
その言葉に、リコリスはしてやったりという笑みを浮かべた。
『カイリューの勝利、ですがアレは……』
『今のは迂闊、完全なミスですね。【ぼうふう】という手段があったというのに、突破口を見つけて突っ込んだら勝ったけど致命的な最後っ屁を食らいましたか。【しびれごな】による麻痺なんて、貴女も好んで使う手でしょうに、全く……』
エリカの呆れた声に、スミレは呻き声を漏らす。エリカの言う通り、あまりに迂闊だった。その声にリコリスは苦笑いを浮かべた。
「ごめん、カイリュー……。私が迂闊だった」
「バウゥゥゥン!」
スミレが謝ると、カイリューはなんてことない様子で立ち上がる。しかしその表情は苦痛を堪えているようにも見えて、スミレは胸の前で汗まみれの掌を握り締めた。
「メガニウムが作ってくれた好機……必ずや活かしましょう!私の最後のポケモン、ミロカロス!!」
「フィィィィィ!!!!」
リコリスが呼び出す最後のポケモンは、ミロカロス。この世で最も美しいポケモンの1種とも言われるポケモンだ。
『最後のポケモンはミロカロス!美しいですねー!!』
『ミロカロスはみずタイプ。……こおり技を使われたら、かなりキツイですよ』
「…………そっか」
スミレは、ミロカロスの登場に納得したように頷いた。考えてみれば簡単な話だ。フシギバナ、バタフリー、カイリュー。メインパーティー3体にはこおり技が通るし、ニドキングにはみず技が通る。そうなれば、最後にこおり技を使えるだろうポケモンを出してくるのは自明の理。そこに、間抜けにも真正面から突っ込んでしまった訳だ。
「まだ、終わっておりませんよ?【ふぶき】」
放たれた【ふぶき】がカイリューを呑み込む。ドラゴン、ひこうタイプのカイリューにとってこおりタイプはまさに天敵。しかも強力な【ふぶき】となれば、受けるダメージは尋常ではない。
「……だったら、【ドラゴンダイブ】!」
「【れいとうビーム】」
カイリューは痺れる体を全力で動かして【ドラゴンダイブ】を発動、オーラを纏って突貫するが、ミロカロスは冷静に【れいとうビーム】で真っ向から迎え撃つ。火力はカイリューが上だが、相性ではミロカロスが上。両者の攻撃は相殺され、空中で爆発する。しかしそんなこと、スミレは想定済みであった。
「やるしかない……!カイリュー」
その声にカイリューは、額に青筋を浮かべる。
「来る……!!」
「【げきりん】!」
瞬間。ミロカロスの視界一杯に、拳を振りかぶるカイリューの姿が全面に映る。そして、カイリューの拳が、ミロカロスの体を吹き飛ばした。そして自慢の飛行能力で追撃、拳、足、胴体、そして尻尾に翼。全身をくまなく使い荒々しく連続攻撃を加える。麻痺によって多少スピードは落ちているが、ただでさえ強いのに【りゅうのまい】によって更に上がった攻撃力は健在だ。
「ミロカロス、【ふぶき】!周囲に展開してください!」
しかしリコリスの指示で【ふぶき】をまるで自分を囲むように展開、至近距離でミロカロスを打ちのめしていたカイリューはまともに攻撃を受けてしまう。
「だったら、その前に押し切って!」
怒れるカイリューは、混乱するまで止まらない。だったらもう、全てを託して見守るのみだ。
「では、【なみのり】」
「フィィィィィ!!!!」
「バウゥゥゥ!!!!」
荒波がカイリューの全身を呑み込む。しかしそれを切り裂いて現れたカイリューの尻尾が、ミロカロスの脳天を叩いた。
「凄いパワーですね……。ですが、【れいとうビーム】です」
しかし冷静なまま状況を見たリコリスは【れいとうビーム】を指示、放たれた【れいとうビーム】は、カイリューの全身を氷漬けにしてしまった。
「あっ……」
スミレの漏れた声が、絶望に震える声が、嫌に響いた。
「カイリュー、戦闘不能!ミロカロスの勝ち!!よって勝者、リコリス選手!!!!」
審判の声が響いた。スミレの反応、カイリューの体力や状態から、復帰不可能と判定されたのだ。状態異常、こおり。氷漬けにされてしまい、ボールに戻してもそう治らない。それこそ道具を使ったり特殊な炎技などで溶かすしか治す方法がなく、実質的な戦闘不能の状態だ。
『最後は、カイリューを氷漬けにして決着!!リコリス選手、これで2勝目です!!!!』
『状態異常、こおり。……凍るかどうかは運次第なのですが、【なみのり】でカイリューの体を濡らしたことで凍結の確率を上昇させましたね。逆を言えば、氷漬けにでもしないとあの【げきりん】のパワーを受け流す自信が無かった、とも言いますね。リコリスさんは、終始スミレさんを相手にペースを握っていましたね。暴力を計略で補強するスミレさんの戦術を理解し、対策し、予測しての勝利。実に見事な立ち回りです。……戦術型なのに戦術で上を行かれてしまっただとか明確に指示ミスをしてしまっただとか、スミレさんは悔しい結果でしょう。しかし、十分に勝機も見せ場もありました。最終的には、相性最悪のミロカロスにこおりという逃げの一手を取らせる程に追い詰めた。どれだけ自分が恥ずかしくても、私は彼女にナイスファイトと言葉を贈るでしょう』
『確かにそうですね。本来、【ふぶき】や【れいとうビーム】をあれだけ受けて、気絶による戦闘不能ではなくこおりによる戦闘不能ですから。相当なパワーの持ち主ですよ、多分場内の強いトレーナー達ならあのカイリューの強さは分かると思います。しかし、それはそれとして最後の一戦、非常に絵になる試合でした!カッコいい!!』
そんな実況解説など耳に入らないといった様子でカイリューをボールに戻し、俯くスミレの肩にリコリスは手を置いた。
「……今回は、私の勝ちです」
「嫌味か何かですか?」
「いいえ。でも、エリカさんの言う通り逃げの一手を使わされました。貴女はそのくらいに強かった。……だから、また戦いましょう。お互い、もっと強くなって」
「…………はい」
スミレは悔しげに声を震わせ俯きながらも、リコリスに手を取られて退場していった。