ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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幾つもある二次創作案のひとつにSAOみたいなMMORPGでポケモンをやるみたいなネタあるんですけど、これ書いてるから書けないけど練りようによっては割と面白そうだと思ってたりします


第205話 スズキ対スミレ

 スミレがフィールドに入ると、大きな歓声が耳に届く。聞き分ければスミレへの声援もあり、内心を少し落ち着けた。

「……申し訳ありません。貴女の経験になればと思いましたが、あんなことになるとは」

スズキが申し訳なさそうな表情で言うが、スミレは未だ恐怖に怯えた瞳をしながらも首を横に振る。

「いえ、私が弱いのが悪いんです。……でも大丈夫、ちゃんとやりますから」

そう言ってボールを構えるスミレに、スズキは困ったような笑みを浮かべた。

「それでは、リーグ戦最終試合!スズキ選手対スミレ選手のバトルを始めます!!使用ポケモンは3体、時間無制限!!それでは、バトル開始!!!!」

審判の響く声に、スズキとスミレは同時にボールを投げる。

「お願いしますよ、ドサイドン」

「……行って、パラセクト」

スズキが呼び出したのはじめん、いわタイプのドサイドン。サイドンの進化とも呼ばれる怪獣系ポケモンである。

『さあ、始まりましたリーグ戦最終試合!スズキ選手対スミレ選手!!スズキ選手はドサイドン、スミレ選手はパラセクトです!!エリカさん、この選出は如何ですか?』

『そうですね。タイプ相性ではパラセクトが有利ですね(ですがメンタルは……)。スズキ選手は使用ポケモンが幅広い万能型ですが、とはいえ好んで使うポケモンは怪獣系が多いです。彼のグループでは宇宙開発やら博物館を建てたりやら玩具開発やらもしていますからね。そういう所謂『ロマン』には五月蝿い人なのでしょうが、そこをしっかり読んでいます。しかしドサイドンはいわタイプ、パラセクトにも効果抜群はありますのでそこをどうするか……(あとは、どうやってその状態から立ち上がるのか)』

「ドサイドン、【いわなだれ】」

「パラセクト、耐えて。そして【きのこのほうし】」

「尻尾で振り払いなさい!!」

ドサイドンが放った【いわなだれ】をパラセクトは体を縮こまらせて反撃に相手を眠らせる胞子を撒き散らすが、ボスゴドラは尻尾を振るってこれに対処する。

「だったら、【シザークロス】」

十字に振られたツメがボスゴドラの尻尾を切り付け、ドサイドンは顔を顰める。

「反撃です、【じしん】!」

激しい振動がパラセクトを襲い、その体にダメージを刻む。

「……でも、こっちにはこれがある。【メガドレイン】!」

しかし放たれたのはメガドレイン。タイプ相性上、くさタイプの技は天敵レベルの効果抜群。しかもこの技には、パラセクトへの回復効果がある。ドサイドンは苦悶の声を漏らし、パラセクトの傷がみるみる癒やされる。

「素晴らしい。……ですが、【がんせきほう】。装填」

「畳みかけて、【エナジーボール】。そして【きのこのほうし】」

「息を吹きかけなさい」

腕を前に出し技の溜めに入ったドサイドンに対してパラセクトは【エナジーボール】を発射。しかしくさタイプの技を受けてなお揺るがないドサイドンを眠らせようと【きのこのほうし】を飛ばすが、ドサイドンはむしろ大きく息を吸うと一気に吐き出した。風に乗って飛ぶ粉がそれで飛ばされない訳もなく、一気に吹き散らされる。

「くっ……」

スミレは悔しげにドサイドンに視線を送るが、瞬間。スミレの目に諦めが浮かんだ。

「【がんせきほう】」

大質量の岩石による砲撃が、パラセクトを吹き飛ばした。

「パラセクト、戦闘不能!ドサイドンの勝ち!!」

『パラセクト戦闘不能!!まずはスズキ選手リードです!!!!』

『……ふむ』

あっさりと戦闘不能になったパラセクト、モニターにも映るスミレの表情。会場で見守る観客の間にも、ざわつきが生まれる。

「…………ごめん、パラセクト」

『スミレさん』

項垂れてパラセクトをボールに戻すスミレに、エリカは解説席から声を掛けた。

「……エリカさん?」

『深呼吸』

「っはい!」

エリカのたった一言に、スミレは大きく深呼吸をする。新鮮な空気が脳に取り入れられ、停滞し掛けていた脳が少しずつではあるが稼働を始めた。

『スミレ選手、大丈夫でしょうか?』

『先程の敗戦もあって、緊張しているようですね。まぁ、あの負け方はしたことなかったと思いますから。多分どこかでモチベーション自体は取り戻せたようですが、しかしあの挫折で砕けたメンタルは修復しながら戦っているようですね。本領からはあまりにも遠い。……でも、観客席で文句を垂れるだけの輩よりはずっと優秀なトレーナーですから。大丈夫、私はあの子を信じます』

「へっ、言いやがる。……流石はランスとやり合った女の師匠ってことか。ガキだが、中々に面白れぇ女だ。この穏やかさと気の強さ、うちの女房を思い出すぜ」

ハッキリと言い切ったエリカに、ギバラは獰猛に笑った。因みに、その女房は一般家庭出身で穏やかな態度ながらもヤクザとその親分であるギバラを尻に敷く女傑である。そんな穏やかさと激しさを兼ね備えたスーパー〇〇〇人みたいなのと一緒にされてもエリカとしては困るのであるが。

「……スミレはん」

対する隣のミコトは、スミレを心配そうに見つめていた。

「だったら次はこのポケモンで行く……。お願い、フーディン」

スミレが呼び出した2体目は、フーディンだ。

『2体目はフーディンです!この選出の理由はなんでしょう?』

『自身の精神状態を客観視した上での選出ですね。彼女のフーディンはベストメンバーの1体、特に信頼するポケモンの1体でかつ頭が回り戦闘力も高い、精神が不安定な状況で頼るにはもってこいの選出です』

「フーディン、【サイコキネシス】」

瞬間、激しい圧力がドサイドンにのし掛かった。サイドンはあまりの火力に膝をつく。

「なんと!?……これほどとは」

スズキが、そして観客席に座る実力者たちはその火力に驚きを隠せない。

『凄い火力の【サイコキネシス】!ドサイドンの動きを封じ込めたァァ!?』

『スミレさんのフーディンは性格こそ臆病で戦闘向きではありません。……しかし彼女は凄まじい戦闘への適正と、特殊攻撃能力の才能に溢れています。もしかしたら純粋な火力ではフシギバナの【はなびらのまい】とカイリューの【げきりん】と並ぶ三強に数えられるやもしれません。いいや、元の技の火力を考えれば。もしかしたら、最強かもしれません』

「でしたら、【いわなだれ】!」

「【テレポート】、【シャドーボール】」

ドサイドンは【いわなだれ】で対抗、しかしフーディンは【テレポート】でその背後に回ると、大きな背中に【シャドーボール】を叩き込んだ。爆炎が上がり、ドサイドンは大きくよろめくと、そのまま目を回して倒れた。

「ドサイドン、戦闘不能!フーディンの勝ち!!」

『フーディンが取り返したァァ!!これで数は互角です!!!!』

『パラセクトのくさ技が最後の最後で響きましたね。あそこで散々削られ体力があまり無かったからこそ、フーディンの攻めに耐えられなかったのだと思います』

「……見事な攻めです。ですが、このまま終わる訳にはいきません!お願いします、キングラー!!」

「成程。……戻って、フーディン」

スズキが呼び出す2体目は、キングラー。対するスミレは、フーディンをボールに戻す。

「ほう。では何を?」

「私にできることを、全力で。……お願い、ケンタロス」

「ブモォォォォォォ!!!!」

『スミレ選手、ここで交代!ケンタロスを呼び出した!!』

『地上戦には地上戦、上を取るより真っ直ぐ突き進むと言った感じですね(……そして、フシギバナを出して負けたら耐えられないという意思表示ですか)』

「キングラー、【つるぎのまい】」

「ケンタロス、【ふるいたてる】」

キングラーとケンタロスは互いに強化技を使用。物理攻撃の強化率はキングラーの方が高いが、【ふるいたてる】は物理だけでなく特殊攻撃にも作用する。

「キングラー、【クラブハンマー】」

「ケンタロス、【しねんのずつき】」

キングラーが鋏を振り下ろし、ケンタロスは額を輝かせて突進し、パワーとパワーが激突した。激しい衝撃が響き、両者は弾かれる。

「キングラー、【バブルこうせん】」

泡がケンタロスの全身に纏わりつき破裂、ダメージを刻んだ。しかしそれをものともしないケンタロスは、鼻息荒く走り出す。

「反撃の【しっぺがえし】」

相手の後に技を出した場合威力が2倍になる【しっぺがえし】がキングラーの全身を打ちのめした。

「それでは、【クラブハンマー】」

「ブモォ!?」

しかし反撃の【クラブハンマー】でケンタロスの体が地面に叩きつけられ、ケンタロスは呻き声を漏らす。

「【じしん】」

しかし立ち上がったケンタロスは地面を蹴って振動を起こす。激しい振動に襲われ、キングラーは動きを止める。

「ぬぅ……、流石はケンタロス。火力が高い」

「突っ込んで、【しねんのずつき】」

そして止まったキングラーに、ケンタロスは【しねんのずつき】で突っ込んだ。足を踏ん張るキングラーだが、そんなもの関係ないと言わんばかりに押し通すケンタロス。そのままフィールドの壁に突っ込み、キングラーを壁に自分ごと叩きつけた。

「キングラー、戦闘不能!ケンタロスの勝ち!!」

『さぁ、キングラー戦闘不能!スズキ選手、追い込まれました!!』

『スミレさんはまぁ精神が不安定なことが弱点ですが、しかし本人がそれを自覚しているのでこういう手が取れます。……即ち、策を放り捨てたパワーゴリ押し戦術。こういう力押しの得意な相手にはよく刺さりますね。おそらく今本格的に策を練ろうとすれば中途半端になってしまうでしょうが、こうすれば一見互角にバトルしているようにできるって訳です』

『成程ォ、弱点を理解しているからこその戦術ですね?』

『ええ、私が教えました』

『えっ!?そうなんですか!?』

『はい。少々縁がありまして、うちの弟子ですね』

『確かに、エリカさんは多くの弟子を取っていらっしゃいますからね』

「…………言って大丈夫なんだ、そのこと」

スミレは、解説席に視線を送った。スズキはそれに苦笑いを浮かべる。

「まぁ、良いと判断されたのでしょう。……彼女は公平なお方、弟子だからと無用な贔屓はしないでしょうからね」

そう言ってスズキが構えたのは、最後のモンスターボール。

(次でラスト……。ケンタロスで削って、あとはフーディンでどこまでやれるか)

「さあ。お願いします、ボーマンダ!!」

「ゴァァァァァァァ!!!!」

呼び出されたポケモンは、ボーマンダ。ホウエン地方に生息するドラゴンポケモンである。気性が荒く、扱うのはかなり難しいとも言われるドラゴンだ。

「……ボーマンダ」

ボーマンダの咆哮が冷え切った心の芯に響き、諦めの感情が顔を出す。ただでさえ弱った精神には、竜の咆哮は効果抜群であった。

「さあ、ここから逆転しましょう!ボーマンダ、【だいもんじ】」

放たれた炎が大の字を描き、ケンタロスの体力を大きく削る。

「……ッ!【しっぺがえし】」

「躱して【りゅうのはどう】」

【しっぺがえし】を撃とうと突進するケンタロスを軽々と躱し、その横腹に【りゅうのはどう】を叩き込む。

「だったら、【しねんのずつき】!」

「ブモォォォォォォ!!!!」

しかしそれでも立ち上がるケンタロス。満身創痍ながらも立ち上がり突撃する。

「では。【ドラゴンテール】」

しかし、万全のボーマンダの前ではまるで無意味、【ドラゴンテール】で横っ面を叩かれると、体力の限界か目を回して倒れた。

「ケンタロス、戦闘不能!ボーマンダの勝ち!!」

『ボーマンダ、キングラーを倒したケンタロスを一蹴!!!!』

『地上戦しか手札のないケンタロスでは相性が悪かったですね。……これはどうにもならないです』

「ご苦労様、ケンタロス。……お願い、フーディン」

「ディン」

スミレはケンタロスをボールに戻すと、フーディンを呼び出した。フーディンを視界に収めたボーマンダは、強者の気配に獰猛な笑みを浮かべる。

「ボーマンダ、【だいもんじ】」

「【テレポート】、【サイコカッター】」

「躱して【りゅうのはどう】」

「躱し……いや、間に合わない!防いで」

ボーマンダが【だいもんじ】を放つがフーディンは【テレポート】で背後に回り【サイコカッター】を発射。しかしボーマンダは体を翻してそれを躱すと【りゅうのはどう】を放つ。避けるよう指示を出そうとしたスミレだったが、避けきれないと判断し防御を指示すると、フーディンはサイコパワーを集めて防壁を作りこれを防ぐ。しかし技でもないため突破され、僅かながらもダメージを受けた。

『素早い攻防!!しかしフーディン、防ぎきれずにダメージを負います!!』

『どちらも素早く、そしてスムーズな移動ですね。……しかし、この攻防で実力差は測れてしまいます。特に、バトルをしている当人にとっては』

エリカの言った通り、両者の表情は正反対。スズキは余裕を、スミレは焦燥を浮かべている。

「……勝てない。また、無様に負ける」

周囲を埋め尽くす人の視線に晒されながら、惨めな負け方をすることになる。これは今の攻防で得た確信であり、それはただでさえ弱ったスミレの心を丁寧に砕いてゆく。

「大丈夫。貴女は強い」

「……ッ、【シャドーボール】!」

「【りゅうのはどう】」

フーディンは【シャドーボール】を放つが、ボーマンダの【りゅうのはどう】によって相殺される。

「畜生ッ……!【サイコキネシス】で抑え込んで!!」

ヤケになったような声の指示が飛び、フーディンの【サイコキネシス】がボーマンダの全身を包み込む。凄まじい圧力にボーマンダは、苦しげな表情を浮かべた。

「では、全てを打ち払いましょう。……【りゅうせいぐん】」

瞬間、空の色が変わる。空から降り注ぐ無数の星々がフーディンの全身を叩きのめした。回避は、間に合わない。あまり打たれ強くないフーディンは、最大火力をぶつけられて撃墜される。

「…………」

それを見たスミレは、大きくため息を吐き目を閉じた。

 

『はぁ……』

『?どうしました、エリカさん』

『あー、最悪。判断間違えましたよ本当に。早すぎた』

一方の観客席では、エリカが悩ましい様子で項垂れた。

『早すぎた、ですか』

『……ああいや、なんでもないです。ちょっと、こういう場に出すにはもうちょっと精神を安定させてからが良かったなぁと。ただ、ひとつフォローしておくと、彼女のあのメンタルに関しては彼女自身じゃどうにも出来ない災難の結果です。なのでそこは容赦頂けると、あとそこら辺あまり詮索しないで頂けるとありがたいです。はい、なので悪いのは誘って良いと許可出した私ですね。リーグで負けてあの程度で済んだからいけるかと思いました、対策が甘かったです。すみません』

エリカは明らかに疲れた様子でボソボソと話す。『早すぎた』、それはおそらくスミレの出場タイミングだろうと観客達は考えた。

「…………ッ!」

そしてそれを、スミレは聞いていた。泣きそうな表情で、スミレは解説席のエリカに視線を送る。自分の苦しみを恐らく親よりも一緒に苦しんでくれると思っている人が、自分のせいで悩んでいる。しかも、こうなったのは自分のせいだと言ってしまっている。勝手に負担を増やして勝手に潰れたのに、それすら責任を負ってしまっている。

『ですが、スミレ選手に許可を出した。……それはつまり、彼女に可能性を感じたから、そしてここでそれを発揮できると信頼したからでしょう!確かに敗色濃厚ですが、まだフーディンは立っている!!!!それこそが、その信頼に応えた形でありましょう!!……なぜならこの舞台には、本物の強者しか立てないのだから!!』

そんなスミレに、実況は叫んだ。スミレは、視線を逸らす。

「……私は、貴女を簡単に倒せると思って誘ったのではありません。貴女は私に負けると思っていますが、私は負ける可能性がない人間は初めから誘っていません。例え私が勝ったとしても、楽に勝てるとは思っていませんよ。そんなバトルは例え貴女自身にとって無様に見えても、それを評価する他人の目からは格好いい貴女が写っている筈だ」

スズキの声が沁み込み、観客席のトレーナー達の声援がスミレの心に木霊する。彼らはトレーナーだから。ポケモンバトルにおける挫折の苦しみを共有できるからこそ、彼女の苦しみに本気の声援を送れたのである。そしてそれはトレーナーでない観客にも伝播し、次第にスミレへの声援が強まってゆく。スミレは、戸惑った表情で辺りを見渡した。

『スミレさん。私が鍛えたのは貴女と、そのポケモンです。私にとってはどちらも可愛い愛弟子です。……だからこそ、師匠としてひとつ申しますが』

 

 

『私の愛弟子を、舐めるな』

 

 

「ディィィィィィィィィィン!!!!」

フーディンが叫び、サイコパワーが爆発する。その衝撃はスミレの驚愕を呼び、瞬間的に絶望が頭から追い払われる。

「フー……、ディン?」

フーディンの全身にはエネルギーが満ちていた。しかしそんなことで実力はそう変わらない、ただのパフォーマンスのようなものだ。けれど、スミレの手持ちで誰よりも臆病なフーディンの想いは、スミレの心の臆病を一瞬だけ消し飛ばしてみせたのだ。そしてこの小さなキッカケがあれば、苦難と向き合ってきたスミレならば、自らの力で持ち直すことが出来る。

 

バチン

 

大きな音が響く。スミレが、自身の頬を叩いた音だ。そして大きく深呼吸。

『……来た』

エリカの呟きに、トレーナー達はフィールドへと目を凝らす。

「すみませんでした、スズキさん。エリカさん、グルーさん、そして観客の皆さん。…………もう大丈夫です」

そう言ったスミレの瞳に、スズキは背筋がゾクゾクとする感覚を覚えた。そうだ、これが見たかったのだ。泥沼に沈んだような濁った瞳でも、絶望に怯えた暗い瞳でもない。スミレがしがらみを脱ぎ捨てて戦う時に見える、研ぎ澄まされた刀のような鋭い瞳を。

「では、遠慮なく。【りゅうのはどう】」

「【サイコカッター】準備。曲射で放って【テレポート】」

真っ直ぐに突き進む【りゅうのはどう】に対してフーディンは【サイコカッター】を上空へと放つ。そして【テレポート】、移動したのは背後だ。

「読んでいます……、よ!上に【りゅうのはどう】」

ボーマンダは顔を上に上げると、上空からボーマンダ目掛けて落ちてくる【サイコカッター】を爆散させる。

「【サイコキネシス】」

しかし、そうやって視線を外した瞬間に右側へと転移したフーディンの【サイコキネシス】が、ボーマンダの体を吹き飛ばした。

『【サイコキネシス】炸裂!!』

『【サイコカッター】の曲射は読まれることを前提とした技です。それを対処した隙に攻撃を仕掛けるのが本命ですが、本命に対処したら曲射を命中させられて、そこから次の攻撃に繋げられる。……そういう手段を事前に用意し、それら大量の手札を脳内で構築して勝利に繋ぐ。これは本来、トレーナー側は作戦を大量かつ分割して作って記憶する頭脳が必要で、ポケモン側にもその手段を身につけるだけの才能と努力が必要だというもの。ですがそれを為せるからこそ、彼女は天才なのですよ』

「【テレポート】、【シャドーボール】波状」

「躱して下さい!」

フーディンはボーマンダの眼前に転移すると、【シャドーボール】を放つ。それをボーマンダは躱そうとするが、この【シャドーボール】は通常のそれではない。フーディンは【シャドーボール】をサイコパワーを用いてエネルギー量そのままに引き延ばして膜のようにし、低威力だが広範囲に広がる攻撃を放ったのだ。ゲンガーならばより凝った変形が出来るのだが、フーディンとてこのくらいは可能である。これが掠り、ボーマンダの動きが僅かに止まる。

「【サイコカッター】」

「近づいて【ドラゴンテール】」

追撃の【サイコカッター】がフーディンに命中するが、しかしそれを突破したボーマンダの【ドラゴンテール】で跳ね飛ばされた。

「【シャドーボール】、連射」

「【だいもんじ】」

フーディンが【シャドーボール】を連射。しかしボーマンダはそれらを【だいもんじ】で薙ぎ払った。

「未完成の技だけど、やるのもやむなし。【サイコキネシス】圧縮砲。……装填開始」

フーディンが目を閉じて集中し、サイコパワーを集め始めた。空間が歪み、エネルギーはひとつの球へと集まり輝きを放つ。

 

「決着をつける気か」

ショウガの呟きに、ミコトは視線を逸らさなかった。このバトルの結末は、見届けなければならないと分かるからだ。聞こえそうな程に高鳴る胸の鼓動に身を任せて、ミコトはその試合の行く末を見守っていた。

 

 イメージを固める。それは、とある孤島で戦った最強のエスパーポケモンが使った技だ。それそのものを再現することなど出来ないけれど、似たものは出来るのではないかとスミレは考えた。結局のところ、それは未だ成功せずにいる。今回もそうだ。暴発しないように、観客席に飛ばないように、制御できるギリギリまでエネルギーを溜めていた。

「では、こちらも全力を尽くしましょう……。【りゅうせいぐん】」

空から降り注ぐ星々は、まさに災害だ。冷や汗を流しながらもエネルギーを集めた球を腰だめに構える。

「迎え撃って。……偽典・【サイコブレイク】」

流星を、ミュウツーの一撃を模した破壊の弾が迎え撃つ。激しい爆発が会場で炸裂、凄まじい爆風が観客席を襲った。

 

『ど、どうなりました……!?』

『勝負あり、ですね』

 

「フーディン、戦闘不能!ボーマンダの勝ち!!よって勝者、スズキ選手!!!!」

 

『現実は変わらない。……ここでスミレさんが勝てるほどご都合主義の世界じゃない。けれど、紙一重に迫るほどにはスミレさんは強かった。そしてそれを凌いだスズキさんは、それよりもっと強かった。いい勝負だった、という他ありませんね』

エリカの解説を他所に、スミレとスズキは握手を交わす。

「……無様を晒しすみませんでした。それと改めて、この場に立たせてくれてありがとうございます」

「そう言ってくれるのなら、やった甲斐がありましたとも。……最後の一撃、完成していれば負けていたのは私の方かもしれません。いつか、完成したその技と手合わせをお願いします」

「はい。是非」

そう言葉を交わし、温かい拍手に見送られ、何処か清々しさすら感じながらもフィールドから歩き出す。

 

 

『スミレさん。今回の件について後でお話があります。じーっくり、反省会しましょうね』

「……はい」

何処か冗談めかして言ったエリカにがっくりと肩を落としたスミレ。その姿に、張り詰めた雰囲気が解けていくのだった。




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