ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第209話 スミレの反省

 カントーリーグのリベンジ成功。その事実が、じんわりとスミレの胸を温める。興奮と疲労で切れた息をなんとか整えると、ユウキに向かって歩き出した。

「……おめでとうございます。今回は、貴女の勝ちです」

ユウキは、悔しさを滲ませながらも笑う。スミレもまた、小さく頬を緩めた。

「貴女の手は想定していたのに、簡単に超えて来られたし結局はギリギリの勝ちでした。……流石です」

両者が固く手を握ると、客席は歓声で満ちる。リコリス戦では格好悪い部分を見せてしまったこともあり、スミレは安堵の息を吐いた。

「今回はあまり勝率が高くないですから、私も鍛え直さないといけませんね。……また、バトルしてくれますか?」

「勿論。またお願いします」

ユウキとスミレはそう言葉を交わすと、互いに背を向けフィールドから去っていく。

 

 フィールドを出ると、スミレは大きく息を吐いた。負けたくないバトルだっただけに達成感は大きいが、しかしフルバトルは頭をかなり使うため疲れが溜まる。

「よお、スミレ」

そう声を掛けられ視線を向けると、ホウセンとスズキが笑いながら歩いてくるのが見えた。

「ホウセンさん、スズキさん」

「ユウキに勝つなんて、やるじゃねぇか。カントーよりも更に腕上げたな」

スミレが2人を見上げると、ホウセンによって頭を撫でられる。

「いやはや、流石でしたよ。どうでした?経験にはなりましたか?」

「…………はい。ポケモンの戦闘経験という意味でもそうですが、良い挫折と良い成長にもなりました。ありがとうございました」

そう言って頭を下げたスミレに、ホウセンは目を丸くする。

「ん?なんだ、また曇らされてやがったか?」

「まぁ、思いっきり恥を晒しましたね」

ホウセンに言われ、スミレは視線を逸らす。それを見たホウセンは、あちゃあ、といった様子で天を仰いだ。

「ははは、お互いにリコリスさんにはしてやられましたな。私も最後の1体に【ほろびのうた】を使われて大変ショックでしたよ」

それを見てスズキは笑いながら言うと、スミレは苦笑いで返す。

「ああ、やっぱりあれショックだったんですか?」

「それはもう。敗北が確約されたようなものですからね……ああ、後で時間があればリコリスさんの所に顔出してやって下さい。彼女、結構心配しておられたので」

「ああ……成程」

スミレが苦笑いを浮かべ、唯一状況を知らないホウセンは首を傾げた。

「ほーん、だがまぁ、アンタらが負けた相手となりゃ俺としてはより燃えるな」

「はははは、貴方らしい」

ホウセンは最後の試合で、リコリスとバトルする。そこで勝った方が、大会優勝だ。

「私もスズキさんも負けてるし、勝ってほしいです」

「了解だ、やるだけやってやる」

スミレの要望にニヤリと笑ったホウセン。それを見たスズキはクスクスと笑うと、すぐに表情を真剣なものに切り替えた。

「……さて。そろそろ私の試合ですな」

その言葉に、ホウセンもスミレも表情が切り替わる。3位決定戦、相手はドクダミ。

「頑張って下さいね」

「大丈夫だ、勝ったからこそ言えるが勝てねぇ相手じゃねぇよ。かなり厄介ではあるがな」

「ふふふ、分かっておりますとも。……私は私の全力を出し切るのみ。では、行ってきます」

そう言って歩き出すスズキの背中を、スミレとホウセンは黙って見送った。

 

◾️◾️◾️◾️

 「……ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」

スミレは、そう言ってリコリスに深々と頭を下げる。それを見たリコリスは困ったように笑った。

「ご丁寧にありがとうございます。けれどおやめ下さいな、こちらにも立場というものがありますから」

「立場……?」

首を傾げるスミレに、リコリスは困り顔で続ける。

「私は雑貨屋の店主をしておりますので、世間様の評判というものは気にします。カントーやジョウトは比較的実力主義かつバトルの文化が深く浸透しているので良いですが、そのマインドがなければ " 大人が嫌らしい戦法で子供にトラウマを植えつけた " ような構図になってしまいます。……あの試合ではエリカさんやグルーさんがフォローして下さってたので大丈夫でしたが」

「あ……」

スミレは、顔を青ざめさせた。スミレとリコリスの一戦はあくまでスミレがミスをして相手の策に嵌まった、いわばスミレの自業自得だ。その後に不調を引き摺ったことも含めて。それはスミレから見てもそうであるし、他のバトル好きから見てもそうなるだろう。しかし一方で、『子供相手に大人気ない』という意見が発生する可能性は考えられるのだ。たとえそれが、選ばれた者だけが立てる舞台であっても。自分の納得しないことに対しては論理も道理も捨て去ってしまう。それこそが人間だというのに。旅立ってから今まで、『子供だから』という言葉に甘えたことが何度あったか。勝手に追い詰められて立ち上がって、それは成長という面では良いことだ。けれどその過程で、リコリスを『子供を追い詰めた悪い女』と印象づける人はいなかっただろうか。

「私は貴女を怒っている訳ではありません。どちらかといえば変に立場をつけたスズキさんに怒っています。必要な過程だったと思いますし、スズキさんもそれら全てを考慮した上でメリットが勝つという判断なのでしょう。むしろ成長の糧となれたのならそれは先達として素直に喜ばしいことです。……しかし、貴女は子供というだけでなく選ばれた強者でもあるのです。意図せずとも " 選ばれた者 " の立場になってしまえばその立ち振る舞いには相応の責任がのし掛かる」

「立場……ですか」

「エリカさんだって、まだ15なのにあれだけ大人のように振る舞っていらっしゃるでしょう?かつては仲間として接していた者も内通者と発覚すれば敵として討ち、辛いだろうにそれを隠して毅然と立っている。そういうことです。……立場を持つとは責任を背負うこと、それは大人であれ子供であれ変わらないものです。『大人が子供を守る』とは、子供が背負いきれない責任を大人がなるべく一緒に背負うという心の表れ、即ち責任の肩代わりではありません」

スミレは、苦しげな表情で頷いた。リコリスは本人も言っている通り、怒ってはいなかった。ただ穏やかに、諭すような言葉をスミレに掛けていた。

「そうですね。……私は確かに成長できた。立ち上がることができた。でも、あの場であの態度を取ることは大会参加者に選ばれた立場の人間があの場でやって良い態度では無かった」

「すぐにしろ、とは申しません。ただ不本意でも立場を得てしまったのなら知っておくべきだと思います。貴女も、そのお友達もね」

そう言うと、リコリスはスミレの肩に優しく手を置いた。

「……」

「大丈夫。先程言いましたが、大人達は子供の責任を一緒に背負います。私も、スズキさんも、この大会に出た他の大人もそう。色んなものを背負っているのは見れば分かります。私だってゴーストポケモンは使いますから、貴女がどれだけの怨念の上に立っているのかは察しがつきます。その上で余計な立場を背負わされても困るでしょう。ですがそれを理由に、感情の制御を失わないで下さい。相談できる、励ませる人をより多く作ってください。…………できますか?」

「少なくとも、私はあの場であの策を用いたことを決して間違っていたとは思いません。……なぜならバトルは、ルールによって定められているから。ルールの範囲内での搦手は使って当然、責められるべきは私です」

スミレは、明言をしなかった。そんなことを確約出来るほど、スミレが見た人間という生き物は善良ではなく、自身の心は人を信じられないからだ。しかしリコリスは、それを予測していたとでもいうようにクスリと笑う。

「そう。今はそれで良いでしょう。でもいつかは、とは思っておいて下さいね。自分の足りない部分を補えないトレーナーは、どれだけ境遇で同情されても結局は心が折れて落ちぶれる。貴女はそうならないで下さいね」

「……善処します」

スミレは、とても考え得る結末を想像して苦い表情を浮かべ頷き、リコリスはそれを見て笑った。

「ふふふっ。ああ、そうだ。……エンジュシティに、私の雑貨屋があります。日常を彩る道具から、ポケモンの進化に使える道具まで様々取り揃えておりますので、是非お越し下さいね。……今回は大変心労を掛けてしまったので、お詫びにサービスさせて頂きますよ」

「そんな、サービスなんて」

「私にもプライドというものがありますからね。……まぁ、試合上の搦手は『追い詰められても冷静な判断ができる』と見ている他企業さんにアピールできてビジネス上の信頼に繋がるのですが、とはいえ小さな子供を苦しめてそのまま、というのは店の名誉に関わります」

そう言われたら、スミレは納得するしかない。

「…………そうであれば、お言葉に甘えさせて頂きます」

「ふふふっ。それで良し。……どうせなら、講習会に顔を出してはいかがですか?講習会だけは大会後も夕方まで続きますし閉会式も3位までの出席で良く、明日まで行いますから」

「そうですね。そうします」

スミレの返答に満足したようにリコリスは頷くと、立ち上がる。

「……さて、そろそろ試合の準備をせねばなりませんので行きます。本日はご苦労様でした」

「ありがとうございました」

そう交わして、リコリスは控室を出ていく。その姿を見送ると、スミレもまた歩き出した。

 

 結局、3位決定戦はスズキが勝利した。ドクダミは状態異常を多用するトレーナーでスズキのポケモンは苦戦を強いられたが、純粋なパワーで突破し勝利、カントーリーグ優勝者かつ大会主催者の意地を見せた形となった。対するホウセン対リコリスの決勝戦。パワー型のホウセンと搦手型のリコリスでは戦術上の相性はリコリス有利。しかしホウセンのポケモンは攻撃力が高いだけでなく硬く、それを活かしたカウンター戦法で一進一退の攻防となる。しかし最終的には、状態異常を気合いで捩じ伏せるというオコリザルの脳筋戦術で勝利、大会の優勝はホウセンとなり大会は幕を閉じたのである。

 

◾️◾️◾️◾️

 ホウセンやスズキ、リコリスと話した後スミレが会場を出て講習会の会場へ向かえば、そこは会場に劣らない熱気と共に激しいバトルが繰り広げられていた。視線を辺りに向けると見知った顔が立ち並びそれぞれにバトルしている。

「よう、スミレ。よく勝ったな、おめでとう」

そう声をかけたのは、ショウガ。疲労混じりの清々しい表情を浮かべており、スミレの側に座り込む。

「ありがと。……そっちも、良い経験積めてるみたいだね」

「ああ。講師や参加者とバトルしていたが全然勝てんな。何十とバトルをして精々5勝だ、負け戦もこうしてやると面白いが、とはいえ悔しいものだ」

「へぇ。私の幼馴染とはやった?」

「ああ、3人共快く受けてくれたよ。結果は全敗、しかも惨敗だがね。いやぁ強かった、世界は広いな!」

「ふふっ。楽しそうだね」

楽しそうに笑うショウガに、スミレは思わず笑みをこぼす。これでは、まるで遊びで負けた少年のようではないか。畏まった言葉遣いの僧侶がここまで柔らかくなるのだ、相当に頭を使って疲れたに違いない。

「ああ、楽しかったよ。そっちはどうだった?」

「……そうだね。良い経験だったよ。あんまり、良くない態度とっちゃったけど」

「そうだな。リコリス殿にはちゃんと謝ってきたか?」

「うん。許して貰ったし諭してもらってきたよ、だから大丈夫」

スミレの返答に、ショウガはホッと息を吐く。

「そうか、それは良かった。……エリカ殿は良いのか?」

「まだ大会やってるし後で。多分こっぴどく叱られると思う」

「ははは……」

肩を落とすスミレに、ショウガは苦笑いを浮かべる。まぁ確かに、誘われたとはいえ自分で出ると決めた大会、自分で選んだ立場に立って、その上で相手の策に嵌って盛大にメンタルを崩し悲惨な姿を晒した。大衆に戦力を見せて希望を示す意図もあった以上、その姿はショウガとしても肯定できるものでもない。とはいえショウガはそれ以前のレベルなので、それについてはあまり言うことでもないと口を噤んでいるのだが。

「それにしても、ショウガの方はどれくらいレベル上がった?」

「まぁ、ジム7個目ギリギリくらいだ。あまり成長していない。……やはりレベルがある程度上がった後で更に上げようとすれば時間が掛かる。負けてばかりでは尚更な。とはいえ動きはかなり良くなっているし、ヘラクロスとの連携も鍛えられた。総合的に見れば、大きなプラスだよ」

「へぇ。この後どれくらいある?」

「まだ2.3時間くらいはあるぞ。やっていくか?」

「うん。閉会式もあるにはあるけど上位3人以外居なくて良いって」

「そ。ならやってくよ。私より強い人が普通にいるし」

 

「あのッ……!」

立ち上がったショウガを伴い歩き出すスミレを、何処からかミコトが呼び止めた。




ポケモン世界で農業とかするとどうなるんだろうとかそういうの想像してしまいますね。ポケモン世界でのスローライフを書いた作品とか面白そう
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