ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第210話 ミコトの挑戦

 スミレは、ミコトを睨みつけた。その瞳には決意が輝き、スミレは次に飛び出す言葉が予想がついたとため息を吐く。

「あの……!うちを、旅に連れて行ってくれまへんか!?」

「寝言は寝て言いなよ」

緊張で声を震わすミコトの言葉に、スミレは冷たく言い返す。実際、この願いは正気の沙汰とは言い難いもの。隣のショウガも思わず絶句している。

「寝言やありまへん。……うちは、強くなりたいんどす」

「だったらどうしたの?それで、私に配慮して遅らせてとでも言うつもり?だったら的外れだ。貴女を連れていくのはデメリットしかない」

「…………それは」

スミレはミコトの言葉を真っ向から切り捨て、ミコトは言葉に詰まる。

「まずひとつ、貴女は弱い。新人トレーナーのお守りをしながらロケット団や黒髭一味、その他の犯罪者共を相手取れない。ふたつ、貴女は既に被害に遭って心に傷を負っている。そのメンタルで敵と相対して、それで一体どうするつもり?みっつ、貴女に社会的な信用がない。どれだけ穏健を気取ろうが貴女の実家は間違いなく反社会勢力。国際警察の協力者としては、どちらかといえば警戒対象だ。内憂を抱えて旅するなんて、冗談じゃない」

「……確かにな」

ショウガは、思わずそう漏らした。個人的にミコトのことは信頼しているが、とはいえ実情はそうである。そもそもスミレがミコトに試合を見せたキッカケは、ミコトが進むべき道に迷っていたからである。そしてその根本は、ロケット団の下っ端に負けてポケモンを奪われたという敗北の実績(自分も偉そうに言えたものじゃないとショウガは苦笑した)だ。更に、彼女の実家はあくまでヤクザ。武闘派タイプの組織といってもあくまで町のヤンキーが周りの困っている人間を集めて作った、あくまでカタギの人間が構成員であるエビル団とは根本的に異なる。偶々その流儀上味方のようになっているだけで、その本質は反社会勢力。親は親、子供は子供と言うにはあまりに大きい事実なのだ。

「……さ。せめて私を言い負かしてみなよ。相応にメリットを出して、尚且つそれら懸念点に対する解決策を挙げてみな。そうしたら少しは考えても良いよ」

「…………スミレはん。うちを旅に連れて行くいうことは、竜胆組を味方にする大きな機会どす。それを棒に振られるおつもりですか?」

緊張で声を震わせ、顔も硬くなりながらも言った質問に、スミレは眉を動かした。

「へぇ。その心は」

「竜胆組は、うち1人負傷したいうだけで病院まで大勢駆けつけるほど仲間想いの組どす。しかもうちは、組長であるギバラのひとり娘、傷つけたくは特にない女やから連れておいたら、竜胆組はスミレはん達とは敵対できまへん。それがたとえショウガはんがうちの命の恩人いうことが組がお2人に与する保証にならんくなっても、うちという人質がいるだけで味方に付けることができる。……ちゃいますか?」

ミコトの予想外の提案に、スミレは目を丸くした。流石は極道のひとり娘、いざという時の思考力というべきか政治力というべきか、そういう力はあるらしい。しかし予想外の方向からやってきた主張に、スミレは思わず動揺を浮かべた。

「成程。……で?貴女はどうする、守られているつもり?」

内心の動揺を悟られないように、スミレは目を細める。

「守られる部分はあると思います。うちも強くなりたい気持ちはあるけど、でもお2人よりはずっと後ろからのスタートやから。……でもそうなれば、組に一層恩売れるんちゃいます?ギバラを含めて幹部多数、リーグに出られるトレーナーなんて何人もおります。父に至っては四天王と同格くらいには強い男。そんな戦力を味方にならざるを得ん状況に置いたら、心強いんちゃいます?」

「……ふぅん。でもそう言う人質という状況に置いたら、尚更反発されると思うけど」

「出来まへん。スミレはんは、うちをただの人質として扱えるような冷たい方やありまへんから。恩は売れても、仇は売れへんと思います」

不味い、とスミレは思った。珍しく、スミレが真正面からの舌戦で押されている。どうにか断ろうかと思ったが、ミコトの提示したメリットはかなり大きい。

「じゃあ、戦力面はどうするの?その強さで、どうするつもり?」

「スミレはんは、フシギバナをフシギバナにしてから旅立ったんですか?」

「…………」

スミレは、思わず空を見上げた。確かに、スミレはフシギバナではなくフシギダネ、しかもレベルで言えばミコトとユウキがそれぞれチコリータとヒノアラシを貰った時と同じレベルである。それをセンスと努力で強くし、時にロケット団などの困難と相対して今ここにいる。『今弱いからこの先も弱い』と言うことは、かつての自分に対する裏切りでしかないのである。

「うちはまだ弱いです。でも、経験を積んでいけばそこそこでも強くなれるんちゃいます?……少なくともうちはチコリータ持っとります。そんな強うなくてと、【ねむりごな】や【しびれごな】撒いたりは出来ると思います」

「……」

スミレは難しい表情で黙り込む。黙って聞いていたショウガも、その発案には内心で舌を巻いた。これは、スミレが状態異常を好んで使いその有用性をスミレ自身が知っているからこそ刺さる交渉だ。スミレは頭こそ良いし、取り繕ってそれなりに人と関わっている。だが、自分を取り繕うコミュニケーションと自身の強みを活かすコミュニケーションでは、能力に差が生まれるのだ。

「(言い合いで勝てる気しない……。とはいえ、簡単に認めてやる訳にもいかない)とはいえ、負担を負うのは私達だ。ショウガはまだ幹部クラスとはやり合えないし、私ならバトルは成立するけど全力で向かってこられたらほぼ確実に勝てない。私やショウガが守りきれないかもしれないけど、それはどうするの?」

「うちは、人に頼って生きたい訳ではあらへんのです。だからうちは、強うなることを目指しとります。やから、なるべく早く自分の身は自分で守れるよう強うなればええ話です。そして、スミレはんについていくことはその最大の近道やと思うとります」

ミコトの主張は、理論としては受け入れられるものだ。向上心はあるし、味方への利益もある。とはいえ、だから受け入れるとはならない。スミレは自覚があるとはいえ情緒がかなり不安定かつ実力も発展途上である。ショウガもスミレが寄りかかれるほどの頼りがいはまだない。そんな状況で大きな敵との戦いに入ってゆくのは危険であると思えたのだ。そしてもうひとつ、今この瞬間に迫っている懸念点がある。

「……じゃあ、条件を出そうか」

「はいっ」

スミレの言葉に、ミコトは嬉しそうに顔を明るくする。

「何かしらの方法で、自分は困難な状況に臆さないと証明してみなよ」

 

 

 そんなやり取りをしているスミレ達を、何処からか盗み見する影があった。ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースといういつものメンバーである。ピカチュウを捕まえる機械開発の資金を稼ぐため、大会の会場でアルバイトをしていた(本部からの給料も出世したため割とあるが、それはそれである)のだが、大会が終わるとバイト代を片手に会場まで来ていたのだ。勿論、ターゲットはサトシのピカチュウであるのだが、ここには強力なポケモンがたんまりといる。それらを掻っ攫ってサカキに献上すれば、サカキは大喜び間違いなしであると考えたのだ(出来たらの話だが)。そんなこんなでスミレの姿を見ていた3人は、顔を突き合わせて悪巧みを始める。

「……それで、どうする?」

「メカの待ち合わせはモンスターボール回収機くらいしかないニャ。でも、良い感じのものならあるニャ」

そう言ってどこからか緑色の液体が入った試験管を取り出すニャースに、2人は首を傾げる。

「なにそれ?……毒とかじゃないでしょうね」

「違うニャ!これはアジトのキノガッサから貰った【きのこのほうし】を使って作った麻酔薬なのニャ!これを撒けばたちまち煙に包まれ、匂いを嗅いだトレーナーは眠りに落ちるしポケモンは動きが遅くなる。その隙に、回収機でぶん取ってしまうのニャ!!もちろん、後遺症の心配もナシ、安全にポケモンを奪えるのニャ!!!!」

大袈裟に胸を張るニャースに、ムサシとコジロウは訝しげな視線を向ける。

「……しっかし、大丈夫か?俺たち、ジャリボーイ相手でもあれだけやられているのに相手はあれだけいるんだぞ」

「そうよねぇ。アタシ達じゃリーグのレベルにゃついていけないわよ」

「でも、トレーナーが眠れば……」

悪い笑みを浮かべるニャースに、ムサシとコジロウは笑みで返す。なんだかんだで眠らせられなかったことを考えていないので結局、3人揃って見通しは甘いのである。

 

 スミレがミコトに条件を突きつけた直後。スミレが突然ミコトの服を引っ張って引き寄せ自身の服の袖でその口元を覆った。

「……危ない!」

スミレが大声で叫んだ瞬間、緑色の煙が爆発。周囲のトレーナーやポケモン達を包み込んだ。トレーナー達が次々に意識を失い、リーグ上位勢も服の袖で口元を覆いつつ、ポケモンに指示を飛ばして周囲に舞う煙を処理するために手を取られる。しかし彼らも精鋭とはいえ生物、朦朧とする意識の中では煙を払うのが精一杯だ。

「スミレはん!!スミレはん!!!!」

ミコトは、ミコトの腕の中で意識を失っているスミレの体を必死に揺する。

「大丈夫、眠っているだけだ」

しかしそれを、口元を抑えると共に気合いで眠気を堪えているショウガが静止した。

「うちは……。もう守られて…………」

強くなると言ってすぐに庇われ、無力化されたスミレ。それを見たミコトの目に、怯えの光を浮かべてしまう。それを見たショウガは、震える肩に手を置いた。

「大丈夫だ。私もいるし、周りを見ろ!」

その言葉にミコトが辺りを見渡すと、同じ時に旅立ったユウタを始め、何人ものトレーナーが集まってきていた。

「……何者だ!!」

何処からか放たれたトレーナーの声に応えるかのように、3つの影が降り立つ。そして凄まじい風が巻き起こると、トレーナー達の腰についていたモンスターボール達が宙に浮き掃除機のような機械に収まり、放たれた網がサトシの側にいたピカチュウを捉える。

「「「ニャーっはっはっはーい!!!!」」」

 

「なんだ、かんだと聞かれたら」

「応えてあげるが世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の愛を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ!!」

「コジロウ!!」

「銀河を駆けるロケット団の2人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

「なーんてニャ!!」

 

いつもの口上と共にムサシ、コジロウ、そしてニャースが現れ、カスミがあからさまにうんざりとした顔をする。

「なーによ、またアンタ達?こっちは忙しいんだけど!」

「関係ないのニャ!ニャー達はロケット団、ポケモンを奪うのが仕事なのニャ!!」

そう言って笑い声を上げるニャースに、トレーナー達は悔しげな顔をする。すると、眠っているスミレの影が蠢き、5つのモンスターボールが浮かび上がった。そのボールに、ミコトは見覚えがある。

「……それ、うちのモンスターボール。それと」

「私のだな。……ミコト。今この瞬間十全にバトルが出来るのは、私と君しかいない。……これは試練だ、ロケット団に立ち向かうための。私と君で、ロケット団を倒すんだ」

無論、そんな筈はない。トレーナー達が煙が放たれた時に出していたポケモン達はピカチュウ以外は動ける。眠って動けないトレーナーも多いが、多くのトレーナー達が起きている。しかし本領でないトレーナーや、空気を読んで動かないトレーナーも居たので、動けるトレーナーは態とであった。

「俺もやる!……俺だって、こいつと同じトレーナーだ!」

そしてそこに、マグマラシのみ奪われずに済んだユウタが声を上げる。ユウタは、咄嗟に側にいた別のトレーナーに庇われ眠ることが無かったのである。

「ならば君たち2人で前線を張ると良い。……私が君達をサポートするとも。行ってこいオドシシ、ヘラクロス」

ショウガはボールを投げ、自身のポケモンを呼び出した。

「行くぞ、マグマラシ!」

「ラァッシィ!!」

ユウタはマグマラシを呼び、コジロウと対峙する。対するミコトは、手を震わせ目を閉じていた。本当に出会った、自身の心に大きな傷を与えたロケット団、そして大勢の危機という事実がミコトの肩にプレッシャーとしてのし掛かっているのだ。

「ミコトちゃん!」

「ひゃっ!?」

その背中を激しく叩かれ、ミコトは驚きの叫びと共に目を開く。

「……スミレちゃんは、きっとやれるって信じてるよ!!時間稼ぎでいいから、頑張って!!」

そう言ったのはヒマワリ。ミコトとヒマワリは面識がないのだが、その明るい声に背中を押されたのか、衝動に任せてボールを放った。今は、煙吸ったからと参戦しない割ににしっかり動いているとか気にもならない。

 

「お願いします、チコリータはん!!」

「チコチコッ」

ミコトはチコリータを呼び出し、ムサシと対峙する。そしてミコトの隣にヘラクロスが、ユウタの隣にオドシシが立った。ミコトがチコリータであるのは、ヒワダジムのジム戦を終える前に事件に巻き込まれ、それ以降はポケモンを鍛えられていなかったから。だから満足に鍛えていないのだ。それを見たムサシは、当然それを鼻で笑う。

「よぉし、だったらバトルだ!行くぞマタドガス!」

「いくわよ、アーボック!!」

出てきたのはアーボックにマタドガス。中途半端に育ったミコトの観察眼が、そのポケモン達が強力であると伝えている。

 

「どうする?」

シゲルが、コソリとスミレに声を掛けた。スミレは先程、ポケモン用ねむけざましを薄めたものを飲まされている。

「…………あの2人じゃ、少なくともムサシとコジロウには勝てない」

パッチリと目を開けたスミレが呟く。当然だ。どれだけコメディ面していようとも、どれだけ機械などポケモン以外の力を活用していても、カントーリーグベスト8であるサトシをずっと追い回し、何度も追い詰めている連中。バッジ集めを始めたばかりの新人に負けるほど弱いわけがない。

「じゃあ、ちょっとバトルさせるかい?」

「そうだね。向かっていく覚悟を示したのならそれで良いんだけど、ちょっとやらせてみたい。そしてちょっと頑張らせたら割って入って例の如く吹っ飛ばして終わりかな。今のショウガじゃあ、勝たせるには至らないしね」

「にしても、よく気付いたね」

シゲルは笑い、スミレは苦笑する。

「……うん。ボールのバタフリーが何やら危機察知したみたいだから。まぁこのタイミングで来るならいつもの彼らかなと。……にしても、睡眠薬を煙で放ってくるとは予想外だった……。無理矢理起きたからまだあんま調子出ない」

「無理するなよ」

「うん」

シゲルはスミレにそう返すと、他のトレーナー達のいる場所に向かって歩いてゆく。スミレは、それを横目に見送るとミコトに視線を送った。想定以上の損害は出ているが、これはチャンスでもある。ここで何処まで成長できるかは、見ものであった。

 

「マタドガス、【ずつき】!」

「アーボック、【かみつく】!!」

「オドシシは【バリアーラッシュ】、ヘラクロスは【メガホーン】!」

マタドガスとオドシシ、ヘラクロスとアーボックが激突、技の威力ではショウガ側が上だが素のレベルはロケット団が上なため両者共に弾かれる。

「今だ、【ひのこ】!」

弾かれたマタドガスを【ひのこ】が襲い、マタドガスはまともに受けるが効いた様子がない。

「チコリータはん、【はっぱカッター】!」

「避けなさい!」

チコリータの【はっぱカッター】が飛ぶが、アーボックは体をくねらせ躱すと、頭突きでチコリータを吹き飛ばした。あまりのレベル差を前に、技ですらない一撃でチコリータは満身創痍となる。その光景に、ミコトは苦しげに顔を顰めた。

「あのねぇ、アンタじゃ無理よ。チコリータはレベルも足りないし、そいつだってカバーできてない。そっちも技当てたって効いてないんだし、大人しく退がってなさい」

ムサシの呆れたような、どこか困ったような言葉にミコトは歯を食い縛る。

「負けるかぁ、【でんこうせっか】!」

「ぶつかれ、【ずつき】だ!!」

マグマラシが駆けるが、マタドガスはそれを迎撃。あっさりとマグマラシを弾き飛ばし、マグマラシは宙を舞う。

「ぐっ……!ヘラクロス、【インファイト】!!オドシシは【にどげり】!」

「マタドガス、【どくガス】を撃ちながら躱せ!」

「アーボックは避けなさい」

ショウガが焦りを浮かべて指示を飛ばすが2人は冷静に指示を飛ばし、マタドガスの【どくガス】を目眩しに離脱、有毒のガスを受けた2体は苦しげな表情を浮かべた。

「……これまでだ。いい加減抵抗はやめろ」

「何言ってんだ!俺たちはまだ負けてない!!」

諦めるよう促すコジロウをユウタは睨みつけた。

「馬鹿ね。時間稼ぎしてるつもりなら無駄よ。だって、かなりの数をアタシ達は既に捕まえている。アイツらが復活する前に逃げ出しちゃえば、もうアタシらの勝ちなのよ」

「だとしても、我々はお前達を逃さない」

呆れた様子のムサシにショウガが言い返すと、ニャースはそれを鼻で笑う。

「4対2で勝てない癖に何言ってるニャ!」

「そーだそーだ!」

ニャースの言葉にコジロウが同調し、対するムサシは苛立った様子でミコトに視線を向けた。

「……ねぇ、アンタ。アンタ一丁前にハナガールに交渉してたわよね。なんつったっけ?アンタ、戦えるって言ったんじゃないの?だったら、もっと根性見せなさいよ!アンタみたいな口だけのナヨナヨした奴は大嫌いなの!!」

「…………ッ!うちは」

「何よ。……だったら答えやすくしてやるわ。アンタ、なんでこうしてアタシ達に立ち向かってんの?」

ムサシに聞かれたミコトは、胸の前で掌を握りしめた。

「うちはあんさんらには勝てまへん。絶対に勝てる訳がありまへん」

 

「でも、うちはポケモンはん達を失いたくありまへん。……あの時仲間を奪われた時の感覚は、バトルに負けるよりずっと怖かった。だからうちは、あんさん達と戦わなきゃいけまへん!勝てるとか勝てないとかじゃのうて、うちは戦わなきゃアカンのです!!」

ミコトの言葉に呼応するかのように、チコリータの体が青白く輝きだす。その姿はより大きく、より力強く変わり、ロケット団の視線はその光景に目を奪われる。

「ベイリーッフ!!!!」

そして光が晴れた先に立っていたのはベイリーフ。チコリータの進化系だ。

「これは……進化か!」

「まだよ、進化したとて元が弱いわ!アタシ達ならやれる!!」

都合のいいタイミングでの進化に驚くコジロウに反して、元が弱いと強気なムサシ。その指摘は正しいが、彼らはとっても重要な見落としをしている。

「ゲンガー」

その呟きと共に、3人がそれぞれ背負っていたボール回収機が爆散した。

「「「あーーーッッ!!!!」」」

3人慌てて視線を向けると、悪戯っぽい笑みを浮かべるゲンガーが影に潜ってゆく。そしてボールから飛び出したバタフリーが風を操り、モンスターボールを持ち主の元に戻す。そしてそれを合図に、それまで空気を読んで動かなかった強者達が一斉に立ち上がった。網で捉えられていたピカチュウも解放され、頬の電気袋から電気を迸らせる。

「ま、ベイリーフに進化したとてこの場じゃあ無駄に見える。……でも、貴女達の注意を引くには十分だったみたいだね。今回はしてやられたけど、これでもう終わりだ」

スミレがそう言って小さな欠伸をひとつ。3人の背中に冷たい汗が流れ、2人と3匹は顔を見合わせた。

「あー、こりゃ不味い」

「不味いわね」

「いつものパターンニャ」

「……というわけで」

 

「「「逃げろーー!!!!」」」

コジロウはポケットから小さな球を取り出すと地面に叩きつけ、白い煙が辺りに広がる。催眠効果も何もない、ただの煙幕だ。煙玉を破裂させるとポケモン達をボールに戻し、慌てて逃走を開始する。しかしそんなもの、彼らの動きをよく知っている少年からすれば目眩しでもなんでもない。

「ピカチュウ、【10まんボルト】!!」

逃げる彼らを的確に電撃が打つ。激しい爆発が起こり、その爆風で煙は晴れた。広がった視界の先には、例の如く飛んでゆく彼らの姿があった。

 

「ちぇ……、また失敗かぁ」

「良い感じだと思ったんだけど、ダメだったみたいね。あーやだやだ、真剣に人に説教するなんて柄じゃないわ」

「結局、いつものこれニャ……」

 

「「「やーなかーんじー!!!!」」」

 

空へと消えてゆく彼らの姿を見送って、スミレはミコトに視線を向ける。今回の一件は正直、ミコトでなくともどうにでもなった事ではあった。しかしそれでもスミレは、ミコトが立ち向かったことに意味はあったと思えた。だからこそ、答えはもう出ていた。

「……しょうがない。いい」

「いいよ、なんて言わせると思いました?」

スミレの背中に、滝のような冷や汗が流れ始めた。

 

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